11.4
「カーット!」
鋭く短い声が辺りに響いた。
銃声のように瞬間的に響く大音量は途端に周りを静寂にし、注目を集める。声の主は、先程までギラギラと目を光らせていた女性だった。今は覇気がなく、面倒そうに頭を掻いている。
「今いいとこだったのによ。二人の熱い友情がどういう結末を迎えるのかドキドキして最前列で見てたってのに、水を差すなよボウズ」
「すんません、見てられなくて。つい」
彼が軽い口調で答える。先程まで暴力を振るわれていた相手に対する態度というより、仲間内の上下関係のようなものが見えた。
「ゆうっち!」
男の拘束から逃れた彼女が私に走りよってきた。私の胸に頭を預け、襟を掴み、「ごめんねごめんね」としきりに繰り返す。
今、何が起こっているのか。これは今どういう状況なのだ。
共通言語を知らない世界に一人だけ放り込まれたような錯覚に陥る。
「つい、じゃないよ全く。今のどんな感じで撮れてたか確認して」
「了解ですタケさん」
女性が男二人組みに指図し、二人はそれを受けた。
「……タケさん?」
知っている単語を捉え、自分の中で繰り返す。真っ白のパズルに輪郭を見つけた気分になる。続けて今までの記憶が前から後ろへ流れていく。
「ああ、自己紹介が遅れたね。あたしは映像団体ブレイクの代表、TAKE。皆からはタケさんって呼ばれてる」
タケさんはニッと力強く笑い、右手を差し出した。戸惑いながらも私も右手を突き出して、握手をかわす。
「恋愛物にしようとしてたけど、友情物もいいね。また書き直すことになるけど、そっちのほうがいい作品になりそうだ。あんたのおかげよ、ありがとう!」
ぶんぶんと音が聞こえるほど握った腕を振り、その後カメラを持ってきた男と言い合いを始めた。
「何なんだ、一体? 彼らは誰で、これはどういう状況だ?」
女性がタケさんだということは分かったが、それ以外が判然としない。目の前の女性がタケさんなら既に高校生ではないはずだが、高校の制服を着ている。高校生に見えない二人の男も一緒に。
「あ」
流れていく記憶の中から、ポツポツと点の記憶が浮かび上がっていく。
――活動拠点は市内だから映像撮影しているところに出会うかもね。
――恋愛もの、かな。
――ハプニングや偶然の類も組み込もうとするかね、姉さんは。
――すぐとも役者として動いて欲しいって。
――大人の人多くて主にその人たちの予定に合わせるから、平日の夕方とか急に活動するとかあるけど。
「これは、つまり」
記憶を整理し、現在の状況と情報をまとめて結論を導きだす。
「撮影をしていたということか?」
そこに私が乱入し、タケさんのハプニングをも組み込もうとする姿勢が組み合わさって続行された。それなら納得はまだしがたいが、理解は出来る。
私の言葉に、彼が口を挟む。
「そうだよ。だって、俺殴られたり蹴られたりしてんのに、全く大丈夫だろ? 全部演技だよ演技。後半はアドリブだったけどな」
演技。
理解は出来るが、心に引っかかるものがある。もちろんそれは、彼女のことだ。




