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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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迷い

 カミュが少し暗い顔をしている事に気付いたロランが、彼女に声を掛ける。


「どうしたのだ。なにか心配事でもあるのか?」

「子爵様……やりたい事があるとお話したと思うのですが……」

「うむ、そちが持っている剣に関わる話だったな」

「私もフクロウと同じなのです」


 同じと聞いてロランは眉根を寄せた。

 フクロウとアルバもカミュに顔を向ける。


「同じ……誰かに復讐をするという事か? その剣を使って……」

「黒鋼騎士団、ジャハド。私はあの男と戦う為、日々剣の腕を磨いて来ました」

「ジャハドだと? 帝国最強の精鋭部隊の団長がそちの標的だと申すか?」


「…あ…の男は私の生まれた村を焼き、兄と慕った人を殺し、そして私の師の命を奪いました。ずっとジャハドを斬る事を目標に生きてきました」

「大事な物をそれだけ奪われれば、ぶち殺してやりたくもなるだろう。それの何が悪い」


 フクロウはカミュのジャハドに対する思いは当然だと肯定した。


「確かにあの男を殺してやりたいと思っていた。でもジョシュアは、師匠は守るために力は使えと言った。だから殺すつもりはあまり無かった……フクロウの顔を見て、あの男の前に立った時、自分がどうなるのか自信が無くなったんです」


「俺の?」

「憎しみに飲まれると思ったのか?」

「はい……」


 ロランはカップに手を伸ばし、口を湿らせ、口を開いた。


「愛する者を奪われた憎しみ、悲しみ、怒りは人であれば当然の感情だ。否定する必要は無い。だが私はカミュにはその先に進んで欲しい」

「その先……?」


「そちが感じたものを、他の人々が知る事が無いようにする為に力を使って欲しいのだ。カミュ、そちの剣が憎しみで磨かれた物であっても、そのお陰で私は救われた。それはそちの師匠が言う、守るための力ではないのか?」

「……」


「自身の憎しみでは無く、大切なものを守るため戦うのだ」

「守るために戦う……」

「ジャハドと相対した時、愛した者、そして愛する者の顔を思い出せ。怒りに飲み込まれそうな時、私はそうやって乗り越えてきた」


 カミュはコリーデ村やミダスの人々の顔を思い浮かべた。

 彼らを守るために戦う。それはジョシュアの教えにもつながる様にカミュは感じた。


「子爵様……ありがとうございます。少し吹っ切れた気がします」

「そうか……先ほど言ったことは私の勝手な願いだ。そちは笑っている方がよい。私はそちの笑った顔が好きだ」


 カミュはロランの言葉で笑みを見せた。


「うむ。よい笑顔だ」

「俺は復讐を止める気は無いぞ」

「止めるつもりは無いが、フクロウにもアルバの為に、アルベルトをどうするかは考えて欲しいがな」

「アルバの為……」


 アルバの為と言われフクロウは口を閉ざした。

 話がひと段落した後、ロランはカミュの持った剣に目をやった。


「……カミュ、黒鋼騎士団の蛮行は私も聞き及んでいる。今まであやつらを止める術は無かったが、そちの持った剣であれば打ち倒す事が出来るやも知れん……カミュ、緑光石を使った武具は数を揃える事は可能か?」

「ある程度の数は作る事は出来ると思いますが……」


 カミュの言葉でロランは少し考え、やがて口を開いた。


「ふむ、その剣を作った者に引き合わせて欲しい」

「何をするおつもりですか?」

「新しい騎士隊を作る。今までは黒鋼騎士団が出ると王国軍は逃げ惑う事しか出来なかった。奴らに特化した戦闘部隊を作りたい」


 緑光石の武具を装備した騎士隊。

 カミュは今まで、一人でジャハドと戦う事ばかり考えていた。

 だが、黒鋼騎士団の存在がその思考をいつも止めていた。

 ロランの語る騎士隊があれば、ジャハドと一対一で戦う事が出来るかも知れない。


「子爵様、そんな騎士隊が実現出来るなら是非参加したいです」

「そうか。ではカミュには隊長として兵を率いてもらうかな」

「私がですか!? そんな無理です!」


「そうか? デイブの話ではハミルトン商会の時は作戦の指示をしていたと聞いたぞ?」

「あの時は人数が少なかったからです。それに他にも問題があります」

「なんだ?」


 カミュは隊長になるつもりは無かったので、なにか理由は無いか頭をひねった。


「……装備の問題です。緑光石を使った武具は製造に大金が必要です。必然的にエリート部隊になるでしょう。そんな人たちが、一介の傭兵である私の言う事を聞いてくれるとは思えません」

「その武器はそんなに金がかかるのか?」


 ロランは傭兵云々より、金額が気になったようだ。


「直剣ではありませんが、こちらの刀は一振り七十万と言っていました」

「ふむ、確かに防具まで揃えるとなると、子爵領だけでは賄いきれんな。国を巻き込むか」

「子爵様、王国主導の部隊なら余計に私の出る幕はありません」


「国を巻き込むとは言ったが、あくまで主体は子爵領だ。緑光石の武器は銃に匹敵する秘密兵器になるだろうからな。カミュ、そちは私の短い人生で出会った剣士の中で一番優秀だ。そちが先頭で剣を振るえば、他の者が率いるより被害の規模も減らせると思うのだがな」


 ロランはあくまでカミュを隊長にしたいようだ。


「……少し考えさせて下さい」

「うむ、武具や金の事もまだ詰めねばならんしな。だがジャハドと戦うという、そちの目的にも沿う話だ。前向きに検討してくれ」


「……分かりました」

「近いうちに使いを出す。その時に城に武具を作った者を連れて来てくれ」

「はい」


「そうだ。フクロウを移動させるのは構わんが、監視は外せん。カブラス達がうるさいからな」

「フンッ、分かっている」


 フクロウの孤児院への移動に許可をもらったカミュは、二人を連れ応接室を後にした。

 応接室の外にはジョアンナがいたが、ロランの提案で頭が一杯だったカミュは挨拶もそこそこに城を後にした。


 馬車の中でフクロウがカミュに声を掛けてきた。


「何を迷っている。ロランの話はお前にとっては渡りに船だろう?」

「分かってるわ。でも私はただの剣士よ。軍隊を指揮した事なんて一度もないわ」

「その辺はロランも分かっているさ。補佐に誰か付けるだろう。まあすぐという訳でもないだろう。よく考えればいいさ」

「……そうね」


 孤児院に帰りフクロウ達と別れたカミュは、用意された部屋に戻りベッドに腰を下ろした。

 頭の中でロランの言葉がグルグルと巡る。


 一人の剣士として参加するなら、こんなに悩む事もなかったのだが、兵を率いるという事は、彼らの命に責任を持つという事だ。

 カミュはベッドに横になりロランの提案について考え続けた。

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