へっぽこなのは才能ではなく魔力”量”でした……
一ヶ月以上もの間、更新をお休みさせていただいてました。
最近不調気味で集中力が持続しない、という状態にちょっと悩まされております。
そういった事情から暫くの間は不定期更新という形を取らせていただきたいと考えています。
今回のお話はかなり長いので時間に余裕があるときにでも目を通していただければ幸いです。
更新をお休みさせていただいている間も閲覧いただきましてありがとうございました。
それと、ジャンルをファンタジーから恋愛へと変更させていただくことにしました。
恋愛パートまではまだまだ長いですが、その分両親ズが適度にイチャコラしてくれてますので(^^ゞ
~へっぽこなのは才能ではなく魔力”量”でした……~
……さてさて。
衝撃のあの日から三日ほど経ちました。
なんとか気持ち的に立て直しを図った私は、あの無自覚主従であるお父さまたちに惑わされないよう、心を石にして魔法のお勉強に励みました。
初級編の基礎。
生活魔法とは少し違う方向性の、簡単な初級魔法の成り立ちと基礎となる魔法式のことを図解つきで説明を受けつつ頭の中に知識として詰め込んでいくという時間が約二日ほど続きました。
まずは頭の中に知識として入れ、それを理解した上で実践へと向かう。
この流れを踏まないと、後々が大変なことになるのだとか。
座学をすっ飛ばしていきなり実践でやっちゃった私のあのやり方は、今思えばとんでもなく危険な、ある意味邪道ともいえる力技的なゴリ押しだったことがよく分かる。
そういう風にお父さまから指摘受けちゃったしね。
ちなみに初級編も簡単っちゃ簡単だ。
入門編が算数の足し算引き算だとしたら、初級編は数字一桁の掛け算割り算といった感じ。
魔法という括りは専門分野であるから、その先入観でややこしく感じるけれど、実際には手順をしっかりと踏むことで分かりやすく理解できるようになっている。
じっくりとその仕組みを読み解くことが大事なわけだ。
初級編を開始してからの二日間、じっくりと魔法式の基礎を読み解き、その仕組みをしっかりと頭に叩き込みましたとも。
「それじゃ、簡単な基礎式が頭に入ったところで実際にどういう風に発動させるかやってみようか、レーン」
「はい、お父さま!」
……というわけで。
いよいよ実践による魔法の勉強に突入です。
最初に教えてもらうことをお願いした時は実践はよくないみたいなことを言っていたお父さまだけれど、初級程度くらいの簡単なものであれば実践して教えても構わないという許可をもらったようだ。
え?
誰からかって?
もちろんノーヴァ公爵さまからですよ?
魔術師団の団長で、魔法の第一人者でもあるノーヴァ公爵さまは、他のどの人よりも魔法や魔力の危険性を熟知していて、少しでも身の危険があると判断したら、それはそれは厳しく取り締まり強制的にそれを止める権限を有しているそうで。
どんなに小さいことでも例外なく止められる。
大事なのはその場で魔法を行使することではなく、命を守ることにあると言って憚らない。
例えばの話。
厳しい戦局に置かれた中で瀕死のピンチに陥った魔道師がいたとする。
最後の力を振り絞って魔法を放てば敵を滅することができるという状況下。
ただし、己の命と引き換えに、という前提ありき。
そこで瀕死の魔道師が己の死と引き換えに敵の殲滅を考えたとしても、それを許さないのがノーヴァ公爵さまなのだ。
やろうとした瞬間『バカもん!』と頭を叩いて、その魔道師を強制撤退させ、代わりに総指揮官である自らが単独で敵陣に乗り込んで敵を殲滅させちゃうような人なのである。
ある意味めちゃくちゃだと思うけど、全ては己の守るべきものを最優先にした結果がこの行動に繋がっているというわけだ。
おまけにノーヴァ公爵さま、移動手段に竜を用いている。
この機動力を活かして、上空からえげつない魔法攻撃を仕掛けることができるのだ。
陸上でも脅威なのに、空からでもその脅威が襲いかかるとか敵にとっては地獄でしかない。
故に。
付いたあだ名は『白皙の冥界神』。
他にも『歩く破壊兵器』とか色んな二つ名を持つらしい。
これはお父さまからちらっと聞いた話だけど、実際のところは国内では非常に有名な話だそうだ。
超弩級チートのパパさんはリアル魔王のようなお人でしたとさ。
……っと、話がズレた。
とにかく、怒らせちゃいけないお人から『初級程度の魔法なら実践してもいいよ~』という許可をもらえたおかげで、私はお父さまに実践で初級魔法を教わることができるというわけだ。
「それじゃ、レーン。やってみようか」
「はい、お父さま」
場所は中庭。
大きな池があって、周りには様々な木々や花々に囲まれた素晴らしい景観の広大な庭だ。
おまけに池の水は透明度が高く、陽の光を反射してキラキラと無数の光の粒を表面で踊らせているかのよう。
池と言うよりはまるで湖みたいだ。
思わず駆け寄って水の中に手を入れたくなるような、そんな魅力を溢れさせる美しい光景なのだ。
ちなみにそうなりそうだった私を止めたのはお父さまだ。
見かけによらずこの池はかなり深いようなのだ。
透明度が高いためにパッと見ただけでは分からないが、軽く大人の腰くらいの深さがあるらしい。
もちろん周りに柵で囲いはしてあるけれど、越えようと思えば簡単に越えられるようなものだ。
普通に幼女である私サイズの身体で簡単に跨げちゃう程度の高さしかないのだ。
囲いと言っても、立ち入りを阻むためのものではなく外観を良くするための飾りみたいなものだと言ったほうがしっくりくる。
こういうところが貴族の見栄みたいな部分なのかねぇ?
機能よりも見た目、みたいな?
とりあえず、危ないので池の側には寄っちゃダメだと言われました。
それには素直に頷きますよ。
中庭には魔法の実践勉強のために出てきたわけですからね。
「まずは、魔力を掌に集めてみようか」
「はい」
お父さまにそう言われて、ゆっくりと体内に魔力を巡らせる。
感覚型の私だから、言葉で言われるよりは感じたほうが早い。
どちらかというと、体内の魔力に『おいで』と語りかける感覚か。
魔法の仕組みとしての式が頭に入っていたとしても、それと己の体内を流れる魔力を一箇所に集めるという手順は、私にとっては全くの別問題だ。
要は言葉を理解するよりも先に身体のほうが反応してしまうということだ。
自分の意志とは関係なく反射的にそうしているらしい。
だけど、この反射的行動が最も早いことを私は知っている。
「できました、お父さま」
パッと掌に集めた魔力をお父さまへと見せる。
ちょうど水を掬い上げるような形で上向けた状態の両の掌には、ふわふわとした柔らかい綿状に見える魔力がこんもりと積もっている。
まるで綿あめだ。
それは私の魔力が未だ属性を持たない、透明に近い白色をしているからだろう。
……しかし。
たったこれだけの魔力を掌に集めただけで、結構な量を表に出してる気がする。
競泳プールうん杯分(推定)もある兄さまの魔力と比較すると、洗面器一杯分(推定)ほどしかない私の魔力のほぼ半分近くが今表に出てるんじゃなかろうか。
それだけ絶対量が少ないんだよね。
じ~っと綿あめ状の魔力を見つめていたら、お父さまが笑みを浮かべながらこう言った。
「随分と早いね、レーン。最初は魔力を集めるのでさえ苦労するものなのに」
「そうなんですか?」
「普通はね」
「生活魔法もですか?」
「いや、生活魔法はまた別だよ。生活魔法を使うのに魔力を集める必要はないからね」
「???」
どゆこと?
「生活魔法は基本の式さえ分かっていれば誰でも使えるものだからね。魔力さえあれば、あとは式を唱えるだけで発動させることが可能なんだよ」
「ほぇ~……」
「熟練度が上がれば、頭の中で式を思い浮かべるだけでも発動できるようになるんだ」
「無詠唱、ってやつですか?」
「そうだよ。よく知っていたね」
「兄さまがそうでした!」
「そういえば一度ロイアスが見せていたんだっけ?」
「はい!」
空中にふよふよ浮かんでいた大きなボールみたいな水で顔や手を洗ったんだよね。
だけど、何のために見せてもらったかは秘密だ。
例のおデコぱっくりやっちゃった例のアノコトは私と兄さまだけのトップシークレットなのだ。
特にお父さまには一番知られちゃいけない事実。
万が一バレたら間違いなくお父さまは発狂する。
「……ふむ」
「お父さま?」
突然お父さまが思案するように顎に手を当てた。
何か思うことがあるらしい。
「せっかくだから、初級魔法をいきなり実践するのではなく、簡単な生活魔法からやってみることにしようか」
お父さまが言うには、生活魔法とそれ以外の魔法を使った時に『どこが』『どのように』違うのかを肌で感じたほうがいいらしい。
……というわけで、一旦掌に集めた魔力は解散。
式の詠唱だけで発動できるという生活魔法から試すことになった。
初歩の初歩から学ぼう、ってやつですな。
どんとこいなのです。
集めていた魔力を解放させたことで、再び体内にそれが巡ってきた。
ゆったりと流れる感覚がどこか心地いい。
どこか優しい温もりを感じているかのようだ。
さて。
まずは手馴らしのための生活魔法発動の実践だ。
お父さま曰く、実践とは言えないくらい呆気なく成功するものらしい。
ていうか、失敗する方が珍しいんだそうな。
そういうわけで、安心して実行することにする。
“水よ”
ピッと人差し指を立てながら、水を呼ぶ式を唱えると、一瞬にして指先に集まってきた魔力が飛び出し、目の前にふよふよと漂うゴルフボール大の水の塊が現れた。
「おぉ! できた……!」
「うん、成功したね。しっかりと式を覚えてさえいればまず失敗はしないから」
初の生活魔法に感動している私にニコニコ顔で頷いてくれるお父さま。
ここでの褒めポイントは私の『覚えの良さ』の部分らしい。
しかし……
「兄さまがやった時のように大きくない……」
あの時の兄さまは、バスケットボールよりも大きめの水の塊が出ていたんだけど、私が出したのはゴルフボール大ほどの小さなものだ。
生活魔法は易しいものだから、誰がやっても同じ結果になるものだと思ったんだけど違うのだろうか。
「使用者の魔力量に応じて一度で呼び出せる魔法の規模が変わってくるんだよ。見てごらん」
そう言ってお父さまもまた生活魔法で水の塊を出して見せてくれた。
ただし、私がやった時とは違って無詠唱。
頭の中でサッと式を浮かべたのだろう。
人差し指を立てることさえしなかった。
慣れたら当たり前のように、簡単にできてしまうようだ。
現れた水の塊は兄さまがやった時と同程度の大きさだ。
やっぱり経験の差でも出せる塊の大きさが違うのかな。
兄さまと比べると、お父さまの方が魔法を扱う経験は長いわけだし、兄さまがやったものと同じレベルに合わせるのも容易いのかもしれない。
そんなことを思っていたら、疑問はあっさりと打ち砕かれてしまった。
「どれだけ魔力量が多かろうと、空中に出せる水の塊はこの大きさが限度だよ」
「えっ?」
「生活魔法はあくまでも日々の生活を補助し支えるための魔法だからね。これ以上の大きさの水の塊が空中に現れたら逆に危険だろう?」
……確かに。
有り得ないくらいの大きさの水の塊が出てきたら、あっという間にそれに飲み込まれてしまう可能性だってある。
押し流されて溺れたりとかシャレになんない。
「けれど、貯水のための使い方となるとまた別なんだ。来てごらん、レーン」
呼ばれた先は池の側。
水面に向けて伸ばされた手から、零れ落ちるように水が注がれていく。
「こういう風に水を貯める時は際限なく……と言うと語弊があるね。目当ての量を貯め切るまで、もしくは使用者の魔力量の限界が来るまでは延々と水を流し続けることができる」
「ほへぇ~……」
「用途によって様々な使い方ができるんだ。例えば、布地を湿すためにほんの僅かな量の水を出したりだとか。花の手入れのために霧状で放出したりだとかね。そこは使い続けることによって慣れていくし、経験に応じて様々な利用法を自分で見つけていけるんだ。使いこなせると便利な魔法なんだよ、生活魔法全般はね」
そう説明してくれるお父さまの手からは未だダバダバと池に向かって水が注がれている。
池に水を流し入れるとして、目標の量なんてものはない。
お父さまが言うように、ここでは魔力が続く限り延々と池の中に水を流し入れることになるのだろう。
それこそ自分でそれを止めるまでの間中は延々と。
「レーンもやってみるかい?」
「やってみます!」
お父さまがやったように、池の水面へと手を伸ばす。
幼女の身体じゃ手が短くて、せいいっぱい伸ばしてやっと水面の上に手が届いたかなというくらいの微妙な位置だ。
池の中じゃなく足元に水が落ちやしないだろうかというギリギリのライン。
「危ないからそれ以上は身を乗り出さないようにね」
「はい」
身を乗り出しすぎると、バランスを崩してそのまま柵越えからの池ボチャだからですね。
分かります。
そして私だったらやりかねない。
ここまでがセットです。
お約束というやつですな。
なんたって、やらかすのがワタクシめなのですから。
お父さまからの注意に真剣に頷き返すと、私はその場で一度姿勢を正し、それから改めて池に向けて手を伸ばした。
まるで差し出すかのように掌を上へと向け、そのままの状態で若干下へと傾ける。
そうしてもう一度口にしたのは生活魔法の水の式。
“水よ”
唱えると同時に、掌に集まってきた魔力が水となり流れ出す。
ぽたぽたと雫状で落ちていく水を見て内心思ったのは『しょっぼ……』だった。
……なんだこの『水道の蛇口を完全に閉め忘れて無駄に水を垂れ流してる』という、前世だったら確実にお母さんからお小言をもらってもおかしくないような状況は。
お父さまがやったみたいにとまではいかなくても、もっとこう……勢いつけて『バシャッ!』って流れ落ちてきてくれてもよかったんじゃないの?
魔法の成功を喜ぶどころか、発動した内容のしょぼさにガッカリする私の頭を優しく撫でたのはもちろんお父さまだ。
思わず見上げた先に飛び込んだのは苦笑顔。
……うん。
言いたいことは分からないでもない。
────ていうか、フォローに苦しむよね!
────あまりにもしょぼすぎてさ!
そう思っていた私の頭を再び優しく撫でながらお父さまはこう言った。
「やっぱり魔力量が十分でない分、効果としては心許ないようだね」
「うぅ……」
やっぱりか。
魔力が全然足りないからか。
確かに私の魔力は雀の涙ほどしかないかもしれないけど、簡単に成功するっていう生活魔法でもここまで影響が出るものなのか。
「そんなにしょんぼりしなくても大丈夫だよ、レーン。魔力の絶対量はこれから増やしていくことができるからね」
「本当ですか?」
「ああ、本当だよ。時間はかかるけれど、魔法を使えば使うほど魔力の量は少しずつ増えていくから」
……ということは。
今はちょみっとしかない私の魔力も、己の努力次第で成長させていくことができるってことだ。
これは真剣に頑張らねば。
そう決意した私だけど、お父さまはどこか不思議そうな顔で何やら考え事をしているようだった。
それから何か思い当たったかのようにこう言ってきた。
「レーン。ちょっと手を出してごらん」
「?」
言われた通りに手を差し出すと、そっと包み込むようにお父さまの手で覆われてしまった。
その瞬間、人の体温とは違った温もりが私の手を優しく撫でていく。
それに驚いて思わず手を引っ込めようとしたけど、お父さまの手に覆われたままの状態では叶わなかった。
「大丈夫。何も怖いことはないから。レーンが驚いたのは父さまの魔力に触れたからだよ」
「お父さまの魔力……?」
そう言われたことで、引っ込めようとしていた手の力を抜いた。
まだ兄さまの魔力にしか触れたことはないけど、お父さまの魔力と兄さまの魔力とではまるで違う。
同じように温もりを感じても、その温もりの種類が微妙に違うのだ。
どこがどう違うのか、どのように説明していいのか分からないんだけど、とにかく触れた瞬間に『あ、違う』と感覚で分かってしまうのだ。
「今レーンの中にある魔力がどのくらいなのかを見ているからね。今しばらくじっとしていてくれるかな」
「魔力の量が分かるんですか?」
「大雑把にだけれどね。正確な絶対量ともなると、魔術師団で管理する専用の魔力測定器具を用いないと調べられないから、あくまでも簡単なことしか分からないよ?」
それでも十分だと思うんだ。
正確じゃなかったとしても、ある程度分かっていれば、それに応じた魔法の使い方ができるから。
それこそお父さまが言っていたような、力技で無理やり押し通すような魔法の使い方をせずに済むというもんだ。
とりあえず、大体でいいから今の自分の魔力量を知りたかった。
少なくとも、基礎的な初歩の魔法を発動できるくらいの魔力があればいい。
イメージ先行だとか、応用だとかで過去に色々やらかしまくっているから、それなりに使えるくらいの量はあると信じたいんだけど、それも高望みしすぎだろうか。
さっきの水の生活魔法の結果を見ているだけに、しょぼい結果しか出てくれないような気もする。
自分で言ってて虚しいけど。
しばらくの間お父さまに手を包み込まれての沈黙。
軽く目を閉じているところを見ると、私の体内を廻る魔力の流れを探っているのだろう。
それを考えると、少しでも魔力の存在を感じ取りやすいように循環させた方がいいのだろうか。
────うん、そうしよう
────人任せにして頼りっぱなしにするのもよくないもんね
答えが出たと同時に、私はすぐさま体内の魔力を全身くまなく廻らせるイメージで循環させた。
ゆっくりと、仄かな温かみが身体の奥から湧き上がってくる。
よしよし。
上手く循環できてるな。
それだけで満足感に浸った私。
けれど、そんな私とは対照的にお父さまの表情がどこか困ったようなそれに変わった。
────……なぜだ?
────我ながら上手くできたと思ったのに……
お父さまの表情につられるように、キュッと眉が寄る。
誰がどう見ても今の私は眉間に皺を寄せた膨れっ面だろう。
そんな私の顔を見たお父さまは、苦笑顔を隠しもせずにゆっくりと包み込んでいた手を解いていく。
「う~ん……何て言えばいいのかな……」
「?」
「正直に告げてレーンを落ち込ませるようなことはしたくないのだけれどね」
「???」
ホワイ?
どゆこと?
言ったら私が落ち込むかもしれないようなことって何さ?
やっぱり魔法の才能がへっぽこだってこと?
別にそんなこと言われたって落ち込んだりはしないけどな。
私が悪役令嬢である以上、その可能性は否定できるものでもないし。
幾らここがゲームとは違う現実世界かもしれないという思いがあっても、実際は今よりももっと先にならなければ、ここがどういう世界なのか分からないのだから。
へっぽこだったらへっぽこだったで、これから頑張って人並み程度にできるようになればいいだけだと思うんだ。
せめて落ちこぼれ認定されて家族からがっかりされないくらいには普通であれれば、とも思ってる。
「何言われても平気ですよ?」
コテンと首を傾げつつそう言うと、お父さまはやっぱり困った表情のままで言いあぐねているようだった。
「どんな答えでもドンと受け止めてみせますので。遠慮なく何でも言ってください。本当に本当に平気なので」
軽く己の胸をトンと叩いて『いつでもこ~い!』と言わんばかりに構える。
これでも大人まで生きた前世の記憶があるのだ。
ちょっとやそっとじゃ落ち込まないぞ、私は。
……っと、待った!
嘘!
『何言われても平気』は言いすぎた!
とりあえず
『残念~! アナタ明日死んじゃうの~♪』
……とか。
『成人するまで生きるのは不可能でしょうな!』
……とか。
そういった己の死に直結するのだけはナシで!
さすがにそれはヘコむ!
前世で長生きできなかった分、今世では長生きして幸せな人生を送りたいんだ!
死ぬのは怖い。
私だけじゃなく、私の中で一緒に生きているフローレンも道連れにして一緒に死ぬことになるから。
それだけが、今の私にとって一番怖い。
『死』に関するワードが出ませんように……と、内心ドキドキしながらお父さまの言葉を待っていると、更に困った顔で笑ったお父さまからこう言われた。
「非常に残念な事実なんだけれど、恐ろしいくらいにレーンの魔力が少ないんだよ」
「……へ?」
言われたその言葉に私、ポッカーン。
「うん、だからね? レーンの持っている魔力量が恐ろしいくらいに少ないんだよ」
いやいやいや。
それ、今更ですからお父さま!
私の魔力が少ないことは最初から分かってるんですよ。
だから魔力が減ってから全回復までの時間もほぼ一瞬て言ってもおかしくないくらいに早いわけだし。
兄さまと比べたら雲泥の差、雀の涙。
競泳プールうん倍分と洗面器一杯分以下くらいの違いなんだよ?
だからホント、それ言われるのは今更なんだって。
落ち込む以前に『だよね~!』って同意して頷くのが正しい反応になるトコですよ。
「……魔力少ないことは知ってますよ? 兄さまが教えてくれましたし」
正直に告げたらお父さまの苦笑が濃くなった。
「たぶんレーンが考えているものとは違う種類の少ない、という意味なんだけれど」
「ふぇ?」
少ないにも種類があるの!?
ただ『少ない』ってだけじゃなく!?
例えば質が悪くて中身スカスカとか!?
────うわ~……それだったらちょっと嫌だぁ~……
「はっきり言ってしまうと、全身を廻らせるだけの魔力がないね」
「……と言いますと?」
「今のレーンの魔力量では全身を満たすことができていないということだよ」
「???」
────全身を満たせない、ですと?
でもさっきから、意識してさえいれば魔力はくるくると身体のあちこちを移動してたけども?
「恐らくだけど、レーンの魔力を視覚化したら総量の目安はこのくらいだろうね」
そう言って見せられたのは、握り拳状態となったお父さまの手。
「体内を廻らせると言っても、この量の魔力が一度に全部移動しているだけで、全身が魔力で満たされている状態にはならないんだよ」
「えぇ~……?」
なんじゃそりゃ?
魔力が廻ってポカポカ温かく感じてたのは、魔力そのものの温もりじゃなくて通り過ぎていった後の余熱みたいなものだったってこと?
どんな土鍋保温調理法だよ、トホホ……
「自覚はないと思うけれど、レーンの掌に魔力が集まっている間、他の部分は魔力が常に空っぽ状態になっているんだ」
……それでか。
魔法を使ったら一気に魔力がなくなるのも、一瞬で全開まで回復するのも。
「これまでに何度か魔法を使っていたね? 魔法を使うことで具合が悪くなったりしなかったかい?」
「……ん~っと…………」
病気みたいな不調があったわけではない。
あったとしたら、すっごく疲れたな……ってくらいだ。
「すっごく疲れてフラフラしました」
よくあったものと言えばそれだ。
足りない魔力を体力で補うって感じでそうなってたはずだ。
「……ああ、やっぱりか」
「?」
「今までのレーンのやり方は力技で無理やり魔法を繰り出す方法を取っていたようだからね。それも魔法を完成させるために無意識で、だ」
「!」
無意識かどうかは分かんない。
でも、魔法を失敗しないように気をつけてはいた。
だって、魔法が中途半端になってきちんとした形にならなかったら、自分の手から離れた魔力が暴走するとかいうのを兄さまに聞いたから。
「そのやり方は今後一切してはいけないよ」
「どうしてですか? 無理やりだったとしても、ちゃんと魔法は完成してました。失敗したことは一度もないです」
「失敗しないのは当たり前だよ。己の命を代価に差し出して魔法を完成させているようなものだからね」
「……!!?」
「そのやり方だと確かに、それも確実に魔法を完成させることができる。けれど、ある種の禁じ手とも言える手法である以上、多用するのは危険だ」
「………………」
真剣な眼差しで見つめられながらのその言葉に、私も黙ってお父さまを見つめ返す。
どうやら私は自分でも気づかないうちにとんでもないことを仕出かしてしまっていたらしい。
楽しんでやっていたはずのそれが、とんでもなく恐ろしいことだったのだと感じたのは、お父さまの『命を代価に』という言葉を聞いたからだ。
「お父さま、あの……」
「魔法を行使した際、こんな風に感じることがなかったかい? 軽く頭がクラクラして、それから身体から力が抜けたり、ふらついたり。あとは、酷く疲れたりとか。そういったことはなかった?」
────うぁ~……心当たりがありすぎる……
「……ありました。思いっきり……」
「たぶんレーンは、体力が消耗した程度にしか考えていなかったんだろうけれど……」
「違うんですか?」
「違うよ。仮に体力の消耗だったとしたら、簡単に短時間で何の異常もなく元の通りに回復するはずはないからね」
「!!」
「体力を消耗しての回復というのは、疲労感が残っている状態から徐々にそれが緩和していく形で成されていくものなんだよ。体力の戻りがあっても、身体には少なからず疲労感というものは残る。それがなく、スッキリと全快してしまうのは妙だと思わないかい?」
「それは……」
確かにその通りかもしれない。
仮に全力疾走のダッシュをしたとして、疲れ切った身体が完全回復するにはそれなりの時間がかかる。
乱れた呼吸が整ったところで、身体の疲れがそれに追いついて取れることはない。
時間をかけてじわじわと、ゆっくりと整えていくように疲れは癒されていくのだ。
「体力が減っているように思えるけれど、実際はそうじゃないと理解してくれたかな? 本当に減っているものは魔力の全てと、魔法の完成の代価として差し出すべく削り取った命の力。疲れを感じたのは命の力を削り取ったことによる一時的なものだと考えられるね。魔力が全快したことで疲れが取れてスッキリした感じがしたのは、魔力切れによる軽いめまいや頭痛が取れたと同時に身体の疲れも一緒に取れたと脳が思い込んでいるからだと思うよ?」
「うぅぅ~…………?」
あまりにも言ってることが難解且つ複雑すぎて頭の中がショートを起こしております。
────専門的、ナノ、難シクテ、ワタクシ、分カリ、マセン……
脳天からプスプスと煙でも噴出しそうだ。
「あう、あう~……」
混乱しかけて語彙力がぶっ飛んだ上に、有り得ないほどデッサンを狂わせたであろう私の表情を見たことでお父さまが苦笑した。
それから、ものすごく分かりやすい、砕きに砕いた説明をしてくれた。
「魔法を使って身体がものすごく疲れたら寿命が縮んでしまうよ? ……って言ったら分かるかな?」
「!!!」
────ぎゃわーーーーーーーーーーーーー!!!
シャレにならんわ!!
ただえさえ前世で早死にしてるというのに!!
懲りずに今世でもまた早死にしろとでもいうのか!!
冗談じゃないぞ!!
私は!!
破滅を回避して!!
長生きハッピーライフを満喫して、これでもかってくらいに人生謳歌してからの大往生を迎えたいんだよ!!
っていうか、一回魔法を完成させる度にどれだけの寿命持ってかれてたの?
秒単位?
分単位?
時間単位?
まさかまさかの月単位とか年単位とかじゃないよね!?
怖ッ!!
早死にへのレールに見事に片足乗っけちゃってたよ!!
もう二度とやんない!
力技のゴリ押しでの魔法完成とか絶対にもう二度とやるもんか!!
「……お父さま。どうやったら魔力って早くたくさん増えますか……?」
このままだったらどんなに魔法式を覚えたところで、魔力不足による行使不能は目に見えている。
いくら魔法の才能があろうと、魔力不足で行使することができなければ魔法は使えないも同然。
ゲームでの悪役令嬢がそうだったように、今の私も魔法が使えないへっぽこだということになる。
それも、ただただ絶対的な魔力量が足りない、というその事実だけで押されてしまう非常に不名誉な烙印だ。
「早くたくさんに、というのは無理があるね。魔力総量は少しずつ、時間をかけて確実に増やしていくものだから」
「じゃあ……私、ずっと魔力不足で魔法を使えないまま大人になるかもしれないんですか?」
「さすがにそうはならないようにするつもりだよ。少しずつ、確実に、根気よく続けて魔力を増やしていく努力をしようね、レーン」
「……はい」
もし。
もしこれで。
魔法学院に入る歳になっても絶対的な魔力量が足りないままだったとしたら。
私はゲームの悪役令嬢と同じへっぽこ扱いの劣等生のまま学院生活を送ることになるのだろうか。
周りにいる多くの魔法の才ある人たちを羨むような視線で眺めつつ、溜息の絶えない毎日を過ごすことになるのだろうか。
それは、やだな……
せっかく魔法のある世界に生まれ変わったんだ。
初歩的な簡単なやつでもいい。
全く魔法が使えないへっぽこにだけはなりたくない。
ゲームの中では実際どうだったか分からないけど、もしかしたら。
本当に、もしかしたら、だけど。
フローレンは本当は才能はあったけれど、魔力が足りなくて魔法を行使することができなかったがために、魔法の才なしとされてへっぽこ扱いされていたのかもしれない。
どんなに努力を重ねたとしても、努力だけではどうにもならないことは世の中には数多くある。
そんな中、光属性の魔力を持ち、素晴らしい魔法の才能を秘めた元平民のヒロインが現れて。
自分の婚約者と急激に仲を進展させていったら。
フローレンとしては悔しくて仕方ないよね。
第二王子の婚約者なのに魔法の才能はなし。
それどころか、婚約者からは邪険にされて他の女の方へと気持ちがどんどん向けられていくわけで。
そりゃあ色んな負の感情を抱えるわけだよ。
魔法の才能に嫉妬し、自身の立場を脅かす相手を敵認定してキツく当たるのも自然の流れだ。
ゲームだから、当然プレイヤーの感情に沿って誰も彼もがヒロインの味方。
どんなに理由に正当性があったとしたって、ヒロインの前に立ちはだかったという時点で悪役とされた者は救われないのがシナリオで定められた運命なのだ。
なんて理不尽な扱いなんだろう。
シナリオの裏側に存在しているはずの、ヒロインと相手役以外の人物の生き様や行動の理由とかは明確にはされていない。
あくまでも個人個人の理想や想像や希望でしかないけれど。
もしそのシナリオの裏側で、フローレンが血の滲むような努力を重ね続けての結果がああだったとしたなら。
それはあまりにも哀しすぎるよ。
「……お父さま」
「うん?」
「……頑張ったら、認めてくれますか?」
「レーン?」
「これから頑張って。少しでも魔力を増やして。自分の魔力だけで魔法を完成させることができたら。その時は、私が『頑張った』って、認めてくれますか?」
私だけじゃなく、シナリオの中の報われることのなかったフローレンのことも一緒に。
頑張ったね、って。
辛かったね、って。
そう言って、頭を撫でて、認めてほしい。
それだけできっと、救われる思いもあるはずだから。
泣きそうな顔で見上げる私を見て、お父さまが優しく笑って頭を撫でてくれた。
「愛する娘の努力を認めないわけがないだろう? 父さまはいつだってレーンの頑張る姿を見守って応援しているよ? 父さまだけでなく、フレイヤさんもロイアスも同じように思っているからね」
「お父さま……」
────あ、ヤバい……本気で泣きそう……
今の言葉だけで涙がぶわっと溢れてきた。
涙腺崩壊は相変わらずだ。
そんな私を見てお父さまが苦笑した。
「泣くのは後だよ、レーン」
「?」
「まずは一つ、簡単な初級魔法を一つ完成させてみようか。泣くのなら、魔法が成功しての嬉し涙に取っておくべきだと思わないかい?」
「!」
お父さまの言う通りだ。
同じ涙を流すなら、哀しい涙よりも嬉しい涙のほうがずっといい。
言われた言葉を受け止めて大きく頷くと、また優しく頭を撫でられた。
「それじゃ、少しずつレーンの魔力を増やしていく訓練をしていこうか? 初級の簡単な魔法を使ってね」
「はい、お父さま!」
大きな声で返事をした私に笑顔が戻ったことでお父さまが笑顔で頷く。
「まずは父さまがお手本を見せるから……と言いたいところだけど、さすがに属性が違うから見本にはならないだろうね」
「?」
「ちょっとロイアスを連れてくるから待っててくれる?」
「? はい」
兄さまじゃなければダメならいくらでも待ちましょうよ。
「生活魔法だったら、待ってる間いくらでも使ってもらって構わないからね? ある程度それで魔力の放出に慣れておいたほうが魔法を使うのに便利だから」
「分かりました」
そんじゃ待ってる間に練習させてもらいましょうかね。
ちょっとでも『魔力を外に出す』という感覚に慣れておかなきゃだ。
再び池の方へ向かってとっとことっとこ歩いていき、水面へと向けて手を伸ばす。
今度は片手だけじゃなく両手で。
“水よ”
唱えると同時に両手からぽたぽたと落ちていく雫。
「……やっぱそう甘くはないか」
思惑が外れたことで漏れたのは苦笑だった。
単純に、両手で使えば落ちてくる水の量も倍になってくれるんじゃないかなって思ったんだよね。
でも違った。
片手だろうが両手だろうが、一度に流せる水の量は同じ。
そこには個人の持つ魔力総量との絶対的な比率というものが関係しているのだろう。
やはり魔法とはそう単純にはできていないらしい。
奥が深いな。
そんなことをぼ~っと考えながら、明後日の方向を眺めつつ水の生活魔法を使い続けていたからなのか。
この時の私は全くと言っていいほど気づいてなかった。
池の水面のところどころで、明らかに陽の照り返しとは違うキラキラとした輝きが見え隠れしていたことに。
「お待たせ、レーン」
「兄さま!」
お父さまに連れられてやってきた兄さまに呼ばれてパッと振り返った瞬間、魔法が切れた。
魔力が、ではなくて魔法の行使がそこで停止したのだ。
意識が別の方向に向かったからだと思われる。
「父上に『防護障壁』の手本を見せてあげてって言われてね」
「『プロテクション』? ですか……?」
「? あれ? 聞いてなかった? 少ない魔力で安全に行使できる魔法だから、実践練習の開始にはそれが適切な魔法だっていうこと」
「聞いてないです」
「うん、まだ言ってないからね」
「父上……」
「レーンには説明するよりも先に見てもらった方が上達が早そうな気がしたからね」
「確かにレーンはイメージする部分に強みがありますし、その手法が最適かもしれませんけど。せめて『何をするか』くらいの説明があってもよかったのでは?」
「その時間すら惜しかったんだよ。先にロイアスを呼ぶ方が早いと思ってね」
「……それで説明を省いた、と」
「そういうことだね」
のんびりとしたお父さまの調子に兄さまが盛大な溜息をついた。
親の前でも遠慮がない。
「それじゃ、見本を見せればいいんですね? 『防護障壁』の式はもう覚えているという前提でいいのでしょう?」
「うん、よろしく」
「お願いします、兄さま」
軽く頷いた兄さまが私とお父さまの前から二歩ほど下がって距離を取った。
「……では、やります」
スッと片手を胸の位置に当てながら兄さまが静かに魔法行使の開始を宣言する。
その直後、お父さまが兄さまにこう言った。
「属性式は簡略化しないやり方で頼んだよ」
「承知しました」
お父さまの言葉に再度兄さまが頷いたと同時に、兄さまを取り囲む魔力が膨れ上がったように感じた。
何度も見てきたように、魔力を操ることで兄さまの目の輝きが強くなる。
この輝きが、私は好きだ。
ずっと見つめていたいくらいに強く惹きつけられる魅力的な色なのだ。
“防護障壁・水属式”
詠唱と同時に展開された式が形となり兄さまの周りを覆う。
そこには、兄さまを中心に半径1メートルほどの大きさの水の球体が包み込むように存在していた。
水属性の防御魔法だ。
「……すごい」
思わず駆け寄ってその防護壁に触れていた。
魔法だというのに、それは完全な水で触れたそこから濡れていく。
試しに叩いてみたら水に阻まれるように弾かれ、奥に突っ込もうとしても、その厚み(?)というか深さ(?)に侵入を遮られる。
とてもじゃないけど、兄さまには手が届かない。
「すごいです……!」
見て驚いて、触れてまた驚いて。
『すごい』以外の感想が出てこない。
幼女の語彙力は吹っ飛びました。
「これが水属性の防護障壁魔法だよ、レーン」
言われて頷く。
確かに兄さまの詠唱の中に水属性を思わせる『“水”』って言葉が入ってた。
でもどうしてお父さまは兄さまにそれを言うよう指示していたんだろう?
魔力が水属性の兄さまには、水属性を指定するような式は必要なさそうなのに。
その疑問に答えるように、兄さまが属性を指定する式を加えた理由を教えてくれた。
「レーンの魔力は今現在『無属性』状態にあるからね」
そう言って兄さまが防護障壁魔法を解除した。
瞬間、ただの水と化したそれが重力に従って落ちていこうとしたのを遮る形で、軽く薙ぎ払うように片手を池の方と振り上げる。
すると、水は兄さまの手の動きに操られるかのように池へと向かい、そして在るべき場所へ還るかのごとく池の中へと流れ落ちていった。
「属性式を簡略化できるのは、本人の魔力属性が固定されている場合、もしくは複数属性でも一つの属性が他より飛び抜けている場合に限られるんだ」
「定まらない属性では、属性式を指定されなかった場合にどの属性にしたらいいのか式自体が迷って発動に時間がかかってしまうからね。成功すればまだいいほうだけれど、ほとんどの場合が途中で失敗して式も魔力も消失してしまう」
……なるほど。
私への見本だから兄さまはわざわざ水属性の式を指定して防護障壁魔法を行使したのか。
「今のでイメージは掴めたと思うから、さっそくやってみてごらん。ロイアスがやったように、ちゃんと属性式を指定して詠唱するようにね」
「はい、お父さま」
「くれぐれも『水属性式以外』の障壁を展開させないようにね? そのための、ロイアスの見本だったんだから」
「? どうして水以外はダメなんですか?」
属性がないならどの属性にも染まるっていうのが無属性の特性じゃなかったっけ?
「水属性以外の防護障壁魔法は防御とは名ばかりの、ある意味攻撃的で危険なものだからだよ」
溜息混じりの兄さまの言葉に、思わず聞き間違えたかと思った。
目を見開き兄さまを凝視するも、さっきの言葉の否定は返らない。
「……それは後で父上に見せてもらえたら即座に理解できると思うよ。たぶんその危険性の検証に僕も付き合わされるんだろうけど……」
────あ……兄さまが遠い目になってる……
よっぽど危ないってことなんだろうか。
たぶん訊いても教えてもらえないだろうから、後で実際に見せてもらうしかない。
それにしても、防御とは名ばかりの防護障壁魔法とは一体何ぞや?
防御なのに危険とか意味わからん。
「とりあえず他属性のことは置いといて、一度水属性の防護障壁魔法を試してみようか。どんなに魔力が少なくても防護障壁魔法は行使できるようになっているから」
お父さまからそう促されて、私はさっき見た兄さまの防護障壁魔法を思い浮かべた。
ああいう風に水が自分を守るようなイメージで壁を作ればいいんだな。
────……よし!
────やるぞ~!!
“防護障壁・水属式!!”
意を決して、自分の中の魔力を意識しつつ、水の膜の壁に包まれた自分をイメージしながら防護障壁魔法の式を詠唱した。
途端にフワッと身体が浮くような感じがして、その直後に全身から何かが抜け出るような……というか、頭のてっぺんから軽くクッと引っ張られるような何とも不思議な感覚を覚えた。
『あ、コレ魔力全部持ってかれたわ……』
……と思ったのは、一瞬頭がクラっとしたから。
でも、魔力全部を絞り出した甲斐あってか、式の詠唱に問題はなかった。
ただ……問題があるとしたら、その結果のほうだ。
「え、っと……」
「形としては整っていると言ってもいいのかな……」
言葉に詰まる兄さまと、何とかフォローをしようと頑張ってくれているお父さま。
……いいんだ、ハッキリ言ってくれちゃって。
だってコレ、どう見たって防護壁じゃないでしょうよ?
そう。
防護障壁魔法の式は展開したのだ。
……一応。
だけど、魔力を行使して完成させたはずのそれは、どう見ても失敗作なのだ。
お父さまが言うように、形としては、自分自身の周りを包み込む『膜』状のものになってはいる。
ただし、あまりにも頼りない。
分かりやすく例えると、消滅寸前のシャボン玉ほどの強度しか期待できないという、薄っぺらすぎる何かなのだ。
息を吹きかけた瞬間に吹き飛ぶよ、っていうか消え失せるよ。
強度も何もない、全くの意味なしの防護障壁魔法と言えよう。
────さすがにコレ、成功なんて言っちゃいけないレベルだよねぇ……
なんてことを思っていたら。
風前の灯火のシャボン玉障壁(私命名)、パチンと弾けて消えちゃいました。
触れてもいないのに。
そう。
触 れ て も い な い の に ! !
「あっ……」
「あぁ~……」
そんでもって心底残念そうな声を出されちゃうと、もう泣くしかないよね。
しょぼすぎる。
本ッッッ当~~~~~にへっぽこすぎる。
泣くのは魔法が成功した時の嬉し涙に取っておこうね、なんて言われたけれど、仮にこれを成功したものと仮定したところでちっとも嬉しくないわ!!
寧ろしょぼすぎて、そっちの方の悲しみで泣けてくる。
ぼたぼたと遠慮なく涙流しちゃってますよ、ワタクシめ。
「……ああ、でもレーン! 今はまだ脆い障壁かもしれないけれど! 魔力量が増えてくれば段々と分厚く強固な障壁を展開できるようになるから! だから、頑張って魔力総量を上げていくことにしよう! ね!?」
珍しく焦った調子で声を張り上げながら必死にフォローを入れてくれるロイアス兄さま。
さすがにガチ泣きはまずかったか。
でもしょうがない。
情けなくて泣けてくるんだもん。
そんなこんなでぐだぐだしている間に、私の魔力は例の如く一瞬で全快した。
これを繰り返せってことなのね。
そうなのね。
……目指す先が遠すぎて挫けそうです、とほほ……
また間が開いてしまうと思いますが、続きもお付き合いいただけたら幸いです。




