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剣の娘  作者: 田中
第六章 貴族の誇り
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騎士団の男

 カミュを乗せたオニキスは、程なく兵の集まる東門に着いた。

 東門の外、往来を邪魔しない様に街道から少し離れた場所に、兵員輸送用の大型の馬車が二十台以上並んでいた。


 兵士たちは、深緑の厚手の服の上に、黒く塗られた顔が見える鉄兜に胸当てを装備し、細長い袋を背負っていた。

 剣は身につけておらず、腰には小ぶりのナイフと皮のポーチを身につけている。


 その中に、車椅子に乗った仮面の男の姿を認めたカミュは、オニキスをそちらに寄せた。

 オニキスから降り、男に話しかける。


「フクロウ、貴方も一緒に行くの?」

「その声はカミュか? そうだ俺が行って男爵に直接話したほうが、子爵が操られているのが、時間稼ぎの為の嘘だと説明しやすいだろう」

「男爵は子爵様が暗示にかかってると思ってる訳だし、ばらした方が揺さぶれそうね」

「そういう事だ」

「フクロウ、彼女がカミュなのか?」


 フクロウの横にいた小柄な目つきの鋭い男が彼に問いかける。

 格好は他の兵士と同じく兜と胸当てを身につけている。


「そうだ。カミュこの男はグラント。銃士隊の隊長だ」


 フクロウは男の質問に答え、カミュに男を紹介した。


「グラントだ。子爵様から話しは聞いている。この作戦の立案者らしいな」

「一応そういう事になります」


 グラントは頷き言葉を続けた。


「君が考えた物から一部変更がある。初撃の銃による威嚇で投降するようなら、それを受け入れる。その場合は君の出番はなくなるな」

「戦わなくていいなら、そのほうが良いわ」


 三人で話していると、他の兵とは違い、立派な甲冑を着た男が会話に割り込んできた。

 三十代半ばぐらいの、カミュより頭一つ大きい黒髪の男だった。


「そのほうが良いとはどういう事だ。戦えばメッキが剥がれるからか?」


 男は不快さを隠そうともせず、カミュを睨みそう口にした。


「貴方は誰?」

「彼はジェイク、第一騎士団の五番隊、隊長だ」


 カミュの問いにはグラントが答えた。


「騎士団の隊長がなんでここにいるの? 今回は銃士隊がメインでしょう?」


 ジェイクはカミュを指差し宣言する。


「この場で私と戦ってもらおう」

「どうしてですか?」

「子爵様が我々を差し置いて、どこの馬の骨ともわからん一介の傭兵に、決闘という重要な役目を任すなど信じられん」


「子爵様を疑うの?」

「私は子爵様に忠誠を誓っているが、あの方は若い。間違いを犯す事もあるだろう。傭兵ギルドでの話は噂で聞いたが、とても真実とは思えん。実際に戦ってその腕見極めさせてもらうぞ」


 確かに伝え聞いただけでは、カミュのやった事はでたらめだ。

 ギャング団の件ではギルドでも絡まれた。


「ふう、分かりました。ルールは?」

「騎士の戦いは剣と決まっている。多少腕に覚えがあるようだが、私も日々訓練を積んでいる。剣聖殿にご指導いただいた経験もあるのだ。辞退して役目を譲るなら今の内だぞ」


「剣聖……」


 剣聖の指導を受けたという事は、カミュにとってはいわば兄弟子に当たる訳だ。

 彼女は彼の剣技に興味を覚えた。


「いいわ。やりましょう。グラントさん審判をお願いできますか?」

「大丈夫かね? ジェイクは騎士団でも名の通った使い手だ。ここに来たのも自分の腕に絶対の自信をもっているからだぞ」


「負けたら素直に辞退します。言い出した事の責任を取りたいから、負けるつもりは無いですけど」

「ぬかしたな、小娘! グラント、審判をしろ!」

「分かった。では時間も惜しい。一本勝負だ」


 騒ぎを聞いた兵士たちも、馬車の近くからこちらを伺っている。

 騒いだり、こちらに集まったりしないのは、統率が行き届いているからだろう。

 それでもこの勝負が彼らの注目を集めているのは感じられた。


 カミュとジェイクは、馬車から離れた草地で向き合い剣を抜いた。

 カミュは右手に緑光石の剣、ジェイクは右手にロングソード、左手にダガーを手にしている。

 グラントが開始の合図を告げる。


 ジェイクは鎧を着ているとは思えないスピードでカミュに迫った。

 カミュは右手の横振りを身をかがめて躱す。

 振った勢いを利用したダガーの突きを、カミュは剣で受け流そうとした。


 しかし、緑光石の剣は触れたダガーの刃を切り落とした。

 余りの切れ味にカミュは戸惑い、ジェイクはダガーを見て茫然としている。


「切れすぎるのも考え物ね。調子が狂っちゃうわ」

「貴様、なんだその剣は!? さてはギルドの依頼達成もその剣の力だな!!」


 ジェイクはダガーを投げ捨て、両手で剣を下段に構えた。

 カミュはいつものように、剣をもった腕をだらりと下げ、相手を見る。


「この剣に慣れるために、少し練習に付き合っていただける?」

「練習だと!? なめるな!!」


 それから数十合、二人は剣を打ち合わせた。

 街道では何事かと足を止めた旅人たちが二人の戦いを観戦している。

 カミュの剣は目立った傷は無かったが、ジェイクの剣は刀身が削れボロボロになっている。

 ジェイク自身、息が上がり剣の振りは目に見えて鈍っていた。


「うん、加減が分かってきた」


 カミュはそう言うと、一気に間合いに踏み込む。

 ジェイクが反応して正面に立てた剣を跳ね上げ、彼の喉元に切っ先を突き付けた。


「まっ、参った」


 ジェイクは頭上に剣を振り上げた形のまま、息も絶え絶えにそう言った。


「勝者、カミュ!」


 グラントが声高にそう告げると街道からは拍手が起こった。

 兵たちからは低いどよめきが漏れ聞こえる。

 ジェイクは剣を鞘に納め、同じく剣を鞘に納めたカミュに歩み寄った。


「貴公を愚弄するような発言をして済まなかった。私も剣にはいささか自信があった。子爵様の決定にどうしても納得がいかなかったのだ。いかようにも報告してくれ、罰を受ける覚悟は出来ている」


 そう言ってジェイクはカミュに頭を垂れた。


「頭を上げてください。貴方の剣には確かにジョシュアの面影がありました。真っすぐな剣筋は貴方の心を映しているのでしょう」

「剣聖殿にも同じことを言われた。貴公は剣聖殿を知っているのか?」

「剣聖ジョシュアは私の師匠です。貴方は私の兄弟子という事になりますね」


「ふっ、未熟な兄弟子もあったものだ」

「子爵様には何も言うつもりはありません。弟子同士が戦ってもそれは練習にしかならないでしょう?」


 そう言って笑うカミュをジェイクは呆けたように見た。


「……完敗だ。子爵様を疑った自分が恥ずかしい。貴公なら必ず勝てるだろう。待たせたなグラント」

「いや、いいものが見れた。正直、兵の中には俺も含め、カミュを疑っている者もいた。これを見れば誰も文句はいえんだろう」


 ジェイクに答えながらグラントは彼の肩を軽く叩いた。


「貴公の腕は他の団員にも伝えておく。ではな」


 ジェイクは再度カミュに頭を下げ、自身の馬でミダスに戻っていった。

 グラントがそれを見送り、カミュに声を掛けた。


「それでは出発しようか? 男爵の軍は物資を略奪しながら兵を吸収しつつ進んでいる。領境にはこちらの方が早くつけるはずだ」

「分かりました」


 グラントが馬に乗り、銃士隊も馬車に乗り込んだ。

 フクロウはハミルトン商会の馬車に、兵の手を借り乗り込んでいる。

 カミュもオニキスに跨り、グラントの横に馬を寄せた。


「男爵の動きを見るに特段急ぐ必要はないが、布陣のためには早い方がいいだろう」

「そうですね」

「隊長、全員乗り込みました」


 馬に乗ったグラントの部下が彼にそう報告した。


「よし、では出発!!」


 グラントの号令で、兵を乗せた馬車が街道を進み始めた。

 グラントは隊の中程で、部下たちに指示を出しながら馬を進めている。

 カミュは彼の横について、オニキスを走らせながら、ジェイクについて聞いてみる。


「グラントさんは、ジェイクさんとは親しいんですか?」

「あいつとは同期なんだ。あいつは騎士団。俺は小柄だったんで弓隊に回されたんだ」

「所属が違うのに随分仲がいいんですね」


 グラントは少し遠い目をして、口を開いた。


「一緒に帝国との戦争に行ったんだ。俺達の弓があいつらを救ったこともあるし、あいつの騎馬隊が俺達を救出したこともある。戦友ってやつだな」

「戦争に行ったんですか?」

「負け続きだった初期ではなく、侵攻が落ち着いた頃の防衛戦だがね。それでもきつかったよ」


 カミュはグラントが戦争に行ったと聞き、黒鋼騎士団について尋ねてみることにした。


「あの……黒鋼騎士団を見た事はありますか?」

「帝国軍でもたちが悪い連中だな。俺が行った戦場じゃ見てないな。あいつ等は確かに強いが数はそれほど多くない。多分装備の問題だろうな」

「どういう事ですか?」


 カミュの疑問に、グラントは顎を撫でながら答えた。


「あいつ等の名前の由来を知っているか?」

「はい、知っています。黒鋼という希少金属で身を固めているからですよね」

「知ってるなら話は早い。あれは帝国でも豊富に産出されるものじゃない。結果的に少数精鋭にならざるを得んのさ」


 グラントは不意に思い出したようにカミュに告げた。


「そういえばジェイクの部隊が一度奴らと戦ったことがあったはずだ。剣も槍も通らず退却したそうだ。その時は向こうも少数だった所為か追撃はされなかったようだがな。一緒に飲んだ時に、生きた心地がしなかったって言ってたよ」

「ジェイクさんが……」


 ジェイクの腕は決して悪くない。それは戦ったカミュも認めるところだ。

 彼が退却を選んだのは、技量の差というよりは装備の差が原因だろう。

 鋼の剣ではジョシュアの技をもってしてもジャハド鎧に傷をつけるのが精いっぱいだった。

 カミュが考えるに、一般的な技量の騎士と鋼の武器では黒鋼の鎧を打ち破るのは難しいと思えた。


「黒鋼騎士団の事が聞きたいなら街に戻った時ジェイクに話しを聞いてみると良い。まあ負け戦の話だ。あいつはあまり言いたくないかもしれんがな」

「そうしてみます」


 オニキスの手綱を操りながら、気持ちが黒鋼騎士団に向かいそうになるのをカミュは切り替えた。

 今は男爵の事に集中すべきだ。そう己を叱咤しつつカミュはオニキスを走らせた。

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