第74話 覗き見の対象
「ようやく着いたな雑草女」
「はい、ここが私の生まれ故郷……スタリナです」
汽車から降り向かったのはスタリナにあった1つの教会。ではなく既に更地と化しているその場所だった。ユラは元の名前であるイア・ジェンヌとしてティグリス達にスタリナで何があったのか一から説明しようとしたのだが……先程からカエデの様子がおかしい。あれだけ調査に熱意があった彼なのに先程から全然話を聞こうとしていないのだ。
「どうしたんだいカエデ?先程からキョロキョロ見渡しているようだが……」
「いや……確かここにあった教会、随分前に更地になったらしいんですわ」
「随分前に?」
「ああ、雑草女は知らないだろうが確か新しく建て替える為に教会の場所が移動したとかなんとか……」
「確か資料にも書かれてたな……さすがカエデ、詳しいね」
ティグリスが手元に持った本の資料をめくりながら話すとどこか誇らしげな顔をするカエデ。そういえばなぜ彼が来たのか質問するのを忘れていたなとユラが考えているとティグリスが資料を持ったまま早々と話し出した。
「それならその移転した方の教会に行ってみようか……カエデ的にはそっちの方が調査しやすいだろうし」
「その方が助かります」
「……そっちの方が助かるってどういう?」
「ふふっ、それは今に見れば分かる」
どういう意味だろう。ユラは思った。そんな事を考えているとティグリスは意味深げにクスリと笑い始める。彼のこういうところが説明不足だと言われてるのに。とムッとした表情のままその場から離れるとカエデが教会があったと口にする。どうやら移転された教会は随分と近い場所にあったようだ。
「うわああ……結構大きい教会ですね」
「ユラがいた頃はここまでの大きさではなかったみたいだね」
ユラが見上げるとそこにあったのはそびえたつ大きな教会だった。これはユラがまだイアだった頃と比べても随分と風変わりなものになっていて。あの頃の小さな教会とは比べ物にならない程大きな教会に思わずハッとさせられた。
「……大きいか小さいかなんてこの際どうでもいい……これから見れば分かる事だしな」
そうカエデが意味深げに話すと教会の中へと入り中を確かめる。どうやらまた更地の場所にいた時と同じく探りを入れているみたいだ。いい加減スタリナでの思い出話をしたいのだが……などとユラが考えているとカエデが教会にある長椅子を指さし座れと要求してきた。
「おい雑草女、一旦ここに座れ……これから長い眠りについてもらう」
「眠りにつくって一体どういう……?」
「だから!僕がこれから魔法でお前の記憶の中に入って調査するからここに座れって言ってるんだよ!……説明してなかったか?」
「ああ、言い忘れてたけどカエデは記憶の中に入る事ができるんだ……カエデ、一応ここのシスターには誰も中に入れないよう伝えといたから安心していいよ」
記憶の中に入る魔法。確かに今教会内に誰もいない今なら魔法を使っても大丈夫ではあるだろうが……いきなり言われた事もあり思わず戸惑うユラ。
「そんな事急に言われても……」
「大丈夫……見られて困るプライベートなシーンは見ないようになってるから……それにカエデはこの魔法得意だしね」
「安心しろ雑草女、ほんの少しの間覗くだけだ」
「……分かりました、それではお願いします」
急な形で戸惑いはあるものの興味があったユラはしぶしぶその話に乗る事にした。記憶の魔法。一体どういうものなのだろうか。そう考えているとカエデがニヤリと笑ったような気がして。少々不安になりながらもその身を預ける事にした。




