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この変化に気づかない君  作者: 中野奏・憑野愁
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6月〜おうちで勉強会〜

 少しだけ毛先を整えてから、インターホンを鳴らす。庭には色鮮やかな紫陽花。連日降っていた雨のせいか、花びらの一枚一枚が陽光をキラキラと反射していた。流石、手入れが行き届いているなぁ。そんなことを思っていると、ドアがガチャリと音を立てた。


「お待たせ。ごめんね、少しバタバタして。」


「ううん。大丈夫。」


「さ、入って入って。」


「お邪魔します……。」


「今日は親居ないからリビングでやろうか。」


「はーい。」


 久しぶりに入った芹の家は相も変わらず綺麗に整頓されていた。


「適当にかけてて。」


 芹がお茶を注いでくれているので、その間に勉強の準備をする。


 そう。今日の目的は勉強なのだ。毎回、定期考査が近づくと、二人で勉強をしている。図書館だったり、学校だったり場所は様々だ。


「さ、やろうか。」


「うん。」


 こうして、二人で考査へ向けての勉強が開始された。



 ——————



「芹、ここなんだけど……。」


「あぁ、そこはこの公式を……。」


「成程!ありがとう。」


「いえいえ。」


 ちらと壁の時計を見る。かなり集中していたので気がつかなかったが、いつの間にか12時を過ぎていた。


「そろそろお昼にしようか。」


「そうだね。もうそんな時間か。」


「何食べたい?」


「んー、なんでもいいよ。」


「それ、主夫が言われたら困るランキング殿堂入りだよ。」


「だって、芹の作る料理は何でも美味しいんだもん。」


「ありがと。」


 嬉しい反面、本当に何を作って良いか迷う。一先ず、冷蔵庫に何があるのかを見てみることにした。


「チャーハン、ナポリタン、オムライスくらいなら直ぐ作れるけど……。」


「んー、カルボナーラは?」


「できるけど、少し時間かかるよ。」


「大丈夫!カルボナーラ食べたい!」


「了解。ていうか、ちゃんと食べたいものあるんじゃん。」


「ふふ。でも、芹が作ったものが何でも美味しいのは本当だよ。」


「ありがとう。じゃあ、作るからちょっと待っててね。」


「はーい。」


 カルボナーラを作るのは随分と久しぶりだ。昔からカルボナーラ作りにはこだわりがあって、ソースから必ず手作りする。生クリーム、卵、チーズを混ぜ合わせ、隠し味を少々。長年の経験から生み出された秘伝のソースだ。


 麺を茹でている間に具材を切る。


 すると、カウンターの向こうから視線を感じた。


「薺?どうかした?」


「あー、いや、うん。」


「……?」


「芹の割烹着姿、可愛いなぁと思って。」


「う……。」


 家には何故かエプロンがない。そのため、普段から割烹着を着用しているのだけれど……。まさか可愛いと言われるとは。照れる反面、少し複雑でもある。


 どうせなら格好いいと思われたいなぁなんて……。


 そんな気持ちを吹っ切るかのように麺の湯切りをする。そして、適度に温めたソースに絡めた。余談ではあるが、ここでスープを温めすぎると固くなってしまうので注意が必要だ。十分にソースが絡んだら、器に盛り付けていく。仕上げに、黒胡椒と半熟卵を乗せたら完成だ。


「できたよ。」


「わーい!」


「「いただきます。」」


「ん!おいしー。やっぱり芹の作る料理は絶品だよ。」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。」


 どうやらカルボナーラは無事、彼女の口に合ったようだ。


「ん、芹どうかした?じっとこっち見て。」


「いや、美味しそうに食べるもんだからつい見ちゃってた。」


「ん……。」


「ごめん、見られてると食べにくいよね。」


 そう言って、自分のカルボナーラに口を付ける。彼女が赤面していたように見えていたのはきっと気のせいだろう。


 久方ぶりに作ったカルボナーラは悪くない出来だった。自分でつくっているからか特段美味しいとも感じないが……。まぁ、彼女が喜んでくれたので良しとしよう。


「ご馳走さま。」


「お粗末さまー。」


「お皿、どうすればいい?」


「あ、かたづけとくから置いといて。」


「でも、やらせてばっかで申し訳ないし、何か手伝うよ。」


「うーん。じゃあ、お皿拭くの手伝ってよ。」


「分かった!」


 お皿の数も少なかったので、後片付けは直ぐに終わった。


 二人で一緒に水仕事をするのが、何だか夫婦のように思えて少し嬉しかったのは彼女には秘密だ。


「よし、じゃあ勉強再開しようか。」


「うん!」




 ——————



「むーずーかーしー。」


 勉強を再開して3時間程。苦手分野をやり始めたこともあって、段々と手詰まりになってきていた。


「少し休憩にしようか。」


「うん、そーする。」


「そうだ、ちょっと待っててね。」


 そう言うと、芹は冷蔵庫から何かを取り出した。


「はい、これ。一緒に食べよう?」


「これって……。」


「ヨーグルトケーキ。この前気に入って貰えたみたいだからもう一回作ってみた。」


「よくそんなの覚えてたね……。」


 かれこれ2年くらい前だろうか。その時も今日と同じように二人で勉強をしていた。その時に芹の作っていてくれていたヨーグルトケーキがとても美味しかったのを覚えている。


「これ食べて少し休憩しよう?」


「うん!いただきまーす。」


「どうぞー。」


「んー!美味しい。」


 久しぶりに食べた芹のケーキは相変わらず絶品だった。仄かな甘味と程よい酸味が口一杯に広がる。


「芹はきっと良い旦那さんになるね。」


「…そうかな?」


「そうだよ!料理が出来て、細かな気遣いもできるなんて、評価高いよ!」


「ん……。ありがとう。」


 芹は照れているのか、少し顔を赤らめていた。そんな芹を私が貰ってしまいたいなんて思ったのはまだ内緒だ。


「美味しかったよ。ご馳走さま。」


「お口に合って良かった。それじゃあ、糖分補給もしたことだし、勉強を再開しようか。


「うん。頑張る!」


 こうして、その後も二人で勉強を続ける。少しの休憩と糖分補給が功を奏しとても集中することができた。


 2週間後、テストの結果が返却された。私は学年72位。私にしては中々頑張った方ではないのだろうか。因みに芹は学年2位。やっぱり芹は凄い。


 今回の勉強会の時にも感じた。私はやっぱりそんな芹のことが……。


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