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ブレイク  作者: 湯城木肌
32/48

8.1

 

『ダメ子が嫌いだった。ダメ子は何をしても駄目だった。勉強をするにしても、運動するにしても、人との付き合いにしても、やることなすこと裏目にでてしまう。

 

 だから、ダメ子は「いい子」になりたかった。


「いい子」になればみんなが自分を見てくれる、相手をしてくれる、誉めてくれる。そして何より存在を認めてもらえる。

 だから、ダメ子は努力した。

 自分の目指す「いい子」になるために。

 

 親のいいつけをしっかり守った。教師の指導をきちんと受け入れた。規則を遵守し、全てに従った。皆が寝ている時間に勉強をした。皆が遊んでいる時間に体を鍛えた。

 最初は全く成果なんて出なかった。ただ時間を浪費しているようだったが、耐えた。

 努力は必ず報われる。そう信じて。

 

 ダメ子から抜け出すためと思えば苦にはならなかった。

 そうするしか私に道はなかった。

 果たして努力は報われた。

 そう、報われたのだ。


「努力は必ず報われる」


 私は自分で体験し、これを証明した。

 これはまごうことなき真実なのだ』






 ノートを閉じ、また元の場所に挿しなおす。

 そうだ。あの時から私は変わらず、ぶれず、進んできた。

 これが私の思考の原点で、の私を構成する重要な核だ。自己満足なんてものは、認められない。

 

 昔の私を思い出し、思考の武装は磨き上げられ、本来の強さを発揮する。けれども心は彼女に向かっていく。磁力があるかのように彼女に近づけば近づくほど強く彼女に強く寄り添いたくなる。

 

 彼女とあの思想は別だ。だから、彼女との関係が復活しても問題はない。

問題はないとは思いながらも、受け入れることは出来なかった。

 受け入れたら彼女と一緒に思想も受け入れることになりそうで、それは私の今までを否定することになるからだ。

 

 思考が堂々巡りになる。

 きっと私は答えが出せない。

 私以外の誰かなら、代わりに答えを出せそうなのに。

 例えば、彼女とか。

 でもそれはダメだ。

 他に私に知り合いはいただろうか。

 ああ、いつも一人だった私に、そんな都合のよい人物などいるわけがなかった。

 

 この心と思考が分離した状態がいつまで続くのだろう。

 これが何日も続いたら、私の心は保ちそうに無い。


「明日」


 静寂な自室に言葉が染みる。

 そう、明日だ。

 明日、前に進む。

 

 明日彼女に会いさえすれば、自然な流れで口を開き、すぐ元の関係に戻るだろう。

 それで全ては解決できる。

 

 矛盾や不都合は何も考えない。

 それ以外に私に選択権はないのだ。


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