表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/372

【それでも私は】聖女という名の②【愛を謳いたい】

 「それでも私は愛を謳いたい」は、「39スレ目 安価で大学決めたら異世界の魔法学校に行くことになった。続30」のネタバレを含みます。


 39スレ目まで読んでから、読むことをお勧めします。


 以下、緩衝材代わりに短編を挟んでおります。



――――――――――――――――――――

 意味わかんねー。

 意味わかんねーよエロイーズ。

 でも!

 でも、なんと! 俺、あのユーリさんとテオさんとパーティ組むことになった!

 嬉しい!

 けど、……意味わかんねー。

 ていうかこいつ俺よりレベル低いのに、一応皇族の俺より、ステータスぶっ壊れているし。なんなのこいつ。ズルくね?

 まぁ、でも、そりゃ、勇者と聖女、ついでの俺、そこに入れるくらいの特殊感はある。

 なんか、こいつの正体ていうか、何者なのっていうのは、触れちゃいけねーのかなって感じ。

 でも、でもさ!

 俺二つ名もちとめっちゃ喋っちゃったよ!

 しかも、明日にはダンジョン一緒に潜りに行くって!

 マジで? こんなことってある?

 いや、本当に。すごい。

 王国にきただけで、魔法学校に入学してすぐに、こんなことになるなんて!

 何もかも、うまく行くんじゃないかって気がしてきてしまう。

 いや、きっと、これまでが俺、不幸すぎたんだ。母さまはあんなんだし、父さまは俺に興味もなくて一銅貨も送ってこないし、兄さまたちには冷遇されるし、冒険者として名を馳せようとしても邪魔されてばっかだし、俺が兄さまたち助けようって必死なのにそれも邪魔してくるし。

 きっと、兄さまたちも助かるし、ソリティオ兄さまは立派に国を治めて、イーヴァン兄さまはきっと遊んでばっかだろうけどご機嫌だったらそれでいいや。僕も冒険者としていつか二つ名とかもらっちゃったりして、ちょっとは対等に兄さまたちと話せるようになって、きっと仲間もたくさんできて、充実した毎日を過ごすんだ。

 うん、きっとそうなる。そうだよ。

 俺はそのために頑張ってきたし、こうして魔法学校にいるんだから。

 それに、二つ名もちとパーティを組んだんだよ!?

 きっと何もかもうまくいくんだ。

 聖教会が誰にでも開いているその門戸を閉じた後、私は個室に引き上げました。夕食と共にその知らせはもたらされました。勇者である第二王子クラウディウス様も入学を決めたと。ついでとばかりに、隣国の第三皇子アルフレード様も入学するらしいと付け加えられました。

 その時ばかりは、作り笑いを浮かべずにすみました。それはおめでたいですね、私もお会いするのが楽しみです、と心から言えました。

 できるだけ一人でいたいので、と私はあらかじめ断って、夕食も一人でとります。今日もそうでした。お祝いをしませんかという誘いを断って、こうして一人で閉じこもっています。マディナさんならなにかと言って私を引き止めたかもしれないと思えば、少し寂しい気もしました。付き合いで断れないことももちろんありますが、そういう時はあのお方はなんやかんや言いますが、布石の一つとして邪魔はしないのです。

 魔法学校に入学すれば、相部屋になると聞いています。ですが、男性が二人いれば、彼らが相部屋となって、私は一人で部屋を使うことができるでしょう。ですから、魔法学校でもこうして一人の時間を作れるはずでした。いえ、本当は完全に一人とは言い難いのですが……。

 私はその日の夕食を、なるべく味わいながらも、なるべく早くかきこみました。食事は、自分の生を感じる大事な時間でした。それを邪魔されたくありません。だから、なるべく早く終わらすのです。あのお方が話しかけてこないうちに。

 その日のメニューは、ファルファッレに何か甘い果実と生ハムを合わせたものに、ロビの酸味のあるスープでした。舌を刺激する味に感謝しながら私は食べました。味覚は、おおよそ人間と同じならしいのです。昔、どのような味がしますか、と私がやたら周りの方に聞くものですから、風邪になっていないか病気になっていないか確認していると誤解をされたものです。ただ単に、私が同じ味を感じているかが知りたかっただけでした。そして、老いて死期が近付くと食べ物は無味になり、大病を患っても味覚は変わってしまうと知るのでした。

 私は、喉をとおっていく感触まで今度こそ忘れまいと思いながら、食べました。

 そして、食べ終わった後は、今日の楽しみが終わってしまったことを知りました。食器を部屋の外の床に置きます。粗野で横暴な行為かもしれませんが、私はこの時間に誰かと話すのがとても苦手なのです。

 あのお方と話していながら、どんな顔を人々に向ければいいというのでしょう。いえ、その時、私はどんな顔をしているのか自分でも分からないのです。

 廊下はしんとしていました。コソコソとしている自分にフッと笑いたい気持ちが押し寄せましたが、実際には私の顔は少しも動きませんでした。自分の感情と自分の振る舞いが乖離していることはよくありました。その方が都合が良いのです。あのお方にとって。

 私は、寝台に横になりました。両手を腹の上に添えて目を閉じます。他人から見たら、早く就寝したように見えるでしょう。

 実のところ、これから私の時間が始まると言っても過言ではありません。時に地獄のような、その時間が。私が生を受けた意味はここにあるのですから。

『それで?』

 無愛想な、全てをなんとも思っていない声が私に語りかけてきます。いいえ、正確には全てではありません。このお方が、ひたすら敵視している者がいます。そのために、私はこのお方に作り出されたのです。

『魔法学校への入学は無事決定しました。勇者も入学する見込みです』

 私はなるべく最低限の会話になるように、吟味した言葉を返します。

『ふーん、分かった。それで、ちょっと魔力使い過ぎてるようだね』

『王都でも、私の信頼を高めておいて損はないかと思いますが』

 いずれ仇なす人々に、少しは報いたいと思うのは、やはり罪でしょうか。その思いは押し殺していつものように提言しました。

『……そうだね。いずれ全員殺すんだ。せいぜい今のうちに生を謳歌すればいい』

 楽しそうな笑いが私の体に響きました。その、どこか虚無がある笑い声は、いつだって私の頭に響いて、私を縛るのです。

 このお方は、この地上を無に帰すという幻想に取り憑かれているようです。そして、新しく世界を始めるのだと、そういう狂気に侵されているようなのです。

 私は、このお方に創り出され、そのための手先としてここにいます。治癒術に特化した、そして人間を模した『人ではないもの』。それが私なのです。

 もう十年も昔のことでしょうか。王国東部の辺境に私は子どものなりをして降り立ちました。ひたすら出会う人々の傷を癒していきました。その人々にもらった食事の暖かったこと。そして、ありがとうと掛けてくださる言葉が温かったこと。それだけが、その日暮らしの支えでした。

 そのうち、聖教会に入り込むことに成功しました。そして、大陸中を回って、その治癒術で人々を救ってきたのです。私の名声は次第に広まりました。聖女、いつの間にかそう呼ばれるようになるまでに。

 私の、名前を知られると魔力が落ちますからという偽りの言葉も、その名声ゆえにすんなりと受け入れられました。本当は、名前なんてないのです。あのお方が名乗ることを許してくださらなかったので。私に名前を与えることをしてくださらなかったので。それでも、きっと、私は歴史に名を残すと思います。勇者を裏切った聖女として。魔王を前にした勇者を後ろから刺し殺した聖女として。そして、そのあと魔王に殺されてしまった愚かな裏切り者として。

 それでも、人々は負けないでしょう。私の同胞でもある、「人ではないもの」が人々を殺そうと世界に広まっても。戦い続けてきっと勝つでしょう。王国と帝国の辺境の地に住む方々を侮ってはいけません。

 この大陸の人々が滅んでも。獣人たちがいます。海の上の魔法同盟の方々だっています。

 私はその戦力をあのお方に内通する立場にいました。できるだけ、言葉を選んで伝えてきました。私は、裏切り者なのです。誰にも知られない、二重の裏切り者なのです。

 きっと、私の最期はその裏切りに相応しい辛く苦しいものでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ