拾参話 二つ目
大きなメタ発言は暗闇の特権
side 紫苑
「紫苑、ここにいたのか」
「ツルギ……」
宴会も終盤に差し掛かっているのは、周りの雰囲気を鑑みれば想定できるくらいの頃。
酒の入ったグラスを持ったツルギが俺の近くに歩いてきた。足取りは安定しているが、顔が赤いので酔っているのだろう。
隣にはエリザベートがいる。
酔えるっていいよな。
俺なんか苦手な炭酸で我慢しないといけないし。
なんでアルコールが苦手なのかねぇ……。
「ここ、座ってもいい?」
「ご自由に」
別に断りを一々入れるような関係じゃあるまいに。
それとも親しき中にも礼儀あり……みたいな感じなのだろうか? 俺達の間じゃ礼儀なんて知らん奴らばかりだから、ツルギは稀有な存在だろうよ。
俺とツルギ、エリザベートは無言で酒や麦茶でのどを潤す。
会話に花を咲かせてもいいような気がしたが、何となく場の静かな雰囲気から黙って嗜んだようないい気がしたからだろう。こういうのも風情があっていい。
ツルギもエリザベートも同じはず。
決して目の前に居る――泣きながら酒で愚痴を吐く兼定と、その姿に毒舌を飛ばす未来に絶句しているわけではないと思う。
誰に酒を飲まされたのか。
だいたい顔を青くしている白黒魔法使いが原因なんだろうが、W霊夢も二人をなだめようと慌てていた。
「なんだよぅ……俺様だって! 俺様だってなァ……!」
「あはははっ! これが天下の壊神様とか誰が信じるのかなぁ? ねぇ。ねぇ。今どんな気持ち? どんな気持ち? 異世界で泣き顔晒してる万年女嫌い野郎どんな気持ち? あ、ごめんね~。今は『女嫌い』名乗れないような生活してるもんね~。俺様女嫌い女子供は近づくな怪我するぜキリッ……って痛い中二病設定ないもんねぇ。ホントごめんねぇ! つか一人称が俺様とかキモすぎるわ」
兼定が泣きながら博麗神社の柱に何度も頭突きをかまし、それを未来が馬鹿笑いしながら酒瓶を煽っているのだ。ちなみに霊夢達が止めているのは兼定の頭突きによって博麗神社がミシミシと嫌な音が響いているから。
控えめに言うと倒壊しそう。
すぐに止められそうなヴラドと龍慧に至っては、ヴァルバトーゼと智慧の女神みたいな女性と難しい顔をして話込んでいた。
宴会って時に何を話しているのやら。時々こっちをチラ見してくるし。
しかしここでツルギ達を心配させてはならない。
俺は平然を装って言い放つ。
「うん、いつも通りだな」
「「どこが!?」」
いや、これ俺達の普通だし。
「兼定と未来って酒飲むとこんなに変わるんだ……」
「俺含めて酒弱いしね」
「あら? なら紫苑も飲んでみる?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるエリザベート。
美少女の誘いに普通の男なら乗ってしまうのだろうが、
「別にいいけど……幻想郷がどうなってもしらんぞ?」
「あ、ごめん。今のナシ」
さすがに幻想郷と天秤にかけてしまうと乗るのは得策とは言えない。
俺が酒を飲むことは冗談の範疇を超えるからなぁ。
あ、そういえばエリザベートに聞きたいことがあった。
上機嫌にツルギにべったりな彼女に、その場にふさわしくない問いをする俺。
「エリザベートって前に俺に言ったよな? 『殺人鬼を拷問するのって初めてで興味あるのよね』って」
「え? え、えぇ、言ったわよ」
「……どうして俺が殺人鬼だって気づいた?」
以前、この世界に来た時に狂乱したエリザベートに言われたことだ。血の匂いで俺が大量の人間を殺したことを察したと。
しかし、俺が『櫻木桜華』として名を馳せていた時代は相当前であり、むしろ妖怪や月の民・天使などを殺した数の方が多いはず。なぜ彼女は俺のことを『殺人鬼』と言ったのか。
それだけが分からなかった。
俺の問いにエリザベートは困惑する。
「……何となく、かしら?」
「まったくもって答えになってないけど、知らないならしょうがないか。吸血鬼として人間の血には敏感なのかな? ヴラドにでも問いただすのも手かねぇ……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 紫苑が殺人鬼ってどういうことだ!?」
血相を変えたツルギによる詰問。
そこでようやく『ツルギとエリザベートは俺の過去を知らない』ことを思い出す。もはや俺達の幻想郷で公開情報となって油断していたのだろう。
ごまかすか真実を話すか。
俺が選んだのは後者だった。
「俺はかつて殺人鬼として人間を虐殺した過去がある」
ARHG――テロリスト集団の実験によって生まれた存在だということ。
本名は『櫻木桜華』だということ。
3万の人間を虐殺したこと。
俺は自分のことを語りながら内心では苦笑していた。
ARHGが俺を作った理由は『人の皮をかぶった化物の排除』であり、ゆくゆくは俺のような紛い物を量産するつもりでいたのだろう。ただの戯言にしか聞こえないだろうが、あの狂信者共は本気であったことは間違いない。
そうなるとツルギのいた外の世界ってもんに近くなりそうな未来になりそうだ。
量産化が成功すれば世界征服もどきの計画は成功せずとも、他の大国などは実験を活用して時間さえかければ俺のような紛い物が大量に生まれるはずだ。俺みたいなのが量産とかどんなホラーなのやら。
まぁ、そんなことを暗闇が許す筈がないか。
暗闇が俺を助けた理由だって気まぐれだし、『遺伝子操作による人間が徘徊するカオスな世界』を混沌の原型であるアイツが許せなかったのも理由かもな。
アイツと会った時は本当にヤバかった。後に知ることになる『勝利神としての絶対性』すら意味を成さず、暗闇には絶対に勝てないと本能的に覚ったからだ。
後にも先にも『絶対無理』と思ったのはアイツに対してだけだったし。
「紫苑も……道具だったんだな……」
「何も考えずに『人を殺すだけ』の道具って点では、昔のツルギと同じなんだよなー」
「俺はかつて兵器として13億の人間を殺した。外の世界で人口は1億人程度しか残って居ない」
「それはまた……」
上には上がいるって言葉は有名だが、ツルギの悲しそうな発言に戦慄した。
13億って……もはや大国の総人口とイコールだぞ?
1億人しか残って居ないツルギの世界。
案外すっきりとした世界なのかもな。
俺達の外の世界は70億も人間がいるせいで、そんな人々から隔離された者達が集まったが俺達の街。妖怪や悪魔・天使・竜神・月の住人に魔術師。統一性のない多民族国家みたいな街で、暗闇の結界で外からの侵入はほぼ不可能といっても過言ではないほど強固な『国』だった。
時々、凶悪犯罪を犯した人間も入ってくるが、そのほとんどは1週間も生きられない。
「つか嫌な話聞かせちまったな。悪い」
「貴方は私のような吸血鬼でもなければ、兵器で罪のない人を殺せるような残忍さもないわ。紫苑は辛くなかったの?」
「辛くないはずがないだろ」
俺達の幻想郷でアリスに言われて、俺の感情が『辛い』ということに思い至ったわけだが。
それまでは『よく分からんけど苦しくて切ない』不思議な感覚だとしか思っていなかった。これに気付けないくらいに――俺は自分の感情を理解していなかったのかと落胆した。
「けどさ……辛くても苦しくても、それは俺が背負うべき罪だ」
「紫苑……」
ツルギの悲しみの声が、なぜか俺の胸に刺さった。
♦♦♦
side ???
「……死の能力」
「ふふっ、驚いたかい?」
混沌とした闇の中。
漂う祝福の妖怪に、青年姿の私は尋ねた。
私たちの前に広がるは紫苑達と冥府神――正確には北欧の主神・オーディンとの戦い。
「えぇ、確かに」
「紫苑が持つもう一つの能力は――〔悉く穿つ程度の能力〕」
紫苑が展開する黄金の世界に対峙するかのように、オーディンは光り輝く歴戦の戦士たちの虚像を展開して応戦。それをヴラドも神話生物を呼び出して必死に食い止める。
街の1/3は崩壊し、道端には身元が分からないほどに粉砕された死体の山。
「かと言って剣君のように2つの能力を持っている、というわけではない。〔悉く穿つ程度の能力〕は元々オーディンの固有能力であり、紫苑はそれを完全に把握することはできないのさ」
あれは彼だけの能力だからね、と私は奏君に笑いかける。
彼女は目の前の死闘に釘付けになっているが。
「つまり宝の持ち腐れ?」
「いやいや。〔悉く穿つ程度の能力〕は文字通り投げたものを防御関係なく穿つ能力。これは龍慧のアイギスでも防ぐのは無理だろうね。紫苑は使えないけど――無意識に使っていたのさ」
「それは矛盾していないかしら?」
「どうかな? 簡単に言えば『投げたものを穿つ』ことは無理だとしても、『紫苑の能力を相手に貫通させる』ことはできる。ゲーム風に表すなら……能力に『貫通』をエンチャウントかな」
本来ならば『雄牛』で要塞の防御は通せない。
未来の斬撃を『雄羊』で癒せない。
兼定の破壊を『少年』で防げない。
それらを可能にさせたのは――オーディンを殺したことにより得た副産物のおかげである。
彼の能力は単体でも破格であるが、それに『貫通』が付与されたことによって絶対的なものとなるのだ。
「まぁ、紫苑にオーディンをぶつけたのは私だけれど」
「え?」
「紫苑が〔悉く穿つ程度の能力〕を持つ前は、彼等の攻撃を『限界突破』で力押ししていたからね……。彼の神力消費を押さえる意味合いでも冥府神の力は最適なんだ。知ってるかい? 紫苑がエリザベート君と戦った時にも『限界突破』させていたんだよ?」
「――っ!」
なにも『戦士』だけが限界突破の化身なわけではない。
紫苑はエリザベート君の攻撃を防ぐために使っていた少年などでも、限界突破を使っていたのを確認した。エリザベート君の否定は強かったからね。
むしろ――紫苑に『戦士』を使わせていたほうが穏便に済んだのではないだろうか?
青い顔をしている奏君に私は頭を撫でる。
「そう気に悩むことでもないよ。奏君が『戦士』を封印してくれたおかげで助かったこともある」
奏君の紫苑を封印した術式を解析したおかげで――『戦士』を破る算段もついた。
これを彼女等が生かせば、打倒紫苑も夢ではなくなる。
問題があるとすれば……これをどうやって彼女等に渡そうか。
紫君経由で渡すのも面白くないしね。
「さぁ、奏君。元気を出したまえ! あ、私の街にある美味しい焼き肉店に行こうじゃないか」
「え、ちょ、今から!?」
「善は急げ!」
私と奏君は暗闇の中に消える。
紫苑と剣君が難しそうな会話をしているけど……あんな答えの出ないものに悩むのは時間の無駄だと思うけどね。
さて、コラボはおしまいさ。
ん? オチがない?
当たり前じゃないか。これはコラボの前編であり、オチを作るのは撃っち先生の仕事なのだから――
メタ発言が過ぎる?
何を言ってるんだい。
私は――暗闇だよ?
紫苑「撃っち先生に押し付けやがった……」
暗闇「私だからこそできる芸当」
紫苑「そんな問題じゃねーよ。まぁ、後編書く撃っち先生のサポートは作者が惜しみなくする予定だけど」
暗闇「撃っち先生ファイト♪(美少女姿の萌え声で)」
紫苑「で、次回から本編戻りますと」
未来「影の薄い僕と兼定が大活躍!」
ヴラド「儂の方が薄いであろう?」




