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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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ウォードとワイン

 カミュは騎士隊について考えているうち、いつの間にか眠っていた。

 目を覚ました時、窓の外は真っ暗だった。


 喉の渇きを覚え、ベッドから抜け出し食堂へ向かう。

 食堂ではウォードが一人ワインを飲んでいた。


「あらカミュ、おはよう……って言うのもおかしいわね」

「フフッ、そうね」


 ウォードの言葉でカミュは少し微笑んだ。


「随分疲れていたみたいね。夕食に呼びに行ったけど、起こすのもどうかな思ってそのままにしたわ」

「考え事をしている間に、眠っちゃったみたい」

「……悩み事?」

「……ねぇ、ウォード。ずっと願っていた事が叶いそうな時、その願いが他人の命を預かる事と、引き換えだったらどうする?」


 ウォードはグラスを置いて真剣な表情になった。


「……そうね。色々悩むと思うけど、私だったら願いを叶えるわ」

「それで、誰かの命を失う事になっても?」


「……たぶん、私はそれでも願いを叶える。私はねカミュ、生きていく上でやらなかった後悔はしたくないの。人はいずれ死ぬわ。貴女も私もね、それは明日かも知れない。人生って意外と短いのよ。躊躇している時間はないわ」


「私も死ぬ……」

「それにね、他人の命を預かるって言ってたけど、貴女ならきっと守れるわ」


 ウォードの言葉でカミュは目から鱗が落ちた気がした。

 明日死ぬとしたら、自分はどう思うだろう。

 きっと後悔するに違いない。騎士隊の人達の事を考えるあまり、その責任の重さに尻込みしていたようだ。


 どのみち今は他にジャハドと戦う為の方法は見つかっていない。

 自分の願いを叶えた上で、預かった命を力の限り守る。それが正解の様にカミュには思えた。


「ウォード、ありがとう」

「どういたしまして……貴女も飲む」


 ウォードはワインの瓶を掲げた。


「……じゃあ、一杯だけ」

「ん」


 ウォードは台所に行き、火をおこし何か作っている。

 暫くして彼女はグラスと料理の載った皿を持って戻って来た。

 皿の上には白身魚のムニエルとポテトのフライが載っていた。


「貴女の晩御飯。温め直しただけだけど……お腹空いてるでしょ?」

「うん。ありがとう。頂きます」


 カミュが料理を食べるのを見ながら、ウォードは目を細めてワインを飲んだ。

 カミュの皿からポテトを一つつまみ口に運びながら言う。


「もっと色々話しなさい。貴女、何でも一人で決めて、一人でやろうとしてるでしょ?」

「そう言われれば、そうかもしれない」

「人が一人で出来ることなんて、たかが知れてるわ。皆を頼りなさい。きっと誰かが解決策を持ってる」


 カミュは村を出た理由を思い出した。

 そもそも鋼の剣に限界を感じ、クリフを頼ってミダスに来たのだ。

 いつの間にか、ジャハドに関しては全て一人でやろうと思い込んでいた。


「そうね。そうする」

「フフッ、私貴女のそういう素直な所、好きよ」


 照れ臭かったカミュは、ウォードが注いでくれたワインを飲んで誤魔化した。


「美味しい」


 ジョシュアは酒を嗜まなかったので、カミュは酒を飲んだ事はほぼ無かった。

 風邪を引いた時、ホットワインを飲んだくらいだ。


「いける口ね。ここじゃ誰も付き合ってくれないから、寂しかったのよ」

「ジャッカルの人達は一緒に飲んでくれないの?」

「あいつ等と飲むと、宴会になっちゃうから。それにここで働き始めてから、皆健康的になっちゃって……」


 そう言うとウォードは、カミュのグラスにワインを注いだ。


「付き合って。色々話しましょう」

「分かった」


 それからカミュはウォードと色んな話をした。

 カミュはロイの事やコリーデ村での事を話し、ウォードは一座にいた時の事を話した。


「師匠は厳しくて、いつも一座のマスコットだった黒ヒョウに愚痴を言ってたの。そしたらその子、禿ができちゃって、猛獣使いにも師匠にもバレて大目玉喰らっちゃった」

「アハハッ、その子も災難だったわね」

「いやぁ、あの時は悪い事したわ。それからは反省して、寝てる師匠の耳元で囁くようにしたの」


「それって反省してる?」

「だって酷いのよ。芸に失敗したら夕食を一品減らされるんだもの。それなのに自分はこれ見よがしに、分厚いステーキを食べたりするのよ。ちょっとぐらい夢見が悪くなったっていいじゃない」


 気が付けばボトルは何本か空になっていた。


「あれぇ、何時の間に……ちょっと取ってくる」


 ウォードはふらつきながら台所へ向かっている。

 カミュは危ないと、彼女の後を追い足がもつれた。

 二人は絡み合う様に倒れ、そのまま意識を失った。


 翌朝、カミュが目を覚ますと、朝の仕込みに起きてきたロンゾが二人を覗き込んでいた。


「カミュ、子供の教育に悪いから、そういう事は他所でやってもらえねぇか?」


 ロンゾの言っている意味が分からず、横を見ると真横にウォードの顔があった。

 どうやら酔っぱらって倒れ、そのまま寝てしまったようだ。

 寒かったためか、ウォードと抱き合って。


「ロンゾ違うの! これはそんなんじゃないの!」

「いいから、顔洗ってこい。まったく二人して何をやってんだ」

「……ごめんなさい」

「これからワインは金庫にでもしまっとくか……」


 ロンゾのぼやきを聞きながら、カミュは顔を洗う為、洗面所に向かった。

 顔を洗っていると、ロンゾに起こされたウォードも顔を洗いに洗面所へ来た。


「楽しくて飲みすぎちゃったわね」

「……頭が痛い」

「二日酔いね。こればっかりはどうにもならないわ」


 そう言って笑うウォードをカミュは恨めしそうに見た。

 その日、朝の稽古に出たカミュは、ヒューゴの声が頭に響く中、お酒は二度と飲まないと強く思った。

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