第40話 願い事ひとつだけ
小野救世は夜中に眠りから覚めた。自室だった。そうだ。家に帰ったら運悪く母親と鉢合わせて、神社の階段から落ちたと説明したんだ。なんで神社なんかに、と言われた。自分でもそう思う。
身体の節々が痛む。あの野郎、派手にやりやがって。
暴行で受けた傷は見た目にはひどくなかったが、それでもケガはケガだ。身体を動かすのが嫌になるほどには痛く、翌日にあった卒業式という至極どうでもいいイベントは無理せず欠席した。そのまま一日中怠惰に、いや安静に寝て過ごし、さらに次の日の学校も消化試合のような日程のため休むつもりでいる。まあ、俺の人生もすでに消化試合のようなものだが——。そう小野は悟っている。
これまでさまざまないじめ被害を経験してきた彼であるが、今の主たる加害者は八神くらいであり、その中身は苛烈な暴力に占められていた。
だから痛みには慣れっこだ——なんて、そんなわけはない。
痛いのは痛い。そして、痛みは嫌いだ。単純に感覚としても耐え難いが、自分の惨めさが浮き彫りになるから。
痛い痛い痛い。その感覚ばかりに囚われて、反骨心すら奪われるから。
もう痛いのは嫌だ。何度そう思っただろう。
この世には神も仏もない。何度裏切られただろう。
神の社と書く神社でぼこぼこにされて。赤の他人だったら笑える話だ。
でも、自分なんだから笑えない。死にたい。
もう痛みに抗うのは疲れてしまった。それで、願いは一つだけ。死にたい。
(——そう。死にたいんだ、俺は)




