決戦
◆
『騒がしい。 汚らしいゴミが我が王宮に何のようだ?』 声が脳内に響く。
敵か? ヘルド王なのか? 黙れ! 黙っていろ。 すぐ始末してやる。
『アパッチ全機! 王宮に向かってヘルファイア・ミサイルを発射だ』
10機のアパッチが王宮の建物をロックオンし、ミサイルを撃つ。
…駄目だ。輝く光の壁のようなものが空中に浮かび、ミサイルの進路を塞ぐ。 光の壁に触れたミサイルは爆発し、個数分20回の爆発が起る。 今まで数多くの敵を屠ってきた、ヘルファイア・ミサイルもこいつには効かない。
呼び出した兵器たちでは、王宮の光の壁を貫通出来ない。
『…それでお終いか。 ゴミの攻撃にしては上出来だったな。 今度はこちらの番だ。 とりあえず核攻撃に邪魔な、お前の船を消す』
護衛艦みょうこうからの叫び声が、脳内に響いた。
『司令官! 当艦の北400kmに多数の攻撃機を発見…50機以上。 飽和攻撃をするつもりと推測します』
イージス艦の2隻では防げそうにも無い。 護衛艦こんごうが殺られて核ミサイルの迎撃手段を奪われれば、王国も帝国も終りだ。
『英雄気取りの愚か者、偽善者で無能なフユトミよ。 お前にふさわしく這いつくばって命乞いするのなら助けてやったものを』
もう後が無い。 切り札はここで使う。 ……ユマ、さようなら。そしてごめん。
『C130 ハーキュリーズ輸送機を最大数で召喚。 カーゴベイにMOABを搭載。 強制実行!』
…俺はもう君と会えない。
警告表示が目の前に現れるが、強行する。
空中に5機の巨大な輸送機が光の塊となって現れ、実体化した。
視界の隅に、デジタル時計の表示のようなものが現れる。
『召喚者、冬富 司はMOABの召喚を実行した。 冬富 司の残り活動時間、5時間58分40秒』
イージス艦を呼び出した時に感じたような、疲労感や目眩の類はない。
MOABを呼び出した代償は6時間後に全て後払い…ということか。
5時間58分35秒、34秒、33秒。 カウントダウンされながら残り時間が減っていく。
ゼロになれば、俺はこの世界から消える。
覚悟は出来ている。 その筈だ。
『C130全機、ヘルド王宮を爆撃せよ』 俺は叫んだ。
『了解。 C130ハーキュリーズ輸送機編隊は、これよりヘルド王宮に対し、MOABでの爆撃を行う』
ヘルド王の不審げな声が脳内に響く。
『輸送機だと? 悪あがきはやめろ。 今更、何の兵器を投下するつもりだ? 何をやろうが我が王宮のシールドは破れぬ』
先頭のC130ハーキュリーズが王宮の上空に差し掛かる。
後部のカーゴベイが開き爆撃を準備する。 貨物室の中に見えるのは巨大な爆弾。
『MOAB投下』
10m近い巨大なミサイル状の物体が降下を開始。 俺の世界で最大の破壊力を誇る通常兵器。
『バカな。 まさか。 お前にそんな力は… 』
『正常に誘導中。 地上まで、3、2、1 起爆! … 爆発成功。 衝撃波の発生を確認』
MOABは爆発し、地表から巨大な雲が立ち昇る。 王宮を守る魔法シールドが、対抗するように光り輝くが、次の瞬間に細かな光の粒に分解し、崩壊する。
よし。敵シールドは消え失せた。 王宮は丸裸だ。
次の輸送機が爆撃位置に着く。 2発目のMOABを投下。
…爆発。 起爆点を中心に衝撃波が周囲に広がる。 魔法のシールドの守りを失った豪華な造りの王宮は一瞬で消えた。
ハーキュリーズ輸送機は次々と爆撃位置に着く。
3発目、4発目、5発目 MOABを投下。 爆発。 爆発。 爆発。
周囲の建物が、次々と消えていく。
衝撃波を受けた構造物は瞬間的に砕かれ、粉塵となって消し飛んでいく。
王宮を中心に周囲1キロ四方が瓦礫と化す。
王宮のあった場所は、戦術核攻撃を受けたと見間違えるようなキノコ雲が立ち昇っている。
無線機から呼び出し音が鳴る。フローレクからだ。
『フユトミ。 俺は魔神同士の戦いを見ている気分だ。 お前、本当に人間なのか? こんな力を持っているのは魔神だけだ』
『ツカサ。 ツカサ。 やったの? ヘルド王を倒したのよね? よかった!! ツカサ無事よね。 ねえ返事してよ? 一緒に帰れるよね? ねえってば』 シルフィードの声が脳内に響く。
MOABを召喚した時点で俺の死は確定だ。 シルフィードは、まだ俺が生きて帰れると思っているのだろう。
地上をあらためて確認する。
形あるものは何も残っていない。
これで終わったのか。 俺は守りきれたのか?
◆
『司令官。 敵の攻撃機が高度を下げながら接近中です。 対艦ミサイル攻撃、間も無く来ます』
海の向こうから護衛艦のみょうこうが知らせてくる。
まさか。 召喚者は死んだ筈だ。 ヘルド王は死んだんだ。
何故、敵の兵器たちがまだ動いている? 何で消えない?
『ツカサ フユトミ。 久しぶりだな』 ヘルド王とは違った声が聞こえる。 護衛か?
突然、シルフィードの乗ったハリアー攻撃機の翼が吹き飛ばされる。
片翼になったハリアーはきりもみ状態になりコントロールを失う。しかし、次の瞬間コックピットが粉々に割れ、中からドラゴンの姿になったシルフィードが空中に飛び出した。
『おっと、こいつじゃなかったのか? ハズレだ』
一匹の魔族が、俺の乗ったハリアー攻撃機の前に現れる。
『じゃあ、こいつか? こいつに乗ってるんだろうフユトミ』
魔族は俺の乗る攻撃機を、指差した。
『死ね』
『させるわけないでしょ!』 シルフィード ― 帝国の青竜がドラゴンブレスを敵に向かって吐く。
『今のうち! 早く』
シルフィードが時間を稼いでいる間に、俺は自分とフローレクの機体を地上に降下させた。




