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剣の娘  作者: 田中
第八章 子爵領の騎士達
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演劇の話と壊れた人形

 店から出た後、ムッとしたままのカミュを、雪丸は国では福の神として縁起の良い神様だからと必死で宥めた。

 月夜は破壊の神、素敵で御座います等と少しずれた事を言っていた。


 何時までも怒っていてもしょうが無いので、雪丸に女性に破壊の神とか言っちゃ駄目よと忠告し今日の予定を尋ねた。


「拙者は月夜と二人で、ギルドの軽い仕事をこなそうと思うでござる」

「そうなの? 分かったわ。月夜さん、気をつけてね」

「はい。カミュ様はどうされるのですか?」


「私はお城へ行って、熊の事を報告しようと思う」

「左様で御座いますか。我々は同行せずとも良いのでしょうか?」

「報告するだけだから私一人で大丈夫よ」


「畏まりました」

「ではカミュ殿、また後ほど」

「うん。雪丸さんも気をつけてね」


 カミュは二人と別れ、荷物を抱え城へ向かう。

 城へ向かう間、騎士団のジェイクの事を考えた。騎士団は確か街の北側に宿舎兼訓練所があった筈だ。

 後で寄ってみよう。そんな事を考えている間に城の門が見えてきた。


 門の前で、報告と言っても、誰に取り次いでもらえばいいのかカミュは考えた。

 ロランに言えば早いのだろうが、彼は子爵領のトップだ。余り煩わせたく無い。

 カブラスは行政官だし、リカルドは近衛隊だ。


 人の顔がグルグルと頭の中を巡った。

 結局、カミュはロランに取り次いでもらう事にした。

 衛兵にその旨を伝えると、いつもの様に応接室に通された。


 応接室では案内してくれたジョアンナがお茶を淹れてくれた。

 カミュはロランが来るまで、彼女にこの前話した演劇について詳しく話す事にした。


「ねぇ、ジョアンナ。この前の演劇についてのことなんだけど」

「はい! 何をご説明いたしましょうか!?」


 ジョアンナは少し食い気味にカミュに返答した。

 本当に演劇が好きなようで、ニコニコと笑みを浮かべている。


「実はね。今、街の南の貧民街にあるお屋敷を孤児院に作り変えているんだけど、劇場を併設してるのよ」

「劇場!!」

「ええ、そこでの演目の一つに演劇を加えるのはどうかなと思ってるの」

「ああ!! 本当でございますか!?」


 ジョアンナは両手を胸の前で組み瞳を輝かせている。


「ただ、今のところ私が考えているだけで、何も決まってはいないだけど……」

「以前、カミュ様が演劇について聞きたいとおっしゃったのは、そういう事だったのですね!?」

「ええ、貴女ならミダスではどんな芝居がうけると思う?」

「そうですね……私はこの街の劇場にも足を運んだことがあるのですが、あそこは裕福な方向けの演目が多かったですね」


 カミュは劇場を一部の人間が楽しむ場所にするつもりは無かった。

 どんな人でも気軽立ち寄れ、様々な出し物を楽しめる場所。

 そんな場所にしたいと思っている。


「誰でも楽しめる物がいいわ。それこそ老若男女、誰でもね」

「誰でも……カミュ様、知り合いに売れない作家が一人いるのですが、会ってみますか?」

「作家? どんな人?」


「元は街の劇場で脚本を書いていたのですが、貴族の恋愛や騎士の活躍を扱った作品ばかり求められるのに嫌気がさしたらしく、子供や動物が活躍する物や、奇想天外な冒険を描いた物、変わった所では、物乞いの男が一国の主に出世する話なんかを劇場主の意向を無視して書いたんです」

「それでどうなったの?」


 ジョアンナはカミュの質問に、首の前で掌を横に振りながら答える。


「首ですよ、首。劇場の主は保守的な人で、今まで受けてきた路線を変更する必要はないって言ったそうですよ」

「そうなの? 話を聞く限り面白そうだけど……」

「そうですよね! 私も本を読ませてもらったんですけど、面白くて徹夜して読んでしまいました!」

「それは……その人紹介してもらえる? ぜひ会ってみたいわ」

「喜んで!! 彼の作品が舞台で見られるなんて……きっと面白い物になる筈です!!」


 ジョアンナはエプロンのポケットから、メモ帳とペンを取り出し何かを書きつけた。

 ページを破りカミュに手渡す。


「カミュ様、これが彼の住所です! 私の名前を出せば話を聞いてくれる筈です!」


 カミュは受け取ったメモを確認した。

 名前と住所が書いてある。名前はヒューゴ。住所は貧民街のようだ。


「ありがとう。訪ねてみるわ。また相談に乗ってもらえる?」

「勿論でございます! 劇場がオープンしたら是非お知らせ下さい!」

「分かったわ。必ず知らせるわ」

「楽しそうだな、ジョアンナ」


 いつの間にかロランが部屋に入って来ていた。

 話に夢中になって気付かなかったようだ。


「子爵様! 申し訳ございません」


 ジョアンナがロランに頭を下げる。


「気にせずとも良い。カミュ、孤児院と劇場は順調なのか?」

「はい、ウォード達が頑張っているので、修繕自体は今月中にはどうにかなりそうです」

「そうか。こけら落としには私も呼んでくれ」

「はい、勿論」


 ロランは頷いてカミュの向かいに座った。


「して、今日はなんの用かな?」

「報告したいことがありまして」

「ふむ」

「帝国の事です」


 帝国と聞いて、ロランはジョアンナに目配せした。

 ジョアンナはお辞儀をして部屋を出た。

 それを見届け、ロランはカミュに続きを促した。


「実はまだ確証は得られていないのですが、お知らせしておくべきかと思い本日は参りました」

「聞こう」


「……ギルドの仕事で熊退治を引き受けたのですが、その熊が鎧を着ていたのです」

「ほう、鎧とな」


 ロランはカミュの言葉に目を細めた。


「その鎧に帝国の文字が刻まれていました」

「現物はあるのか?」

「ここに」


 カミュは袋の中から鎧を取り出しテーブルに置いた。

 ロランは鎧を確認し口を開いた。


「ふむ、ランガ。帝国のおとぎ話の魔獣だな」

「ご存知ですか?」


「私が生まれた時には、すでに戦争は始まっていた。父は私に帝国の言葉と文字を教える為に、多様な書物を贈ってくれた。その一つで読んだことがある。しかしオーバルの北にも伝わる話だ。これだけでは帝国の仕業とは言えんな」


「はい、分かっています。実は私達が巣穴に辿り着いた時、熊は人間を殺めていました。その犠牲者が着ていた鎧が帝国の物の様なのです。彼らは全員この身分証を持っていました」


 カミュは腰のポーチから犠牲者が持っていた身分証を取り出しテーブルに置いた。

 ロランは身分証を手に取り、内容を確認している。


「カールフェルト侯爵領か。なるほどな。カミュなら帝国だと確信するのも当然だ」

「今、図書館の研究員さんに鎧を調べてもらっています。傭兵ギルドも詳細を知りたがっていました」

「ギルドは前線に多くの傭兵を送っている。当然、敵の事は知りたいであろうな。ふむ、鎧を調べている図書館の研究員は誰だ」


「タチアナさんです」

「鍛冶を研究している者だったな。最近、緑光石を使った鍛冶について、鉱石の研究者クリストフと連名で報告書を上げていた」


 ロランは身分証をテーブルに置き口を開いた。


「カミュ、熊の鎧は全て回収したのか?」

「はい、宿に置いてありますが?」

「よし、では後で人を遣わせる。その者に全て渡してくれ」

「どうなさるのですか?」


 ロランはテーブルに置かれた熊の鎧に目を落としながら話した。


「前線で実際戦った者に、鎧を確認して貰おうと思う。子爵領からも騎士を前線に派遣している。そちらから手を回そう。少数とはいえ、南のミダス近くまで入り込んでいるとなると看過できん」

「分かりました」


 カミュが頷くとロランは少し笑みを見せた。


「しかしカミュ、こんな甲冑を着こんだ熊を倒したのか? この分厚さでは剣など弾かれるであろう?」

「タチアナさんにも協力してもらって、新しい武器を作ったのです。倒せたのはその武器の力が大きいです」

「ほう、それ程か? それは是非見てみたいな」

「武器は衛兵さんに預けたのですが……」

「ふむ。ジョアンナ!」


 ロランがドアに向けて声をかけると、廊下に控えていたのだろう。

 ジョアンナが応接室に入って来た。


「お呼びですか?」

「うむ、カミュが預けた物を持ってきてくれ。それと中庭に訓練用の人形を用意して欲しい。人形には甲冑を着せてくれ」

「かしこまりました」


 ジョアンナはロランに頭を下げ部屋を出て行った。

 暫くすると、衛兵を連れたジョアンナが応接室に戻って来た。


「子爵様、中庭の準備も出来ております」

「ご苦労だった。そちもわざわざすまんな」


 ロランはジョアンナと衛兵に労いの言葉をかけ、カミュを連れて中庭に向かった。

 中庭には剣と鎧を構えた全身甲冑が置かれていた。

 周囲には人形を運んで来たのだろう。他の衛兵の姿も何人か見える。

 カミュは衛兵から預けていた刀と剣を受け取った。


「さて、カミュ。熊を倒した技を見せてもらえるかな?」

「分かりました。でも立派な鎧ですけど壊していいんですか?」

「構わん。練習用だ。少しぐらい傷がついても問題ない」

「あの、多分使えなくなると思うんですが?」


 ロランは腕を組んで首を捻った。


「どういう事だ? どんな技か知らんが、その鎧はウォーハンマーでも使わんとへこみもせんぞ?」

「たぶん、人形ごと、真っ二つになります」

「ハハハッ、カミュ、そちの腕は知っておるが、その鎧は人が着るようには出来ておらん。壊れないように特別分厚く作っておる。武器の方が壊れんように気をつけよ」


 ロランは冗談だと思っているようだ。


「知りませんからね」


 カミュは人形の前に立ち、刀の柄に手を置いた。


「では……」


 ジョシュアの動き、熊を斬った時の感覚をカミュは呼び起こす。

 右足を踏み込み、刀を抜き放つ。


 鞘から解き放たれた刃は左下から右上へ何の抵抗も無く振り抜かれた。

 カミュが刀を鞘に戻すと、人形は絶たれた個所からゆっくりずれ、中庭に崩れ落ちる。

 人形が持っていた剣も盾も真っ二つに断ち切られていた。


「なんと……」


 ロランも衛兵達もジョアンナも、信じられない物を見た様に目を見開き口を開けている。


「だから、真っ二つになるって言ったじゃないですか」

「……うむ。確かにそう聞いた……では熊は鎧ごと斬ったのか?」

「はい。雪丸さん達と協力してですが……」

「この目で見ても信じられん切れ味だ……その武器、見せてもらってよいか?」

「はい」


 カミュは衛兵に腰の刀を渡した。

 衛兵はロランの前に膝をついて受け取った刀を差し出した。

 ロランは衛兵から刀を受け取り鞘から抜く。


「重いな。私が子供という事もあるが、一般的な直剣より重いようだな」


 ロランは刀身を観察しカミュに尋ねた。


「これは鉄ではないな。タチアナ……緑光石を使ったのか?」

「はい。その通りです」

「カミュ、何か成したいことがあると言っていたな。この剣はその事に関係があるのか?」

「……はい」

「そちには大きな借りがある。話したくなったらでよい。話してもらえるか? 力を貸せることもあるだろう」

「……はい、ありがとうございます」


 ロランは刀を鞘に納め、直接カミュに差し出した。

 カミュはそれを受け取り、腰に挿した。


「そちの事は信頼しておる。次からは帯剣したままでよい」

「分かりました」

「熊については調べておく。報告ご苦労だった。そち達も私の我儘で仕事を増やして悪かった」

「いいえ、子爵様。お蔭で面白い物が見れました」


 ロランに声を掛けられた衛兵は、人形を片付けながら笑みを浮かべそう答えた。


「そうか……ではなカミュ。劇場、楽しみにしておるぞ」

「はい、子爵様」


 ロランはそう言い残しジョアンナを従えて中庭を後にした。

 ロランを見送ったカミュも、衛兵達に謝って城を出た。

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