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剣の娘  作者: 田中
第六章 貴族の誇り
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貧民街の孤児

 城を後にしたカミュは、リンデを連れて雪丸と共に貧民街に向かった。

 リンデには監視役として兵士が一人ついてきた。

 徒歩で向かう事にリンデは文句を言っていたが、カミュが視線を向けると口を閉ざした。


「雪丸さん、行ったり来たりで悪いわね。貴方もわざわざご苦労様」


 後半部分は兵士に向けての言葉だ。

 兵士は何も言わず、小さく頷いただけだった。


「拙者は構わんが、ご子息は不満のようでござるな」

「ったりめーだ! なんで俺が平民の仕事を手伝わなきゃいけないんだよ!」


「貴方はもっと世の中を見るべきだと思うわ」

「そんな事に何の意味がある!?」

「パンがどうやって出来ているか知ってる?」


 リンデは突然の質問に面食らった様に口をつぐみ、おもむろに答えた。


「麦から作るんだろ。それぐらい知ってる馬鹿にするな!」

「麦を挽いて粉にして、水や砂糖、塩、酵母を混ぜてこね、それを寝かせて発酵させる。最後に窯で焼き上げる。これだけの手間が今朝、貴方が食べたパンにはかかっているわ」

「だから何だよ……」


 リンデは意図が解らず訝し気に尋ねた。


「貴方は自分が貴族だから、与えられるのが当然と思っている」

「それの何が悪いんだ!」

「自分で作ってみれば、それがどんなに大変な事か理解出来るはずよ。簡単によこせとは言えなくなるわ」


「まさか俺にパンを作らせるつもりか!?」

「さあ? 何をさせるかはウォードに任すつもりだから」


 話しながら三番街を抜け、貧民街に到着した。

 ウォードたちは昼休憩を終え、作業を再開しているようだった。

 カミュは近くにいたジャッカルのメンバーに、ウォードを呼んで来てもらうよう頼んだ。

 程なく屋敷の中からウォードが姿を見せる。


 頭と口を布で覆い、埃塗れだ。

 布を外し、埃を払いながらウォードがカミュに問いかける。


「カミュ、早速連れてきたの? その子が例の問題児?」

「ええ、リンデよ。リンデ、彼女が現場を取り仕切っているウォードよ。挨拶しなさい」

「フーン。結構美人だな。着飾ればいい線行くと思うぜ」


「リンデ、気を付けた方がいいわよ。彼女、元ギャング団のボスだから」

「あ? 嘘だろ? 別にその辺のネーちゃんと変わらねえじゃん」


 軽口を叩くリンデの目の前に、鶴嘴が付きつけられる。


「ボスを侮辱する奴は許さんぞ」


 先ほどウォードを呼びに行った男が、リンデを睨みつけそう言った。

 男の腕の太さははリンデの三倍は軽くありそうだ。


「止めなさい。子供に凄んでどうするの」

「すいやせん」


 ウォードに止められた男は素直に謝った。

 その後、彼女はカミュに向かってため息交じりに口を開いた。


「なかなか大変そうな子ね。どう扱ってもいいの?」

「ええ、他の人たちと同じ扱いで構わない。色々経験させてやって頂戴」

「分かったわ。ドミノ、この子に仕事を教えてやって」


 ウォードは鶴嘴の男にそう指示を出した。


「分かりやした。おい、こっちだ付いて来な」

「マジかよぉ」


 リンデはぐずっていたが、ドミノに睨まれると、すごすごと彼について行った。


「それで? 貴族の坊ちゃんとは聞いたけど、何者なの?」

「あの子は子爵の叔父、男爵の息子よ」

「へぇ……面倒な事になりそうだから、深くは聞かないわ。もう既に面倒事で手一杯だから」


 ウォードはカミュに、お手上げとジェスチャーを交えて言う。


「頼りにしてるわ。貴女なら彼を何とか出来る」

「簡単に言わないでよね……カミュ、貴女も手が空いたら手伝いに来なさいよ。本来ここの責任者は貴女なんだから」

「はいはい、解っていますよ。お姉様」


「ハイは一回!」

「ハイッ、お姉様!」

「フフッ、分かればよろしい。じゃあ仕事に戻るわ」

「またね、ウォード」


 カミュはウォードに手を振り、見張りの兵士を残して貧民街を歩くことにした。

 孤児たちに新しい孤児院が出来る事を、伝えられればと考えたからだ。

 道すがら雪丸がウォードについて尋ねてくる。


「カミュ殿、ウォード殿は賊の大将だったのでござるか?」

「そうよ。ジャッカルっていうギャングのボスだったわ。その前は旅芸人で鞭使いだったみたい。鞭の腕前は一流よ」

「ほう、あのような若く美しい女人がボスで鞭使いでござるか。この国の女人は強い者が多いでござるな」


「……ごく一部だと思うけど」

「いやいや、コリーデ村のロブ殿の奥方も、怒ると大層恐ろしい方でござった。拙者、初めてロブ殿にお会いした時、旅の話をせがまれましてな。酒を飲みつつ話しておったのだが、つい二人で飲み過ぎてしまい、翌朝奥方に大目玉を食らったのでござる。いやぁ、あの時は生きた心地がしなかったでござるよ」

「それは雪丸さんが悪いんじゃ……」


「カイザス殿の奥方も強そうであるし、この国はカミュ殿を筆頭に、恐ろしい女子が多いのう」

「雪丸さん……私を筆頭にってどういう事かしら?」

「あ……」


 カミュの低い声音に、自分が言うべきではない事を口にしたと雪丸は気付いたが、一度口から出た言葉は戻す事は出来ない。

 彼は小夜がへそを曲げた時の事を思い出しながら、何とかその場を取り繕おうと言葉を紡ぐのだった。


 そんな二人を建物の影から見ている者がいた。

 その視線に気付き、カミュがそちらに目をやると、以前、ルカス達に絡まれていた子供たちが様子を伺うようにこちらを見ている。

 彼らはカミュと目が合うと、こちらに走り寄って来た。


「姉ちゃん。いつかは助けてくれてありがとう」

「あっ、ありがとう」


 男の子が頭を下げると、女の子も真似して同じく頭を下げた。

 二人は濃い金髪で青い目をしていた。顔立ちがよく似ている。恐らく兄弟だろう。

 二人とも汚れた服を着ていて、少し痩せている。


 カミュは膝をつき、二人に目線を合わせ語り掛けた。

 雪丸も同じように膝をついた。


「二人とも、あれから絡まれたりしてない?」

「うん! 姉ちゃんに会った次の日から、全部じゃないけどギャング達が街からいなくなったんだ」

「あのね。パンも半分こじゃなくて、お兄ちゃんと一つずつ、食べれるようになったんだよ」

「そう、良かったわね」


 カミュはそう言って、女の子の頭を撫でた。


「あなた達、今どこで暮らしてるの?」

「今は空き家があるから、そこに住んでる」


「ねぇ、今この先のお屋敷が、直されているの知ってる?」

「ギャングのアジトだった家だろ。あの家にいたギャングがなんでか直しているやつ」

「そう、それの事。あそこはね。孤児院になるの」


「孤児院? 新しく出来るって事?」

「そうよ。良かったらそこで暮らさない?」

「ごはん食べれる?」

「勿論!」


 その言葉に女の子は笑顔を見せたが、兄の方は胡散臭そうにカミュを見た。


「なんか裏があるんだろ。話が旨すぎる」

「一つ条件があるわ」

「やっぱりな。育ったらどっかに売られるとかだろ」


 カミュは首を振って、話を続けた。


「いいえ、孤児院には劇場が一緒に作られるんだけど、そこで仕事を手伝う事が条件よ」

「劇場?」

「そう。他にも庭に畑を作って野菜を育てたり、孤児院を自分たちで掃除したり、そうやって働いてお金をもらうのよ」

「今だって働いてるよ!」


 男の子は怒ったように言葉を返す。


「どんな仕事? 私もやっていたけど、掏りは仕事じゃないわ」

「分かってるよ! でもどこも子供は雇ってくれないんだ!」

「だったら孤児院で働いてもいいじゃない。勉強を教える場所も作るつもりだから、自分のしたい事を出来るようになれるわ」


 その話に女の子が口を開いた。


「ミリィ、お菓子屋さんになりたい!」

「ミリィはお菓子が好きなの?」

「うん! おかあさんがお祭りで買ってくれた飴はね、中にリンゴが入ってたの! すごく美味しかったんだよ!……おかあさん…」


 ミリィは母親を思い出したのか、目に涙を浮かべている。

 雪丸は突然立ち上がり、駆け出して行った。

 カミュはそれを気にしつつも、ミリィの頭を撫で、彼女に優しく語り掛けた。


「ミリィ、泣かないで。あなたが悲しいと私も泣いちゃうわ」

「グスっ、おねぇちゃんも……泣いちゃうの?」

「そうよ、お姉ちゃん。こう見えてすごく泣き虫なのよ」

「……大人なのに?」

「そう、大人なのに」


「……えへへ。おっきいのに、可笑しい」

「そうね。可笑しいね」


 カミュはミリィを優しく撫でながら、男の子に視線を向ける。


「三食プラス沢山じゃないけどお給料付き。衣食住は保証するわ。どうかな?」

「助けてくれたし、信用しない訳じゃないけど、もう少し様子をみたい」

「……そうね。よく考えて答えを出して。孤児院も今日明日に出来る話じゃないから」

「分かった。俺はレッド。こっちは妹のミリィ」

「私はカミュよ。よろしくね。レッド、ミリィ」


 レッドと話していると、雪丸が息を切らせて帰って来た。

 何やら紙袋を抱えている。


「雪丸さん、どこ行ってたの?」

「昼の露店に飴が売られていたのを思い出したので、買ってきたでござる」


 そう言って袋から棒のついた飴を二つ取り出す。

 膝をついてミリィに差し出した。


「母上の飴とはちと違うが、これも甘いでござるよ」


 ミリィはレッドを見て、彼が頷くと笑顔で飴を受け取った。

 そして一本をレッドに差し出す。

 レッドは照れ臭そうにそれを受け取った。


「ありがとう」

「まあ、なんだ。あんがと」


 ミリィは真っすぐ雪丸を見て、レッドは目を逸らしながら礼を言った。


「何処の国でも子供はかわいいでござるな。拙者も紅丸と五月に会いたいでござる」

「兄ちゃん若いのに子供がいんの!?」

「拙者これでも二十四でござる」

「ホントかよ。カミュ姉ちゃんのほうが上に見えるぜ」

「レッド…」


 カミュが殺気を込めた目でレッドを見た。


「拙者この感じに、大分慣れてきたでござる」

「お兄ちゃん、女の子に年のこと言っちゃだめだよ。メっされるよ」


 レッドはあたふたとカミュに謝罪の言葉を述べている。

 その後、カミュは孤児院の事を、他の孤児たちにも広めて欲しいと、レッドに頼み彼らと別れた。


 二人はその後も貧民街を回り、子供たちに孤児院の話をして回った。

 そして日もくれてきたので、ステラに足を向けた。

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