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【それでも私は】聖女という名の①【愛を謳いたい】

 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」のネタバレを含みます。

 39スレ目まで読んでから、読むことをお勧めします。

 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。



――――――――――――――――――――

 入学試験終わってほっとしてたら、知らない女の人が俺の部屋に急に入ってきて、俺を抱きしめて寝た。

 意味わからない。

 王国人はみんなこんな感じなのか。

 いや違うよ。

 絶対にそんなはずないよ。

 意識し始めたらどうも仕方ない。考えを逸らさなきゃ。

 俺はアルフレード・メッツォジョルノ。帝国の第三皇子。故あって結婚できない兄さまたちが殺されないように、魔法同盟を頼って王国に亡命するのが目的で、魔法学校に入学した。俺を担ぎ上げて、帝国を我が物にしようとする勢力がいるから。そのために邪魔な兄さまたちを殺そうとする不届き者がいるから。

 俺は、俺にできる戦いをする。

 これからの学校生活どうなるかなーとか、亡命成功するかなーとか、考えているうちに夜がふける。

 なんかあれかなこいつ。

 俺と既成事実作ってしまおうっていう心算なのかな。そしたら、帝国だって無視できないだろうし。皇位絡みの話にはならないだろうけど、金なら出るだろうし……。

 でも、それなら、謎の魔法具ばっかいじってなくて、色仕掛けしてくるよな普通。

 それで、夜になるなりおやすみって寝ないよな普通。

 わけわかんねー。

 ぼーっとしていたら、いい匂いにやられそうになる。

 イーヴァン兄さまに相談したら、なんて言うかな。

 据え膳は食べるものって、怒られるかな。そんなの皇族として失格だって。

 でも、俺から心話することはない。するなって言いつけられてるから。

 隣国に亡命しようとしている俺だけど、兄との絆まで断ちたいわけじゃなくて。まぁ、話してもくれないんだったら、同じことなんだけど。つまらない用事なら心話しないって、それも一つの約束だから。

 もぞもぞと動いた彼女に、俺はちょっと焦る。

 なんか頭撫でられた。

 意味わかんねー。

 その日は、魔法学校の入学試験の結果が通知される日でした。

 とはいえ、私に関しては形だけのこと。王都にいくつかある聖教会の中でも、「中央」と称されることもある場所で、私はいつも通りに人々に治癒を施していました。

 勇者である第二王子の入学が遅れるなか、私も必死に入学を遅らせる理由を考えて、周囲の方々を騙していました。ええ、実際のところ、一年か二年先に入学してもよかったのでしょう。それでも、不都合はなかったのでしょう。あのお方にとっては。

 それでも、私は一年、二年と入学を遅らせていました。あの人とひとときでも過ごせる可能性に賭けたかったから。

 どのみち、あっけなく殺されてしまうなら。最後に心に浮かべる思い出が欲しかったのです。できるだけ、幸せで、死んでしまうことも納得できるような。ひっそりと後ろ姿を眺めている、それだけでよかったのです。それで、私は満足して死ねるような気がしていました。そんな、幸せな思い出を求めていました。それだけで「さようなら」と言う人もなく死んでいく世界を、憎まずにいられると思っていました。

 なんと、わがままな願いでしょう。


 午前には通知の手紙が届き、魔法学校へ入学することが決まっても、たいして喜べませんでした。入学するだけでは意味がなかったからです。それでも、何かが動き始めた、そんな予感だけがしました。

 私はどこか上の空で、訪れる方々に治癒を施していました。

 私にはそれしかできないからです。

 それだけしか、人々に貢献することができないからです。

 真面目ね、少しくらい喜んだっていいのに。誰かがそう囁く声が聞こえました。

 私の王都での世話役は、マディナという女性のはずでした。それが、入学試験のおりに何か騒ぎがあって、そちらへ取られてしまったそうです。

 あの人も終わりね、これが最後の機会だったのに。ずっと夜叉のままね。そんな憚りない悪口がそこかしらで聞こえました。

 何度か挨拶を兼ねて顔を合わせていましたが、悪い人ではありません。朗々とした、面倒見の良さそうなはっきりとものをいう人でした。そういうところが、この聖教会では嫌われてしまっているのかもしれません。

 私は彼女の反対のような、そういう性格を努めていました。何を言われても「はい」と言ってやります。大変なことでも、流されるようについていくことも、ありました。最初は悪事に手を染めるようなこともありましたが、一度や二度、なんだというのでしょう。私は存在するだけで、全ての人を裏切っているのですから。そして、最期の時、全ての人を裏切るのですから。

 それでも、悪事に簡単に関わらないように、そして、できるだけ物事がより良い方へ行くように、必死に考え考え暮らすようになりました。

 嘘をつき続けるしかないのなら、人を欺くしかないのなら、せめてそれ以外の行いは正したい。

 それには、私がいない方が良いのですが、それでも、まだ生きていたいと思っていたのです。もし、あのお方を裏切るのなら、本当に最期の最期が良いとなんとなく思っていました。私がいなくなったところで、第二第三の私が生まれるだけですから。

 辛い思いをするのは私だけで十分でした。

 裏切り者と謗られるのも、私だけで十分でしょう。

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