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剣の娘  作者: 田中
第七章 くノ一と熊退治
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ローグ村の村長

 カミュと雪丸の二人が村長の家へ向かうと、細く開いていたドアが勢いよく閉じられた。

 二人は不思議に思いながら、近づきドアをノックする。


「ギルドの依頼で参った者でござる。村長殿にお会いしたいのでござるが?」


 雪丸がそう声かけると、家の中からバタバタと足音が聞こえ、何かが倒れる音がした。

 何事かと思い、雪丸は再度ドアをノックし問いかける。


「どうしたでござるか!? 大丈夫でござるか!?」


 雪丸が問いかけるが、中から返事はない。


「一大事やもしれぬ。カミュ殿、扉を破るでござる」


 雪丸とカミュはお互い顔を見合わせて頷き合った。

 雪丸は刀を抜き、ドアの隙間に刃を添わせるように刀を振るった。

 閂が斬られドアがゆっくりと外に開く。


「ごめん!」


 雪丸とカミュが村長宅に踏み込むと、鍋を被りお玉を手にした男と、その妻と思われる女が箒を持って、子供たちを庇うように部屋の隅に固まっている。

 部屋の中には椅子が倒れ四方に散乱していた。


「村長殿でござるか? 大事ござらぬか?」

「確かにオラは村長だけども、この村に金目の物なんかねぇべ!!」

「ふぁっ?」


 カミュは思わずおかしな声が出た。


「オラ、ずっとドアの隙間から見てたんだぁ! この家を守ろうとした月夜ちゃんを叩きのめして、家から金目の物を盗む気だべ!?」

「いや、誤解でござる。拙者達はギルドの依頼で……」

「したら、何で月夜ちゃんがいきなり斬りかかるんだ!?」


 村長はよっぽど怖いのか、お玉を持つ手がぶるぶると震えている。

 それでも、家族の前に立って彼らを守り、逃げないのは流石というところか。


「あの、誤解があるようですけど、私達は本当にギルドの依頼で来た者です」


 カミュはそう言いながら、腰のポーチに入れていたカードを取り出した。

 雪丸も胸元を探り、紐を通したカードを取り出した。

 村長はお玉を威嚇するように突き出しながら、じりじりと二人に近づき、出したカードを疑わしそうに確認した。


「確かに、ミダスの傭兵ギルドの記しだ。この前来たスティーブさんと一緒だべ。けどもなんで月夜ちゃんが切りかかったんだ? あんた何かしたんだべか?」

「ちょっとした誤解でござる。拙者は月夜の義理の兄でござる」


 村長はそれを聞いて納得したようにお玉を下ろした。


「ああ! あんたが家族ほっといて、わざわざこの国まで武者修行に来たっていう馬鹿なお人だべか!」

「うっ、月夜は一体、村長殿にどのような説明をしたのでござるか?」


「異国の剣士に負けたのが悔しくて、その剣士が言ってた強い人に鍛えて貰いにきたんだべ? 駄目だよあんた、そんな事で家族ほっぽり出しちゃ。何でも嫁さん隠れて泣いてるそうでねえか?」

「……確かにその通りでござるが……」


 雪丸は気まずそうに体を縮めた。


「あんた五年も帰ってねぇんだべ? 国でも修行は出来るはずだぁ。一家の主なんだったら、そんな風にフラフラしてちゃいけねぇべ」

「ううっ、カミュ殿、助けて欲しいでござる」

「……ごめんなさい。なにも言えないわ」

「ふぐっ! ……小夜、悪かったでござる」


 村長の言う事は正論過ぎてカミュも雪丸を擁護する事は出来なかった。

 雪丸は自身の行いを省みたのか、膝をついて項垂れている。

 流石にカミュも雪丸が気の毒に思え口を挟んだ。


「村長さん、雪丸さんも帰国のために、ギルドで仕事をしてお金を貯めています。もうそのぐらいで許してもらえないでしょうか?」

「そうだべか? 月夜ちゃんが泣きながら話すもんだから、こりゃ酷い男もいたもんだと同情しちまって。そうかい、帰る気はあるんだべな」


 村長の言葉に、雪丸はガバっと顔をあげた。

 心なしか目元が赤いように見える。


「勿論でござる! カミュ殿に恩を返し、金が貯まったらすぐにでも帰るつもりでござる!」

「そっか。それならいいんだ。んでギルドの依頼ちゅう事は、熊退治に来たんだべか?」


 カミュはようやく本題に入れると胸を撫で下ろした。


「はい、なんでも鎧を着た熊だとか?」

「オラは見てねぇんだども、月夜ちゃんと村の猟師連中はそう言ってただ。ここらにいる熊より倍ぐらいでけぇって猟師は言ってる」


「この辺にいる熊とは違う種類のものでしょうか?」

「そうだと思う。なんにしても、あんなのが山に居たんじゃ他の動物も逃げ出しちまうし、餌を取られた他の熊も村に下りて来ちまうかもしれねぇ。早くどうにかして欲しいだよ」


 村長は困り果てた様にそう洩らした。


「分かりました。取り敢えず、猟師さん達に話を聞いてみます。村長さんお騒がせして、申し訳ありませんでした」

「んにゃ。こっちも勘違いして騒いで悪かっただよ。まぁ何にしても、退治してくれたら助かるだ」


「はい、頑張ります。じゃあ行きましょうか?雪丸さん」

「承知。村長殿、お騒がせいたした。それと月夜が大変世話になったようで、感謝するでござる」


 雪丸はそう言って村長に頭を下げた。

 村長は慌てて頭を上げさせた。


「頭なんか下げなくてもいいべ。月夜ちゃんはよく働いてくれるし、助かったのはこっちだべ」

「そうでござるか。月夜はお役に立てたのでござるな」

「あの子はいい子だよ。早く金貯めて国に一緒に帰ってやるべよ」

「そのつもりでござる。では失礼するでござる」


 雪丸は再度村長に頭を下げ、家を出ようとする。

 カミュも家を出ようとして、雪丸が断ち切った閂が目に入った。


「村長さん、すみません。ドア壊しちゃって……」

「あっ! これはしたり……」

「大丈夫だ。そこらへんにあった棒を使っただけだから。気にせんでいいべ」


 カミュは暖炉の横に有った薪に目をやった。


「これ、一本貰っていいですか?」

「かまわねぇけど、どうするんだ?」


 カミュは薪を持って家から出て、それを放り上げた。

 腰の直剣を抜き放ち、薪の形を整える。

 何度か切って、跳ね上がった木材がカミュの手に戻った時には、薪は閂と同じ寸法になっていた。


「これ閂に使って下さい」

「へぇ、見事なもんだ」


 ウォードの所で、木材を加工していた経験が活きた。

 人生、何が役に立つか分からないものだ。

 カミュは閂を村長に渡し、月夜たちの元へ向かった。


「カミュ殿、かたじけないでござる」

「気にしないで、私だって雪丸さんがやらなきゃ、ドアを壊していたと思うもの」

「感謝するでござる。しかしカミュ殿は器用でござるな」


「体を動かすのは得意なのよ」

「得意という次元では無いような気がするのでござるが……」

「……雪丸さん。私は、体を動かすのが、得意なだけの、普通の、女の子よ。……いいわね」


 カミュは雪丸に微笑みながらそう言った。


「……その通りでござる」


 少し、怯えたような雪丸を連れてカミュは月夜たちの元へ向かった。

 月夜は戻った雪丸に声を掛けた。


「義兄上、村長殿にご挨拶できたのですか? 何やら刀を抜いておりましたが?」

「月夜……お主、拙者の事をどのように村長殿に伝えたのだ」

「どのように? 武者修行に出て、もう五年、国に帰っておらぬと申しただけですが……」


「他にも、小夜を泣かしておるとか、家族を放りだしたとか申したであろう?」

「それが何か? ……事実ではないですか?」


 月夜は小首をかしげ、不思議そうに雪丸を見返した。


「確かにそうじゃが、言い方というものがあるじゃろう」

「まあまあ、雪丸さん。村長さんも分かってくれたんだしいいじゃない」

「カミュ殿がそう言うなら……」


 雪丸が渋々という様子で口を閉じたので、カミュは月夜に尋ねた。


「それより月夜さん。これから退治する熊について聞きたいんだけど」

「はい、カミュ様。何でもお聞きください」


 月夜はそう言って、カミュの前に片膝をついて頭を下げた。


「月夜さん、私は貴族でもなんでもないんだから、膝なんてつかなくていいのよ。立ってちょうだい。あと様も要らないわ」

「いえ、義兄上がお世話になった方に、これ以上無礼な真似は出来ませぬ」


 その後もカミュが何か言っても、月夜は一向に立つ様子はなかった。


「カミュ殿、月夜は一度決めたら一直線の頑固者でござる。諦めて話しを進めた方がいいでござるよ」

「はぁ、分かったわ。落ち着かないけど、しょうがないわね。それで月夜さん達は山狩りを続けていたんでしょ? 熊の居場所はどこか分かったの?」


 月夜は顔を上げ、カミュを見上げながら答えた。


「初めに遭遇した北の山を捜索しておりましたが、移動したようで見つかりませんでした。先ほどは東の山に出向こうと村長殿に報告をしておりましたところです」

「月夜さんが投げた爆弾に驚いて、住処を変えたのかしら……」


 カミュの言葉に月夜は頷き、言葉を続けた。


「スティーブ殿を救う際使った破裂竹には、大層驚いておりましたので、その可能性もあると思います」

「足跡で追えないの?」


「それが、頻繁に足跡を途切れさせておりまして、猟師殿達が言うには獣が使う技らしいのですが、自分の足跡をたどって後退して、途中で茂みなどに飛んで足跡を誤魔化すのだそうです。それを度々使うため、追跡が困難なのです」


 月夜の話を聞いていた猟師の一人が口を挟んだ。


「んだ。オラたちは熊専門の猟師じゃねぇけど、あんなに知恵の回るやつは初めてだ。足跡を残さねぇように岩場や、川を移動して追えねぇように動いてんだ」

「……一筋縄ではいかない様ね」


 カミュは猟師の言葉を聞いて、唇を舐めた。

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