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剣の娘  作者: 田中
第十一章 北の戦場
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銃士隊

 帝国軍の陣営で投石器が燃えている。

 夜襲を掛けてきた騎馬隊はいつの間にか消えていた。


 黒鋼騎士団、十四番隊の隊長であるストークは、警備兵から歩哨の兵の他に騎士団の団員が二名殺害されたと報告を受けた。

 現場に赴き遺体を調べる。

 一人は肩と首、もう一人は鎧の隙間から剣を刺し入れられ殺されていた。


 投石器の側にあった死体はオーバル兵だろう。

 こちらは矢が頭部に刺さっていたので、死んだ二人のどちらかが射殺した筈だ。


「目撃者はお前か?」

「はい」

「侵入者はどんな奴らだった?」


 そう聞かれた兵は、自信なさげに応える。


「遠かったので、はっきりとはしませんが、私が見た人影は小柄だったように思います」

「小柄……他に気付いた事はあるか?」

「人影は複数ありましたが、騎士を殺したのは、その小柄な二人だと思います。二人が持った剣が、松明の光を反射して光っているのが見えました」


 逃げ帰った十一番隊の話では、王国の騎士隊の隊長は女だという。


「隊長自ら乗り込んできたという事か……まるで逸話の再現だな」


 剣聖の名を口にしたとも聞いたが、ストークは王国が剣聖の名を利用しているだけだと考えていた。


 ロードリア領でも剣聖ジョシュアの名を掲げ、レジスタンス活動をしている輩は多くいる。

 団長が殺したと噂を流しても、奴らはあまり信じていないようだった。

 多少の動揺は与えたが、ジョシュアの名前は知っていても顔を知る者は少なかったからだ。

 ストークの印象では、名前と彼にまつわる逸話だけが独り歩きしている感じだった。


「まったく、いつまでも剣聖、剣聖と未練がましい事だ」


 ストークは現在の状況を苦々しく思っていた。

 団長が団全体が動くために、十四番隊を生贄にした事は薄々気付いていた。

 だが安々と死ぬつもりも無い。


「明朝、全軍を持って砦を攻撃する。全員に伝えろ」

「了解しました」


 最初は騎士隊とやらが動くのを待っていたが、黒鋼の弓を恐れてか一度騎馬隊が攻めてきただけだ。

 投石器で圧力をかけ、燻り出そうと思ったがそれも潰えた。

 かくなる上は一気に砦を焼き払ってやる。


「弓兵全てに火矢を持たせろ。砦に射かけて全員焼き殺すのだ」

「はっ、はい」


 将軍は橋頭保として砦を欲しがっていたが、自分が死ぬぐらいなら砦など潰してやる。

 ストークはグレゴリーの顔を思い浮かべ、その顔が歪むのを想像して暗い愉悦を感じた。


 翌朝、予定通り帝国軍は砦を取り囲むよう行動を開始した。

 城壁の上からのぞく弓兵を、部下が的確に射殺していく。

 ストークは勝利を確信していた。

 最初からこうすればよかったのだ。

 なまじ砦を奪おうとするからズルズルと戦争が長引いたのだ。


 一般兵の弓が届く距離に達した所で、ストークは右手を上げた。


 兵が一斉に矢に火を灯す。

 ストークが上げた手が振り下ろされる直前に、破裂音が聞こえ、弓兵達が雪の上に突っ伏した。


「なんだ!? 何が起こっている!?」

「砦からの攻撃です!!」

「馬鹿な!? 向こうの弓の射程外の筈だぞ!?」


 ストークはそう言って砦を見た。

 城壁の壁に並んだ小さな穴から光が見えた気がした。

 その後、再び破裂音が聞こえ、一般兵が次々に倒れていく。


「何だこれは……?」


 まるで悪夢を見るようだった。

 音が聞こえるたび、兵が死んでいく。

 これは戦争ではない。一方的な殺戮だ。


「たッ退却!!」


 砦を囲んだ兵の半数以上が死んだ。

 退却する兵の背後から破裂音が聞こえ、さらに雪原に赤い色が広がった。




 帝国軍が砦に攻撃を仕掛ける少し前、カミュが砦に戻った時、そこにはジェイクと話すグラントの姿があった。

 彼らの側には銃士隊が整列している。

 カミュは月夜達と別れ、彼に近づき声を掛けた。


「グラントさん。どうしてここに?」

「子爵様の命でな。さっき着いたところだ。騎士隊を助けろと命じられた。数は多くないが補充の人員も連れてきた」

「……子爵様は銃士隊を使うのを躊躇っていたのでは?」


「カミュ、ジェイク、どこか話せる場所はあるか?」

「……私の部屋で話しましょう」

「銃士隊はここで待機だ。火を使っても構わんぞ」


 カミュはジェイクとグラントを連れて、自室に案内した。

 彼女の部屋は隊長という事で、隊員の部屋よりも広く、小さいながら机と椅子が置かれ、書類仕事も出来る様になっていた。


 カミュはベッドに腰を下ろし、二人には椅子を進めた。


「それでグラントさん。話って?」

「……これはカールフェルト侯爵領で聞いた話だが以前、軍をまとめていたガレスという男がコルトバから消えたそうだ。それと噂だが、王都にいた前カールフェルト侯爵も姿を消したらしい」

「まさか帝国に!?」


 カミュの言葉にグラントは頷きを返した。


「恐らくな。出立前に聞いた話だと、子爵様はミダスで監視していた侯爵領の騎士が消えた事で、銃士隊に前線行きを命じたらしい」

「侯爵領の騎士……ライバーか。あいつは色々と我々の内情を探っていたようだからな……こちら側の情報が伝わったとみて間違いないだろう」


 ジェイクとグラントの話を聞きながら、カミュは帝国がどう動くか考えた。

 人員の補填が難しいと知れば、一気に攻めて来るかも知れない。


「ジェイク、砦を出て他の場所に移りましょう」

「どういう事だ?」

「この砦にこだわっていれば、大兵力で踏みつぶされるだけだわ。それよりはここを放棄して、遊撃部隊として動いた方がいいと思う」

「……それも一理あるな。いっその事、砦を破壊して捜索に出た敵を、各個撃破した方が我々としては良いかもしれんな」


 それを聞いてグラントが口を開く。


「俺達はカミュに従うが、その前にこの砦の指揮官に、話を通した方がいいんじゃないか?」

「そういえば、報告がまだだったわ」

「俺も一緒に挨拶に行こう」


 カミュは二人を連れて、バルガスの部屋を訪ねた。

 夜明け近くだったが、バルガスは起きていた。

 彼はカミュの姿を見ると、作戦の首尾を聞いた。


「投石器は破壊しました」

「そうか! 良くやった! ……後ろの者は初めてみる顔だが、一体だれだ?」


 バルガスはグラントに目を向けそう尋ねた。


「私はミリディア子爵領より、派遣された銃士隊のグラントです。命令書はこちらです」


 グラントは腰のポーチから取り出した命令書をバルガスに渡した。


「また子爵領か……指揮権はカミュに預けるとある。貴公はあくまでカミュの部下という形か?」

「ハッ! 子爵様よりそう命じられております」

「銃士か。噂には聞いているが、使い物になるのか?」


 バルガスは疑わしそうにグラントを見た。

 そんなバルガスに向けカミュは口を開いた。


「彼からある情報を聞きました。それについて提案があります」

「何だ? 帝国軍を一気に倒せる策でも思いついたのか?」


 バルガスの言葉にカミュは首を振った。


「騎士隊の事が、帝国に漏れた可能性があります」

「どう言う事だ? 戦闘していれば、騎士隊の存在が知れるのは時間の問題だろう?」

「こちらが少人数で、人員の補充もままならない事が伝わったかもしれません」


 カミュの言葉にバルガスは顔をしかめた。


「それで提案というのは何かね?」

「砦を放棄すべきです。騎士隊の事が伝わったのであれば、後顧の憂いを絶つため、大軍を送ってくるかもしれません」

「本気で言っているのか? この砦はエトリアへの橋頭保だぞ」

「ですが、規模はそれほど大きくありません。固執すれば被害が増えるばかりでしょう」


 バルガスはカミュの言葉でしばし考えこんだ。

 長くロードリアで戦いを続けてきた彼は、この砦を奪う事が勝利への道だと思っていた。

 だがカミュが言う様に、中継地点にするには良くても、拠点と呼べるほど大きくはない。


「放棄してどうするつもりだ。どちらにしても帝国にここを使われれば、こちらに不利となろう」

「火薬と油を仕掛け、燃やして砦を使用不能にしましょう。その際に帝国軍を誘い込めれば、敵に打撃を与える事が出来るかもしれません」

「……将軍に打診してみよう。将軍も砦については悩んでいたようだったからな」


 カミュとバルガスが話していると、見張りの兵が駆けこんできた。


「千人長! 帝国軍が砦を取り囲む様に動いています!」

「何だと!? ……投石器を壊された事で、総力戦に出たのか?」


 慌てるバルガスにグラントが声を掛けた。


「千人長、先ほど使い物になるかとお尋ねになりましたね?」

「なんだこんな時に!? ああ、言った!! それがどうした!?」

「銃士隊の力をお見せしましょう」


 グラントはそう言うと、部屋を後にした。

 カミュは彼の後を慌てて追った。


「グラントさん、敵には黒鋼騎士団の弓隊がいる。私も戦ったけど、敵の弓は鉄の兜を簡単に貫いたわ」

「そうか、では下手に頭を出すのはまずそうだな……たしか外から見た時、城壁に穴があったな」

「あれは弩用の穴よ」

「なるほど、ではそこから狙うか」


 彼は待機していた銃士隊に声を掛けた。


「帝国軍が砦を包囲しようとしている!! 銃士隊はこれを迎えうつ!! 城壁の弩用の穴からねらい撃て!! 黒鋼騎士団はいるがまだ例の弾は使うな!! 以上だ!! かかれ!!」


 グラントの命令で銃士隊は動き始めた。

 カミュはグラントについて行き、戦闘の様子を横で見ていたが、余りに一方的でロランが言っていた意味が分かった気がした。

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