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22 中学生はあったかいナリ

 少年はできたてのシフォンケーキのような温かさと柔らかさに包まれて眠っていた。

 羽毛布団なんて比べものにならないくらいの心地よさ。もっと感じたくてぎゅうと抱きしめる。


「きゃ」


 と小さな悲鳴が聞こえて目が覚めた。


 次第に鮮明になっていく視界。

 奥にはよく知った天井があった。まともに部屋に入って横になったことはまだ一度しかないが、もはや見慣れた感のあるライト・ノーヴルにある自室の、寝室の天井だった。


 この世界に来てからよく気を失う……そして気を失った後は必ずこの寝室で朝を迎える。

 そして気がつくときには、いつも気持ちいい感じがするんだ……。


 今回の気持ち良さの正体は何なんだろうかと少年は顔をあげてみた。


 胸の上に……吐息がかかるほどの距離で三人の女の子の顔が並んでいた。


 ヒロシの身体の上に川の字になって寝そべり、じーっと顔を観察しているようだった。

 ようだった、というのは三人とも目が前髪で隠れていて視線が定かではなかったからだ。

 またそれが不気味で寝起きの身にとってはショックが大きかった。


「ひいっ!?」


 見てはいけないものを見てしまったかのように情けない悲鳴をあげるヒロシ。のけぞるあまりベッドの宮棚に頭をゴチンとぶつけてしまった。

 棚の上にあった人形用ベッドが傾き、そこで寝ていたミームがヒロシの頭にぽさっと落ちてくる。


「おはよーございますヒロシ様! よく眠れましたか?」


 三人娘の真ん中、赤髪ポニーテールの女の子が明るく挨拶する。元気いっぱいだが前髪を垂らして目を隠しており、陽気なのか陰気なのかよくわからない印象だ。

 ヒロシはその少女に見覚えがあった。


「きっ、キミは……握手会で一番最初だった……」


「わあっ!? 覚えてくれてたんですね! 感激っ! あたしロートっていいます! あ、こっちはブラウ!」


 ロートの右側に寝ていたブラウと呼ばれた女の子は黙ったまま会釈するように頷いた。

 青髪のショートカットなのだが毛量が多いせいなのかヘルメットみたいな髪型になっている。前髪を伸ばしているせいで目が隠れており、ミステリアスな風貌だ。


「こっちはグリュー!」


「こ、こんちに……こっ、こんにち……あっ、お、おはようござっ、ござます……」


 ロートの左側に寝ていたグリューと呼ばれた女の子は緊張しているのか何度もつっかえながらペコペコと頭をさげた。恥ずかしいのか落ち着きなくもじもじしている。

 長く垂れた緑髪のロングヘア、照れ屋なのか前髪を伸ばしていて目を隠している。

 三人の中で一番スタイルが良さそうで、むき出しの胸はうつ伏せの姿勢のせいでおしつぶされ贅沢にはみ出している。


 ヒロシがつい見とれていると視線に気づいたのか、グリューは手で身体を覆い隠した。


「え……わあっ!? み、みんなハダカっ!?」


 今更ながらに大変なことに気づいた少年はさらにずり上がった。


「ハダカじゃないですよー、ホラッ」


 ロートの合図とともに一斉に起き上がる女の子たち。たしかに全裸ではなく髪色とおそろいのビキニを身につけていた。

 肩紐がはだけていたせいで裸と見間違えてしまった。三人とも中学生くらいの年の頃だが水着が脱げかかっているせいでかなり不健全なビジュアルになってしまっている


「ね、ちゃんと着てるでしょ?」


 なぜか得意気に胸を張るロート、発育途中の胸だが一人前だといわんばかりに赤い布地の向こうで小さく揺れている。


「……無くてもいい」


 ブラウは膨らみかけで止まってしまったような控えめの胸を青い布地で覆っていた。ドライな表情で無くてもいいと言っているのは水着なのか胸囲なのかはわからない。


「は、はわゎ……」


 グリューは水着でも恥ずかしいのか緑色の布地をさらに腕で覆い隠している。細腕なのであまり隠せておらず、あふれた胸がこぼれ落ちそうになっている。


 どの子にも腕に油性マジックで「ヒロシ命」の文字がしたためられていて、少年はなんともいえない気分になった。


 ノックもなく寝室の扉が開く。


「ヒロシ、起きたのー? ……ってアンタたち何やってんのよ」


 声の主はそのままズカズカと入室してきた。


「あっ、マリーさん、おはよう! へへ、ヒロシ様の肉布団になってたんだ」


「……にくぶとん?」


 ただならぬ状況と不穏な単語に、マリーの顔は梅干しを噛み潰したようなしかめっ面になる。


「これっ!」


 ロートは取り出した新聞の一面をマリーに向けて掲げる。

 号外新聞5号と小さく書かれたそれには、


 『レッドライディングもただの肉布団! 行きがけの駄賃でお前も俺のモノにしてやる!』


 大きな見出しの下には草原で全裸の女たちをはべらせるヒロシが描かれていた。

 実際は死にかけのところを押しつぶされただけなのだがイラストのヒロシは余裕の表情、明らかにマリー、ツキカ、レッドライディングとわかる女たちは虜になったようにすがりついている。


 ロートのモットーは『思い立ったが吉日』である。

 号外を読んだその足で親友のブラウとグリューを誘い、水着を持ってヒロシの寝室に忍び込んだ。

 あとは室内で水着に着替え、寝ているヒロシの掛布団をはがして自分たちが布団のかわりになったというわけだ。


 号外から顔をあげたマリーはフゥと溜息をつく。


「……なるほど、この絵の真似をしてたってわけね」


 事実関係はともかく、新聞がいつもこんな調子で書きたてるのはよく知っていたのでそこにはあえて突っ込まなかった。


「うん! さすがにマリーさんみたいにハダカになるのは恥ずかしすぎるからまずは水着でと思って!」


「別に好きでやったわけじゃないわよっ!」


 すすんで痴女みたいな行為をしたと思われるのが嫌だったのでマリーは強めに否定した。


「そうなの? でもまあヒロシ様が望むなら……ハダカでも……なんて」


 まんざらでもない様子でチラリと少年の様子を伺うロート。

 「自分も」と力強く頷くブラウ。「わ、私も……っ」と声を振り絞って賛同するグリュー。


 一斉に視線を向けられたヒロシはたじろいだ。

 新聞記事のせいで自分がまるで肉布団好きみたいになっちゃってるけど自ら望んだことではないし、そもそもそんな発想をしたこともない。


 気持ちよかったといえば気持ちよかったけど……刺激が強すぎる。


 しかし……新たな女体遊びを知ってしまった以上、これからは事あるごとに肉布団を妄想してしまうに違いない。それは思春期の男の子であるならば無理もないことであった。

 言うが早いが少年の脳内ではすでにマリーとツキカが掛け布団になっていた。


 両側から挟まれ、豊乳を首枕のようにして眠る姿を思い浮かべる。

 眠れない、と甘えるとマリーはしょうがないわねぇ、といった様子で、ツキカは嬉しそうに、彼専用のおしゃぶりとなった突起を差し出し口に含ませてくれる。


「あの……おーい、ヒロシ様?」


 ロートから呼びかけられてヒロシはハッと我に返る。

 「なにキモい顔してんのよ」とマリーから言われて慌ててキス顔を振り払った。


「え、えーっと、僕のために肉布団をしてくれてありがとう。気持ちよか……い、いや、気持ちが嬉しかったよ。で、でも……風邪をひいちゃうといけないから、明日からは普通の布団で……うわっぷ!?」


 目隠れトリオをがっかりさせないように言葉を選ぶヒロシの顔面に突風が吹きつけた。

 部屋じゅうを風で巻き上げながら旋風が起こる。台風の目にあたる風の中心に大きな本が出現した。


 『Road Of The Template Knight』……通称ROTTK(ロック)だ。


「く……クエストや!!」


 ヒロシの髪を布団がわりに二度寝していたミームが飛び起きる。


 開いたページには『クエスト発生!』の文字が。

 その下には……『変な部活を設立せよ!』とあった。






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