46話 亡国の姫君
俺たちがエターニア王国に戻ってこられたのは、空がうっすらと白みがかり夜が開けようとしていた頃だった。
目前に広がっていたのは、無惨なまでに破壊され尽くされて瓦礫の山と化したかつての聖都であった。
まるで血の湖だ。
襲撃に遭ったのは深夜ということもあり、火の手は上がっていなかったが、白い瓦礫の下からは人間の死体の一部とおびただしい量の血液が今も溢れ出して膝の下まで浸かってしまう。
「こいつぁ、ひでぇ」
「全部あの巨人がやったのかな……」
ゼルとアイシャはジャブジャブと血溜まりの中を進んでいき、生存者がいないか確かめようとするが徒労に終わった。
辺りは不気味なまでに静まりかえっていて、俺たち以外生きている人間の気配すらない。
あれほど栄華を極め、煌びやかに活気づいていた王国がたった一夜にして巨大な廃墟と化してしまったのを目の当たりして、俺はいい知れない虚無感を感じていた。
ただこうして地獄絵図のような光景の目の当たりにしてしまうと、エターニア王国が陥落したことを認めざるを得なかった。
「……」
あれからクリスタは覚悟を決めていたのか、昨夜のような取り乱した様子はなく、地獄のような惨状を目の前にしてただひたすらに祈りを捧げている。
「トウリ様、お願いがございます」
「……な、なんだ?」
クリスタに唐突に話しかけられて、意表を突かれた俺は素っ頓狂な返事を返した。
「ぜひ私をイースターエッグ討伐のパーティに加えていただけないでしょうか?」
「え?」
思わずクリスタの方へと振り返る。
そこには毅然とした佇まいの一国の姫の姿があった。
「いいのか? かなり厳しい旅になるぞ。さっきの巨人ともやりあうことになる。あの巨人は幾万の軍勢を集めても敵わない」
「望むところですわ。私はお父様の仇とイースターエッグを打ち滅ぼし、ここにまたエターナル王国を再建することを誓いました」
「……い、いやでも、そんなに金もないししばらくは野宿とか食事もまともに取れない日とかが続くけどそれでもいいのか?」
「もちろんです。心構えはできております」
クリスタは遺体となった兵士の手から二本のククリナイフが地面に溢れ落ちているのを見つけると、おもむろにそれらを拾い上げて目を伏せた。
そして何を思ったのかそのまま綺麗に結われた髪を解くと、後ろ手にグッと束ねてククリナイフの刃を当てる。
「クリスタ! 何を!?」
バサ……ッ!
アイシャが止める前にクリスタはククリナイフで自分の髪をなんの躊躇いもなく切り落とす。
「お金が足りないのであれば、この髪を売って旅費の足しにしてください」
そう言ってクリスタは、先ほど切った絹のように滑らかな美しい髪の束を差し出して見せた。
クリスタの思い切った行動に、呆気にとられてしまいアイシャとゼルはあんぐりと口を開けたまま硬直してしまう。
「クリスタ……」
俺はしばらく沈黙する。
クリスタにあれだけの覚悟を見せられたのだ。
俺も覚悟を決めて応えなければ。
「わかった。クリスタもどうか俺たちの力になってほしい。共に戦おう」
「はい……」
俺とクリスタはお互いに真っ直ぐな瞳で見つめ合いながら、イースターエッグ討伐を固く誓った。
そうやって彼女の新たな姿を見ていると、なぜか転生前の幼少期の記憶がふと蘇り、自分が好きだったゲームのシーンが唐突に思い出される。
あれは、なんだっけ……。
「そうだ、名案がある! 指名手配の件もあるし、クリスタの名前は知名度が高すぎてこの先面倒なことになるかもしれない」
「え? ええ……そうですね?」
いきなり高いテンションで喋りだした俺に、クリスタは若干引き気味で返事を返した。
「そこでこれからは、クリスタではなく『ククリ』と名乗るのはどうだ?」
「ク、ククリ!?」
あまりに唐突な提案に、驚いた表情をするクリスタであったが、アイシャがすごい勢いで食いついてきた。
「ククリ、ククリ、ククリ……うん! その名前、クリスタのあだ名みたいでかわいいかも!? よく似合ってる!」
「そ、そうでしょうか……」
「ええ、いい感じの響きでさぁ! どうせならそのククリナイフを武器にしてみてはどうです?」
ゼルにもそう言われ、クリスタはククリナイフを握った手を見つめながら何度も付けられた名前を繰り返す。
「ええ、そうしましょう! 今から私はククリです! クリスタの名はエターニア王国が復興したそのときまで封印とします」
そう言い放ったクリスタの眼差しは、勇敢なものへと打って変わる。
鉄の匂いが混じった風が吹き流れると、空には太陽が上り一筋の光が差し込んでまるで彼女の再誕を祝福しているかのようだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回はとあるゲームのオマージュを入れてみました。
さて、それはなんのゲームでしょう??
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