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剣の娘  作者: 田中
第十章 緑光騎士隊
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忍び

 カミュが呆然としていると騎士達が彼女の周りに集まって来た。

 子爵領の騎士だけでは無く他領の騎士も混じっている。

 彼らはカミュに次々と声を掛けた。


「隊長、子爵様のおっしゃった事は本当ですか?」

「カミュ殿、辛い幼少期を送られたのでござるな。拙者少し泣きそうになったでござるよ」

「先生、強すぎると思っていたけど、剣聖様の弟子だったんですね。道理で強い訳だ」

「カミュ、お前が剣聖の弟子とはな! 俺にもその剣技を教えてくれ!」

「先生、指導を受けた我々は剣聖の孫弟子という事になるのでしょうか?」

「剣聖様はどんな方でしたか?」

「隊長!」「先生!」「カミュ!」「カミュ殿!」


 次々と声を掛けられ、カミュが目を回しそうになっているとジェイクが騎士達を一喝した。


「貴様ら、子爵様のお言葉を忘れたか!!! 各自訓練に励め!!!」

「ハッ、ハイッ!!!」


 ジェイクの一括で騎士達はすくみあがり、カミュから離れ訓練を始めた。


「ありがとう、ジェイク。あんなに人に囲まれたのは初めてだわ」

「まったく、剣聖の弟子と分かったとたんこれか。まぁ効果てきめんだった訳だが」

「……ガリウス達は放っておいていいの?」

「諜報部が監視についているそうだ。後、誰だか分からんが味方もいる様だしな」

「味方?」


 ジェイクはカミュに机に置かれた手紙の事を話した。

 あの手紙のお蔭でガリウスについて探る事が出来たし、侯爵側の騎士を排除する事も出来た。

 正体不明だが、今の所、味方という認識で間違いないだろう。


「その手紙見せてもらっていい?」

「ああ、私の執務室に置いてある。来て確認してくれ。お前らさぼるなよ!!」

「ハッ!!」


 カミュはジェイクと共に、彼の執務室に向かった。

 彼の部屋はカミュの部屋の隣だった。

 部屋の作りはほぼ同じだが長年使っているのか、部屋には武具が置かれ、本棚には書類を紐で止めた物がぎっしり詰まっていた。

 ジェイクは引き出しから手紙を取り出しカミュに差し出した。


「これだ。少し読みにくいが、諜報活動に慣れた者が書いた物だと思う」


 カミュは手紙を確認した。会話の内容と状況などが事細かに記載されている。

 その筆跡には覚えがあった。


「確かに味方のようだわ」

「心当たりがあるのか?」

「まあね。ジェイク、この事は皆には内緒にしてくれない?」


「それは言われるまでも無いが、どうするつもりだ?」

「彼女と話してみるわ」

「……分かった。後で詳細を教えてくれ」

「ええ」


 カミュは手紙を借り受け、自室に戻り彼女が現れるのを待った。



■◇■◇■◇■



 ガリウス達はミダスでも一流とされるホテルに部屋を取り、子爵の対応について不満を上げ連ねていた。

 豪華な部屋には酒瓶が転がり、カーペットに染みが広がっている。


「クソッ! 憎たらしいガキだ。色々詮索しおって」

「まったくですな。民の頼みを聞き入れ円滑に回す事も、貴族の仕事という物でしょう?」

「その通りだ! 上級貴族ともなれば、多少汚職じみた事もせねばならん。それを分かっておらんのだ」

「所詮は子供です。そういう大人のやり取りを理解していないのでしょう」


 汚職じみたでは無く、完全な汚職だろとライバーは思った。

 ある意味、子爵の言ったことは正しいのかもな。

 この男は神輿にするには汚れすぎだ。

 切り捨てて、別の候補を探した方が良さそうだ。


 ガリウスに相槌を打ちながら、ライバーは細い目を一層ほそめ、部屋にいる騎士を観察した。

 どいつもこいつも家柄だけは立派だが使えそうな奴は一人もいない。


「ガリウス様、酒を取ってまいります」

「そうか。五、六本持ってこい。飲まねばやっていられん」

「分かりました」


 ライバーは部屋を出て、レストランに行き客席に座っていた男にさりげなく小さな紙片を渡した。

 その後、カウンターで酒を何本か買い付けガリウスの部屋に向かう。

 途中ため息を吐き、口の中でつぶやく。


「仕事とはいえ、馬鹿の相手は疲れる。さっさと出世したいもんだ」


 部屋のドアを開ける時には、その顔は笑顔に戻っていた。


「お待たせしました」


 ライバーは騎士達に酒を注いで回りながら、彼らの愚痴に付き合った。


 紙片を受け取った男は、食事を終えるとホテルを後にし荷馬車の男に小包を渡した。

 男は自然にそれを受け取り、何事も無かったかの様に荷馬車をミダスの北門へ走らせた。

 荷馬車は北門で、数人の男に止められ荷を改められたが、男が受け取ったはずの小包は忽然と消えていた。

 止めた男たちも焦っていたが、それよりも荷馬車の男の方が慌てふためいていた。



■◇■◇■◇■



 カミュが執務室の机で座っていると天井に反応があった。


「月夜さん、いるんでしょう?」


 天井の反応が、音を立てず素早く移動した。


「雪丸さんには内緒にしてあげるから、下りて来なさい」


 暫く待つと、天井の一部が外れ、月夜が部屋に飛び降りた。

 着地した時も音は殆どしていない。


「熊狩りの時も思いましたが、カミュ様は千里眼の持ち主ですか? 忍びの隠形を見破るなど、義兄上でも難しい筈ですのに……」

「それより月夜さん、雪丸さんとの約束はどうしたの? 孤児院で大人しくしてるって言ったじゃない?」

「義兄上にはああ申しましたが、待っている事など出来ませぬ。私が孤児院で待つ間に、義兄上やカミュ様になにかあれば、国元で待つ姉上に合わせる顔がございませぬ」


 月夜は膝をつき、カミュの目を見つめそう言った。

 カミュはため息を一つ吐き口を開いた。


「来るなと言っても、こっそりついて来るつもりなんでしょう?」

「……はい」

「しょうがないわね。雪丸さんには私から言ってあげるから、正式に騎士隊に参加しなさい」

「本当でございまするか!?」

「これ、貴女の仕業でしょう?」


 カミュは手紙を手に取り月夜に示した。


「はい、何やらカミュ様に不利になるような事を画策している様でしたので……」

「助かったけど、子爵領にも密偵はいるわ。彼らの面子を潰すような事をしちゃ駄目よ」


 カミュの言葉に月夜は目を逸らした。


「まさか、もうした後とか?」

「申し訳ございませぬ」


 月夜はカミュに頭を下げながら、小包を差し出した。


「ライバーと申す者が小さな紙を男に渡し、男がそれを小包に仕込み荷車の男に渡したのでございます。おそらく状況を知らせる手紙かと……」

「もう、困った人ね」


 カミュは月夜から小包を受け取り中を確認した。

 中には宝石箱が包まれていたがそちらからは何も見つからなかった。


「何も入ってないわよ」

「おそらく包み紙の方だと思いまする」


 月夜に言われ包み紙を調べると一部が二重になっており、糊付けされた中から紙片が出てきた。

 小さく折り畳まれた紙を開くと、何やら文字が書かれている。

 しかし意味不明で読む事が出来なかった。


「本で読んだことがある。暗号ってやつね……本当にこんな事するんだ」

「カミュ様、感心している場合では御座いませぬ。それにはおそらく騎士隊に関する情報が……」

「でも私じゃ読めないし、月夜さんも分からないでしょ、これ?」


 月夜はカミュから紙片を受け取り内容を確認した。

 暫く紙片を回したりしていたが諦めて唇を噛んだ。


「……解読できませぬ」

「取り敢えずこれは、ジェイクに渡して、諜報部に調べてもらう事にしましょう。月夜さんついて来て、ジェイクを紹介するわ」

「承知いたしました」


 月夜を連れジェイクの部屋の扉をノックする。

 すれ違った騎士には、月夜の事を訝し気に見られたが、カミュが平然としていると何も言わず立ち去った。


「誰だ?」

「カミュよ。入って良い?」

「ああ」


 ドアを開け、月夜に入る様に促す。

 ジェイクは月夜を見て何かを察した様に頷いた。


「君が手紙を置いたんだな?」

「はい」

「彼女は月夜さん。雪丸さんの義理の妹よ。国では密偵の様な事をしていたそうよ」

「なるほどな。ガリウスの件では助かったよ。監視や尾行は部下には荷が重かったようでね」


 カミュは月夜を促しソファーに座らせた。


「彼女、こんなものを手に入れてきてね」


 カミュは紙片をテーブルに置いた。

 ジェイクは、デスクから離れ、ソファーに腰降ろし紙片を手に取った。


「暗号か……これをどこで?」

「ライバーが別の男に渡して、ミダスから出そうとしていたみたい」

「ライバー……十中八九、状況報告だろうな。分かったこれは諜報部に渡しおく」


「お願い、それと諜報部の人に謝っておいて」

「謝る?」

「彼女、諜報部の目を盗んで、勝手に持って来たみたいだから……」

「申し訳御座いませぬ」


 月夜は床に手をついてジェイクに頭を下げた。

 ジェイクはいきなりの事に目を丸くしている。


「おッ、おいカミュ! 止めさせろ!」

「月夜さん、もういいから、ソファーに座りなさい」

「はい」


「驚いたな。それは倭国の謝罪方法なのか?」

「そうみたい。貴方もそのうち慣れるわ」

「慣れる? どうゆう事だ? まさか……」


 ジェイクはカミュの言葉に眉根を寄せた。


「月夜さんを騎士隊に従軍させます」

「本気か!? 雪丸殿は良いとして、ラムザやマーカス、他領の騎士の上に異国の娘まで加えるのか!?」

「だって、ほっといても勝手について来るわよ」

「ううッ、胃が痛くなってきた」


 ジェイクは顔をしかめ腹を押さえている。


「ジェイク、手続きよろしく。あと月夜さん用の武器の手配もお願い。月夜さん武器をジェイクに渡してあげて」

「はい、カミュ様」


 月夜が差し出した短刀や投げナイフを受け取りながらジェイクは苦笑を浮かべる。


「カミュ、なんだか図太くなっていないか?」

「子爵様が全部バラしてくれたお蔭で、開き直っちゃった。私は私らしくやる事にする」

「そうか……お手柔らかに頼むよ」


 腹を押さえたジェイクを残し、カミュは月夜を連れ中庭に向かった。

 月夜の姿を見つけた雪丸が駆け寄ってくる。


「月夜、一体何用じゃ!?」

「義兄上、私も騎士隊に同行する事になりました」

「どういう事じゃ!? お主はミダスで拙者の帰りを待つ事になったじゃろう!?」


 カミュは月夜と雪丸の間に割って入り、事情を説明した。


「そういう事でござるか? まったく、勝手な真似を」

「雪丸さん、許してあげて。お蔭で私も隊長のままでいられたし、月夜さんも貴方の事が心配だったのよ」

「カミュ殿がそう言うなら、構わんでござるが……月夜、もう勝手に動いてはならんぞ!」

「はい、分かっておりまする。お二人の言いつけを守り、カミュ様の手足として働く所存に御座いまする」


 そう言うと月夜は、カミュの前に跪き頭を垂れた。


「はいはい、分かったから立って」

「はい」

「カミュ殿、大分慣れたようでござるな」

「毎回、跪かれちゃったら、いい加減慣れるわよ」


 カミュ達のやり取りを騎士達が遠巻きに見る中、マーカスが近寄り声を掛けてきた。


「カミュ、誰だその娘は? 新入りか?」

「この娘は月夜さん、雪丸さんの義理の妹よ。騎士隊に同行する事になったから、面倒見てあげてね」

「月夜と申しまする。未熟者なれど、この度騎士隊に同行させていただく事に相成りました」


 月夜は跪きマーカスに頭を垂れた。


「おっ、おう。俺はマーカスだ。よろしく頼む」

「マーカス様ですね。こちらこそよろしくお願いいたしまする」

「あっ、ああ。よろしくな」


 マーカスは月夜の物言いに、調子が狂っているようだ。


「月夜さんは倭国で、忍びっていう密偵みたいな仕事をしていたの。スピードと身のこなしは一流よ」

「そうか。んじゃ月夜、一つ相手をしてくれや」

「承知いたしました」


 マーカスの後について中庭に歩いて行く月夜を見ながら、雪丸がカミュに聞く。


「カミュ殿、本当に月夜を戦場に連れて行くのでござるか?」

「しょうがないわ。勝手に動き回られるよりは、目につく場所にいてもらった方が安心だもの。雪丸さんもそうでしょう?」

「それは、そうでござるが……」


 二人は顔を見合わせため息を吐いた。

 もっとスマートに事を運びたいのにな。そう思いながらカミュは空を見上げた。

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