カフェオレ、のち、謎解きタイム
閲覧、ブクマ、評価といつもありがとうございます。
これ書いている最中、めっちゃカフェオレ飲みたくなりました(^^ゞ
~カフェオレ、のち、謎解きタイム~
……さてさて。
ただいま一時休戦中にてお茶をいただいている真っ只中であります。
といっても、私とお母さまは特にすることがないので、本当にお茶をじっくりと味わっているだけ。
やるべきことがあるとしたら、この後お父さまが動き出して、絵を探し当てるのを見守ることくらいかな?
お茶を飲み、それから悪戯に至った経緯を聞いたことで冷静さを取り戻したお父さまは、絵を探すにあたって『なぜ自分は今サロンにいるのか』ということを疑問に思っている様子。
そうそう。
その疑問こそが探しものを見つけるための最短の道なんですよ。
────今のお父さまの調子なら、すぐにでも隠し場所であるミックへと辿り着くかな?
そんなことを思いながらじっとお父さまを見ていたんだけど、どうやらまだまだお疲れ気味だったらしい。
疑問に思ったまではいいが、そのことを考え込んでいる最中にエネルギーが切れてしまったらしく、盛大な溜息をついて頭を抱え込んでしまったのだ。
頭の中をスッキリさせるためにと淹れてもらったお茶も、あまり効果がなかったらしい。
「随分とお疲れのようね、ロンベルト」
「ん? ……そうかもしれないね」
気遣うように声をかけたお母さまに対し、力ない笑顔で答えるお父さま。
口ではいくらでも『大丈夫だ』『平気だ』と言えるけど、実際は自分にそう言い聞かせているだけであって、ちっとも大丈夫じゃなければ平気でもないのだ。
それだけお父さまが昨日受けたダメージが大きかったということになる。
魔力中毒という症状は、一体どれだけの重さをその身に背負わせるのだろう。
不意に昨日の酷い顔色をしていたお父さまを思い出し、それがもし己の身に降り掛かったとしたら……と想像しただけで身震いがした。
「おとうさま」
「ん? どうかしたかい、レーン?」
「まりょくちゅうどく、まだつらいですか?」
「えっ?」
「きのういってたみたいに、からだのなかがぐるぐるしてきもちわるいですか?」
もしかしたら、今疲れているのは昨日の症状がまだ残っていて、それで無理を重ねて悪化したからかもしれない。
そう思って訊ねてみたのだけれど、返った答えは違っていた。
「魔力の影響はもうほとんど残ってないよ?」
「でも……」
「うん?」
「あたまかかえているから……」
『気持ち悪くて、頭がぐらぐらするのかと思って……』と、続けようとしたら、それを分かっていたのか『問題ないよ』と苦笑された。
「単に頭が必要な栄養分を欲しているだけなんだよ。ほら、昨日の夜からまともに食事を摂れていないからね。今朝方もお茶を一杯しか飲んでいなかったし、昼は……」
「おひるは?」
「……食べるヒマがなくて、やっぱりお茶だけ飲んで終わりだったね」
思い返しながらそう言ったお父さまに対し、お母さまが怒りを込めたニコニコ顔で『あ~な~た~?』と意識的に声を低くして凄みながらジリジリと詰め寄った。
膝の上には私、それから間にロイアス兄さまを挟んだ状態でお父さまに詰め寄ったものだから、ソファーの上では子どもを間に挟んだ見事なサンドイッチが完成しました。
しかし、これは微笑ましい光景などではない。
昨日の夜から今日のお昼にかけてのほぼ丸一日の食事をお父さまが抜いてしまったことに対して、お母さまが怒りを顕にしているからだ。
「身体は資本ですのよ!? 自身の健康は真っ先に考えなければならないことなのに、基本中の基本たる食事を抜くとは何事ですか! ノーヴァ公爵様が文字通り首根っこ引っ掴んで引き摺って帰ってくる羽目になったのも当然のことですわよ!」
────おぉう……お母さま、再びおこです……
しかし文字通り『首根っこ引っ掴んで引き摺って帰った』ですか……
ノーヴァ公爵様って意外とパワフルなんだなぁ……
魔道師や魔術師といった職についている人は非力なイメージがあったんだけど、実際はそうでもなかったりするのかなぁ?
それとちょっとした発見。
お母さまはホントの本気で『おこ状態』の時、お父さまを名前で呼ぶのではなく『あなた』呼びになるっぽい。
まぁ己の身体を大事にしない行動のオンパレードだったんだもんね。
本気で怒られてもそりゃしょーがないってもんでしょーよ。
「本当に申し訳なかった、フレイヤさん」
「次からは本当に許しませんわよ!?」
「分かってる。反省している」
「本当の本当ですわね!?」
「ああ、本当だ」
こんな遣り取りを、子どもたちを間に挟んだ状態、それも私たちの頭上でやってるんですよ。
そういうの、後ほど二人っきりにでもなって存分にやってくれた方が間に挟まれた身としては助かるのですが。
チラリと兄さまを見遣ると、兄さまも同じ考えなのかげんなりした顔で溜息ついてた。
相変わらず、手元の砂糖ジャリジャリのコーヒーの残りは減っていない。
まぁ溜息の原因のうち、半分はこれのせいだろうと思うけど。
「単に栄養分の不足だというのであれば、しっかりと食事を摂ってもらえれば済みますけれど。重篤な病に侵されたりでもしたら元も子もありませんのよ? そのことを十分に……いえ、十二分に理解して肝に銘じておいてくださいまし!」
「約束する。もう二度とこのようなことにならないよう、十分に気をつけるから」
「絶対ですわよ?」
「もちろんだとも」
あ~もう。
そろそろ二人の世界から脱却してくれませんかね?
あなた方の子どもたちは今、非常に居心地が悪い気持ちで間に挟まれているのですよ。
まずはそっちのほうのご理解をいただきたいもんだ。
とはいっても、一度二人の世界が始まったら長そうな両親ズ。
『ここは空気を読まずにぶち壊すのがベストだと思うのですが如何でしょう?』
そんな気持ちで兄さまをチラリと見る。
同時に兄さまもこっちを見ていて、私の思考を読んでくれたかのようにゆっくりと頷く。
────よし、決定!
────この空気ぶち壊しま~す!
そうと決まればすぐにでも実行あるのみだ。
「よいしょ……っと」
わざとらしく声を出しながらお母さまの膝から降りる。
それだけで二人の世界は意図も容易く崩壊した。
「どうしたの、レーン?」
ほらね?
さっそくお母さまの意識が私のほうに向いた。
「あまいものをほきゅうするんですよ?」
「あらあら……たくさんのタルトを用意してもらったつもりだったのだけれど。あれでは足りなかった?」
「いいえ? たくさんたべたのでわたしはじゅうぶんです。これからあまいものほきゅうするのはおとうさまですから」
「父さまが、かい?」
「はい。おしょくじできていないならからだはとってもつかれていて、えいようをほしがっているはずです。すこしでもつかれをとるために、まずはあまいものをほきゅうしてからだをホッとさせてあげましょう」
そう言って、私は兄さまの砂糖ジャリジャリのコーヒーをサッと取り上げた。
この行動には兄さまも驚いたらしい。
「レーン!?」
そんな兄さまに『ニッコ~』と笑ってみせてから、今度はお母さまへと向き直る。
「おかあさま。かぞくならわけあいっこしてもいいんですよね?」
「ええ、もちろん。けれどくれぐれも……」
「おそとではやっちゃダメ! です!」
「そうよ。分かっているのならいいの。ちゃんと確認して偉いわね、レーン」
「えへへ~」
『褒められて嬉しいぞ!』とばかりに満面の笑みを浮かべた私は、そのまま兄さまから取り上げた砂糖ジャリジャリコーヒーをガルドのところまで持っていった。
これを効率よく消費するための妙案が浮かんだのだ。
お父さまには手っ取り早く糖分補給をしてもらえるし、兄さまの方は処分に困ったクセモノを何とかできるという、まさに一石二鳥なグッドアイデアだったりする。
そのグッドアイデアとはずばり『カフェオレ』だ。
まず、この砂糖だらけでジャリジャリドロドロのコーヒーに濃いめのコーヒーを注ぎ足してサラサラ状態にする。
それをたっぷりのミルクと混ぜて、まろやかで飲みやすいカフェオレにしてしまえば、多少甘くとも兄さまが飲めないことはないんじゃないかなって。
お父さまは言わずもがな。
飲みやすく甘いカフェオレで脳内に簡単に糖分補給というわけですよ。
そういうことでガルドにそれを提案してみたら驚かれた。
曰く『ミルクを入れる量が多すぎるのではないか』ということ。
どうやらこの世界、コーヒーにミルクを入れる習慣はあっても、たっぷりのミルクを入れて飲むことはしないらしい。
それはミルクティーでも同じらしく、どちらも入れるミルクの量は少量なのだとか。
────もったいないなぁ……
────ミルクの風味を活かしたカフェオレやカフェラテを味わったことがないなんて……
────ロイヤルミルクティーだって最高なのに……
こんなにも素晴らしい品質の紅茶の茶葉やコーヒーがあるのに、飲み方のバリエーションが少なすぎるだなんて残念すぎる。
あまりにももったいないので、まずは家庭内でもいいから広めます。
ええ、広めます。
まずはカフェオレからです。
有り得るか有り得ないかは実際に飲んでみてから判断しても遅くはないのです。
戸惑うガルドを押し切る形でカフェオレを作ると説き伏せ、追加のコーヒーとたくさんのミルクを用意してもらった。
自分で作業しようと思ったけれど、それは私のやるべきことではないからとガルドに止められてしまったので、私の役目は横であれこれと口を出すだけの偉そうな指示係だ。
量が量だけに重くて危ないから、というのが作業を止められた理由だったんだけど、できれば私も一緒にカフェオレ作りたかったよ……クスン……
一度ストップがかかったらそれを覆すのはどう足掻いても無理なので、ガルドに作り方を指示してカフェオレを作ってもらいました。
まずは砂糖多めのブラックコーヒーを淹れてもらい、それをグラスの三分の一くらいの位置まで注いでもらう。
今度はそこにミルクを投入するわけだけれど、ここでまた『ミルクが多すぎやしないか』という指摘が。
多くないです。
私的にはコーヒー3、ミルク7くらいの割合が理想なんだけれど、実際に入れてみた量としてはコーヒー4、ミルク6くらいの割合で若干コーヒーが多めだ。
これも有りっちゃ有りだけど、カフェオレ初心者にはミルクの割合が多いほうが飲みやすいと思うんだけどなぁ。
まずはミルクの風味を活かすためにたっぷりのミルクで作ったカフェオレから入り、あとは個人の好みでコーヒーの量を増やしたり、砂糖を減らしたり……という感じで自分に合った濃さや甘さのカフェオレを見つけていくっていう醍醐味もあったんだけど。
うん……初歩の部分を見事にすっ飛ばされた感じ。
自分で作業できなかったからしょうがないっちゃしょうがないんだけども。
まずは一つ完成したので、最初にそれをお父さまの前へと運んでいく。
脳内の疲労を一刻も早く取り除くためにも一番初めに飲んでほしいからだ。
決して味見という名の実験台にしているわけではありませんからね!?
カフェオレが!
おいしい飲みものだということは!!
前世の世界でよ~~~~~~っく分かっていることですからね!!!
コーヒーが飲めない人でない限り、カフェオレはおいしくいただけます!
……あ、違うわ。
正しくは、コーヒーもミルクもおいしく飲める人、だ。
いくらコーヒーが飲めてもミルクが飲めなければカフェオレは無理だもんね。
「おとうさま、どうぞ」
「……ありがとう、レーン」
受け取ってはくれたものの、その表情に浮かんでいるのは苦笑だ。
おそらく初めて見たであろうカフェオレの色合いに戸惑っている様子。
だってどう見ても普段口にしているコーヒーとは違った色合いだもんね。
私がお父さまにカフェオレを運んでいる間に、一つ、また一つとカフェオレが完成していて、今度はそれらをお母さまと兄さまの前に同じように差し出す。
ちなみに私の分はありません。
幼女の身体にコーヒーは良くありませんからね。
いくら飲みやすいと言っても、その飲みやすさに嵌ってズブズブと余分なカフェインを摂取するわけにはいかんのです。
あくまでも私はコーヒー摂取禁止。
今の兄さまと同じ年になるまでは、決して口にはしないと決めたのです。
……確かゲームの設定だとロイアスとフローレンは5つ年の離れた兄妹だったから、この世界でもそれは多分同じはず。
だから私のコーヒー解禁は今から5年後ですね。
楽しみは後に取っておきます。
解禁したのちに、存分に堪能してやるのだ、げっへっへっへ……
……と、頭の中でそんなことを考えている間に、お父さまたちはやっとのことでそれぞれカフェオレを口にしていた。
それもどこか恐る恐るといった感じで。
まぁ今まで飲んだことがなかったんじゃ、その反応も仕方ないよね。
でも心配はしてない。
だって絶対にまずくはないから。
自信持っておいしいって勧められるから。
「あら……?」
最初に言葉を発したのはお母さまだった。
「まぁ……なんて飲みやすいの」
頬に手を当てて、ほうっと息をつきながらの一言。
「あの苦味と酸味とで癖がある分、コーヒーは少し苦手だったのよね。でもこれはとてもまろやかで飲みやすいわ」
うっとりとした表情で言われた言葉に私は満面の笑みで応えた。
「おいしいですか、おかあさま?」
「ええ、とっても。これならコーヒーが苦手なわたくしでもおいしくいただけそうよ」
「よかったです!」
ニコニコ笑いながらお母さまと言葉を交わしていると、お父さまも兄さまもようやくカフェオレを飲んでくれたらしく、それぞれが違う感想を口にしてくれた。
「確かにフレイヤさんの言う通り、苦味がなくて飲みやすいね」
「甘さはあるけれど、そこまで甘いわけでもない。ほどよくコーヒーの苦味と合わさっていて、疲れた時には良さそうだ」
そうでしょう、そうでしょう。
まさに今、疲れた身体にちょうどいいと思いませんか、兄さま。
それと脳内疲労がとんでもないことになっているお父さまも。
カフェオレを飲んだことで、ちょっとホッとしませんでした?
身も心も満たされるって、こんな感じなんですよ?
「ガルドものんでみて?」
「私もいただいてよろしいのですか?」
「もちろん。ガルドにものんでもらって、これがとってもおいしいものだってわかってもらえたら、こんどからおちゃのじかんにこれをつくってもらうことができるでしょう?」
……この場合は私に、ではなくて兄さまにってことになるけど。
でもいいんだ!
将来的には私だって存分に飲むんだし!
『作って!』とおねだりして『はい、ただいま!』って感じでいつでもすんなりと希望が通るようにするためには、この邸中の皆にも馴染みあるものでなければいけない。
お願いした途端に訝しげにされるようではダメなのだ。
そのためにも、用意してくれる立場にある皆にカフェオレがおいしい飲みものだということを知ってもらわなきゃ。
そしてできればカフェオレ信者になってもらいたい、というのが私の希望でもある。
「おかあさま!」
同じ邸内の家族にも等しい相手だけれど、血の繋がりがないという時点でシェアはアウトかもしれない。
そう思って、お母さまの言う『身内』がどの範囲まで通用するか確認するために訊いてみることにした……ら。
なんと微笑んで頷き一つでOKを出してくれた。
質問をする以前に、私と目が合っただけで言いたいことを理解してくれたらしい。
素敵すぎる、お母さま。
「せっかくだから、ガルドだけと言わずに手の空いた使用人の皆さんでいただくことにしましょう。誰もがこの味を知っていれば、いつだって手軽にお願いして淹れてもらうことが可能だものね」
わぁ~お!
私の魂胆までバレバレでした~!
でもお母さまのこの言葉は願ってもないことだったので、私としては諸手を挙げての大歓迎です!
そうして始まった、サロン内でのカフェオレ試飲会。
手隙の使用人の皆を集めてのものだったから、今仕事中の人たちには後で休憩時間にでも飲んでもらうことになった。
反応は人それぞれだったけど概ね好評。
苦味と酸味のあるコーヒーがとっても飲みやすいとの好意見が大半だった。
中でも女性陣にはミルク多めの方が好まれている様子。
やっぱりまろやかで優しいミルクたっぷりの風味が女性の心を掴んだと思われる。
────うん、うん
────気に入っていただけたようで何よりです♪
これを切っ掛けに我が家でカフェオレ一大ブームが巻き起こり、カフェオレは邸内で好んで飲まれるようになる。
閑話休題。
……さてさて。
サロン内でわいわいと楽しくカフェオレ試飲会を行ったおかげか、場の空気は和み、お父さまの疲労も幾分か取れて頭が正常な判断ができるまで回復した模様。
集まっていた使用人の皆さんは既にそれぞれの持ち場へと戻っており、今サロン内には私たち家族四人とガルド、それからヴェーダだけがいる状態です。
「そろそろ隠されたレーンの絵を探さなければならないね」
そう言って立ち上がったお父さまが、サロン内をぐるりと見渡す。
「最初は『なぜ自分がサロンにいるのか』心底疑問に思ったわけだけれど……なんてことはない、自分でも気づかないうちに、実に巧妙にフレイヤさんからここへ来るよう誘導されていたわけだ」
そうそう。
そうです、お父さま。
「普通に考えたら、隠されたものを探すとなると、見つかるまで探し回るのが当たり前であって、寛ぐことが目的であるサロンに行くなんてことは到底有り得ない。なのに私は気づかないうちにここへと誘導されていた。……ということは、だ。隠し場所がこのサロンであるというヒントを、言葉ではなく行動でフレイヤさんからもらっていたことになる」
うんうん、合ってる。
合ってますよ、お父さま。
『帰ってきた旦那様をここに誘導する』って、お母さま確かに言ってたもんね。
「そして幾度となく繰り返された『箱の中』というヒント。それから『分かりやすいけれど、分かりにくい』という言葉。『箱の中』というのはそのままの意味。鍵となるのは『分かりやすいけれど、分かりにくい』という部分だ。このヒントが場所を指してのものなのか、それとも隠し場所である『箱』を指しているのか、そのどちらかによって探す手間が随分と変わってくると思われるね……」
……ふむ。
ちゃんとポイントを押さえてますな、お父さま。
まさにその通りだと言いたいところだけど口出しは無用だ。
あくまでも、全部お父さま一人で絵まで辿り着いてもらわなきゃだから。
「ただし、フレイヤさんが私をこのサロンへと誘導したことで、そのヒントが指し示していたものが『場所』であるということは否定された。つまり『分かりやすいけれど、分かりにくい』という言葉は、隠し場所である『箱』そのものを示すヒントだった、ということになる」
ここまでのお父さまの言葉を聞いて、お母さまがニコニコしながら頷く。
おそらく思い描いていた通りに、お父さまがメッセージを読み解いてくれていることが嬉しいのだろう。
「よって、レーンの絵が隠してある箱はこのサロン内のどこかにある。私はこれからそれらしい箱を探し当てればいい。これで合っているかな? どうだろうか、フレイヤさん?」
「ええ。お見事ね、ロンベルト」
ふわりと柔らかい笑みを浮かべてお母さまが大きく頷く。
そのお母さまの表情を見たことで、お父さまも幾分かホッとしたようで、へにゃりと気の抜けたような苦笑を浮かべている。
「それじゃ、目的のものまであともう一歩。頑張ってレーンの絵を探し当ててちょうだいな?」
「ああ、もちろんだとも」
グッと拳を握り締めて気合を入れるお父さま。
さてさて。
『箱』を指し示すヒントを、お父さまはうまく読み解くことができるだろうか。
サロン内という限られた空間の中ではあるけれど、その中に箱がどれだけ存在していることやら。
実は単純そうに思えてそうでもないのが『箱』というもの。
人が『箱』という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべるとしたら、ほとんどの場合が紙で組み立てられた『紙箱』が第一候補に上がるだろう。
なぜならそれが一番身近であって馴染み深いものだからだ。
だけど、よ~く考えてほしい。
『箱』にも色々な種類があるということを。
紙でできた紙箱だけが『箱』ではないということ。
世の中には実に様々な素材で作られた、様々な大きさの箱がたくさん存在している。
お菓子の入った紙箱や、缶箱。
帽子やドレス、靴などを入れた衣装箱。
ペン類を収納する、前世で言う筆箱も立派な『箱』。
宝石箱だって、おもちゃ箱だって、工具箱だって、みんなみんな『箱』という括りで分類される収納ケースだ。
それだけの種類で溢れ返っている『箱』たちの中から、お父さまはちゃんと隠し場所の『箱』を探し当ててくれるだろうか。
もう一つのヒントを素直に文字通り読み解くのではなく、ちょっと意地を張って回りくどいことをしてしまったその時のお母さまの心情を思ってもう一度メッセージを読み解いてくれたら、全体のメッセージと合わせて、それが『不自然だ』っていう答えに辿り着くはずなんだけどな。
じ~っとお父さまの様子を覗っていると、お父さまはお母さまが残したメッセージカードを見つめながら『う~ん……』と、小さな唸り声のような呟きを零していた。
ヒントを読み解き『箱』のことまで絞れたはいいものの、その先で行き詰まってしまったらしい。
ちなみにお母さまのメッセージカードの仕掛け魔法は二回だけという回数限定で発動するものなので、開いたメッセージカードからお母さまの声が文面を読み上げることはない。
実際魔法が発動していたら、兄さまやガルド、ヴェーダがギョッと驚いた表情を見せたことだろう。
それはそれで見たかったけど、今回は無理だからまた別の機会を待つことにする。
「……おかあさま」
あともうひと押し、というところでお父さまが立ち止まってしまったため、私はヘルプを出すべきかどうか迷ってしまい、思わずお母さまを見上げた。
最後の最後まで自力で見つけてもらう、という気持ちは今でも変わらないけど、ここまで頑張ってくれているお父さまを見ていると、どうしても助けてあげたくなってしまったのだ。
そしてそれはお母さまも同じだったようで、ちょっとだけ困ったように眉を下げながら苦笑していた。
「助けてあげたいのはわたくしも同じよ、レーン。でもね……」
「……でも?」
「どうしても。あの人だけの力で見つけてもらいたいの。だから、答えを言うのだけは……ね?」
「じゃあ、ヒントはいいですか? こたえはいいません。でも、こたえにちかづけるように『こうですよ~』ってみちびくのはいいですよね?」
「ええ。答えを言わないのであれば」
お母さまからのOKが出たので、私はとととと……っとお父さまの足元まで駆けていき、そのままポスンと凭れかかるようにお父さまの足にしがみついた。
「どうしたんだい、レーン?」
突然足にしがみついてきた私を抱き上げ、苦笑しながらそう訊ねてくるお父さま。
そんなお父さまに『えへへ~』と笑ってみせてから、ヒントを出しに来たのだと伝えると、それが予想外だったのか驚きの表情でじっと顔を覗き込まれた。
「またヒントを出してもらえるのかい?」
「はい! こたえはおしえませんけどね!」
「ははっ。確かに答えを教えてもらうというのはダメだろうね。自力で探し当てるという約束を破ることになってしまうから。ズルをして解決したところでそれは己のためにはならないからね」
うんうん。
分かってますね、お父さま。
潔くてカッコいいです!
そんなお父さまだから、お母さまもあんなメッセージを書いたんですよ、きっと。
「あのですね、おとうさま」
「ん?」
「おかあさまからのメッセージをよ~くよみかえしてみてください」
「それはさっきから何度も繰り返し読んでいるよ? 何度読み返しても、結局は『箱』にしか考えが行き着かないんだけれどね」
「さいだいのヒントが『はこ』ですからね」
「そうだね。だからこそ、その『箱』が答えを示すものだと分かったわけだ。ただ……」
「ただ?」
「それがほぼ答えだと分かってしまったからか、『箱』というワード以外に必要な何かが逆に見えなくなってしまったんだ……」
……ふむ。
今度は『箱』に囚われすぎちゃったか。
別に悪いことではないんだけどね。
『箱』自体が答えだって言うお父さまの考えは当たっているし。
ただ、その答えに行き着くまでの何かが掴めない……と。
まだまだ、メッセージに込められたお母さまの意図と想いとが読み解けていない証拠だね。
「おとうさま」
「ん?」
「もういちどメッセージをよみましょう」
「うん、だからね? 何度も何度も繰り返し読み返しているよ、レーン?」
「それでもです!」
「?」
「『はこ』にばかりとらわれていたら、ほかのだいじなことをみおとしてしまうんですよ? だから、いちど『はこ』のことはわすれましょう。『はこ』のことをむしして、メッセージをよんでください。わかるまで、なんどでも!」
そう告げたら、不思議そうな表情ながらもじっと見つめられた。
ちょっとヒント出しすぎちゃったかな?
でもこれ以上は答えになっちゃうから、もうヒントは出せない。
私があまりにも真剣に言うものだから、苦笑しつつもお父さまは『分かったよ』と言って了承してくれた。
メッセージカードに集中してもらうため、お父さまの腕から下ろしてもらって私は再びお母さまの元へ。
そのままソファーにちょんと座り、何食わぬ顔でお茶を飲んだ。
するとお母さまからこんな問いかけが。
「レーンはこのミルクたっぷりのコーヒーは飲まないの?」
その一言に頷きながら飲まないことを告げる。
「わたしにはまだコーヒーははやいので、にいさまとおなじくらいのとしになるまでがまんします」
『小さいから身体にもよくないだろうし……』ということも合わせて伝える。
「少しくらいなら大丈夫よ? 飲みすぎなければ……ね?」
これにもふるふると首を振って飲むことを拒否。
勧めてくれる気持ちだけありがたくちょうだいしておくのです。
ここで甘えてカフェオレを飲んでしまうと、そのままクセになってズブズブ飲み続けるのは目に見えているわけで。
カフェイン特有の中毒性がそうさせるってやつなんですかね?
『ちょっとくらい大丈夫』っていう気持ちがのちの大後悔に繋がるのだ。
目の前の誘惑に惑わされてはならない。
「おおきくなったときのたのしみにとっておくのです」
そう言って『ニコ~』っと笑うと、お母さまはそれ以上無理に勧めてくることはなくなった。
代わりに『レーンが大きくなったら一緒にいただきましょうね?』って。
これには大きく頷く。
「やくそくですね!」
「ええ、約束。楽しみにしているわね、レーン?」
お母さまの言葉に笑顔で頷き、今度は兄さまへと向き直る。
「そのときはにいさまもいっしょにのみましょうね?」
笑顔でそう訊ねると、兄さまも笑顔で頷いてくれた。
「もちろん。そうなると、レーンと一緒にコーヒーを飲める日が来るのは最短で5年後だね?」
「はい! がんばってまちます!」
またも『ニコ~』っと笑顔で応えて、お茶を飲む。
コーヒーじゃなくても、紅茶で十分満たされているから、今飲めないことに不満なんて全くない。
それに5年なんて、きっとあっという間だ。
子どもの成長は早いからね。
気づいたらコーヒー解禁の5年なんて光のように訪れてくれるに違いない。
そうやって、お父さまがカードに集中している間中ずっとお母さまと兄さまと一緒に他愛ない様々な話をした。
お父さまの様子は気になっていたけど、色々と考えさせられているであろうお父さまの足元をチョロチョロしていたんじゃ、邪魔な上に目障りだろうしね。
グッと我慢して側にピッタリ張りつくことはしないでおいた。
とはいっても、話の途中途中でチラチラと横目でお父さまの様子を覗ってはいたけどね!
再びチラリと見遣った先のお父さまの表情は真剣そのもの。
しっかりとメッセージと向き合い、何度も何度も文面に目を走らせているのがよく分かる。
あれから数分ほどが経過したけど何か少しでも引っ掛かりを覚えてくれただろうか。
そんなことを考えていたら、徐々にお父さまの眉間にきつく皺が寄りはじめた。
「……うん…………んん?」
────およ……?
────その様子じゃ、何か引っ掛かりましたな……?
その引っ掛かりこそが答えへの道標ですよ~……と言いに行こうかと思ったその時だった。
お父さまがこちらへと戻ってきてソファーに腰を下ろしたのは。
「フレイヤさん」
「何かしら?」
眉間に皺を寄せたままの表情でお母さまを呼ぶお父さま。
呼ばれたお母さまはにこやかに返事をする。
まるでなんてことはない夫婦の遣り取り。
だけれど……どことなく、空気が張り詰めてるような感じがするのは気のせいだろうか。
思わず兄さまの方を見遣ると、兄さまもどことなく訝しげな表情をしている。
この空気の変化をしっかりと感じ取っているらしい。
鈍感なのに……
超がつくほどの鈍感なのに……!
「このカードのメッセージを書いたのはフレイヤさんで間違いないね?」
「ええ、間違いなくわたくしが書いたものよ」
「……そうだね。確かにこの筆跡はフレイヤさんのものだ。私が見間違えるはずがない」
「ふふっ。そう断言してもらえるほどにわたくしの字を覚えていてくれて嬉しいわ。けれど……今更ながらにカードの確認だなんて不思議なことをなさるのね? このカードが一体どうかして?」
不思議そうにお母さまが訊ねたのは、本当に今更ながらにお父さまがカードのメッセージを書いた主がお母さまであることを確認してきたからだ。
さっき自分たちでも言っていたように、ちゃんと筆跡で分かっているのは互いに承知済み。
もっと言うなら、そのカードのメッセージはお母さま本人の声で読み上げてもいる。
どう考えてもメッセージを書いたのはお母さま以外には考えられない。
……にも関わらず、敢えて確認をするその意味。
それがお父さまが引っ掛かった部分なのだ。
「いや……その……何というか、これは……」
「何よ、もう。ハッキリしないわね……」
言い淀んだお父さまに対し、お母さまが軽く頬を膨らませて拗ねた。
そんなお母さまを見て、苦笑しつつお父さまはこう続ける。
「あまりにも、その……君らしくないというか……」
「まぁ。わたくしからのメッセージが不自然だとでもおっしゃりたいの?」
「!」
ぷぅっと頬を膨らませたまま、お母さまがごくごく自然に暴露した。
『不自然』だと。
それを聞いたお父さまの目が軽く見開かれ、やっと合点がいったとばかりに何度も大きく頷いた。
「そう! それだ! 不自然なんだよ! フレイヤさんが書いたメッセージにしてはあまりにも!」
謎が解けてスッキリしたと言いたげなお父さまの顔を見て、いよいよゴールかな……と思わずニヨニヨしてしまう。
さあ、結びつけてくれぃ!
『箱』とその『不自然』のワードを。
それがお父さまの探しているものの在り処だから!
「回りくどいのもそうだけれど、こんな風に捻たようなことはフレイヤさんは言わない。この文面は、わざとだね? ストレートに伝えるのではなく、私に読み解かせることでしっかりと分からせるために、敢えてこういう手段を選んだんだね?」
「うふふっ」
「フレイヤさん」
「ちゃんと分かってくれて嬉しいわ。それじゃレーンの絵の在り処は見つかったも同然ね?」
「……! そうだった!」
お母さまの言葉を聞いてまたもハッとなったお父さまは、当初の目的を果たすべく行動を再開しようとして…………固まった。
「え……?」
なんて気の抜けたような声とともに向かった視線の先には宝箱に擬態したミックの姿。
そう。
ようやくメッセージが示した『不自然で』『分かりやすいけれど、分かりにくい』『箱』とのご対面を果たしたわけですよ、お父さまは。
「もしかして……『箱』って、これのこと、だったのかい……?」
ハァ~イ!
もしかしなくてもこちらでございまぁ~す♪
ま さ に !
灯台下暗し、ってやつですな!
ずっと足元にあったその宝箱(モドキ)こそが、ゴールなのですよ!
「……箱」
「『はこ』です!」
「どう見ても『箱』よねぇ?」
「『箱』ですね……」
宝箱風おもちゃ箱だけどな。
でもこれも立派な『箱』ですた。
お父さまは『予想外のものが出てきた』と思ったかもしれないけれど、これが目的のブツですからね?
さあ、さあ、さあ!!
どうぞ箱を開けてやってください、お父さま!!
お探しの絵はそこに入っておりますよ!!
……っと。
その前に、最後の罠が待っていたんでしたっけ。
大事の前の小事というか、なんというか。
素敵なお宝を手にするために試練は付きもの、とでもいいますか。
最後の最後に、私の可愛い子どもたちから思いっきり驚かされちゃってくださいませ!
ってなわけで、ミック、ミッちゃん、サッシー、ようやっと出番だよ~!
このあとのことは任せたからヨロシクねぇ~♪
あまりにも『箱』『箱』と書きすぎたせいか『箱』がゲシュタルト崩壊しました……(ーー;)
箱って、なんだっけ……? (・・?)




