第五章19 女神の気まぐれ
真っ白な空間だ。
もう何度となく訪れた、女神との対話のための空間。
ここに今、何故自分が呼ばれたのか。それは、さっぱり分からない。
「単なる気まぐれよ、カシワデミコトくん」
ミコトの名を呼ばわりその思考に答えたのは、女神のそんな言葉だった。
「とりあえずほら、見て頂戴」
そして彼女が指を差す先には、ユウの姿があった。ユウと、彼に向き合うもう一人の女神。
「ユウくん!」
思わずそう叫ぶミコトだが、彼は全く反応を示さない。
「ああ、こちらの姿も声も、向こうには届かないわ」
その理由に女神が言及し、ミコトは彼女に視線を向ける。
「一体、どういうつもりですか」
「そうね――サービスのようなものよ。彼の選択を見届けてもらおうという、貴方へのサービス」
何故こんなことをするのか。その問に対する答は、ミコトの納得いくものではなかった。
そんなことをして、女神に何の得があるというのか。今まで散々ミコトたちを振り回しておいて、サービスだなんて言われても戸惑うしかない。
「ほら、始まるわよ」
しかしそんなミコトの疑問は、女神の言葉と、喋り出したユウの声で中断された。
*************
「優勝おめでとう」
女神が、ユウに向かってその事実を静かに告げた。
「浮かない顔ね。今から、どんな願いでも叶えられるというのに」
きっとユウは、正にそのせいで浮かない顔をしている。
しかしその気持ちを知ってか知らずか――きっと知っている気がする――、女神は愉しそうに言葉を続けた。
「さあ。あなたは何を願うのかしら」
その問に対する答は、二つに一つ。
「親友の思いを取って、このゲームで失われた命を蘇らせる?」
ミコトが託した、世界を救う願いか。
「それとも、自分の思いを取って、彼女を――大事な大事なあの子を蘇らせる?」
ユウ自身がずっと抱えてきた、瑞生を救うという願いか。
きっとユウは、選ぶことができなかったのだろう。
当たり前だ。ミコトが彼の立場でも、やっぱり選べなかっただろうから。
だから、彼はミコトと戦った。
ミコトを消して勝っていたなら、迷うことはなかっただろう。
ミコトに消されて負けていたなら、それはそれで良かったと思っているに違いない。
「くそっ! なんで……! なんでだ! どうしてお前はこんなゲームを始めた!」
ユウは苦しそうに、そんな問を吐き捨てた。
それは、ミコトも知りたいことだった。
女神がどうして、このゲームを始めたのか。
「いや……そもそも、お前はいったい、何者なんだ――?」
――そもそも、女神は一体何者なのか。
「……そうね。優勝した貴方にくらいは、教えてあげましょう」
苦しそうなユウをやはり愉しそうに眺めながら、女神はそう言った。
チラリと自分の横に居る方の女神に目線を送るが、彼女は首を竦めるような動きをしただけだった。別に、ミコトも聞いても構わないらしい。
――そして、女神が告げたのは。
「私は、人々の思い描く運命の女神。気まぐれに人の運命を弄ぶ――そのためだけに、生み出された女神よ」
そんな、訳が分からない言葉だった。
かろうじて、気まぐれという部分にだけ思い当たる。
彼女の言葉や行動に一貫性がないと感じたこと。そこには合点がいった。
だが、それ以外は意味が分からない。
「そんな……そんな神がいてたまるか! 神様っていうのは……っ」
ユウはそう叫び、ハッと何かに気が付いたような顔をする。
そしてミコトも同じように、気が付く。
神様とは。その定義を、ミコトは知らなかった。
神とは何か。何のために生まれて、何を為す存在なのか。
「人に信じられ、人の思いが生み出す存在。それが神よ。私もその中の一柱に過ぎない」
やがて女神が告げたのは、そういう自己定義だった。
「人の思いが……生み出す……?」
神が存在して、人が存在するのではなく。
人が存在するから、神が存在する。
女神は、そう言っているのだった。
なら、この女神は――
「ええ。――私は、人の『ある思い』が生み出した神」
「ある、思い――?」
ミコトには、見当が付かなかった。
一体、どういう思いを抱けば、こんな神が生まれてくるというのか。
そして――
「『何か、自分の人生を変えてくれる出来事は起こらないだろうか』」
女神が語った、その言葉に。
「――俺、なのか……?」
ユウが愕然と声を上げ、ミコトは息を呑んだ。
それはつまり、ユウがそういうことを思っていて。
この女神を生み出したのが、この惨状を引き起こしたのが。
ユウのせい、だと言うのか。
「それは、そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわ」
しかし女神は、その問に曖昧な言葉を返した。
「人ひとりの思いの力なんて、高が知れているもの。貴方一人の思いに、神を生み出すような力は無い。それくらい、分かるでしょう?」
その説明を聞き、ミコトは納得よりもまず安堵した。
ユウだけが原因ではない。その事実に。
しかし、それはつまり――
「でも、それが集まれば。合わされば。束になれば」
一人の思いの力は小さい――しかし、多くの人間が、同じ思いを持っていたなら。
「それは、世界を変える大きな力になる。……善悪を問わずにね」
――そういうことだ。
「だからこれは、決してあなた一人の思いの結果ではない。でも、あなたの思いの結果ではある」
「そういうことよ」、と女神はユウを一瞥した。
そして、心底愉快そうに、どこまでも愉しそうに、大きな声で笑い出す。
「笑ってしまうわよね。『本当の自分はこんなもんじゃない』なんて、どこまでも傲岸不遜な。そのくせ、肝心な部分は神頼みという、呆れるほど他力本願な。そんな思いを抱いている人間が、世界を変えるくらい――神を生み出すくらい、沢山存在しているなんて」
ミコトには、全く笑えなかった。
ただ、悲しみだけが胸の内にある。
ユウが、そんな風に考えていたことに。同じようなことを考えている人間が、掃いて捨てるほど居たということに。
何より、ユウのその思いにずっと、気が付けていなかったことに。
「そのお陰で、私が生まれた。だから私は、その願いを叶えただけ」
ユウの元へ、女神はスルリと歩み寄る。
そして彼の耳元で、囁くように問いかける。「ねえ?」と、親しみを込めて。
「――間違いなく、人生は変わったでしょう?」
女神の言うとおり、多くの人間の――いや、おそらく参加者全員の人生が、大きく変わった。もちろん、ミコトもだ。
しかしそれは――
「……」
そして、沈黙がしばらく続いた。
「……さて。そろそろ聞かせてもらえるかしら。――貴方の願いを」
その沈黙を破り。
女神はいよいよ、選択を迫った。
「俺は……」
ミコトは、固唾を飲んで彼の言葉に耳を傾ける。
彼が、どういう答を出すのか。それを見届ける義務が、ミコトにはあると思ったから。
「……俺は確かに、思ってたよ。『何か、自分の人生を変えてくれる出来事は起こらないだろうか』。そう思ってた」
やがてユウは、訥々と語り出した。
ゆっくりと、自分の思いを確かめるように。
「だって、そうだろ。そんなの、誰だって多かれ少なかれ思ってるようなことだ。しかも俺は……」
そうかもしれない。
自分の人生に不満があるかと言われれば、確かに多くの人が首を縦に振ると思う。
そして、不満という点で言えば。
「俺には、瑞生が居た。瑞生を失った悲しみが、助けられなかった悔しさが。俺の中にはずっとあったんだ」
失われた命はどうにもならない。
自分ではどうにもならない、決して消え去ることのない不満。
「当たり前の日常が幸せ。瑞生はそれを教えてくれた。でも、そこから瑞生が居なくなったら――俺にとって、もうそれは当たり前の日常じゃない。幸せだとは、どうしても思えなかったんだよ」
――知らなかった。
ユウがそこまで、瑞生を大切に思っていたなんて。
「だから、俺は俺が嫌いだった。瑞生の思いを踏みにじって生きる、そんな自分が」
――知らなかった。
ユウが、そんな風に考えていたなんて。
「変われるものなら変わりたかった。でも、それは俺には不可能に思えて。だから、自分を変えてくれるきっかけが欲しかったんだ」
――知らなかった。
結局ミコトは、何も知らなかったのだ。
彼も一人の悩める少年であったという、その事実すら。
「でも――それは違ったんだな」
と、ユウが唐突に言を翻す。
「人生を変えるのは――人を変えるのは『何か』じゃない。いつだって、自分じゃない『誰か』なんだよ」
そして彼が口にしたのは、そんな言葉だった。
彼が今誰を思い浮かべているのか、ミコトには分かるような気がした。
「俺の中で、瑞生への思いは何も薄れちゃいない。ずっと変わらず、胸の中に有り続ける。でも」
それはきっと、これからも変わらない。
瑞生は大切なままで、ユウの、そしてミコトの心のどこかに、ずっと居続ける。
それでも、
「その思いを抱えたままでも――他の誰かを、大事に思うことができるんだな」
ミコトが、アカリという大切な人を得たように。
ユウもまた、彼女のことを大切に思えたのだ。
それはミコトにとって、たぶん何よりも嬉しいことだった。
「だからきっと、これから。これから俺は、幸せだと思える。きっと、当たり前の日常も愛していける。俺の人生を、きっと変えてくれる人が居るから」
今まで出会った、多くの人が。
これから出会う、沢山の人が。
きっと、ユウを、ミコトを、変えてくれるから。
「だから、願うよ」
ユウは、堂々と声を発した。
それはきっと、彼の偽りのない本心。
「このゲームを通して、失われた命。その全てを、取り戻したい」
それが、今のユウの願い。そして、アカリの願いであり、リョウカの願いであり、きっと瑞生の願いでもあり。
ミコトが彼に託した、大切な願いだった。
「……本当に、いいのかしら?」
「ああ。それが事の発端の一人である、俺の責任でもあるからな」
女神の問にも、ユウは冗談めかして、軽口すら叩いてみせる。揺るぎない答を返す。
だが――
「いえ――そういうことではないのよ」
そう言って、女神は愉しそうな顔で笑った。
*************
そして女神が告げたのは、この世界の真実だった。
曰く、
「ここは言わば、元の世界から見れば、精巧に造られた模造品に過ぎない。もちろん、貴方自身も。――ただの、複製なのよ」
全てが偽物。複製された贋作。
「それでも貴方は、同じ事を願うのかしら。一番大切な人を生き返らせるのを諦めて。どこの誰かも知らない、ただの偽物でしかない、その他大勢の人間を生き返らせる。その決断が、できるのかしら?」
その上で女神は、改めて問を投げた。
この上なく、愉しそうな表情で。
「……」
ユウは黙り、考えているようだった。
そんなユウを誘うように、女神は語り続ける。
「別にいいじゃない。この世界の人間が消えたって、元の世界の、オリジナルの人間たちは元気に暮らしているんだもの。だったら、ここで好き勝手に生きたっていいじゃない。元の世界の自分のぶんも。ね?」
それは一見すると、正論にも聞こえる。
元々無かったものが消えたところで、何も問題はないだろうと。
「さあ、願いを変えるなら今しかないわよ? 最後にもう一度だけ、訊いてあげましょう」
女神は優しく、とろけそうなほど甘い声で囁く。
「貴方は、何を願うのかしら?」
完璧な言い訳で塗り固めた、甘い甘い誘惑を。
しかし――
「――愉しそうで、何よりだよ」
ユウはそう言って、それを鼻で笑い飛ばした。
「でもな、それは間違ってる」
笑みを消した女神に向かって、更にそう言い切ってみせる。
それはミコトと同じ結論で、きっと瑞生も同じように言うに違いなくて。
「たとえコピーだろうと、偽物だろうと。この世に存在した時点で、それはもう生きてるってことなんだよ」
ユウが同じようにそう言ってくれたことが、ミコトにとって救いとなった。
「だから、同じなんだ。コピーだろうが何だろうが。俺たちにとっては、全部同じ『命』なんだよ」
黙り込む女神に向かって、ユウは静かにそう結んだ。
――ああ、僕とユウくんは、ちゃんと分かり合えていたんだ。
更に――
「それに――思い出したんだ」
ミコトが一番、分かり合いたかったことを。思い出して欲しかったことを。
「瑞生の最後の言葉。今まで忘れてたなんて、瑞生に怒られるかもしれないけど」
彼はちゃんと、思い出してくれたようだった。
「『楽しかったよ』。……『二人ともありがとう』、『楽しかった』。アイツは、そう言ったんだ」
不意に、ミコトの目から涙がこぼれた。
――ああ、本当によかった。僕はちゃんと、伝えられたんだ。
ミコトが、全てを懸けて伝えたかったこと。それが間違いなく、彼に伝わっていたんだと分かったから。
ミコトはそれが、涙を流すほどに嬉しかったのだ。
「俺はずっと、瑞生に何もしてやれなかったと思ってた。――けど、違ったみたいだ」
そう、それは違う。
瑞生は間違いなく、幸せな人生を送った。たとえ短かったからって、それを幸せじゃなかったという権利は、誰にもない。
そして彼女は、それをミコトとユウのお陰だと、そう言ってくれていたのだ。
「楽しかったって人生を終えた人を叩き起こすなんて、それこそ酷い話だ。そう思わないか?」
そう言って、ユウは微笑んだ。
全く以て、その通りだ。彼女の幸せな人生を、二人が喜ばなくてどうする。
「だから、俺の答は変わらない。最後にもう一度だけ言ってやるから、耳かっぽじってよく聞け」
そしてユウは、ニヤリと笑って。
女神に向かって宣言した。
「このゲームを通して、失われた命。その全てを、取り戻したい。それが、俺の願いだ」
訪れた沈黙の中、ミコトの心は静かに、晴れやかに凪いでいた。
誰かを信じ、願いを託し、そしてそれを受け取ってもらえた者だけに許される、満ち足りた静寂。自分がこんな気持ちになれる日が来るなんて、ミコトは思っていなかった。
やがて、その沈黙をスルリと抜けて。
「――ふふ。人間って、本当に面白いわね」
女神は楽しそうな――今までとは違い、そこに幸せを含んだ笑顔で。
可笑しそうに、そう言った。
そして、その表情を引き締めて。
「願いは聞き届けられました。女神の力を以て、貴方の願いを叶えましょう」
慈愛に満ちた眼差しで、ユウに向かってそう告げた。
その表情は、その仕草は、頭の上から爪先まで、正真正銘の、女神の風格を備えていた。
しかしすぐ、元の彼女に戻って。
「大人の居ない世界で生きていくのは大変でしょうけどね。まあ精々、頑張るといいわ」
そんなことを宣って、やっぱり愉しそうに笑ったのだった。
「はは、大丈夫だよ」
と、ユウの言う通りだ。
もう彼女を恐れたり、苛立ったり、その言葉に怯む必要は無い。
何故なら――
「――皆が居るからな」
ミコトとユウ。それにアカリもリョウカも。これから先にはタイジュだって、ユウキだって。
そして最後に、彼は「それに」、と一言置いて。
「俺たちは高校生だ。どうせすぐに、大人になるんだから」
ユウはそう言って、曇りの無い笑顔を浮かべた。
その笑顔は、見ているミコトまで笑顔になるくらい、とても良い笑顔だった。
*************
「……どうして、僕にこれを見せてくれたんですか?」
ミコトは穏やかな気持ちで、女神にそう問いかけた。
「言ったでしょう。単なる気まぐれよ」
女神は真意を覆い隠す微笑を湛えたまま、そう繰り返す。
「そうですか……ありがとうございます」
「別に、感謝をされる筋合いは無いわね」
少なくともミコトは、見れて良かったと思う。
だから感謝を告げたが、女神にはそんな風にあしらわれた。
「さて。貴方の望み通り、彼は願いを叶えた。大事な幼馴染みを諦めて、他の全員を救った」
「……はい。でも、諦めたっていうんじゃなくて」
そして語り出した女神に、ミコトは少し反論する。
諦めるという、後ろ向きな感情では決してない。
「生き返る必要なんかないって、気が付いただけですよ」
瑞生はいつでも、心の中に居る。なんて、ありきたりだけれど。
間違いなくそうだと、ミコトには思える。きっとユウもそう思ったから、あの願いを口にできた。ミコトは、そう信じている。
「そう。それじゃあ、そんな貴方にもう一つ、気まぐれな問いかけをしてあげましょう」
そんなミコトに――女神は、大きくその表情を歪めてそう言った。
それはやはり、人の運命を弄ぶ気まぐれな女神の顔だ。
「貴方の願いも、一つだけ叶えてあげる。そう言ったら、何を願うかしら?」
そして彼女が告げたのは、そういう意地の悪い問だった。
何かと引き換えではなく。
何でも一つ、願いが叶うとしたら。それでもミコトはそれを願わないのか、と。
「いえ、言い方が悪かったわね。貴方の願いを一つだけ、本当に叶えてあげましょう。そうじゃないと、貴方の本音が引き出せないもの」
そして女神は、あろうことかそう告げた。
本当に、願いを叶えるのだと。
「だからもし、」と彼女は続けて、
「もし彼女を生き返らせるというなら。どちらの世界でも、好きな方を彼女が生きている世界にしてあげる。そこでまた、彼女と一緒に生きていけるわ」
ミコトの背中を押すように、そう言った。
今なら、何の代償も無く。瑞生を生き返らせることができるのだと。
「――さあ。貴方は、何を願うのかしら」
そして女神は、選択を迫った。
問われたミコトは――
「じゃあ……だったら……」
少しだけ考えた後、すぐに願いを口にしたのだった。
*************
「……本当に、そんなことでいいのかしら」
呆気に取られる女神が、ミコトにそう念を押した。
「はい」
だがミコトとしては、何も迷う必要が無かった。
なんなら、これ以上は無い最高の願いだとすら思っている。
「神に掛ける願いとしては、あまりにもささやか過ぎるのではないかしら」
だが、女神は不満げな表情でそう口にする。
それは、確かにそうかもしれない。
何でも叶えられる願いに対して掛けたのは、願わずとも叶うこともあるような、そんなささやかな願い。
だが――
「それくらいで、いいんです。だって――」
確かに、ここで願えば何でも叶えられるのかもしれない。
しかしそれでは、面白くない。
「自分たちで頑張るから、いいんです。神様に頼り切っちゃったら、それはもう自分の人生じゃなくなっちゃいます」
足掻いて、藻掻いて、苦しんで。
それを乗り越えるからこそ、人生は面白く、やりがいがある。
そしてミコトは、「あっ、」と思い付いて。
「人が生きると書いて、人生と読む。これ、名言じゃありません?」
ものすごいドヤ顔で、そう言った。
個人的には決まったと思っているが、傍から見たらどうかは考えないでおこう。
そして、そんな自分の考えは置いておいて。
「それに、僕の人生じゃないですからね。そんなに大きくいじったら、怒られちゃいますよ」
ミコトは、そうぶっちゃけて笑った。
そっちが、願いがささやかになった一番の理由だった。
「――ふふ、本当に面白い」
「え?」
そんなミコトを見て何事かを女神が呟いたが、ミコトには聞き取れなかった。
「いいえ、何でも。……分かりました。では、改めて」
訊き返すミコトを置いて、女神はそう言って表情を変える。
「願いは聞き届けられました。女神の力を以て、貴方の願いを叶えましょう」
再び女神らしい表情で、彼女はそう告げた。
そして、ミコトの視界が徐々に白に塗り潰され始める。
女神の姿が、徐々に背景に溶け込むように。
その最中、女神がふと元の表情に戻って。
「とは言え、かなり力が余ってしまうのよね」
そんなことを呟く。
そして――見る者をドキッとさせるような色っぽい顔をして、こう言った。
「だから――気まぐれで一つ、サービスしてあげるわ」
その言葉を最後に、問いかける暇も無く。
ミコトの視界は、再び白に埋め尽くされた。