炎帝
今回はようやく本格的な敵の登場です。
修正しました。 1/1
壁を修理するために石か岩を見つけるつもりだったんだが…なぜだかそういった壁の修理に使えそうな物が見つからない。
この大森林は誰かが整備しているわけでも山のような斜面になっているわけでもない。
事実以前であれば…死者の都を探すため森の中をさまよっていた時はであればたまに見かけたのだ。
だからこそ探そうと思ったわけなのだが…なぜこうも見つけることができないのだろう?
しばらく森をさまよってみたが壁を修理するほどの量は見つけることができなかった。
普通は岩が大量にある川の周りも調べてみたが目ぼしいものはほとんどなかった。
子どもが走り回ったところで大きな怪我はしないだろう。
それほど見事に何もなかった。
さすがにこれはおかしい。
(岩などあってもなくても変わらんだろう?)
今困っているわけだが?
(普段はあったところで邪魔なだけだというのに探せば見つからんとはな)
確かにその通りなんだが今感じている疑問はそうじゃない。
間違いなくあったものがなくなっている。
しかも普通は見つけることができる場所にすら何もない。
これはさすがにおかしいだろう。
そんなことを考えながらアリエルの反応を待っていると少し離れた茂みから男が現れた。
「ああ、くそっ。あの婆適当なことほざきやがって…。ん?おお、ちょうどいい所に人が居てくれたもんだ。ついてるぜ」
人と言うのは俺のことだろうか?
まあ俺以外に人影はないから俺のことだろうが。
「おい、あんただよ。聞こえてんのか?」
返事はできないので頷いて答える。
「聞こえてるなら返事くらいしてくれよ。まあいい、ルフ要塞ってのがどこにあるか知らないか?ちょいとそこまで行きたいんだが道に迷っちまってな」
ルフ要塞か。
たしか向こうの方向にあったはずだ。
そう思い要塞の方を指さす。
「あっちにあるってことか?」
再び頷いて答える。
「なるほど、ありがとよ。…それと悪いんだが要塞の近くまで一緒に来てくれないか?聞いた話だが最近は物騒っらしいじゃないか。どうも一人での行動ってのは不安で仕方なくてな」
まあそれくらいならいいか。
もう一度頷き要塞の方に向かい足を進める。
「待ってくれよ!」
置いていかれるとでも思ったのだろうか、男は急いで俺の横まで走ってきた。
「せっかちな人だな。少しくらい待ってくれてもかまわないだろ?」
返事をする手段がないのでただ足を動かすだけになってしまう。
「…だんまりか。まあ、いいけどよ…」
答える方法がないだけなんだ。
そう伝えたいわけだがそれを伝える方法がない。
今の俺では頷くか首を振るかくらいの意志表示しかできない。
「…そうだな。なら軽く俺の話でもしようじゃないか。あんた炎帝って知ってるか?」
頷く。
知っていて当然だ。
討伐者の中には何人か本物の怪物が居る。
その中の一人が炎帝と呼ばれる者である。
敵を倒し、味方を癒す炎を扱う聖火とただ敵を打ち倒す炎帝。
同じ火を扱うものでありながらその存在はまったく異なる。
聖火と呼ばれる者は敵を倒しながら味方には絶対に被害を出さないということで有名である。
なんでもその炎は味方と認識しているものは決して傷つけず、それどころか重症でさえすぐに治癒してしまうらしいのだ。
聞いた話では討伐者たちの英雄的存在であるらしい。
対して炎帝は敵も味方も関係なくただ被害をまき散らすらしい。
炎帝を本人を除きあらゆるものを燃やしつくす炎。
それが炎帝の使う炎らしい。
ある意味では火と言う本来であれば動物が恐れているものの本質を体現したかのような者である。
だからこそ嫌われているらしいがその実力は高いらしい。
「知ってるなら話は早いな。実はその炎帝がルフ要塞に呼ばれたらしくてな。わざわざ炎帝が呼ばれる何かがあるのかと思ってルフ要塞に行こうとしたんだが…道を教えてくれた婆が不親切なやつでな。大森林を横切ればすぐに着くなんて言いやがるんだ」
どこから来たのか知らないが森の向こう側なら間違った教え方ではないのだろう。
不親切ではあるが。
しかしこの時期に炎帝がルフ要塞に来るのか。
間違いなく死者の都絡みだろう。
「その言葉を信じてその通りに進んで見たらこのざまってわけだ。ほんとあんたがあそこにいてくれてよかったぜ。まあ、俺の話はこんなところだ。俺はそんな感じだが…あんたはなんであんな場所にいたんだ?」
「…」
「いやー、ほんとに無口だねぇ」
男はそういい苦笑するかのような口調で話していた。
それはまるで俺がしゃべらないことを知っているような。
いや、まるで…俺がしゃべらない方がおもしろいとでも言うような口調でもすらあった。
「話が変わって悪いが、これは俺のダチが言ってた話なんだが…食らうものって名前のついた討伐対象がいてな。こいつは知能と言うか知性と言うか、まあ考える機能が残ってる悪霊らしくてな。おそらくだが人間の言葉が理解できるらしい」
その言葉を聞いた時俺は足を止めた。
止めてしまった。
「だがその悪霊のことより死者の都に現れた何度でも甦る悪霊の方が危険だって話でな…そっちは放置された形になったわけだ」
男は俺に合わせるように真横に並んだまま歩みを止めている。
「ただな…最近名を上げてきてる竜牙の姫ってやつが死者の都で食らうものを見たなんて言い出したから話がややこしくなった。やつらの関係性は?預言者の、死者が再び動く時それは彼らの王が声をかけた時になるだろう、なんて予言は当たっているのか?そんなことばっかり言い出して収拾がつかなくなった」
話を聞きながらゆっくりと首を男の方に向ける。
男はその話をしながら、笑っていた。
「馬鹿なやつらだよな?関係?預言?王?そんなことが分かったからなんだってんだ?関係性が分かったから倒せるのか?予言が当たったから殺せるか?王がいたから凶暴になったのか?…そうじゃないだろ」
男は体ごとこちらを向く。
そこに距離を取るなどと言う逃げの姿勢はない。
「要するに…そりゃ全部敵が倒せるかどうかって話を飾ってるだけだろう?」
男がそう言った瞬間、空間が爆ぜた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギルド長のばあさんから作られたばかりのルフ要塞に行けと言われた時はめんどうだとしか思わなかった。
猛威を振るった悪霊に対抗するために~、だの、本来討伐者とはこういった時にこそ~、なんて説教臭い長話まで始めやがるし…。
しかしこのばあさんにはただの悪ガキでしかなかった俺を一人で生きていけるまで育ててもらった恩があるため黙って耐えるしかない。
ギルドを出てルフ要塞への道中で最近の情報を思い返す。
悪霊、食らうもの。
悪霊でありながら人の言葉を理解し光魔法を無効化する存在。
魔法はすべて魔力に分解され、食われる。
武器も何らかの方法で使いものにならなくされてるらしい。
戦うと必ず何かを食われる存在。
ゆえに、食らうもの。
思い出しただけで興奮する。
体の興奮に合わせるかのように体から魔力が煙のように立ち上る。
おおっと、まずいまずい。
慌てて自分を落ち着かせるため深く呼吸をする。
さっさとばあさんの頼みを終わらせて探しに行こう。
そう思うことでこの使い走りの用事もやる気が起こるというものだ。
大森林に入り森を横切っていく。
だが休憩しようと思っていた川の近くに行くと急に嗅ぎなれた匂いがした。
これは…死の匂いである。
しかもかなり濃厚なものである。
この匂いを放っている存在はかなりの数を殺したのだろう。
…ばあさんにはできるだけ早く行けと言われたが急いで行けとは言われていない。
少しくらいの寄り道なら問題ないだろう。
俺はそんな軽い気持ちでまっすぐ進むだけでよかった道からほんの少しだけ進路を変更した。
爆発。
男を、炎帝を中心として起こったそれは周りの木を吹き飛ばし地面をえぐり砂埃を巻き上げる。
技と言うほど洗練されているわけではないそれですら並みの生き物であれば即死の威力を秘めている。
いや、秘めているのではなく見せつけている。
収束もなにもないただの爆発、それでこれなのだと敵対者に見せつける。
それは例えるなら怪物の咆哮だ。
己の力を見せつけて戦意を挫く、まずは小手調べに、さまざまな思いが乗った手加減しているわけではないが洗練されているわけでもない先制攻撃であった。
さあどうくる?
間近で感じた死の匂いは濃厚であり一体どれほど殺せばこうなるのか想像もつかない。
その身から感じるそれはただの人間であればすぐさま死んでしまうほどの瘴気であった。
これほどの匂いをまき散らすまで殺し続けてたであろう存在がこの程度で死ぬはずがない。
巻きあがった砂埃の中から人影が現れる。
纏っていた外套は吹き飛び、全身鎧だったそれも兜が吹き飛んでいる。
その兜の中から覗いた顔は当然のように骨であった。
また鎧は左肩から左胸にかけてのみが壊れており手鎧も二の腕の部分が破壊されている。
おそらくあの傷が生前の致命傷となったものなのだろう。
そうして目の前の悪霊、食らうものを観察していると竜の意匠が施された鎧と目があった気がした。
鎧と目が合うなんて馬鹿な話はない。
だが確かにそう感じたのだ。
常識と直感、どちらを優先した方がいいのか?
それは当然…直感だろう。
おそらくあの鎧には何かある。
その直感に従い鎧の竜の部分の意匠めがけて槍のように収束した炎を飛ばす。
かなりの速度と大体の相手はこれで貫ける攻撃力を持つ戦闘の際にもっとも使用する技である。
しかし炎の槍は鎧を貫けず霧散する。
だがそれは今まであらゆる攻撃を食ってきた食らうものに初めて攻撃が通ったという大きな意味があった。
しかし今この場にそれを指摘する者はいない。
ゆえに炎帝はただ思う。
「硬いな」
口を衝いて出た言葉は単なる感想。
自身の持つ技を無傷で受けた相手に対して恐怖も怯えも高揚すら覚えない。
ただ今まで巡り合ったことがないほどの超えるべき、倒すべき敵がいる。
硬いならばどうするか?
どうすれば倒せるのか?
戦い始める時には確かに感じていたはずの高揚はなりを潜め今彼の心を占めるのはただそれだけだった。
どう攻めるか考えていたという一瞬の隙。
その一瞬で一気に近付いた食らうものはいつの間にか取り出した剣を抜き放ち振り下ろそうとしていた。
だが炎帝はただ速いだけの攻撃など今まで飽きるほど見ている。
半歩ほど下がり攻撃を紙一重で避け至近距離で爆発を叩きこんでやろう。
しかしその思いは自らの取った手が悪手であることを知る結果になっただけであった。
食らうものの踏み込みに合わせるように地面が沈んだのだ。
食らうものの振り下ろしはかわせたがその代償のように半歩下がった形のまま膝下あたりまで両足が沈みこむ。
そして足が沈んだ瞬間体から力が抜けていく。
張っていたはずの魔力も、体力も、戦意ですら瞬く間に減っていく。
すでに食らうものは二太刀目を振ろうとしている。
残った力で再び爆発を起こし足に纏わりつく地面であった何かを吹き飛ばす。
それと同時に強力な爆風に押される形で食らう物の体勢が崩れる。
だが今度は安易に反撃など考えず大きく跳びのく。
すると踏み込んだ場所の周辺と飛び退いた獲物を追うかのように俺が飛び退いた方向に向かい地面が泥沼のようになっていた。
なんという技だ。
一太刀目はあくまで見せるためのものであり注意が剣に向かっている間に足元を崩して確実に二太刀目で殺す。
しかも崩している地面から魔力やら体力やら気力やらを吸われるおまけつきだ。
知っていなければほぼ確実に殺され、知っていても回避はできるが反撃は難しい。
しかし手がないわけじゃない。
聞いた話でも、先の攻防の時もこいつは接近して攻撃という方法しかとらなかった。
それが脅威なのだが近づくことを妨害することができればおそらく勝機はある。
先ほど食らった謎の攻撃のせいで魔力は減り体は疲れきっている。
次に接近されては一太刀目すらかわしきれるかどうか分からない。
両手を突き出し両手から爆発と炎が出るという感覚を固める。
昔この能力を鍛えた時以外では初めてのその行動。
久しぶりではあったが体は覚えているようで立ち上る炎が、すべてを吹き飛ばす爆風が、まるで幻視しているかのようにはっきりと見ることができる。
食らうものは一気に勝負を決めるつもりらしく力を溜めているかのように腰を落としている。
だがもう移動などさせるつもりはない。
力を溜めている食らうものに爆発を叩きこむ。
先ほどと同じに見えるが秘められた威力は確実に上がっている。
だがそんな物でこいつは仕留めることはできない。
その考えが正しいと言うかのように爆発の中から食らうものが飛び出してくる。
速いが、やはり直線的すぎる。
しかしこれは俺の今の状態を知っているが故の最短を通っての行動なのだろう。
俺は接近されると負ける以上迎撃するしかない。
槍ではだめだ、貫けなかった。
爆発はだめだ、吹き飛ばすことはできない。
ならば…やつの真似をしよう。
高温の炎が壁となって一気に立ち上る。
だがこんなものでは一息のうちに超えてしまうだろう。
だからこそ爆発で狙ったのはその壁に隠れた地面であった。
食らうものが炎の壁を無視して突っ切ろうとした時やつの足が少しだけ沈んだ。
足を着くはずの地面が抉れていたのだ。
目測で距離を測っている以上こればかりはどうしようもないはずだ。
大きく体勢を崩している食らうものめがけて上から押さえつけるように爆発を発生させる。
それと同時に右手に炎を発生させ残った魔力を炎に食わせて大きくしていく。
食らうものが初めて膝をついていた。
この戦いで初めて自分が有利に立っているという実感。
俺が膝をつかせたという確かな事実。
あとは動けない食らうものに最高の攻撃を叩きこむだけだ。
それで無理なら一度逃げればいい。
確かにそう思っていた。
だがやつはまだ手を残していた。
ここまで動きがなかった左腕に巻きついた蛇が動いた。
あまりに動かないから装飾か何かだと思ったがあれは違う、そんなものではない。
そして思い出す。
たしか食らうものは、左手に蛇を巻きつけた悪霊であったのだ、と。
蛇の体が脈打つ。
遠目ですら確認できるその不気味さ。
だがその効果は異常の一言でしかなかった。
爆風が収まる。
そしてもう発動することがない。
それはまるで、あの一帯のみが湿りきった空間になってしまったかのような感覚であった。
今までとは全く違う行動に戸惑ってしまう。
そして再度蛇が脈打つ。
それに反応しまだ十分育ち切っていない炎を飛ばしたのは半ば以上無意識であった。
強烈な恐怖ともいえるその感覚に反応し好機を逃した…わけではなかった。
次の瞬間わずかな溜めもなく巨大な水弾が発射されていたのだ。
明らかに俺より遅く打ち出しておきながら炎弾と水弾がぶつかったのは俺と食らうものの中間ですらなかった。
わずかに、だが目視で確認できるほどには確実に俺の方でぶつかったのだ。
水弾は一瞬で蒸発するが勝っていた勢いの分だけ押し込むように俺の方に向かい熱された水蒸気となって襲いかかる。
すぐに体の周りに高温の炎を纏いそれをなんとか凌ぐ。
だが最大級の好機を逃した上あんな攻撃手段を持っていたなんて思いもしなかった。
しかもあれほどの速度、威力、大きさの攻撃を一瞬で発動させたのだ。
どれほどの錬度でなされた術なのか、それとも術ではなく俺と同じような能力なのか今の俺ではその見当すらつかない。
あんなものを見せられてはもう逃げるしか手はないだろう。
先ほどの攻撃のせいで周りには水蒸気が霧のように立ちこめており視界が悪い。
加えて念のためと思ってわざわざルフ要塞の近くまで移動したのが役に立つなんてな。
知性があるなら追ってこないだろう。
それともこの存在ならば要塞さえ落とすことができるのだろうか?
…まあそうだったらどの道俺は死ぬだろう。
ならば少しでも生き残る可能性の高い方を選ぶしかない。
炎帝として初めての敗北を胸に刻み次は必ず倒す、と他ならぬ己に誓い初めての逃走を始めるのであった。
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