6.4
それから他の文学部部員が図書室にやってきて、活動が開始される。和気藹々といった様子で、楽しく談笑しながら詩作していた。中には紙とペンに没頭している人もいたが、休憩の時には部員と談笑して図書室の雰囲気は明るかった。
時計が八時を回り、部長の「そろそろ終るよー」という軽い呼びかけで部員は片づけを始める。
私はその様子をぼうっと眺めていた。
もし部活に入部したらこの光景が日常になるのだなとぼんやり考える。
「どしたの」
彼女が顔だけ見えるようにして、机の縁につかまっていた。私の顔を心配そうに見上げている。
「いや、何でもないよ」
顔を上げていつものように表情を引き締めなおす。
机の下に隠していたまたも愛くるしい小さな体で跳ねて、机に両手をつけた。
「ゆうっち、もし心配かけたくないと考えてるなら」彼女自信満々に指を突きつけた。「笑いなさい」
彼女の突飛な行動は段々と慣れてきているので、別段驚くことなく、言葉を返す。
「心配かけたくないと思って言ったわけじゃないさ。大丈夫だから。それに笑うのが苦手なのは知っているだろう」
「大丈夫ならよかった。まるでトイレを我慢しているみたいに苦しそうだったから」
「そうか?」
文学部に入部した自分を想像していただけで、苦しんでいるつもりはなかった。
「うん。我慢して顔を変えないようにしてる、そんな顔だった」
その時部長が手を叩き、図書室にいる人間の視線が一斉に向く。
「じゃあ今日はこの辺で。一年生来てくれてありがとうねー。また水曜日に会いましょう。お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー」
部員の声に合わせて、私と彼女も礼をして、図書室を出た。
階段を降りながら彼女が私に顔を向ける。
「あ、さっき言い忘れてたけど、笑わせるのは諦めないよ。ゆうっちの笑顔を夏休みまでに拝むのが、私の一学期の目標だから」
またくだらないことを、と少し微笑むが、彼女にとってそれは笑顔に分類されないらしい。口を広げて顔が崩れるほど腹の底から声を出すこと、それでようやく笑顔なのだという。
「それは大変だな」階段を降りて校門へ足を運ぶ。「まあ、頑張ってくれ」
「何それ人事みたいにー」
「頑張るのは私ではないからな」
「ゆうっちも頑張ってよー」
「遠慮する」
「むー」
彼女は腕を組み、口を尖らせる。何か私を笑わせる案でも考えているのだろうか。
「君は入る部活を決めたか? 今の文学部も面白そうだし、先輩のラクロス部や放送部も興味深そうだ」
私が何気なく発言すると彼女は気まずそうに頭をかいた。
「あー、わたしはブレイクのほうをやるから部活はちょっと難しそうかな。本当はゆうっちと同じとこに行きたいんだけど、ごめんね」
「謝ることはないさ」
校門までたどり着いて、互いに手を振る。彼女は大きく、私は小さく。
「また明日」
「またあしたー」




