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剣の娘  作者: 田中
第五章 密造銃と暗殺者
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対抗策

 カミュたちは出立の準備が整ったのを受けて、ロランには寝室にある隠し通路から城外に出てもらい、そこで合流した。

 隠し通路の出口は、城から少し離れた川のほとりに有った。

 近くに人がいないことを確認して、フード付きのマントで顔を隠したロランが素早く馬車に乗り込む。

 別れ際、カブラスとリカルドに子爵様を守ってくれとカミュは強く言われた。

 カミュは力強く頷きそれに答えた。


 衛視隊の馬車で三番街のステラに向かった。

 内訳は、カミュ、デイブ、マイク、そしてロランとアルバだ。

 前回の事もあり近衛兵は連れてきていない。

 馬車に揺られながら、ロランがアルバに話しかけた。


「アルバ、わざわざすまんな」

「術を用いて悪事を働く者がいることは、我々にとっても不利益になりますので……」

「そうか。カミュにも面倒をかけるな」

「あの場でフクロウを取り押さえることが出来なかったのは、私のミスです。子爵様が気にすることではありません」

「ありがとう。そう言ってもらえると、気が楽になる。なるべく早く、解決できるよう事に当たろう」


 ステラでは食堂のテーブルに雪丸がいた。

 カミュを見ると声をかけて来る。


「カミュ殿、遅かったでござるな。して後ろの方たちは?」

「知り合いの貴族のご子息よ。名前はロ……ゴホン、ロイ様よ。それと衛視のデイブとマイク、それにアルバさん」


 カミュは偽名が思いつかず、思わずロイの名前を出してしまった。


「ほう、貴族様でござるか。拙者、倭国の侍で名を九条雪丸と申す。皆様よろしくお願いいたす」


 雪丸は一向に挨拶をして頭を下げる。

 デイブとマイクは「こちらこそよろしく」と挨拶をかえし、アルバはスカートのすそを掴んで礼を返した。

 子爵が雪丸の横に座り、彼に声をかけた。


「私は……ロイだ。よろしく頼む。ふむ、そちが雪丸か。カミュより色々聞いておる。異国より剣聖を探してこの国まで旅してきたそうだな」

「利発そうな御子でござる。その通り旅は長く、拙者色々な物を見たでござるよ」

「色々な物!それはぜひ聞きたい!」

「ではまずは、国を出て船で海を渡った時に見た、巨大な魚の話をお聞かせしよう」


 ロランは雪丸の話に夢中のようだ。

 デイブ達もテーブルに腰かけ、雪丸の話に耳を傾けている。

 カミュはカウンターでそれを見ていたカイルに話しかけた。


「カイル、ただいま。それでちょっと良いかしら?」

「お帰り、カミュ。で何だ?」

「彼らに部屋を用意して欲しいんだけど、空いてるかな?」

「カミュは分かってると思うが、貴族様が満足できるような部屋はうちにはないぜ」

「それは大丈夫」

「分かった。それで部屋の割り振りはどうするんだ?」


 カミュは少し考え答えた。


「そうね。えーと彼ら、衛視のデイブとマイク、それとロイ様を同室にして欲しい。アルバさんには個室をあてがって欲しいんだけど…」

「個室は空きがあるから問題ない。衛視の二人と貴族の坊ちゃんは大部屋が開いてるから、そこでいいか?」

「ええ、それでいいわ」

「分かった、それで用意しよう。カミュ、飯はどうする?」


 ご飯と聞いてカミュのお腹がくぅと可愛く鳴った。

 カイルが笑いながら答える。


「腹ペコみたいだな。すぐ準備する」


 顔を赤くして、カミュは答えた。


「うぅ、そういえば昼も軽く食べただけだったわ。デイブ、マイク貴方達はどうする?」

「我々も頂きます」

「カイル、デイブ達二人のもお願い」

「あいよ」


 カイルは鍋をふり、料理を作り始めた。

 ごま油となんともいえない香ばしい匂いが食堂に漂う。

 カミュがテーブルに座りしばらく待つと、カイルが大皿にのった料理をテーブルに置いた。

 一つは米を炒めた物のようだ。もう一つはエビを赤いソースで絡めてある。最後の一つは揚げ物のようだ。

 カイルは取り皿とスープをテーブルに置いて言った。


「大皿から取り分けて食べくれ」

「これはなんて料理?」

「チャーハンとエビの甘辛炒め、それに鶏の唐揚げだ。大陸の東の国の料理さ。麺料理について調べた時に教わったんだ」

「じゃあ早速、いただきます」


 カミュはまずエビから食べてみることにした。

 甘さとピリッとした唐辛子のソースがプリプリのエビによくあっている。


 鶏の揚げ物は、添えられた塩を少しつけて食べる。

 カラッと揚げられた衣とジューシーな鶏肉の味が口に広がる。


 最後にチャーハンという米を炒めた物を小皿に取り、口に運んだ。

 具は玉子とハム、そしてネギだけとシンプルながら、香ばしく、炒めた米がパラパラでとても軽い。

 いくらでも食べられそうだ。


 カミュの食べっぷりを見て、デイブとマイクも小皿に取り分け、食べ始める。


「うまい! 唐揚げというのもいける。こんな鶏料理は初めてだ」

「このエビもピリッと来るところがいいですね」


 二人の口にもあったようだ。

 三人が食べているのを見て、たまらずロランが口を開いた。


「カイル、私にも取り皿をくれ」


 それを聞いてアルバも小さく手を上げる。


「すいません。私にもいただけますか?」

「分かった」


 カイルが二人分の食器をテーブルにならべた。

 彼らもそれぞれ料理を取り分け、口に運び美味しそうに食べている。


「雪丸さんはいいの?」

「拙者、カミュ殿が戻られる前にたらふく頂いたでござる」


 雪丸が膨れた腹を叩く。


「雪丸は食べ過ぎだ」


 カイルが呆れたように言った。

 五人は顔を見合わせ一斉に笑った。


 食事も終わり人心地着いた後、カミュ達五人はカイルが用意してくれた大部屋に集まった。

 カミュはアルバに声をかけた。


「アルバさん、フクロウの術に対抗するための方法は何かないかしら?」

「では、私以外に催眠術をかけられそうになったら、即座に覚醒するよう暗示をかけましょうか?」

「ええお願い」

「…本当によろしいのですか?」

「いいわよ。どうして?」

「それほどの信頼を頂けるほど、長く接したわけではありませんのに」


 カミュは少し笑って言った。


「貴女は子爵様の知り合いの貴族から紹介されたんでしょう」

「はい、リトホルム伯爵のご令嬢、ロクサーヌ様のご紹介です」

「子爵様、伯爵様とご令嬢はどんな方ですか?」

「リトホルム伯爵は堅実な人物だ。領地経営もしっかりしている。娘のロクサーヌ嬢は大人しいが、芯の通った女性だ」

「彼らがメンデル男爵と結ぶことは考えられるでしょうか?」

「まず、有り得ない。それに伯爵は娘を溺愛している。彼女のまわりにいる人物の事はもちろん調査済みだろう。そうでなければそもそも、アルバを城に迎え入れることなどせんよ」


 カミュは頷きアルバを見て言った。


「そう言う訳で貴女を疑う理由はないわ。それに料理をおいしそうに食べる人に悪い人はいないわ」


 アルバは恥ずかしそうに少し俯いて言った。


「……大変美味でした」

「隠し事や悩みがあると、料理の味も分からなくなるわ。あなたは本当においしそうだった」

「たしかに、心に何か抱えている時には、味なんてしなくなりますもんね」


 デイブが頷いている。

 カミュはアルバのグリーンの瞳を見つめて言った。


「貴女を信頼している。暗示をお願い」

「……わかりました」


 アルバはロランも含め、カミュたち四人に暗示をかけた。

 先ほど暗示を解いた時と同じように、目を覗き込まれる。

 甘い匂いが微かに香った。


「これでカミュさんたちは私以外の術師から暗示をかけられることはないでしょう」

「子爵様を一人にしないよう、必ず私かデイブ達が付くようにしましょう」

「うむ、では後はカブラスからの連絡を待つだけだな。よろしく頼む」


 子爵が皆を見回しそう言った。

 全員頷き、カミュとアルバは大部屋を出て、カミュの部屋に向かった。

 部屋の前で雪丸が待っていた。


「カミュ殿、なにか手伝えることがあれば言って欲しいでござる」


 雪丸の手は借りたいが、彼はまだ怪我が治り切っていない。


「そうね……じゃあロイ様の話し相手になってあげて」

「……わかったでござる」

「お待ちください。カミュさん、雪丸さんにも暗示をかけていいですか?」

「アルバ殿、どういうことでござる?」


 カミュは雪丸を見て、操られた近衛兵の事を考えた。

 雪丸にあの兵士と同じ暗示が掛けられれば、ロランが危ないかもしれない。


「雪丸さん、アルバさんは催眠術師なの」

「催眠術……」


「実はロイ様は命を狙われてるわ」

「それは誠でござるか!?」

「ええ、相手は人を操る術をつかう。それに対抗するために貴方に暗示をかけてもいい?あなたが操られることになれば、止められないかもしれない」

「人を操り、子供を殺めようとするとは……承知した。アルバ殿、拙者に術をかけてくだされ」


 カミュは雪丸を連れて部屋に入り、アルバに暗示をかけてもらった。


「ありがとう。雪丸さん無理を聞いて貰って」

「拙者も子を持つ身。子供を傷つける訳にはいかんでござる」


 雪丸はそう言って部屋を後にした。


「では私も部屋で休ませていただきます」

「ええ、ありがとう。アルバさん。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。カミュさん」


 アルバも部屋を去った。

 カミュは体を拭き、ベッドに横になりフクロウの事を考えた。


 アルバに術はかけてもらったが、フクロウに通じるだろうか。

 カミュの剣を凌いだことからも、技量の高さがうかがえる。

 術を封じたとしても、かなりの強敵だ。


 カミュはフクロウを生かして捕らえ、男爵が何を目論んでいるのか聞き出したいと思っていた。

 気を引き締めてかからねば、自分に言い聞かせカミュは目を閉じた。

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