悪戯は仲良し家族計画に欠かせないツールです! 3
閲覧、ブクマ、評価といつもありがとうごさいます。
日中段々と暖かくなってきましたがまだまだ昼夜の気温差が大きくて、油断したら体調を崩しそうで不安になります(^^ゞ
本格的な春の到来が待ち遠しいこの頃です(´▽`*)
~悪戯は仲良し家族計画に欠かせないツールです! 3~
しばらく様子を覗ってみるものの、お父さまがこちらに気づく気配はない。
さすがにお父さまの言う『元気の源』を全て取っ払ったのはやりすぎだったか。
今のお父さまには普段の冷静さがまるでない。
残念要素しか出てませんよ、ぶっちゃけ。
だってさ。
お母さまがここまでお父さまを連れてきたってことは『ここに絵の隠し場所がありますよ~』ってことを遠回しに示しているに他ならないのに、その可能性に思い至っていないみたいなんだもん。
その時点で、お父さまが相当に焦っているということは一目瞭然だ。
それを決定づけるかのように、お父さまは唯一隠し場所を知っているであろうお母さまに、絵の在処を教えてもらおうとそりゃあもう必死に食い下がり続けている。
────う~ん……
────らしくないなぁ、お父さま……
ちょっと落ち着いて考えてみれば、絵を隠した箱はこのサロン内のどこかにあるってピンと気づくはずなのに。
わざわざ邸中の箱を片っ端から探し回らずとも、サロン内の箱だけを次から次へと開けていけば事はすぐに解決するのにね。
お母さまのメッセージによる『分かりやすいけれど分かりにくい』というヒントこそが、隠し場所である箱を探し当てる最大の鍵でもある。
それは遠回しに『不自然な箱』だと言っているようなもの。
つまりは、今私の足元で宝箱に擬態してスタンバイしているミックをピンポイントで示しているわけだ。
だから私の存在に気がついて、ここへと来てくれさえすれば、自然と『分かりやすいけれど分かりにくい』不自然な箱の存在が目に入ることになり、イコールそれが私の絵の隠し場所……と、なるはずなんだけどなぁ……
────娘大好きなら、その娘の存在にさっさと気づいてくださいな、お父さま……!
「……必死だな、父上は」
「……はい」
「……こちらに気づく様子がまるでない」
「……そうですね」
「……今の父上には母上しか見えていないんだろうな」
同じく様子を覗っていた兄さまが、ほんの少しだけ呆れたような表情で話しかけてくる。
それに答える私も兄さまと似たような表情だ。
「……おとうさまはいつこっちにきづいてくれるんでしょうね?」
「……さあ? こちらから話しかけでもしない限りは気がつかないんじゃないかな」
「……じゃあもうしばらくはミックたちのでばんはないですね」
軽く足をプラプラと動かしながらガルドが淹れてくれたお茶を飲んでいると、ロイアス兄さまが『ん?』と疑問の声を上げた。
「ミックって?」
「?」
……ああ、そっか。
まだ兄さまの前ではミックたちの名前を呼んでなかったっけ。
突然知らない名前が出てきたら疑問に思うのは当たり前だ。
一度チラリとお父さまたちの様子を覗い、未だこちらに気づいていないことを確認してから、私は兄さまの腕に抱きつく形で軽く兄さまを自分の方へと引き寄せた。
その行動で兄さまも私が内緒話をするような内容なのだろうと察してくれたらしく、素直に私に引っ張られつつ私の口元に耳の位置が来るように頭を下げてくれた。
「このこです、にいさま」
兄さまの耳元でそっと囁き、足元のミックを指差す。
「えっ? これのことだったの?」
「はい」
「……名前をつけるなんて、相当なお気に入りのようだね」
「わたしのかわいいこどもたちなので」
小さく控えめな声で『きゃはっ』と笑いつつ、みんなお気に入りだと兄さまに告げると微妙な表情で苦笑された。
兄さまの中ではまだまだ未知の存在としての警戒心が解けていないからだろう。
「……そういえば、他にも小さいのが二つほどいたな」
『二つ』って……そんな言い方はないでしょーよ。
ミックのことだって『これ』扱いだし。
まるで物みたいじゃん。
確かに魔法をかける前まではみんな無機物だったけどさ。
今はちゃんと不思議な生きものとして動いてるし、言葉は話せないながらもしっかりと意思疎通だって図れているんだぞ。
失礼なことは言わないでいただきたい。
でもこのことを兄さまに抗議したってたぶん無駄。
頭が堅くて融通が利かない兄さまは、お母さまのように『ああ、そんな感じなの?』といった柔軟な考えは持ち合わせてなさそうだから。
ここは一つ、私が大人になって今の発言は聞かなかったことにしようではありませんか。
「それで? どうしてミックという名前になったの?」
「ミミックだからミックです」
「えっ?」
正直に『ミミック』から取って『ミック』だと言ったら兄さまが驚きの表情で疑問の声を上げた。
少なくとも『知らないから』というニュアンスではなかった。
寧ろその逆。
『知ってて』確認してきた、という感じ。
「ミミックって……ダンジョンなどの限られた場所にのみ存在して、何らかの物に擬態して冒険者たちを油断させて襲いかかってくると言われているあのミミック……?」
「ほぇ?」
ダンジョン?
冒険者?
っていうか、普通にこの世界にもミミックっていたの?
そんなことを思っていたら、更に兄さまがこう続けた。
「被害例はそう多くないようだけれど、稀にダンジョンの奥深くでそういった何かに擬態した魔物とは呼べない未知の生命体に襲われたという報告がギルドに上がってくるらしいよ」
うわ~、冒険者ギルドまであるの~?
この世界、ホントに色々何でもアリだな。
乙女ゲームの世界観だと思いきや一気にRPG色が増してきた。
……いや、ああだこうだ言ったところでここは紛れもない現実世界なんだけれども。
「そのミミック……?」
『う~ん……』と難しい顔をしつつ、顎に手を当てながらじっとミックを見る兄さま。
「実例があまりないから何とも言えないけど、まさかこんなおもちゃ箱にまで擬態できるとはね……」
「……イメージしたまほうですよ?」
「そうは言うけどね、レーン」
「?」
「レーンが想像力豊かだということはよく知っているつもりだよ? でもね? 一体どこで『ミミック』という存在を知ったのかな? 見た者が極端に少なくて、正体不明と言ってもいい未知の生命体だとされているのに……」
「え、っと……」
『前世の某有名RPGの知識でで~す!』
なんて言えるわけないわな。
そんなこと言ったら一発で頭のおかしい子認定されてお医者さまを呼ばれてしまうよ。
……さて。
ここは何と答えるべきか。
『夢でそういう生きものを見た』というのは、ミミックを知った理由としては弱すぎる。
無難なところは『本で見た』だろうか。
ベタすぎるけど、それが一番説得力がありそうな気がする。
ただし、ハッキリとそう言い切るのではなく、ちょっと自信がなさそうに言うのがベター。
曖昧にぼかすところがミソなのだ。
なぜかって?
追及の手を躱すためです。
不確かな記憶ほど、事実確認をするのは容易なことではないからね。
おまけに子どもの言うことだ。
多少曖昧であっても納得してもらえる可能性は高い。
子ども相手に『よく思い出せ』なんて無茶な要求をするはずもないだろうしね。
よし、決まり。
『本で見た』と答えよう。
ちなみにこんなことを考えている間、都合がいいことに、兄さまには私が『何でミミックのことを知ったのか一生懸命思い出している』ように見えていたみたいだ。
ありがたや。
「ほん……」
「本?」
「なんでしたっけ……オバケとかのほん、だったような……。あれ? えほん?」
「絵本で見たの?」
「……よくわかんないです。いっぱい、いろいろみたので……どんなほんだったかまでは……」
わざとらしく途中で思い返すように途切れ途切れにそう言うと、兄さまが再び顎に手を当てつつ考え込むように眉を寄せた。
「……本か。オンディール家の書庫に収められている本の数は膨大だからね。レーンがハッキリと覚えていないのも無理はないと思うよ? 一時期夢中になって書庫に入り浸っていたようだし、その時に見たたくさんの本の中の一つにミミックのことが書かれてでもいたのかな」
……という感じで、私の曖昧証言は私の都合のいいように兄さまに解釈されました。
はい。
そういうことにしておきましょう。
ええ、そうしましょう。
決して前世の記憶ですから、な~んて口にはしませんからね~?
あくまでも、この世界にある本で得た知識(仮)なのです。
「……それじゃ、ミミックを知った経緯に関しては終わりにしようか。それで? ミミックだからそれを捩ってミックと名付けたということで合っているかな?」
「はい」
「小さい方の名前は?」
「ほうせきばこのほうがミッちゃんで、ふくろのほうはサッシーっていいます」
「こっちも捩ったの?」
「はい」
「参考までに訊くけど、ミッちゃん(?)の方はミックと同じミミックだからなんだろうけど……サッシー(?)の方はどういう理由でサッシーになったの?」
「おおもとがおかあさまのもっていたサシェだからです」
「それでサッシー……」
「はい」
「何ていうか……」
「?」
「……安直だね?」
ほっとけや!
安直なのは自分でも分かってるっての!
「わかりやすいからいいんです。ほんにんたちもよろこんでますし」
「生みの親が名付けたんだから喜ぶのは当然なんじゃない?」
ツンと澄まして反抗するように答えたら、兄さまが宥めるように頭を撫でつつフォローを入れてくれた。
つか後でフォローするくらいなら最初から落とさないでいただきたいもんだ。
全く……さっきまでガルドから一体何を学んでいたんですかね?
このことも報告してやろうか……と思っていたら、ガルドがすんごいイイ笑顔でニコニコしながらこっちを見てた。
────うん!
────報告する必要ナーシ!
ガルドはしっかりと把握してるみたいだから兄さまは後ほど覚悟を決める必要がありそうだ。
またさっきのような地獄が待ち構えてますよ?
どんな指導という名のお説教を食らったのかは分かりませんが?
こちらを見ていたガルドに私も『ニッコ~』と満面の笑みを返すと、言いたいことを分かってくれたのか苦笑混じりの笑顔で頷かれた。
これで仕込みはバッチリだ。
「レーン?」
「なんでもないですよ?」
一人だけ、突き抜けた鈍感力を持つ兄さまは分かってませんけどね。
これからもガルドの指導のもと、素敵な紳士になるべく厳しくビシバシと扱かれたらいいのです。
私は私で素敵な淑女になるために頑張りますので。
子どもの成長は早いですからね?
いつまでもお子サマのままでいると思ったら大間違いなのですよ。
(無駄な努力だと思いつつも)できるだけ顔に出ないように内心プリプリしていたら、私をじっと見ていた兄さまに苦笑された。
やっぱり顔に出ていたらしい。
「分かりやすいよね、レーンは」
「むっ!」
「いくら表情に出ないように頑張っていたって、頬を膨らませていたら隠す意味は何もないよ?」
「!!」
うぉい!
表情じゃなくて行動に出ていたんだってばよ!?
つか膨れっ面になっていたつもりなんてちっともなかった。
完全に無意識だったようだ。
何なんだろう?
私ってば『気をつけよう』って考えること自体が無駄なの?
どんなに『こうしよう』『ああしよう』と意識したところで、無意識下にやってたんじゃ全てが台無しじゃん。
そして、それに気づいても気づかない振りをするどころか指摘してくる兄さま。
正しいんだけど……正しいんだ、けど……
「……いじわるですっ!」
ここでは気づかない振りをするのが優しさなのではなかろうか。
「あははっ。ゴメン、ゴメン」
……あ、コレちっとも『ゴメン』なんて思ってないわ。
悔しかったので、兄さまの飲みかけのコーヒーにシュガーポットから角砂糖をドバドバと入れてやった。
大量の砂糖でジャリジャリになった激甘コーヒーを飲んで撃沈するがいい。
地味な嫌がらせで胸焼けアゲインだぜ!
「ちょ……! レーン!?」
「しりませ~ん」
まだまだ子どもだとはいえ、淑女を怒らせるからこうなるのだ。
たっぷりと反省したまえよ、鈍感で理想的な紳士には程遠い少年よ。
ふっ……と溜息を零すように笑い、澄まし顔で紅茶を一口。
取り澄ましてカッコつけてはみるものの、やっていることは何ともまぁ幼稚な嫌がらせだ。
ええ、分かっていますとも。
分かっていて、わざと嫌がらせとしてやってやったんだから。
私の暴挙に焦る兄さま。
尚も取り澄ました私。
それから、私たちの様子を一部始終見ていて肩を震わせながら必死に笑いを堪えているガルド。
別に必死に笑いを堪える必要はないよ?
控えめにとは言わず、思いっきり盛大に笑ってくれて結構なんで。
「すてたらゆるしません」
「レーン!?」
「たべものをそまつにすることはつみぶかいことなのですよ」
ツーンとしながらお茶を飲みつつそう言うと、今度こそ堪えられなかった笑いとともにガルドからこんな言葉が放たれた。
「とても素晴らしい考え方でございますね、フローレンお嬢様」
「えへへ~」
褒められて得意気に笑う私。
「つくったひとのおもいがいっぱいこめられているものですからね。それをむやみにすてたりなんてしていたらバチがあたるのですよ。だからわたしはすききらいをなくして、おしょくじのときにだしてもらったりょうりをおのこししないようにがんばるってきめたんです!」
グッと拳を握り締め力説した私を笑顔で見つめつつ頷いてくれるガルド。
それから意味ありげな視線でチラリと兄さまを見遣りつつ釘を刺すようにチクリと一言。
「幼いお嬢様がこう言っているのですから、兄君でいらっしゃる坊ちゃまがそれを守れないはずはありませんよね?」
「え……」
「お残し厳禁だそうですよ?」
「そうです、にいさま! おのこし『めっ!』なのですよ!」
「……というわけですので、坊ちゃま。その大量の砂糖入りコーヒー、決して捨てたりせずに頑張って飲み干してくださいね?」
「こんなドロドロになった大量の砂糖入りコーヒーを飲み干すなど無理に決まっているだろう!?」
や、全然無理じゃないし。
兄さまも大量の砂糖を見て冷静さがぶっ飛んじゃったらしいな。
普通にコーヒーを足して甘さをガンガン中和させて飲めばいいだけの話なのに。
もっと言うなら、ブレンドじゃなくてエスプレッソで注ぎ足すという選択肢だってあるのに。
たかが砂糖くらいで取り乱す兄さまを見ていると、今もなお進行形でお母さまに必死に食い下がってるお父さまと重なって見えるよ。
意外と兄さまも残念要素を備えているみたいだ。
今目の前で見ている残念さといい、鈍感さといい、しっかりとお父さまから遺伝しちゃってるよね。
……それにしても。
最初のひそひそ話から明らかに声のボリュームが上がっているというのに、お父さまが未だこちらの騒ぎに気づかないとは如何なものか。
絵のことで必死になりすぎて目の前のお母さましか見えていないね、あれは。
対するお母さまはこちらの様子に気づいているというのに。
はぁ~……しゃーない。
時間も無限ではないし、私のほうから呼びかけるか。
ホントはお父さまに気づいてもらうのを待つつもりだったけど、これじゃ埒が明かない。
あの様子じゃ日が暮れたって気づかないよ、きっと。
「……ガルド」
「如何なさいました、お嬢様?」
「ハーブティーいれてもらってもいい? できればあたまがスッキリするものがいいかなぁ?」
「旦那様用でございますね?」
「うん、そう。おかあさまにはローズヒップのにしてくれる?」
「畏まりました。しばしお待ちを」
「うん」
お茶が入るまでの待ち時間で、私は尚もお父さまたちの様子を覗う。
あの調子じゃ、単に声をかけただけでは気づかれない可能性のが高いからね。
よって、私自らがお茶を運ぶことで二人の間に割り込もうと、こういうわけだ。
「レーン、何をするつもり?」
「おちゃもってふたりにとつげきします」
「……は?」
問われたから正直に答えたのに、その『わけが分からない』という顔で見るのはやめてくれませんかね、兄さま。
「あれじゃふつうにはなしかけてもきづきませんって」
……ただしお父さまに限る。
お母さまに関しては、最初から私がここにいることは分かっているしね。
ちょっと前まで一緒にお茶飲みながらタルトの分けっこしていたわけだから。
「『おちゃをはこんできましたよ~』ってこえをかけて、じっさいにおちゃをさしだせばカンペキなのです!」
……たぶんな。
「……そううまくいくかな」
「ダメだったらとちゅうでころびます」
「そっちの方がダメだからね!?」
暗に転けてお茶を零すなりなんなりしようと匂わせた私に対し、兄さまが断固反対とばかりに声を張り上げる。
その時、一瞬だけお母さまがこちらを見た。
けれどすぐに視線はお父さまの方へと逆戻り。
よくよく見れば、いつの間にかツンとしていた表情が苦笑を浮かべたそれに変わり、まるで手のかかる子どもの相手をするかのように『はいはい……』と宥めにかかっている。
……仕方のないお父さまだな。
よほどお母さまの視線が自分から離れたことが気に入らなかったようだ。
駄々っ子かよ。
でもこれはある意味好機だ。
一瞬だけでもお母さまの視線がこちらに向いたことで、いくらでも割って入ることができる可能性がぐんと上がったのだから。
近づけば自然と視界に入ることができる。
その後は当たり障りのない会話をしつつ、お父さまをミックのほうへと誘導すればいいのだ。
────……よし!
小さくグッと拳を握り締めながら頭の中で方向性を固めたと同時にガルドから声がかかった。
「フローレンお嬢様。お茶が入りました」
「ありがとう、ガルド」
差し出されたお茶のうち、お父さまに出すほうをソーサーごと持ってこのまま突撃開始します。
「大丈夫ですか、お嬢様? 私がお持ちしてもいいのですよ?」
「ううん、へいき。あのかいわにわりこむから、ガルドはいかないほうがいいとおもう」
強引に間に入るわけだからね。
雇われている立場であるガルドがそれをやるのはさすがにマズい。
普段通りであればガルドが話の途中で断りを入れて割り入っても大したお咎めとかはないけど、今回は状況が状況だから確実にお咎めがあると思ったほうがいい。
今の冷静さを欠いたお父さまでは、八つ当たりという名のキツいお咎めを言い渡してもおかしくはないのだ。
だから一番安全で、なおかつ確実に無事でいられる娘の私が実行するのがベストなのである。
「いまのおとうさま、どうみてもいつもとちがってれいせいじゃないです」
「……そうですね。随分と取り乱しておいでのようで」
「でしょ? いまのおとうさまにちかづいたら、きっとやつあたりされちゃいますよ、ガルド」
「それは怖いですね。一体どんな八つ当たりをされてしまうことやら……」
そう言って苦笑したガルドに半分だけ冗談交じりでこう答えてみた。
「かみつくかもしれないね?」
「……それはかなり痛そうですね。できれば遠慮したいです」
「でしょ?」
強ち間違っていないかもしれないところがちょっとだけ恐ろしいところだ。
大事にしていた私の絵を失って取り乱し、普段の冷静さが迷子になってガルガル状態の今のお父さまは、何が起爆剤になるか分かったもんじゃない。
ちょっと反省してくれたら~……って軽い気持ちで仕掛けた悪戯は、まさかまさかの想像以上の事態を引き起こしてしまったようだ。
今更後戻りはできないけどね。
……さて。
これ以上のんびりもしていられないので、そろそろお茶持って突撃かけますよ?
────レーン、行っきま~す!
脳内で某巨大ロボットに乗って戦う主人公のようなセリフを言って、お茶を零さないよう慎重にお父さまとお母さまの元へととっとことっとこ歩いていく幼女。
この『お茶を零さないように』っていうのが、小さな子どもの身体では意外と難しい。
ヘンにバランスを取ろうとするものだから、数歩進んでは妙な体勢で立ち止まるということを繰り返してしまうのだ。
そして、そんな不自然な動きを繰り返していれば、当然進行方向にいる目的の人物たちは気づく。
『なんか妙なものが迫ってきてるんですけど?』的な感じで。
意図せず、二人同時に私の方へと振り向いた。
片や苦笑しながら。
片や驚きを隠すことなく目を見開きながら。
お分かりだろうが前者はお母さま、後者がお父さまだ。
「レーン!? 一体いつの間にここに来ていたんだい!?」
「さいしょからずっといましたよ?」
『ねえ、お母さま?』と、問いかけるようにお母さまを見上げるとクスクス笑いながら頷かれた。
一方のお父さまは、今までの様子を娘に見られてしまったこと、それからお母さまからおかしそうに笑われたことで居心地が悪くなったのか、小さく呻きながらガシガシと些か乱暴に髪を掻き乱していた。
こんな姿も珍しいな。
やっぱりいつものお父さまらしくない。
「……きょうのおとうさまはちょっとヘンです。おちゃをのんで、あたまをスッキリさせて、それかられいせいになりましょう」
そう言って運んできたお茶を差し出す。
背の高いお父さまの視界に入るようにと、せいいっぱい背伸びをしつつ、腕も限界までグッと伸ばすという無理な姿勢を取ったために足元がプルプルと震えていたのは気づかれていないと思いたい。
「まあ! レーンはお父様のためにお茶を用意してくれたのね?」
「おかあさまのおちゃもあります。ローズヒップのおちゃをいれてもらいました!」
「ありがとう、レーン。ではさっそくいただくことにしましょうか」
そう言うなりお母さまは私の持っていたティーカップをサッと受け取り、それをお父さまへと手渡した。
「レーンの言う通りよ、ロンベルト。一度冷静になりましょうか? お茶を飲んでリラックスして、心を落ち着けた状態でもう一度絵を探してもいいのではなくて?」
「………………」
お母さまの言葉に素直に頷けないのか、微妙な渋面になるお父さま。
そんなお父さまを見て軽く溜息をつくと、お母さまは私をひょいっと抱き上げた。
「あっ! フレイヤさん!?」
「あなたがグズグズしているからわたくしに先を越されることになるのよ、ロンベルト?」
「フレイヤさん、それは狡い! 私の元気の源がごっそりなくなってしまっているんだよ? せめてレーンを抱っこすることくらいは譲ってほしい!」
「ダメよ、ロンベルト。レーンを抱っこできる権利は早い者勝ち。残念ね?」
「そんな……」
────私の抱っこ権争いか~い!!
────っていうか、絵はどうした、絵は!?
実に低レベルな争いに思わず溜息をつきそうになったけどグッと堪えた。
さすがにそれをやるとお父さまが更にいじけそうな気配がするからだ。
「……ああ、レーン…………」
「なんですか、おとうさま?」
「実はね。悲しいことに、レーンからもらった大事な絵が全て奪われてしまったんだよ……」
声には出てないけど、明らかに『フレイヤさんに……』と後に続いてるな、このセリフ。
その証拠にお母さまが清々しいほどにニッコリと笑みを作っている。
たかがメッセージを残しただけなのに、完全に犯人扱いされてますよお母さま?
真犯人は目の前にいる娘の私なのにね?
っていうか、発案したのも、それを実行したのも私であって、お母さまはただ単に私の発案に乗っかっただけに過ぎないのに。
全ての元凶は他でもないあなたの娘ですよ、お父さま。
疑う相手が間違ってますから。
だけど、一つだけハッキリしたことがある。
お父さま宛てのメッセージの細工をお母さまがしたのは正解だった。
物の見事にお父さまの意識はお母さまへと向いている。
それが何よりの証拠だ。
例え疑われようが詰め寄られようが、お父さまラブのお母さまは、どんな形であれお父さまの視線や意識が自分に向くことに喜びを感じている。
さっきだって、ツンと澄ましながらもどこか嬉しそうな顔してたもんね。
ちょっと意地の悪い物言いも、お父さまがもっともっと自分に突っかかってくるように仕向けていたからなんだろうな。
前世風に言うならちょいツンデレな感じ。
でもそこまでツンの割合は高くないし、デレの割合もそうではない。
微妙に分かりづらい隠れツンデレといったところだ。
可愛らしいツンデレ妻に振り回される、イケメンだけど残念な夫。
リアルタイムでそれが見られて私はご満悦だ。
おいしいです、ムシャァ……
……という妄想という名の精神トリップは置いといて。
できるだけ早くお父さまの問題を解決しなきゃだね。
そのためにもさっくりササッとお父さまを隠し場所であるミックのところへ誘導しないと。
「おとうさま」
「何だい、レーン?」
「わたしのえをとりもどしたいですか?」
「そりゃあ、もちろん。レーンの絵は父さまの元気の源だからね」
「だったらおねがいがあります」
「お願い?」
「はい。まずはおちゃをのんでおちついてください」
お父さまが冷静にならなきゃ始まらんのだ。
ちょっと考えたら分かることが分からなくなっているほど、冷静さを欠いたお父さまは周りをきちんと見ることができていない。
落ち着くことで視野を広くして、それから改めて絵の隠し場所探しに向き合ってもらいたいものだ。
「いや……でもね、レーン? 父さまは一刻も早くレーンの絵を取り戻したくて仕方がないんだよ。それこそお茶を飲む時間さえも惜しいくらいなんだ」
その割には随分と結構なお時間をお母さまに詰め寄るために使っていたではありませぬか。
……と、突っ込もうかと思ったけどやめた。
言ったら言ったで長くなる。
それこそお父さまの言う『時間が惜しい』事態になりかねない。
────めんどくさいなぁ、もう……
────それとなく私が暴露しちゃってもいいかな?
────いいよね?
埒が明かないと思った私は、これでもかというくらいに渋い表情をしてお母さまを見上げた。
そして目が合うと同時に苦笑される。
私の顔を見た瞬間、お母さまは私の言いたいことを正確に察してくれたらしい。
「仕方がないわね……。ここからはレーンに任せるわ」
「はい、まかされました!」
私たちのこの遣り取りを見ていたお父さまが軽く目を見開き『えっ!?』と驚きの声を上げた。
「まさか……」
「はこ、ですよ。おとうさま……」
何か言いたそうなお父さまの言葉の続きを遮り、ちょっと意地悪な笑みを浮かべながら『箱』というワードを口にする。
そう。
お母さまがメッセージで残したヒントと、会話の中でも何度か口にしていた隠し場所のことだ。
「まさかレーンも、絵の隠し場所を知っているというのかい!?」
は~い、知ってま~す!
っていうか、隠したのは私(と、私の可愛い子どものミック)で~す!
お父さまの驚きの声に頷きながら、今度は満面の笑みを浮かべる。
だけどこれは純粋な笑みではないエセ笑顔だ。
「しってますよ? だからおとうさま。がんばってさがして、えをとりもどしてくださいね?」
「ヒントは『箱の中』よ、ロンベルト?」
「わかりやすいけど、わかりにくいんですよね、おかあさま?」
「ええ、そうね。分かりやすいけれど、とっても分かりにくいかもしれないわね、レーン?」
「……意味が分からないよ、二人とも…………」
「だからおちゃをのんでれいせいになってくださいっておねがいしてるのに……」
「ねぇ? 冷静にならないと分かるものも分からないのにね、レーン?」
「ホントそうですよ。きっとおさとうがたりてないんだとおもいます。さっきまでのロイにいさまみたいに」
……と、今度はソファーの兄さまを見てぽそりと零す。
そのロイアス兄さまは、私が大量の角砂糖でジャリジャリのドロドロにしてやった半固形状のコーヒーを前に悪戦苦闘している最中だ。
っていうか、ほとんど動けてないんじゃないかな、あの様子じゃ。
さっさと濃いめに淹れたコーヒーなりなんなりを注ぎ足してドロドロ状態からサラサラ状態、更には普通の液状に変えてしまえばいいだけなのに。
ガルドにサクッとお願いすればいいだけなのに。
そんなに大量のお砂糖が怖いですか、そうですか。
じっと兄さまを見ていると、お母さまも兄さまの様子に気づいた。
ゆっくりとソファーに歩み寄り、元々座っていた場所へと腰を下ろす。
さっきまで私が座っていたところだ。
でもって私はお母さまの膝の上にONです。
これも最初の通り。
そしてお父さまは、兄さまを挟んで反対側へと腰を下ろした。
「……ロイアスは何をしているのかな」
「見ての通りです、父上……」
「随分と大量の砂糖を入れたものだね」
「……僕が入れたわけではないですよ。おかげで飲めません」
思いっきり眉間に皺を寄せる兄さまと、そんな兄さまを見て苦笑するお父さま。
どちらも我が家の女性陣にしてやられてのこの表情です。
「おのこしは『めっ!』ですからね、にいさま!」
「レーンの仕業かい?」
「……はい」
「同じく父もレーンとフレイヤさんにやられているよ……」
「あぁ……レーンの絵を隠されたんでしたね……」
『さっきレーンから聞きました』
……なんて、どさくさに紛れて悪戯のことをお父さまに暴露しかけた兄さまをギッと睨む。
ここでミックのことまでバラされたら悪戯を仕掛けた意味がないじゃないか。
あくまでも、お父さま自身にミックの存在に気づいてもらわなきゃいけないってのに。
「……ロイにいさま、まだまだおさとうがたりてないみたいです」
「あらあら、そうなの?」
「充分だから、レーン!!」
ミックのことをバラされる前に黙ってもらおうとシュガーポットに手を伸ばしたところで、焦った兄さまから『待った!』がかかる。
そんなにお砂糖は嫌ですか。
ジトっと横目で見遣ると、兄さまは観念したように『……分かった、言わない』と降参のポーズ。
そのまましれっとシュガーポットを私から遠ざけてしまった。
────チッ! ちゃっかりしてるな……
思いっきり不満を顕にした顔で尚も兄さまを見ていると、お父さまが溜息混じりにこう言ったのが聞こえた。
『我が家の女性たちは強かだね……』と。
その言葉を聞いたお母さまが、再びツンと澄ました顔で反撃に出る。
「わたくしたちにそうさせる、あなた方にも原因があるのではなくって?」
「そうだ、そうだ!」
全面的にお母さまに同意である。
そして全力で援護に回るのである。
「もとはといえば、おとうさまがわるいんですよ」
「ええっ? 父さまが悪いのかい、レーン?」
「当然です。体調が万全でないにも関わらず、無理に出仕なさるあなたが悪いのよ、ロンベルト」
お茶を飲みながらお母さまが愚痴を零すようにお父さまに文句を言う。
「あなたが余計なことをしたばっかりに、可愛いレーンがロイアスから要らぬ仕打ちを受ける羽目になったというのに。腹が立って仕返しを企てたっておかしいことは何もないわ」
「……じゃあ、フレイヤさん。レーンの絵を隠したのは、その……」
「仕返しに決まっているでしょう? 心配していたわたくしたちの気持ちを踏み躙ったあなたに対しての、ね」
ここでようやく、お父さまも冷静になれたらしい。
お母さまの言葉を聞いたことで軽く俯き、それから素直に自分の非を認めたのだ。
「それは……申し訳なかった」
「わたくしたちが怒っていたことも分かってくれて?」
「もちろんだとも」
「反省してくれるのよね?」
「当然だ。深く反省している。キミたちにここまでさせてしまうほど追いつめてしまったのだからね」
……大げさだな。
別に追いつめられたなんて思ってないんだけどね、私もお母さまも。
ただ『ちょっとムカついたから悪戯してやろうぜ!』的な軽いノリで始めただけなんだけど。
これは言わないほうがよさそうだな。
「反省してくれているのならいいの。ずっと意地を張り続けて怒りっぱなしでいるのも疲れますものね?」
ふっ……と一息ついてから、お母さまが困ったような表情でお父さまに笑いかけた。
その表情を見たことで、お父さまはお母さまから完全に許されたものだと思ったらしい。
────甘いなぁ……
────それだけ終わるはずないのに……
「それじゃ、フレイヤさん。レーンの絵を返……」
「ご自分で探し当ててくださいね」
「は……? えっ……?」
「何度も何度も口にしているけれど、ヒントは『箱の中』よ? 『分かりやすいけれど、でも、分かりにくい箱の中』」
「普通に返してくれるんじゃ……?」
「まさか? ご自分で見つけて探し当ててこその反省でしょう? そうでなければレーンと一緒に悪戯を仕掛けた意味がなくなってしまうわ」
「そんな……」
結局は振り出し、ということでちょっと落ち込んでしまったお父さま。
でも大丈夫。
ゴールはすぐ目の前だから。
っていうか、私たちの足元がそのゴールだから。
早くミックという『箱』に気づいて開けちゃってくださいな?
お探しのものはそこですよ?
まぁ、箱を開けたところで目に見える場所に絵はないんですけどね?
「そうそう。ロイアスもレーンからのその試練にしっかりと耐えてちょうだいな? また何かレーンを怒らせるようなことをしたのでしょうし?」
「……返す言葉もありません、母上」
「あなたも素直に非を認めるのね。ほぼお砂糖だらけのコーヒーだけれど、決して無駄にしないように飲み干すことがあなたの反省になるといったところかしら?」
『うふふ……』と笑いながら言い放ったお母さまの顔を見たことでロイアス兄さまの顔色が悪くなった。
一体お母さまはどんな顔をしているのだろうと思って見上げてみると、明らかに『作ってます』と言わんばかりのニコニコ笑顔。
別名『脅迫の笑顔』と言っても過言ではないお母さまの武器ですな。
────……うん
────お母さまに逆らうのは賢明ではないね
家族は女性優位にある方が色んな意味で平和かもしれない……なんて思った末っ子なのでした、まる……─────
家族四人揃ったところを初めて書けた気がします(@´゜艸`)ウフウフ




