ウォードとワイン
カミュは騎士隊について考えているうち、いつの間にか眠っていた。
目を覚ました時、窓の外は真っ暗だった。
喉の渇きを覚え、ベッドから抜け出し食堂へ向かう。
食堂ではウォードが一人ワインを飲んでいた。
「あらカミュ、おはよう……って言うのもおかしいわね」
「フフッ、そうね」
ウォードの言葉でカミュは少し微笑んだ。
「随分疲れていたみたいね。夕食に呼びに行ったけど、起こすのもどうかな思ってそのままにしたわ」
「考え事をしている間に、眠っちゃったみたい」
「……悩み事?」
「……ねぇ、ウォード。ずっと願っていた事が叶いそうな時、その願いが他人の命を預かる事と、引き換えだったらどうする?」
ウォードはグラスを置いて真剣な表情になった。
「……そうね。色々悩むと思うけど、私だったら願いを叶えるわ」
「それで、誰かの命を失う事になっても?」
「……たぶん、私はそれでも願いを叶える。私はねカミュ、生きていく上でやらなかった後悔はしたくないの。人はいずれ死ぬわ。貴女も私もね、それは明日かも知れない。人生って意外と短いのよ。躊躇している時間はないわ」
「私も死ぬ……」
「それにね、他人の命を預かるって言ってたけど、貴女ならきっと守れるわ」
ウォードの言葉でカミュは目から鱗が落ちた気がした。
明日死ぬとしたら、自分はどう思うだろう。
きっと後悔するに違いない。騎士隊の人達の事を考えるあまり、その責任の重さに尻込みしていたようだ。
どのみち今は他にジャハドと戦う為の方法は見つかっていない。
自分の願いを叶えた上で、預かった命を力の限り守る。それが正解の様にカミュには思えた。
「ウォード、ありがとう」
「どういたしまして……貴女も飲む」
ウォードはワインの瓶を掲げた。
「……じゃあ、一杯だけ」
「ん」
ウォードは台所に行き、火をおこし何か作っている。
暫くして彼女はグラスと料理の載った皿を持って戻って来た。
皿の上には白身魚のムニエルとポテトのフライが載っていた。
「貴女の晩御飯。温め直しただけだけど……お腹空いてるでしょ?」
「うん。ありがとう。頂きます」
カミュが料理を食べるのを見ながら、ウォードは目を細めてワインを飲んだ。
カミュの皿からポテトを一つつまみ口に運びながら言う。
「もっと色々話しなさい。貴女、何でも一人で決めて、一人でやろうとしてるでしょ?」
「そう言われれば、そうかもしれない」
「人が一人で出来ることなんて、たかが知れてるわ。皆を頼りなさい。きっと誰かが解決策を持ってる」
カミュは村を出た理由を思い出した。
そもそも鋼の剣に限界を感じ、クリフを頼ってミダスに来たのだ。
いつの間にか、ジャハドに関しては全て一人でやろうと思い込んでいた。
「そうね。そうする」
「フフッ、私貴女のそういう素直な所、好きよ」
照れ臭かったカミュは、ウォードが注いでくれたワインを飲んで誤魔化した。
「美味しい」
ジョシュアは酒を嗜まなかったので、カミュは酒を飲んだ事はほぼ無かった。
風邪を引いた時、ホットワインを飲んだくらいだ。
「いける口ね。ここじゃ誰も付き合ってくれないから、寂しかったのよ」
「ジャッカルの人達は一緒に飲んでくれないの?」
「あいつ等と飲むと、宴会になっちゃうから。それにここで働き始めてから、皆健康的になっちゃって……」
そう言うとウォードは、カミュのグラスにワインを注いだ。
「付き合って。色々話しましょう」
「分かった」
それからカミュはウォードと色んな話をした。
カミュはロイの事やコリーデ村での事を話し、ウォードは一座にいた時の事を話した。
「師匠は厳しくて、いつも一座のマスコットだった黒ヒョウに愚痴を言ってたの。そしたらその子、禿ができちゃって、猛獣使いにも師匠にもバレて大目玉喰らっちゃった」
「アハハッ、その子も災難だったわね」
「いやぁ、あの時は悪い事したわ。それからは反省して、寝てる師匠の耳元で囁くようにしたの」
「それって反省してる?」
「だって酷いのよ。芸に失敗したら夕食を一品減らされるんだもの。それなのに自分はこれ見よがしに、分厚いステーキを食べたりするのよ。ちょっとぐらい夢見が悪くなったっていいじゃない」
気が付けばボトルは何本か空になっていた。
「あれぇ、何時の間に……ちょっと取ってくる」
ウォードはふらつきながら台所へ向かっている。
カミュは危ないと、彼女の後を追い足がもつれた。
二人は絡み合う様に倒れ、そのまま意識を失った。
翌朝、カミュが目を覚ますと、朝の仕込みに起きてきたロンゾが二人を覗き込んでいた。
「カミュ、子供の教育に悪いから、そういう事は他所でやってもらえねぇか?」
ロンゾの言っている意味が分からず、横を見ると真横にウォードの顔があった。
どうやら酔っぱらって倒れ、そのまま寝てしまったようだ。
寒かったためか、ウォードと抱き合って。
「ロンゾ違うの! これはそんなんじゃないの!」
「いいから、顔洗ってこい。まったく二人して何をやってんだ」
「……ごめんなさい」
「これからワインは金庫にでもしまっとくか……」
ロンゾのぼやきを聞きながら、カミュは顔を洗う為、洗面所に向かった。
顔を洗っていると、ロンゾに起こされたウォードも顔を洗いに洗面所へ来た。
「楽しくて飲みすぎちゃったわね」
「……頭が痛い」
「二日酔いね。こればっかりはどうにもならないわ」
そう言って笑うウォードをカミュは恨めしそうに見た。
その日、朝の稽古に出たカミュは、ヒューゴの声が頭に響く中、お酒は二度と飲まないと強く思った。




