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剣の娘  作者: 田中
第八章 子爵領の騎士達
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バランとライムと神様の話

 カミュが声の主のテーブルに向かうと、テーブルには雪丸と月夜、そして依頼を受けた時、担当してくれた受付のショートカットの黒髪の女性が座っていた。


「カミュ!! なんでも鎧を着たデカい熊を倒したんだって!?」


 バランが店中に響き渡る大声でカミュに話しかけた。


「ギルド長、声が大きいです。他の方の迷惑になります。小さな声で喋ってください。囁くように」


 担当の女性、たしか名前はライムだった筈だ。

 ライムがバランを窘めるように言う。


「そうか!? すまん!」


 幾分控えめになったが、それでも周囲に響く音量でバランは答えた。


「話を聞きたくてな! カミュ、少しいいか!?」

「はい。丁度、食事にしようと思っていたので…」

「そうか! では食いながら話そう!」


 カミュはバランの対面、月夜の隣に腰かけた。

 チラリと二人を見ると雪丸も月夜も少し疲れた顔をしていた。


「二人ともずっとギルドに居たの?」

「……そうでござる。ギルド長殿に熊退治について、色々聞かれていたのでござるよ」

「カミュ様、私、耳がキーンとしているのですが……この方は何故こんなに大きな声で話されるのですか?」


 カミュがバランを見ると満面の笑みでこちらを見ている。


「さあ? 耳が遠いのかも知れないわ?」

「俺は耳は悪くないぞ!」


 カミュが小声で月夜に言った言葉はしっかりバランに聞こえていたようだ。


「はぁ。じゃあ何でそんなに大きな声で話すんですか?」


 ため息を一つ吐いて、カミュは思い切ってバランに尋ねてみる事にした。


「そんなにデカいか!? 俺の生まれはオーバルの南の港街でな! そこの漁師の子だったんだ! 南の海は時化が多くて、船の上じゃでかい声じゃねぇと相手に伝わらねぇ! 親父の船に乗ってる内に、こんな風に話すのが当たり前になっちまったんだ!」

「そうだったんだ……」


 バランの横で話を聞いていたライムが納得いったという様にそう口にした。

 おそらくギルドの職員という立場上、面と向かって聞けなかったのだろう。


 カミュは、店員が注文を取りに来たのでお勧めを聞いてそれを注文した。

 ちなみにお勧めは豚と鶏のソテーだった。

 傭兵がよく食べに来るため、ボリューム重視の店のようだ。


「それで、何が聞きたいんですか?」

「おう! 雪丸にも聞いたんだが熊にやられた奴らがいたそうじゃねぇか!?」

「ギルド長、私が話しますから食事に集中してください」

「そうか!? 分かった!」


 カリンに促されバランは料理を食べ始めた。

 皿を見ると雪丸たちが注文した物と同じ料理の様だが、量は倍以上ありそうだ。


「それでカミュさん、熊の犠牲者なんですが、帝国軍かも知れないって本当ですか?」


 ライムが顔を近づけ小声で尋ねて来る。

 コソコソ話すなら、ギルドの応接室で良いと思うのだが……。

 彼女のグリーンの瞳を見ながらそんな事を考えていると、気持ちが顔に出ていたのだろう。

 ライムが小声で説明してくれた。


「ここで話を聞くつもりは本来なかったんです。ただ雪丸さん達との話が長くなったので、ギルド長が昼を食べようって言いだして、そこに偶々カミュさんが来たものですから……ギルド長は一つの事しか見えなくなる人ですので、カミュさんイコール犠牲者の話となってしまったんでしょう」


「そうなの? ……貴女も大変そうね」

「ええ、まあ。でも組織を引っ張る力はすごい人なんですよ」


 カミュはバランにチラリと目をやった。彼は一心不乱に肉と格闘している。

 確かにあの勢いと迫力は、腕自慢の傭兵を纏めるには良いかもしれない。


「それでカミュさん、実際の所どうなんですか?」

「今、図書館で調べてもらっているんだけど、結果が出ないとはっきりとは言えないわ。ただ鎧を見てもらった人は、全員帝国の物に似てるって言ってた」


 ライムは小さく頷き、口を開いた。


「帝国の動きはギルドにとっても関心事ですので、結果が分かったら報告していただけますか?」


 確かに傭兵ギルドの仕事の、半分以上は戦争に関係している。

 もし熊が帝国の兵器として育てられたものなら、前線に向かう傭兵への情報として知っておきたいのは当然だろう。


「分かったわ。詳しい事が分かったら報告をいれる」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「ただ食事を終えたら、お城にも報告しようと思ってるの。子爵様がなんて言うか分からないから、ギルドからもお城に聞いてみてもらえる」


「……そうですね。分かりました。コチラからも確認してみます」


 ライムとの会話がひと段落した所で、店員が食事を持って来た。

 皿には豚と鶏のソテーと付け合わせにキャベツが山盛り乗っていた。

 カミュはキャベツの量に驚きながらも、とにかく食べる事にした。


「ガハハッ!! 雪丸、そんなんで足りるのか!?」

「拙者はこれで十分でござる。しかしバラン殿は大食漢でござるな」

「俺は故郷じゃ小食のほうだ!! 兄貴なんて俺の倍は食うぞ!!」


 バランの倍……カミュは聞いているだけでお腹が膨れて来る気がした。


「雪丸さん、食事の後でちょっといいかしら?」

「なんでござるか?」

「タチアナさんに頼まれた事があるの」

「タチアナ殿に? ……分かったでござる」


 カミュは何とか残さず完食した。

 味は悪くなかったが、とにかく量が多かった。


 ライムを見ると彼女の前には小ぶり皿が並んでいる。

 カミュの視線に気付いたのか、ライムが説明してくれた。


「この店は何も言わないと、大盛の料理が運ばれてくるんです。傭兵の人達はとにかく食べますからね」

「なるほどね。次にこの店に来る時は、少なめって言う事にする」


 雪丸も食事を完食したが、少し苦しそうにしていた。

 驚いたのは、月夜がカミュと同じくらい食べたはずなのに平然としていた事だ。

 細身で小柄な体のどこにあれだけ入るのだろうか。


「月夜さん、平気なの?」

「平気とは何がで御座いますか?」

「えっと……結構量があったから……」

「そうでしょうか?」


 二人の会話を聞いていた雪丸が口を挟んだ。


「カミュ殿、月夜は出されたら、出されただけ食べるでござる。おそらくバラン殿と同じ量を食べても、顔色一つ変えないでござるよ」

「嘘でしょ?」

「本当でござる。小夜に聞いた事があるのでござるが、子供の頃からよく食べたようでござる」


 カミュは月夜のスリムな体を見て、沢山食べても太らないのは、少し羨ましいなと思った。

 全員が食事を終えるとバランが口を開いた。


「ライム! 話はまとまったのか!?」

「はい、ギルド長」

「そうか! 三人とも手間をかけたな、ここは俺のおごりだ!! それにしても、腕のいいのが三人も加わってくれるとはついてるぜ!! ガハハッ!!」

「では、皆様。私達はお先に失礼します。ギルド長、帰りますよ」

「おう!! カミュ、雪丸!! それと月夜だったな!! これからもよろしくたのむ!!」


 そう言って二人は、カミュ達の分も支払いを済ませ店から出て行った。


「ふう。話しているだけで疲れたでござる」

「義兄上、あの方とはギルドで仕事をする上で、度々会わねばならぬのですか?」


 不安そうな月夜の問いにカミュが答えた。


「頻繁に会う事は無いと思うわ。目立つ事をしなければね」

「目立つ事で御座いますか?」


 月夜は小首をかしげ、カミュを見た。


「例えば……」


 カミュは自分がギャング団を潰した時の事を話そうとして、その時の事を思い出し言葉を濁した。


「とっ、とにかく派手な事とかをしなければいいのよ! ……そうだ。月夜さん街中の仕事では爆弾とかは使わない方がいいわね」

「そうなのですか? もとより金子のための仕事ですから、破裂竹などは使わないつもりでしたが……気をつけます」


 月夜はそう言ってカミュに頷きを返した。


「ところでカミュ殿、タチアナ殿の頼みとは何でござるか?」

「そうそう。タチアナさんに石を使った刀で、色々な使い方をして欲しいって言われたの」

「色々な使い方?」

「私は刀を使い慣れていないから、あの技ぐらいでしか使わないでしょう?」


 雪丸は納得したように頷いた。


「確かにカミュ殿の剣技は、直剣に特化しているでござるな」

「だからね、刀を使い慣れた人に使ってもらって、どうなるか調べたいそうよ。それで雪丸さんはどうかなと思って」

「拙者がカミュ殿の刀を使うのでござるか?」


「いいえ、新しく一振り親方に打ってもらって、それを使うって話よ。報酬は石を使った刀よ。どう?」

「真でござるか!? 是非やらせてもらいたいでござる!」

「分かったわ。じゃあタチアナさんに伝えておくわね。予算の事があるみたいだから、直ぐって訳じゃないみたいだけど」


 雪丸はカミュに頭を下げた。


「カミュ殿、感謝するでござる。月夜の話を聞いて、刀の事は諦めていたでござるよ」

「喜んでもらえてよかったわ」


 話を聞いていた月夜が口を開いた。


「カミュ様。義兄上もカミュ様と同じ刀を頂けるのですか?」

「いいえ。たぶん問題点を洗い出した、もっと良い物になるはずよ」

「本当でございますか!?……義兄上がそんな刀を頂けるなら、国の御役目できっと役に立つでしょう。カミュ様、ありがとう御座いまする」


 月夜は椅子から立ち、膝をついて頭を下げた。


「あわわっ、月夜さん立って、立って」


 カミュは慌てて月夜を椅子に座らせた。

 倭国の習慣だろうか、この娘はすぐに膝をついて頭を下げるので、ビックリしてしまう。


「拙者。カミュ殿と出会ってから、なんだか運が向いて来た気がするでござる」

「そうで御座いますね。カミュ様は大黒様の化身かもしれませぬ」

「おお! それは良い」


 カミュは月夜の言う大黒様というのが分からなかったので、雪丸に尋ねてみた。


「ねえ、雪丸さん大黒様って何?」

「倭国の福の神でござる。身を立てるための様々なご利益があるのでござるよ」

「へぇ、雪丸さんの国には、沢山神様がいるのねぇ」

「八百万と言いましてな。倭国では様々な物に神が宿るとされているのでござる」


 興味が湧いて来たカミュは、大黒様についてさらに尋ねてみる事にした。


「それで大黒様っていうのはどんな姿なの?」

「拙者が見た物は、願いを叶える打出の小槌と、大きな袋を背負った髭の中年でござった」

「髭の中年……」


 雪丸はカミュの様子に気付かず、更に続けた。


「旅の途中で知ったのでござるが、どうやら元は別の信仰の神様だったようでござる。そこでは肌の黒い、腕が六本、目が三つある破壊の神として崇められていたようでござる。おそらく倭国で他の神様と混ざったのでござろう」


「……雪丸さん。どういう事かしら?」

「何がでござるか?」

「どうして私がそんな恐ろしい神様の化身なのよ!?」


 雪丸はしまったという顔をしたが、カミュの怒りはしばらく解けなかった。

 大黒様と言い出したのは月夜だったのだが、怒りは神様の説明をした雪丸に向かっているようだった。

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