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剣の娘  作者: 田中
第六章 貴族の誇り
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作戦前夜

すみません。デイブとマイクが、ごっちゃになっていたのを修正しました。

 男爵領に入って一日目の夜、食事の後、馬車でロランを休ませ、それ以外の者は交代で見張りをしながら休息を取った。

 見張りは最初にカミュとデイブが行い、その後雪丸とマイクに交代した。

 カミュが馬車に乗り込み、床に敷いた寝袋で横になろうとした時、フクロウが話しかけてきた。


「カミュ、お前に聞きたいことがある」

「何?」

「俺は目が見えんから、率直に聞くがお前は美人か?」

「答えにくいことを聞かないでよ」


 言い淀むカミュの代わりに話を聞いていたデイブが答えた。


「カミュさんは美人だと思うよ。いつも男の様な格好をしているし、帽子を目深にかぶっているから気付いていない人が多いけど」

「そうか……」

「私が美人かそうじゃないか、何の関係があるのよ」

「馬車の中で話したろう。男爵の息子のことだ。奴は女に目が無いからな。美人だというなら必ず手を出されるだろう」

「私なら返り討ちに出来るわ」

「フッ、確かにお前の腕なら取り巻きを含めて、全員叩きのめすぐらい訳ないだろうな。だがそれをしてしまえば計画はお仕舞いだ」

「ウッ、じゃあどうすればいいのよ」

「不美人になればいい」

「どうやって?」

「デイブ、俺の腰の鞄に変装用の化粧入れが入っている。取り出してくれ」


 デイブはフクロウに近づき、彼の腰の鞄を探った。


「これかな?」


 デイブは取り出した小箱にフクロウの手を添わせた。

 フクロウは動かない指先で小箱の意匠を確かめ頷いた。


「これだ、開けて中を確認してくれ」

「分かった」


 デイブは箱を開け、中身を見ていく。


「いろいろ入ってるな。綿に、これは偽の傷跡をつくる物か?」

「顔に傷や髯等、特徴を持てば人の意識はそこに集中する。結果人相がぼやけるのさ」

「なるほどな。捜査の参考にさせてもらおう」

「で、これをどうするんだ」

「今すぐどうこうという訳ではないが、男爵の城に近づいたらそれを使って、カミュを不細工にしろ」

「なんでデイブに言うのよ」

「別に自分でやっても構わんが、経験上、術をかけて命令しても、女という奴は美しくありたいようでな、あまり醜く変装できる者は少なかった」


 それを聞いてデイブも頷く。


「確かに祭の仮装の時も、女性より男性のほうが思い切った扮装をしている者が多かったように思う」

「そうだろう」

「分かった。カミュさんまかせて下さい。潜入捜査に使うため、変装の勉強はしました。ばっちりブスに仕上げてみせます」


 そう言って親指を立て、歯をキラっとさせるデイブに、カミュはため息を返すことしか出来なかった。


「お手柔らかに頼むわ」


 カミュはそう言うと寝袋に入り眠りについた。


 翌朝、食事をすませた一行は、城のあるロディアの街に向けて馬車を走らせた。

 雪丸とマイクは仮眠を取っている。

 ロディアに近づくにつれ、村や町の規模は大きくなったが、住民の表情は暗く沈んでいた。

 カミュは豪華な馬車をぎらつく目でみるグループが気になったが、通り過ぎるだけなら大丈夫だろうと、そのことはすぐ忘れてしまった。


 男爵領に入って二日目の夜、林に囲まれた街道脇で夜を明かす事にした。

 見張りは昨日とは逆に、仮眠を取った雪丸とマイクが初めに見張りを務め、夜半過ぎカミュとデイブに交代した。

 焚火に小枝をくべながら、デイブと話しているとカミュは周囲に気配を感じた。

 馬車を中心に取り囲まれているようだ。


「デイブ、囲まれてるわ」


 小声でデイブにそう告げる。デイブも気付いていたようで、小さく頷き、腰の剣に手をかける。

 二人が様子をうかがっていると、闇の中から男が現れた。

 濃い金髪の若い男だった。薄汚れた皮鎧をきて、抜身の剣を手にしている。

 男の姿を見て二人は立ち上がる。


「周りは仲間が押さえてる。大人しくしてりゃ命までは取らねぇ」


 焚火に照らされた男にカミュは見覚えがあった。

 昼間、町で見たグループの中の一人だ。


「金目の物と食料を置いて行ってもらおうか」


 それを聞いてデイブが答える。


「我々は男爵様の下に向かう途中だ。このまま大人しく消えるなら見逃そう」

「男爵の下へだと……なら生かしておくわけにはいかねぇな」

「なんだと!?」

「俺たちが満足に飯も食えないのは、全部男爵の所為だ。えらく豪華な馬車だ。乗ってるのはあいつの客か。そいつを殺しゃあ、少しは溜飲も下がるってもんさ」

「荒事は避けようと思ったみたいだけど、逆効果だったみたいね」


 カミュがデイブに囁きかける。


「そのようですね。カミュさん、どうしますか?」

「面倒ね。いいわ、かかってらっしゃい」


 カミュが男に向かって手招きをする。

 男は鼻で笑って言った。


「唯の侍女がなに粋がってやがる。こっちはずっと監視してたんだ。武装してんのはその男ともう一人だけじゃねぇか」

「来ないならこちらから行くわ」


 カミュはそう言うと林に向けて手の中の礫を放った。

 暗闇からうめき声が聞こえ、何かが倒れる音が続いた。

 皮鎧の男は事態が飲み込めず困惑している。


「何しやがった!? どうしたお前ら!! 全員出てきて、こいつらを取り押さえろ!! くそッ、どうなってやがる!?」


 男の言葉に反応する者はおらず、代わりに馬車の扉があき、雪丸とマイクが姿を見せた。

 二人とも剣を手にし、周囲を伺っている。


「カミュさん、何事ですか?」

「カミュ殿、この御仁は?」

「この人、お金と食べ物を恵んで欲しいんだって」

「ふざけるな、俺たちは物乞いじゃねぇ!!」

「だってお腹すいてるんでしょ?」

「何事だ」


 騒ぎを聞いて馬車からロランが顔をのぞかせる。


「ロラン様!? 隠れていてください!!」


 ロランの姿を見てデイブが叫ぶ。

 だがロランはデイブの言葉を無視して、馬車から降り焚火に照らされる男の対面に立った。

 雪丸とマイクがロランを守るため、ロランの前に立とうとするがロランはそれを制した。

 二人は仕方なく男を牽制するように、焚火を挟んで男と対峙する。


「子供? 貴族のガキが何のつもりだ?」

「聞きたいことがある。教えて貰えれば対価は支払う」

「仲間を売れって言ってんのか!? なめるなよ!!」

「そうではない。とりあえず座れ」


 ロランはそう言って焚火の側に腰を下ろした。


「カミュとデイブは、この男の仲間を連れて来てくれ」

「分かりました」

「了解です」


 カミュは雪丸とマイクに目配せして、林の中に消えた。デイブもランプを持ってカミュに続いた。

 男は落ち着き払ったロランの様子に困惑しているようだ。


「……お前、何者だ?」

「ただの貴族の子供だ。話が聞きたい。物騒な物をしまって座ってくれ」


 ロランの言葉に抗いがたいものを感じたのか、男は舌打ちをして剣を鞘に納め、ロランの向かいに胡坐をかいた。

 それを見て雪丸とマイクも剣を収める。


「条件がある。仲間たちを見逃してくれ」

「いいだろう」

「で、何が聞きたい。初めに言っとくが仲間は売らねぇぞ」

「分かっておる。聞きたいのは男爵領の様子だ。どうなっておる?」


「どうもこうもねぇよ。元々、税は高かったがここ半年、なんのかんの理由をつけて金を取っていきやがる。お蔭で毎日一食、食えりゃいい方だ」

「それで盗賊をしているのか?」

「そうさ!! ……男爵領じゃどこもこんな感じさ。働いて稼いでも全部持ってかれちまう」

「なるほど、それで羽振りの良さそうな馬車を狙った訳か」

「旅人にぁ悪いが、金を持ってるのは外から来た連中だけなんでな」


 ロランと男が話している間に、カミュとデイブは林にいた男たちを焚火の傍まで移動させた。

 皆、総じて痩せておりカミュ一人でも抱えられるほど軽かった。

 剣や弓を持っている者もいたが中には農具を武器にしている者もいた。

 都合、六人を焚火の傍に並べカミュとデイブも、ロランの傍に立った。

 寝かされた仲間を見て、男が口を開く。


「仲間は無事なんだろうな?」

「気絶してるだけよ。命までは取ってないわ」


 カミュが男の言葉をまねて話すと、彼は苦々し気にロランに向き直った。


「では続きだ。法外な税に町長は何も言わなかったのか?」

「役人に税の軽減を訴えに行って殺されたよ。後釜には城から来た騎士が座ってる」

「抵抗はしないのか?」

「抵抗だと!? 兵士たちは俺たちから毟り取った金で装備を固めてる、片やこっちは食うもんさえねぇんだ。勝負になるかよ!!」


 男は怒りに拳を震わせた。


「昨日も子供が一人死んだ。年寄りや子供から飢えで死んでいく。飢えたことのない貴族様に、それがどれだけ辛いか分からないだろう」

「確かに私は飢えたことはない。だがこのまま放っておくつもりも無い」

「お前、男爵の客じゃないのか?」

「彼にとっては、私は招かざる客になるのだろうな」

「どういうことだ?」


 男は困惑気味に尋ねた。


「まあ良いではないか、それより情報がほしい。知っている範囲でいい、ロディアの事を教えてくれ」

「なんで、そんなにロディアの事を知りたがるんだ?」

「別にロディアの事を話したところで、そちに損はあるまい」


 男はロランの言葉にしばし考え込んだ。


「……確かにそうだな。……ロディアはここ半年でずいぶん変わったらしい。戦場は遠いってのに、戦争の準備をするみたいに鉄をかき集めてるそうだぜ。領民も無理やり鉱山に送られる者が増えたしな。皆、働き手を取られて喘いでるよ」

「鉄……」

「あと最近じゃ、兵の訓練場から大きな音が聞こえるって話だ」

「大きな音?」

「なんでも、祭りの時の花火みたいな音が連続して聞こえるらしい」

「花火……アインが言っていた話もあながち間違いではなかったということか……」


 男の話にデイブが青ざめる。

 カミュにもデイブが考えていることが分かった。

 男爵領では既に銃が作られ、兵に訓練させているようだ。


「他に何かあるか?」

「他か……男爵の息子に許嫁を取られた男が死んだんだが、傷口が剣でも矢でもないものだったそうだ」

「剣でも矢でもない?」


「その男は結構な商人の息子で、城への出入りも許されていたそうだ。許嫁は街でも評判の美人だったらしいぜ。それを男爵の息子が連れ去ったらしい。取り返しに男は城に乗り込んだんだが、死体になって帰って来たそうだ。胸に傷跡があってそれが死因みたいなんだが、傷の周りが焦げていたらしい」


「その商人は何も言わなかったのか?」

「泣き寝入りさ。逆に男爵のご機嫌を取るために賄賂まで送ったらしいぜ」


 推測でしかないが、男は銃で殺されたのだとカミュは思った。

 ロランもデイブも同様に考えているだろう。


「俺が知っているのはそんなところだ」

「そうか。助かった。マイク、彼に金と食料を渡してくれ」

「本当にいいのか?」


 男が驚いたように言う。


「対価は支払うと言ったであろう」


 男はマイクから金と食料を受け取り、仲間を起こし去っていった。

 去っていく男たちを見送りながら、ロランが小声でもう少しだけ耐えてくれと言っているのが、カミュの耳に残った。

 彼らが去った後、ロランはフクロウを馬車からデイブ達に運ばせ、焚火の傍に座らせた。


「フクロウ、叔父が銃を量産している事は知らなかったのか?」

「俺が男爵領にいたのは、半年以上前だ。それ以降はミダスでハミルトン商会にいたからな。だがラルゴは報告書と銃の図面は送っていたから、単発式は作ろうと思えば作れるだろう」

「その報告書を発見できれば叔父を追い詰められそうだな。フクロウ、叔父が重要な書類を隠している場所は分かるか?」

「執務室の隠し金庫だろう。あいつは俺が目が見えない事を知ると、俺がいても気にせず隠し金庫を使っていたからな。音で何をしてるか分かる俺からすれば滑稽だったな」

「開け方も分かるの?」

「部屋のどこで何をしていたかは分かるが、詳しい説明は無理だ。なんせ見えないからな」

「それでいい。隠し金庫ということは部屋に仕掛けがあるのだろう。その仕掛けの位置と何をしていたかが、分かるのは大きな手掛かりだ。話してくれ」


 フクロウは、感じ取った情報をロランたちに話した。

 それをもとに、ロランは部屋の場所、部屋の大まかな見取り図と、仕掛けの位置、それに対する順番と行動を紙に書き記した。


「明日にはロディアに着く、先に潜伏している諜報部隊にもここで落ち合えるだろう。彼らには馬車に潜んでもらい城に入った後、兵士に化けてもらおう。叔父は私達を殺さないと思うが憶測にすぎん。迅速に行動しよう。まずはフクロウ、そちには術を掛けて連れてきたが、不完全だったので掛けなおすという事にして欲しい」


「術師としては不名誉な話だな」

「そうかもしれんな。だがそれなら一室に全員を集めても不自然には思われまい。完璧に操れるようにするには、怪我の事もあるので時間がかかると言えば、時も稼げよう」

「なるほどな」


「次に夜を待って、カミュとマイクは諜報部隊と共に部屋を抜け出し、執務室を探ってもらいたい。先ほどフクロウから聞いた情報を基にして探索してくれ」

「分かりました」

「はい、任せてください」


「デイブ、雪丸、フクロウは私と一緒に部屋で待機だ」

「了解です」

「承知したでござる」

「分かったよ」


「カミュたちが報告書と設計図の場所を確認したら、叔父に術が掛かったと報告する。おそらく私たちをミダスに送り返すだろうから、諜報部隊が書類を奪ってロディアを離れる。以上だ」

「随分運任せな作戦だな」

「仕方あるまい。叔父が子爵領を欲しがっていたのは分かっていたが、まさか侯爵、果ては帝国とまでつながっていたとは考えていなかったからな。だがうまく行けば一息付けそうだ」


「うまく行くよう努力するしかないわね」

「まあ、いざとなれば、拙者とカミュ殿で兵士を全員叩きのめせばいいでござるよ」

「そうね」

「カミュさん達なら出来そうだから、冗談に聞こえないんですよね」


 デイブの言葉に二人はまじまじと彼の顔を見た。


「冗談なんて言っていないわよ」

「そうでござる」

「そうですか……ハハハ……」


 デイブの乾いた笑い声が夜の闇に溶けて行った。

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