66話 火種
新たに幻想入りした神々と巫女
新たな戦乱を呼び起こす半妖の存在
side 文
妖怪の山に住む天狗達は頭を悩ませていた。
山の上にある屋敷で、天狗の幹部達は集まり『今後どうするのか』『何を以て解決するのか』を話し合っていたのだ。
さて、何を悩んでいるのか?
「天魔様! 我々はなめられているのですぞ!」
「そうです! 早急に制裁を!」
一部の幹部は『悩んでいる』というより『憤りを感じている』という方が正しいのだろう。
筋骨隆々な天狗が屋敷の床を叩きながら上司に提言し、若い天狗達がそれに賛同していた。
その幹部達に混じっていた私は肩身の狭い思いをしている。
原因は妖怪の山に引っ越してきた神々だ。
妖怪の山に最近、2柱の神と巫女が来た。そこまではいいのだが、妖怪の山を管理している我々天狗の元に挨拶にも来ないことが問題視されているのだ。
私としては心底どうでもいいのだが、頭の固い幹部連中はお気に召さないらしい。
そもそも神々の詳細すら分かっていないことに私は頭を悩ませている。
こちらから出向くのは天狗の沽券に関わると、周辺の情報だけを集めていたらしいのだが、どうも最近引っ越してきただけに情報が圧倒的に少ない。
資料を見せてもらった時は「え、これだけ!?」と、思わず口に出してしまったくらいだ。
こんな信憑性すら分からない資料を信じるくらいなら、いっそ私のビジネスパートナーに頼んで調べてもらった方が数億倍マシである。
そのビジネスパートナーは、夏ごろに異変を起こした竜神・霊龍慧さんなのだが。
彼の集める『信憑性・有用性』の高い情報には毎度お世話になっている。
私の新聞を読んでくれる数少ない読者(紫苑さんとか)は、有益な情報を求めているのだ。龍慧さんの情報収集能力は無視できない存在。
というか早く新聞記事を書きたいのですが。
古臭いプライドを持ちだして騒いでいる幹部達の話を適当に聞き流していると、話題のズレが生じ始めた。
「――そもそも幻想郷の賢者は我々を軽視し過ぎではありませんか?」
「ふむ?」
「天魔様の元に姿すら見せないではありませんか!」
それもそうだな、と美しき黒髪を靡かせた女性――天魔様は思い出すかのように肯定する。
幻想郷の賢者が来ない理由なんて一つしかない。
仕事が暇な時は最愛の師のところにいるからだろう。
「ここ1年で変な連中も幻想入りしたと聞くし、その対応に追われているだけなのでは?」
「聞くところによると人間・半妖・不老不死・竜神だという話ではないか」
「竜神はともかくとして……人間や半妖など妖怪が対応するほどの者でもなかろう?」
私がまとめた『紫苑さん達の街の住人』のレポートを『戯言』と吐き捨てた者達が嘲笑う。
彼らと敵対してはならないという発言すら、自尊心の高い幹部連中には届かないのだ。ここまでくると一度一度、彼等と合わせたほうが良いのではないかと思ってしまう。
それでも同じことを言えるのなら……それは天狗ではなくて道化師だ。
「その外来人共は強力な能力の持ち主と聞くが? だから幻想郷の賢者も対応しているのであろう。月の民すらも打ち払ったと噂されている」
「「「「「………」」」」」
天魔様言葉に幹部連中は押し黙った。
月の民とは深い因縁がある。
「月の民を打ち払う半妖、か……」
幹部の一人の声が私の耳に届いた。
その言葉に嫌な予感がしたが――すぐに話は『妖怪の山に来た神々』の話となり、私は幹部の言葉を軽く流してしまった。
それが――妖怪の山の崩壊に繋がらずとも知らず。
♦♦♦
side 紫苑
「これが箒に乗る感覚か……」
「面白いだろ?」
人里で買い物をしていた俺は帰り道に魔理沙と鉢合わせ。
軽い雑談をしていたのだが、人里から自分の家まで歩いて往復していたことを告げると「じゃあ、乗って行くか?」と箒の後ろを差しながら言われたのでお邪魔している。
箒に乗るなんて体験は今までしたことがなかったので、中々バランスを取ることに苦労したが数分も乗っていると慣れる。魔理沙のように箒を跨ぐのではなく、足をそろえて箒の柄に腰をおろしている乗り方だ。
買い物袋は虚空の中に入れているため跨いでも良かったのだが。
魔術師時代ですら箒を使わなかったため、俺は幻想郷を見下ろしながら眺めを楽しむ。
「紫苑は本当に器用だよなー」
「そうか?」
「箒に乗るとしても数分で慣れる奴なんてそうはいないぜ」
そういうものなのだろうか?
これでも苦労したけど。
「魔理沙も箒で飛ぶスピード早くなってると思うけどね」
「マジか!?」
振り向きながら物凄く嬉しそうに笑う魔理沙。
最初に会った時よりも格段に速くなっているのは目に見えて分かる。
霊夢や妖夢もそうだけど……最近の幻想郷の住人は急速に力をつけているんだよなぁ。俺達が来たことによる影響なのかね。
魔理沙は上機嫌に語りだす。
「ヴラドのオッサンと特訓してるからな!」
「へぇ……」
「私も霊夢に負けてられないぜ」
俺は魔理沙の言葉に目を見開いた。
ヴラドが他人――しかも異種族の者に何かを教えるってのが驚愕に値するものだから、俺は魔理沙の嬉しそうな表情を微笑ましく見ていた。できれば前向いて箒操作してほしいけど。
ヴラドは魔理沙に何か期待してんのかね?
未来が妖夢に稽古つけてるように。
ようやく俺の家が見えてきたところで俺は魔理沙に思い出したようにお願いする。
「あ、博麗神社に降ろしてくれない?」
「了解だぜ!」
「今日の晩飯はキノコのニンニクバター醤油炒めの予定」
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
歓喜の雄たけびと共に軌道を変えた魔理沙の箒はゆっくりと博麗神社の境内に降りた。
俺は軽やかに地面に降りると同時に、
「なんですって!?」
霊夢の声が聞こえた。
俺と魔理沙は顔を見合わせつつ、神社の裏側に走っていくと二人の姿をとらえた。
一人は博麗霊夢。
もはや『機動性・保温性』を重視した服装は巫女とはとても思えず、ジャージにハーフパンツ、ランニングシューズという女子高校生にしか見えない出で立ちをしていた。噂によると妖夢も同じように機能性を重視した服を好んできているとか。
霊夢は不機嫌そうに目の前の人物を睨んでいた。
もう片方は緑髪の巫女。
幻想郷の女性にふさわしい非常に整った顔つきの美少女で、凛とした表情を霊夢に向けていた。俺が最初に彼女から感じたのは『蛇』と『蛙』。これに蛞蝓が追加すれば完全に3すくみなのになー、と余計なことを考える。
つか緑の髪は珍しい。葉緑体でも含んでいるのだろうか?
少なくとも第三者から見れば『良好』な関係とはとても言えない。
あんまり女同士の厄介ごとに首を突っ込みたくないが、俺は仕方なく霊夢に声をかけた。
「霊夢、どうした?」
「あ、紫苑さん! ねぇ聞いて!」
「お、おぅ」
あまりにもの剣幕に俺は表情を引きつらせつつ肯定。
霊夢は緑髪の少女を指さして抗議してきた。
「この女がいきなり神社に来たかと思えば『神社を明け渡せ』って言ってくるのよ!? 自分達の信仰を増やすためだって!」
「はぁ!?」
「そりゃまた……」
中々にストレートな交渉をしてくるのか、この少女は。
霊夢と魔理沙が同調している間に、俺が問題の少女に視線を移すと、緑髪の少女は頭を下げて名乗ってきた。
「お初にお目にかかります。私は守矢神社の風祝、東風谷早苗と申します」
「これはご丁寧に。俺の名前は夜刀神紫苑だ」
霊夢の言葉と比較するにしても礼儀正しい。
そのことを指摘すると、東風谷早苗という少女は頬を赤く染めながら宣った。
「……まさかこの神社に貴方様がいるとは思わなかったのです。先ほどのご無礼、お許しください」
「俺のこと知ってんのか?」
「いえ。ですが――」
早苗は首を傾げながらさも当然のように言い放った。
「貴方様は博麗神社に祀られている神なのでしょう?」
「いや、違うけど」
どうしてその考えに行きつく。
一方の風祝さんは衝撃を受けたような顔をする。
「え!? けれど貴方様には神力が……」
「俺は仮にも普通の人間だぜ?」
「「は?」」
「そこ『この人何言ってんの?』って顔しない。俺は霊力の代わりになぜか体内に神力を宿している体質なんだ。それ以外は人間さ」
「そうでしたか……」
東風谷早苗は安心したように地面に座り込んでしまった。
俺は彼女の身を案じつつも、そりゃ神様いる神社を明け渡せって時代が時代なら殺されてるからなーっと納得する。
理不尽な要求だと思いつつも、彼女だって命懸けだったんだ。
「えっと……俺は神様じゃないし、博麗神社は何も祀られてはいないけど必要な場所なんだ。ここは幻想郷と外を隔離する結界を担っている。悪いけど諦めてくれると嬉しいな」
「は、はい……」
真摯な言葉で早苗さんを諭すと、彼女は頬を赤らめながらも頷いてくれた。
やっぱり真剣な言葉は大切だよね。
殺傷沙汰になるよりずっといい。
「……紫苑さんって、本当に女たらしよね」
「それが紫苑の良いところじゃないか?」
何やら後ろで俺を非難する声が聞こえてきたような気がするが聞かなかったことにする。
俺は決して女たらしじゃない。彼女いない歴何年だと思ってるんだ。
それにしても――なんか引っかかるんだよな。
もちろん対象は風祝さん。
なんと言うか……誰かに似ている気がするのだ。
それに『東風谷』という苗字もどこかで聞いたことがある。俺達の街で聞いたことあるようなないような気がするのだが……昔のことで重要視していなかったために思い出せない。
勘的に思い出さなくても問題ない部類なのだが、一度気にしてしまうと頭に残る。
「とりあえず俺の家に移動するか? 立ち話もなんだし、君――早苗さんの話も聞きたい。霊夢も魔理沙もそれでいいか?」
「……紫苑さんがそう言うなら」
「私は別に構わないぜ」
「分かりました。あ、あと私のことは『早苗』と呼び捨てで構いません」
俺はほっと胸をなでおろしつつ三人を引きつれて博麗神社を離れようとする。
階段を下りようとしたところで、俺は見知ったアホ面を視界に入れた。
「兼定、何か用か?」
「んァ? いや、野菜届けようとテメェの家に行って居なかったからここに――」
灰色髪を揺らしながら階段を上ってくる粗野で野蛮な男が後ろの三人を見て固まった。
性格には緑髪の少女――早苗を見て、だろうか。
「ん? 兼定は早苗と――」
口にしようとして俺も事の異常さに気付いた。
早苗はまるで死者が復活したときのような表情で絶句しているような固まり方で、ヴラドを見た俺と未来に似たリアクションをとっていた。
霊夢と魔理沙も思ったのだろう。
この二人は何か知らの関係があると。
最初に口を開いたのは兼定だった。
「早……苗……? テメェ、どうしてここに」
これに対する早苗の言葉は全てを物語っていたといっても過言ではないだろう。
それくらいに凝縮されていた言葉であり、不老不死の化物と守矢の風祝との関係を理解するには十分な単語だった。
「お兄……ちゃん?」
紫苑「ぶっちゃけ主要な伏線は回収した気がする」
未来「作者がこの作品書くときに決めてたシナリオだよね」
紫苑「風神まではシナリオ組んでいて、兼定との関係は前々から決めてたからなぁ。キャラ設定とかにも出したし、本編でも少し触れたし」
未来「この異変大好き」
紫苑「そりゃ最後にああなる予定だからな」




