12.LAST
彼女との仲直りから数日後の放課後、私はとある書類に必要事項を記入していた。今この室内には先輩と私しかおらず、先輩は退屈そうに私が書き上げるのを待っている。沈黙に耐え切れないのか静寂が嫌なのか、先輩が口を開いた。
「そういえば。ごめんね、姉さんが大分迷惑かけたみたいで。姉さん基本謝らないし、代わりにというのはおかしいけど、ごめんね」
「いや、構わないでください。あのおかげで助かったこともありましたし」
「そうなの? まあ、それなら良かった」
タケさんの撮影がなかったら、まだ彼女と一緒に過ごすのは先になっていたかもしれないのだ。私が決意を固めたタイミングとあの撮影を目撃したタイミングがうまくかみあったから、勢いで飛び出し彼女に想いを伝えることが出来たのだから。
「書けた?」
「はい」
私はペンを置き、用紙の向きを先輩のほうへ向けて手渡した。
「うん。ありがと。これで君も立派な放送部員だ!」
「ありがとうございます」
「でも兼部しなくていい? ラクロス部歓迎してるよ?」
ラクロスのクロスを振る動作をしつつ、ステップを踏む。
「兼部も考えたんですが、私は私のやりたいことをやろうと思ったんです。それと息抜きをしなさいと親友に、ひろっちに言われたので。やりすぎると息抜きも出来ないですから」
あの仲直りの後、彼女にとても心配されて言われたのだ。今回のことを思い返してみると勝手に暴走して、一人で自滅していただけだった。私にはまだ余裕やゆとりが足りないと自覚したのだ。
「なるほど、それなら仕方ない。休むことも大事だもんね。私は兼部三つしているから、姉さんにはよく休めって言われるよ」
たはは、と先輩は苦笑した。
「っと、いけない、練習行かなきゃ。じゃあ顧問の先生にこれ渡しておくよ。説明はまた明日の昼休みにー」
駆け足気味に言って、先輩は放送室から出て行った。
「私も帰るか」
教室へ戻ると、ひろっちが読書をしながら待っていた。
「終わった? 早かったね」
「ああ。簡単な内容を記入しただけだったからな」
「よしじゃあ帰ろー」
二人でたわいもないことを喋りながら帰る。帰り道が違うため校門までだが、その短い時間がとても幸せだった。
「それにしてもさ、案外目標が簡単に達成できたから、実感が乏しいんだよね」
「何の話だ?」
「一学期の目標だって言ったの、覚えてない?」
記憶を遡って、文学部からの帰りのときにそのような会話をしたのは思い出せたが、内容までは出てこなかった。
「すまない」
「もー」
頬を膨らませてすねる彼女が可愛らしく、思わず微笑んだ。
「じゃあまた明日―」
「また明日」
手を振って、今日の別れを告げる。別れのはずなのに、また明日彼女に会えるという楽しみな気持ちで胸がいっぱいになった。
わたしはずっと前に進み続けることしかしなかった。だから曲げるとか柔軟とかの類はすぐには出来ないかもしれない。
でも、少し休むことくらいは、やってみよう。足を止めて、周りを見て、力を蓄えて。ただ前に進むことよりも、いい景色が見られそうだから。
"Take a break."意味と響き、どちらも好きな言葉です。
単純だと「休む」だけですが、「ちょっと止まるけどまた前に歩き出そう」って意味合いを感じて、とても好きです。
これにて現在の話は終わりです。あと1話だけ、四年前の話を載せますのでそれまでどうかお付き合いください。




