表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/113

二片の逆鱗の行く末 2(リリーメイ視点)

わぁぁぁ……三年ぶりの更新だぁ……(^▽^;)





目の前の厄介な『二片の逆鱗』を睨むように見つめるわたくしたち。

希少価値が高すぎることもあり、そのままテーブル上に載せておくのも憚られ、気づけば宝飾品を扱うかのごとくビロードの布地の上にそっと置かれることとなりました。

そう簡単に傷がつくような代物でもないのですが、価値が価値だけに慎重かつ丁重に扱ってしまうのは別段おかしなことではございません。


……さて。


丁寧に扱うと決めたまではいいのですが、これからどうするかが問題です。

何事もなかったかのように済ますのは現物がある以上まず無理だと言っていいでしょう。


「やっぱり父上たちに報告、だよね?」

「当然です。ルヴランの独断とはいえ、責任は乗り手であるオレにありますからね」

「……理不尽な」


溜息混じりのギルお兄さまの言葉を聞いて、ランディさまが複雑そうな表情を浮かべられました。

確かに理不尽だとは思います。

外出なされていた時の状況は分かりませんが、ルワァーズの件に関しては見ていないところで起きたことです。

それにも関わらず責任の所在を問われるというのは普通に考えても納得がいかないことでは……と、わたくしは思うのですが。

ギルお兄さまはご自身が見ていないその件も含めて責任を取ると言っているのです。


「さすがにルワァーズの分も責任取るとかあんまりじゃない? それを言うならぼくのほうにこそ責任があるんじゃないの? 側にいたのに止められなかったんだからさ」

「……いえ。オレの叱り方が足りなかったせいです。これ以上ないくらいにもっときつくルヴランを叱っておくべきでした」

《ミキュッ!?》

「ルヴラン、納得いかないって顔してもダメだからね? 事が事だけに今回の件はさすがに庇いきれないよ……」

「普通に鱗を剥がすのとは訳が違いますものね」


わたくしたち三方から言われたことでルヴランもようやく己の取った行動についての重大さを理解したのでしょう。

しょんぼりと項垂れてしまいました。


「……誰かのためを思ってやったことだとしても、それが本当に相手のためになっているかどうかは別問題だもんな」

《ミキュゥ~……》


あらあら。

ランディさまからの一言がトドメとなってしまったようですね。

くるりと丸まった状態でルワァーズにピッタリとくっついて離れなくなってしまいましたわ。


さすがにこれ以上言ってはかわいそうですから、お説教はもう終わりでしょう。

普段が強気な分、一度落ち込んでしまうとなかなか浮上できないのがルヴランの数少ない欠点の一つなのです。

ハッキリと言葉にして言うことはしませんが、引き摺ると後々面倒なことになってしまいますので、さりげなく甘やかすことにしますわ。

もちろんルワァーズと一緒にです。

ウィガロも合わせて三頭分、少し……いえ、結構な重さになってしまいましたが、纏めて抱き上げて膝の上に落ち着かせます。

あとはゆったりとしたリズムで頭部から背中にかけて撫で続けるだけです。


「……慣れたもんだな、リリ」

「ふふっ。拗ねたり泣いたりした時の甘やかしはわたくしの役目ですのよ?」


感心したように告げるランディさまの言葉に笑顔で返すと、ギルお兄さまとヒューが何とも言えない表情になりました。


「あ~あ……結局はこうだもんねぇ?」

「それでしっかりと反省してくれるならいいのですが、如何せんルヴランはその姿勢が見えないのですから困ったものです」

「……問題児かよ、オマエ。(ドラゴン)なのに」

「人と同じで(ドラゴン)にもそれぞれ個性がありますのよ」

「個性の一言で片付けるにはあまりにも問題のありすぎる行動取ったんだぞ、ルヴラン(コイツ)?」


ルヴランの角を軽く突きながらランディさまが言います。


「自主的に何かできるってのはすごいことだと思うけどな。行動に出る一歩前に、冷静に考え直すっていうワンクッションが取れたら完璧だったと思うぞ?」


そんな尤もなお言葉が続いたのとほぼ同時でした。


「その言葉、そっくりそのままお前にも当てはまってるからな?」


……という呆れ混じりの言葉とともにルーファスお兄さまがやってきたのは。


「げっ、ルーファス!!」


真っ先に反応したのはランディさまです。

バツの悪そうな顔でルーファスお兄さまを見上げています。


「まぁ、頭では分かっていても実際にそうできるかどうかはまた別だからな。そういう意識があるだけでも十分立派だよ。()()()()()()、な?」

「ぅぐっ……」

「少し前の己の行動を反省して次に活かすように。いいか?」

「……分かってる」

「ならいい。……で? 仔竜(チビ)どもは今度は何をやらかしたんだ?」


チラリとテーブル上を見遣りながらルーファスお兄さまが訊ねます。

『今度は』という発言から既に答えは分かっていらっしゃるでしょうに、それをわざわざお訊ねになるなんて……と、普通ならば思うかもしれません。

ですが、ちゃんと意味はあるのです。


当事者たちに、自身が引き起こした事の重大さを再度認識させる必要性があるのですから。


「見ての通りだよ、ルーファス兄さん。……テーブルの上、ヤバいものがあるの見えてないわけじゃないでしょ?」

「なるほど?」


思い切り顔を顰めながら二片の逆鱗を指差したヒューでしたが、それに返ったルーファスお兄さまの反応は軽いものでした。

それはまるで、特に問題などないとでも言っているかのような。


「いや、なんでそんなに軽いワケ? 逆鱗二つあるのにその反応はおかしいだろ、ルーファス」

「つってもなぁ~……引っこ抜いちまったもんは今更どうしようもないだろうが。いくら考えたところで元に戻せるわけでもなし」


ルーファスお兄さまの言い分は尤もです。

起きてしまった事象を、元の通りに戻すことは叶いません。

ただしそれは常識内で考えるのであれば、の話です。

ちなみに元通りに戻す方法がないわけではありません。

ですがその方法は簡単に扱えるような手法ではなく、表に出ないよう秘匿されている正攻法ではない邪法……所謂『禁じ手』と呼ばれるものなのです。


時間に干渉して過去を捻じ曲げるなど、歴史を変えることと大差ありません。

世界に対する冒涜行為だと言っても過言ではないでしょう。


確かに、『禁じ手』を用いることで過去に起きた出来事を変えることは可能です。

けれども、それは決して用いることは許されない『邪法』。

許されないからこそ、変えられない……と、こういうわけです。


ルーファスお兄さまの先の発言はこの考えが前提にあってのものなのだと思います。

ただ……実際にそれを成すことが可能であるお兄さまがそれを口にするのは……どうにも奇妙だとしか言いようがありませんね。

わたくしにはルーファスお兄さまの言葉がとても白々しく聞こえるのですもの。


本当に……



────普段と全く変わらない涼しい表情で何を仰られていることやら……



我が身内ながら、時々ルーファスお兄さまのことがよく分からなくなってしまいますわ。


「リリィ?」

「はい?」


意識を違う方向へと向けながら、膝の上のウィガロの背を無心で撫でていたわたくしに声をかけたのはヒューでした。

その何とも言えなそうな苦笑を交えた表情から、わたくしの心情を正確に読み取っているかのようにヒューはこう言います。


「今、思いっきり疲れてるよね? ……誰とは言わないけど……まぁ、誰かさんのせいで?」

「分かっているのでしたらその『誰かさん』を止めてくださいな、ヒュー」

「え? 普通に無理でしょ? だってこのパターンはいつものことじゃん?」

「…………ええ、ええ。そうでしたわね……いつものこと、ですものね……」


あぁ……溜息が出そうですわ。

ただえさえ厄介な問題が更に厄介なことになりそうだなんて、決して口になんてできませんわ。

万が一にもそれを声に出してしまえば、それが本当になってしまいそうで、余計に収集がつかなくなってしまいかねませんもの。


「いやぁ~……もう遅いんじゃないかなぁ?」

「ヒュー?」

「……ルーファス兄さんがここに来た時点でもう終わっちゃってると思わない?」

「!?」


声を潜め、耳元でこっそりと告げられたその言葉に、今度こそ平静を保つことができずに顔を強張らせてしまいました。


「アレ、絶対に何か企んでるカオだから」

「仰らないで、ヒュー」

「なんで?」

「口に出してしまったら、本当にそうなってしまいかねませんから」

「ルーファス兄さんが出てきた時点で、声に出さなくても考えただけでそうなると思ったほうがいいんじゃない? だってほら……」



『いつものことだし?』



……頭が痛くなってきました。

スッと笑みを消し、真顔になったヒューのその表情が全てを物語っていたと言っても過言ではないでしょう。

同じことは二度言わなくても分かりますから。

ただ……分かっていても理解はしたくない、ということもありましょう。

今の状況はまさにそれに当てはまるのですから。


そっと溜息をつき、わたくしは無駄だと思いながら口を開きました。


「ルーファスお兄さま」


止めたところで止まってはくださらないと分かってはおりますが、もしかしたら……ほんの僅かな確率で、ルーファスお兄さまが考えを改めてくれるかもしれませんから。

とりあえず、『禁じ手』だけは回避したいところです。


「どうした、リリィ?」


『ん?』と、訊き返すような表情でこちらを向いたルーファスお兄さまに、不自然にならない笑みで先手を打ちます。


「この問題を解決する方法をご存じでいらっしゃるのであれば、ぜひとも平和的な方法でお願いいたしますわ」

「平和的に、ねぇ?」

「ええ。平和的に、ですわ。無理矢理に捻じ曲げるような手法は取らずに解決していただきたく思いますの」

「なるほど?」


二度目の『なるほど?』をいただきました。

わざとらしいニッコリとした笑みをお供に。


これは……



────『時戻し』を使う気満々でいらしたようですわね……



「いけませんわ、お兄さま」

「まだ『何』を『どうする』とも言ってないが?」

「仰られずとも予想はついております。今お兄さまの頭の中に浮かんでいるその方法は却下でお願いいたしますわ」

「一番平和的なのに?」

「ある意味ではそう言えるかもしれませんわね」


『今のこの事実が存在しなかったことにする』という意味では。


「ですが、手法に問題がありますの」

「言わなきゃ気付かれないし、誰にも分からない」

「そういう問題ではございませんわ」

「まるっとなかったことになるのに?」

「ルーファスお兄さま!!」


一番言ってほしくなかったことをサラッと口にしましたわね。

相も変わらず、わざとらしい笑顔のままでそれを口にしたということは、元よりランディさま(第二王子殿下)に『禁じ手』のことを隠すつもりなどなかったと言っているようなもの。

一昨日の土の曜日の夜のことと同じく、今ここで起きていることもまた全て『なかったことにする』つもりでいらっしゃるのでしょう。


「なかったことになるって? さすがにそれは無理があるだろ、ルーファス。それにさっき自分でも言ってたじゃないか。『引っこ抜いちまったもんは今更どうしようもない』『いくら考えたところで元に戻せるわけでもない』って」

「確かに言ったな」

「それなのに、なんで『まるっとなかったことになる』なんてことが言えるんだ?」


ああ……ランディさまが訝しみながらも、ルーファスお兄さまの言葉を気にし始めてしまいましたわ。

疑ってはいないようですけれど、俄かには信じられない、といったところでしょうか。

それもルーファスお兄さまが事も無げに言い放ってしまわれたからに違いありません。


「簡単だ。時空属性魔法で、元の状態だった時まで遡って戻せばいいだけの話だからな」

「へぇ……そんなことができるのか……」

「ルーファス兄さん!!」


ランディさまが感心したように言葉を発したその直後に、声を荒げて勢いよく立ち上がったのはヒューでした。


「軽い調子で言ってるけど、そんなに言うほど簡単なことじゃないからね!? しかもそれ、普通にやっちゃいけない方法を使うって言ってるも同然だから!!」

「えっ? そうなのか、ルーファス?」

「まぁ確かにヒューの言う通り正攻法ではないな。それをできるヤツも限られてくるし?」


その限られた『できる人』のうちの一人がルーファスお兄さまなのですけれど。

ランディさまもそれに気付かれたようで、探るようにじっとルーファスお兄さまを見ております。


「早い話が『ヤバい方法』で『なかったことにする』つもりでいるってことで合ってるよな?」

「そうとも言う」

「却下だ!!」


ヒューに続いてランディさまも声を荒げてしまわれました。

その剣幕に、わたくしの膝の上でウトウトしかけていたルヴランとルワァーズ、それからウィガロまでもが驚きでビクリと身体を震わせ起きてしまいました。

何事かとキョロキョロ辺りを探るその仕草があまりにも似た動きだったものですから、思わずくすりと笑ってしまったのは仕方がないでしょう。

決しておかしくて笑ったわけではなく、あまりにも可愛らしすぎて自然と零れてしまったのです。


「……ふっ」


そんなわたくしとは対照的に、息が抜けるような笑みを零したのは他でもないルーファスお兄さまでした。

思わず顔を上げてルーファスお兄さまを見ると、先ほどとはまるで違う穏やかな表情でランディさまを見据えながら一言『……ま、ギリギリ及第点と言ったところだな』と頷いていました。


まさか…………


「……俺を、試したのか、ルーファス?」


声に若干の震えを滲ませながら詰め寄るランディさまを見て、ルーファスお兄さまが『当然だろう』と事も無げに言い放ちます。


「これから魔法を学ぶお前に、本当にその資格があるかどうかを確かめさせてもらった。一口に魔法と言っても正しいものばかりが魔法じゃないからな。中には邪法と類される危険なものも少なくはない。『このくらいならば……』という甘い考えで手を出していい代物ではないことくらい容易に想像できるだろう?」

「……………………」

「つまり何が言いたいかと言うと、だ。お前自身の立場や権力を以てその邪法を行使させようという考えが欠片でもあれば、それは即ちお前自身の身を滅ぼすことに繋がるということだ」


穏やかな表情から一転し、真剣な目でランディさまを見据えながらルーファスお兄さまは淡々と言葉を繋げていきます。

そんなルーファスお兄さまに釣られてか、ランディさまの表情もまた真剣なものに変わっていきました。


「今まで軽く『匂わせて』いた『時戻し』に関する魔法もまた、使い方によっては邪法ともいえる。いくら方法が存在しているとはいえ、時を操るということは世界の理に反する禁忌でもあるからな」

「……だったら。そんな邪法なんて教えずにいれば済むことじゃないか」


尤もな言い分ではあると思います。

確かに物事を単純に考えればそれが正しい答えのように思えるかもしれません。


ですが……


「仮に教わらずにいたとしても、だ。魔法を行使する者であれば、遅かれ早かれその存在に辿り着く。中にはそれが『邪法』だと気が付かないまま、ただ『便利そうだから』という安易な理由で手を出してしまう者だっている。正当な理由や管理者の許可がないままそれらを行使することは重罪だ。知らなかったでは済まされない。そして安易に許可を出すこともまた罪になる」

「……ということは、俺が試されたっていうその部分は……」

「許可を出せる立場にいる者としての素質があるかどうかを見極めるためのもの、といったところだな」

「そういう、ことか……」

「とは言っても、本当にギリギリの及第点だからな? 少なくとも、オレが『まるっとなかったことになる』と言った時点で気付いてほしかったよ。普通に考えていればその発言自体が不自然そのものだったわけだからな。『なかったことにする』のと『なかったことになる』のとでは、前提と結果は同じであっても、そこへと至るまでの過程が全く違うだろう?」


そうですわね。

前者は事実の『隠蔽』、後者は事実の『消失』或いは『消滅』になりますもの。

言葉の通り『なかったこと』になりますものね。

ある意味、無理矢理捻じ曲げる以上に悪質なやり方とも言えますし。


「これは極端な暴論になるが、使い方一つ、安易な許可一つで簡単に国が滅ぶ。故に『邪法』と類されるものは存在そのものを慎重すぎるくらいに扱わなければならないということだ」

「と言っても、実際にそれらの『邪法』を行使できる実力のある使い手はそう多くはいないけどね」

「それでも魔法に長けた者であれば、いずれ行使できるに至るほどの実力を身に着ける可能性はあります。ルーファス兄さんが言いたいのはそういうことでしょう?」

「ああ。管理されるということはそれだけ危険であるということと同義だからな。属性自体がごくありふれたものであったとしても例外は一つもない。魔法は等級に関係なく、絶対に安全だとは言い切れないからな」


そう言って、ルーファスお兄さまはランディさまの頭を軽く撫でました。


「そのための魔法教師だ。お前とセディ(第一王子)にはオレ自らがみっちり教えてやるからそのつもりで臨めよ?」

「うっ……わ、分かった……」


目を眇めながら薄っすらと笑んだルーファスお兄さまを見たことで、ランディさまの顔が軽く引き攣りました。

ルーファスお兄さまの表情から何か察するものがあったのかもしれません。


「ちなみにだけど、ルーファス」

「ん?」

「兄上にも、同じようなことを訊いたのか?」

「まぁな」

「その、兄上は、なんて……?」

「……………………」


質問に対する返事はなく、代わりに返ったのはわざとらしいまでの無言の笑み。

それだけで第一王子殿下の答えが分かったような気がします。

当然のことながらランディさまもお気付きになられたのでしょう。


「~~~~~どうせ俺は兄上みたいに優秀に出来てないから! バカで悪かったな、バカで!!」

「いや、何も言ってないだろう?」

「顔がそう言ってんだよ、顔が!!」


勢いよく噛みつくランディさまに苦笑しながら、ルーファスお兄さまは髪をくしゃくしゃと撫ぜつつランディさまを宥めにかかりました。


「あのな。お前に『バカ』と言ったことはあっても、お前をバカだと思ったことは一度もないぞ?」

「嘘つけ!! 兄上と比べたら俺のほうがバカだって思うに決まってる!!」

「はいはい。お前が勝手にそう思ってるだけな?」


……と、軽くあしらいつつ、ルーファスお兄さまが手を伸ばしたのは二つの逆鱗でした。


「それよりこの逆鱗二つ。どう処理するか決めたのか?」

「……いえ、どうするかはまだ何も…………」

「ルヴランとしては、お気に入りになったオンディール公爵令嬢とランディにあげたいんだって。それで、道連れにルワァーズの逆鱗も引っこ抜かれたんだけど」

「なるほど?」

「ただ……希少価値が高すぎて持っているだけで狙われるっていう、ある意味の曰くつきでしょ? さすがに簡単に人にあげちゃうのもどうかなぁ……って思って」

「いくら護りの力があるっていっても命を狙われるのはシャレにならないからな。俺はそれ、もらえないぞ?」


先ほどと似たような遣り取りになり、ランディさまが思い切り顔を顰めました。

王族の身である以上、命を狙われるような状況は作れないため、受け取りを拒否しようという姿勢は変わりません。


「じゃあ何か? 裏を返せば狙われなければ受け取ってもいいということか?」

「は……?」

「仮にソレが逆鱗に見えなければ狙われることはないよな?」

「ルーファス兄さん……まさかとは思いますが、原型を留めないくらいの加工を施す気でいるのでは……?」

「そう、そのまさか。とは言っても、原型を留めないくらいに割ったり砕いたりするつもりはないけどな」

「えぇ……じゃあどういうつもりでいるの?」


疑わしい目で見るギルお兄さまとヒューを余所に、ルーファスお兄さまは軽く笑ってこう答えました。


「簡単だ。装飾品に見せかけた魔道具にしてしまえばいい」

「装飾品に見せかけた……」

「魔道具、ですか?」

「……では、魔石の代わりに逆鱗を使われると?」

「ああ、そうだ。二片あるからそれぞれを半分に割って研磨、加工を施し普段使いできる装飾品として組み合わせる。その上で魔石代わりにした逆鱗に魔力を注げば魔道具としての機能を備えた装飾品の完成だ。細工の仕方次第では逆鱗を使用しているようには到底見えないからな。余程の目利き相手でない限りは逆鱗とは見抜かれない。更に欲を言えば、あらゆる護りの障壁の術式を刻み込めたら完璧だな」

「えぇ~……」


自信満々に言い放つルーファスお兄さまを見てヒューの目付きが更に疑わしいものへと変わりました。

まるで睨み付けるかのように半眼でルーファスお兄さまを見ています。


「そうは言うけど、そんな簡単に装飾品に見せかけた魔道具になんてできるの? ただえさえ魔道具ってものはゴテゴテした感じの仰々しいものが多いのに」

「できる」

「本当か? 俺もちょっと信じられないぞ?」

「じゃあ実際に見たら納得するか?」


そう言いながらルーファスお兄さまがポケットから取り出したのは魔法障壁の術式を刻み込んだ魔道具のアミュレットでした。

領地の魔獣討伐に赴く際に身に着けているものですが、普段はポケットに入れて持ち歩いていらしたのですね。

しかもあのアミュレット、魔石ではなく逆鱗を使用して作られたものだったとは。


「この黒い部分がそうだ。ヴァイアランの逆鱗を複数に割って、羽飾りのように加工を施した」

「これが逆鱗? ……ただの黒い小さな魔石にしか見えない」

「だろう?」


得意げに目を細めて笑うルーファスお兄さまを見てランディさまは何度も首を縦に振りました。

驚きと同時に、ヴァイアランの逆鱗だという黒い飾りに魅せられているようでもあります。


()()()装飾品に見せかけた、()()()()()()()()()の魔道具なら別に持っていても狙われる心配はないよな? だって()()()なんだから」


まるで何かを企むかのような笑みを浮かべるルーファスお兄さまに対して、ランディさまはただただ納得したと言わんばかりに頷くばかり。

断固として受け取らないという拒否の姿勢は、今や見る影もありません。

このまま見事にルーファスお兄さまに言い包められて、ランディさまが逆鱗を受け取ることになるのは必至でしょう。

そして当然のように、ルーファスお兄さまが二欠片の逆鱗に魔力を注ぎ込むと言い出すに違いありません。

もう、止められないでしょうね。

言い出した以上、これはもうルーファスお兄さまの中では決定事項。

反対しようにも聞く耳は持たないでしょうから。


「魔道具にするならオレが二欠片とも預かるぞ? ついでに加工から細工まで全部オレが引き受けてもいい。護りの術式を刻むのも、魔力を注ぐのも全部な」

「…………なんかルーファスがやったら相当ヤバいものができそうなんだけど」

「今更です。類を見ない魔道具狂いですからね、ルーファス兄さんは」

「いっそ任せていいんじゃない? ヤバいって言ってもいい意味でヤバいものを完成させてくれそうだし」


気が付けば男性陣の中で二欠片の逆鱗は装飾品としての魔道具にしてしまうことが決定したようです。

そして、それがオンディール公爵家のご令嬢のフローレンさまとランディさまのお二方の手に渡るということも。


けれどその前に、言っておかなければならないことが一つあります。


「あの、ルーファスお兄さま」

「ん? どうした、リリィ?」

「勝手にお話を進めておりますけれど、さすがにこれはお父さまやレイナードおじさまへの確認が必須となる案件だと思うのですが……」

「ああ、そのことなら別に問題はない」


とてもにこやかな笑顔で返されて嫌な予感が頭を過りました。


「事後報告で十分だ」


楽しそうに上機嫌で答えたルーファスお兄さまの笑みが更に深くなります。


「あ……これダメなやつ…………」

「いつものパターンですか。事後報告の後は確実にお説教が待っていますね」

「その説教もルーファスには全く効果がないんだろ? 確か説教されても平気だとかそんなこと言ってたぞ?」



…………ああ、何だか更に頭が痛くなってきました。

わたくしが今ここに立ち会っているという事実をなかったことにしてしまいたいです。


このまま、仔竜たちを連れて部屋を出て行ってもいいでしょうか?

いいですよね?











「あれ? 結局ルヴランが自分とルワァーズの逆鱗を引っこ抜いたことに関してのお咎めはナシ?」

「ルーファス兄さんが逆鱗を加工すると言って持ち出した今となってはもう叱っても無理でしょうね。寧ろルーファス兄さんは叱る気すらないと思いますよ? 逆鱗を魔道具に加工できるとあって上機嫌になって部屋に戻っていきましたから」

「ぼくたちが頭を悩ませた意味って一体…………」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ……ですが。
ブクマやお星さまで応援していただけたら嬉しいです(*´艸`*)

同じシリーズのお話も合わせてよろしくお願いします♪

スピンオフ:私たちはかつて願った理想世界に生きている
小噺集:転生先異世界での日常あれやこれや

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ