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帰る場所――忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつくー ミア×キース編  作者: HANABI


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番外①:はじまりは騒がしく(2年・春)

忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく

のスピンオフです。

ミア&キースの裏話〜その後


主人公が違うので別のストーリーにしています。

本編を読んだほうが楽しんでいただけるかなと思いますので、(〇〇)の中に本編の場所を記載しています。


どうぞお楽しみください。

春の光が、教室の窓から柔らかく差し込んでいた。

新学期特有のざわめきが、空気を軽く震わせる。


席に着いたまま、ミアは頬杖をつきながら教室を見渡していた。


(今年も賑やかになりそうだなあ)


くるくると表情を変えるミアの顔は、どこか楽しそうで。

そのとき、教室の扉が開いた。


「今日からこのクラスに入ることになった、リナだ」


クロードの低く落ち着いた声。

視線が一斉に集まる。


すらりとした、けれどどこか柔らかい雰囲気の少女が、少しだけ緊張した様子で立っていた。


(あ、いい子そう)


それが、ミアの第一印象だった。


「よろしくお願いします」


少し照れたように笑うその表情に、教室の空気が一瞬和らぐ。


(うん、絶対仲良くなれるやつ)


ミアはすぐに立ち上がった。


「ねえねえ、席こっち空いてるよ!」


ぱっと手を振ると、リナが少し驚いた顔をしてから、ほっとしたように笑って近づいてくる。


「ありがとう」


「ミアだよ。よろしくね!」


自然と会話が弾み始める。

その様子を、少し離れた席から眺めている人物はキースだった。


(よくあんなすぐ話しかけられるな)


特に興味があるわけでもない。

ただ、視界に入ったから見ているだけ。

けれど、ミアの笑い声は妙に耳に残った。


「ねえ、学園って、やっぱり厳しい?」


「うーん、先生によるかな。でもクロード先生はちょっと怖いかも?」


「そうなのね」


ころころと変わる表情。

距離を詰めるのがうまい。


(……騒がしいな)


小さく息を吐いて、視線を外す。

それが、最初だった。


授業の合間、廊下は人の流れで少し混雑していた。

移動しながら、ミアはリナと楽しそうに話していた。


「このあと訓練場行く?見学だけでも面白いよ」


「行ってみたいわ」


そのとき。


「あっ」


ミアの手から、抱えていた教材が滑り落ちた。

ぱらぱらと床に広がる紙。


「うわ、最悪……」


しゃがみ込もうとした瞬間、目の前に手が伸びた。

無言で、紙を拾い上げる。

視線を上げると――


「……はい」


キースだった。


「え、あ……ありがと!」


少し驚いて、声が上ずった。


「別に」


短い返事。

でも、ちゃんと全部拾って渡してくる。


「無口なんだね」


つい、ぽろっと言う。


「そうでもない」


「え、じゃあ喋ってよ」


少し笑いながら言うと、


「今してるだろ」


間髪入れずに返ってきた。


一瞬、ぽかんとする。

次の瞬間、ミアは吹き出した。


「なにそれ、確かに!」


くすくすと笑う。

キースは少しだけ眉を動かしたが、何も言わない。

ただ、ほんのわずかに空気が柔らいだ気がした。


(……あれ?)


ミアは首をかしげる。


(思ってたより、ちゃんと喋るじゃん)


最初に感じた“話しにくさ”が、少しだけ変わる。


「ありがとね、本当に助かった」


「気にすんな」


それだけ言って、キースは歩き出す。

振り返らない。でも、無視された感じはしなかった。


(変な人)


そう思いながらも、ミアは少しだけ口元を緩めた。


放課後。

 

少し傾いた光が、廊下をオレンジ色に染めている。

教室を出たところで、ミアは足を止めた。


「あ」


少し先に、見覚えのある背中。


「ねえ」


軽く声をかける。

キースが振り返る。


「さっきはありがとね」


「……もういいって」


「でも助かったし」


少しだけ近づく。


「ちゃんとお礼言いたかったから」


真っ直ぐな視線。

キースは一瞬だけ目を逸らす。


「……なら、それでいいだろ」


短く答える。

でも、その声は少しだけ柔らかかった。


「うん、いい」


ミアはにっと笑う。


「あとさ」


「なんだ」


「思ってたより喋るね」


「……うるせえ」


少し照れたように、目線を逸らして小さく返す。

けれど、完全に否定はしなかった。

その空気が、なんだか心地よくて。

ミアはふと、思う。


(……話しにくい人、じゃないかも)


むしろ。


(ちょっと変だけど、ちゃんと優しい人)


キースは先に歩き出す。


「じゃあな」


「うん、またね!」


手を軽く振る。

キースは振り返らない。


でも、歩く速さがほんの少しだけ緩んだ気がした。

ミアはその背中を見送りながら、

少しだけ首をかしげる。


(……なんか)


胸の奥に、小さな違和感。

嫌じゃない。むしろ――


(ちょっと、気になるかも)


それはまだ、名前のつかない感情だった。


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