切り札
◆
フローレクは下級の魔族三匹を、こともなげに始末する。
魔剣クラウ・ソラスを鞘に収めて振り返り、問いかけるように俺を見る。
自分の剣技の感想が欲しいらしい。
「流石だな」 と俺が言うと 「この程度ならな」とぶっきら棒に言う。
街なかには、まだ大勢のヘルド兵たちが潜んでいる筈だ。
しかし頼みにしていた魔族を簡単に潰されて怖気づいたのか、兵たちは目立った攻撃をしなくなった。
シルフィードと連絡をとってみると、彼女も五匹程度の下級魔族を血祭りに上げたようだ。
俺とフローレク、ユマの3人は、5機のアパッチに上空に待機させ、援護させながら通りを進む。
進みながら、逃げ遅れた敵の兵や魔術師、相手が強かろうが弱かろうが突っ込んでくるオーガを無力化した。
立場は完全に逆転したようだ。 今のヘルド軍は狩られる側だ。
後は、帝国の兵たちが到着してから残存兵を狩りだし、始末してもらえば良いだろう。
俺はシルフィードとフローレクに残りを任せ、街を離れることにした。 核ミサイル防衛の為にやらなくてはいけないことがある。
シルフィードにフローレクよ。 後は頼んだ。
くれぐれも仲間うちで争わないでくれ。
◆
朝になると俺はユマを連れて一機のアパッチに乗り込む。 海まで飛んでから核ミサイル迎撃用に、イージス護衛艦"こんごう"を召喚する。
ユマを街に残すかどうか悩んだのだが、本人から強硬に反対されたのと、危険がまだ残るこの街に自分の身を守れない彼女を残したくなかったのだ。
出発を見送りに来たシルフィードに軽く手をふり、俺たちはアパッチで空に舞い上がる。
「ツカサ。 空が綺麗。 真っ青で雲も無い」
俺は後席を振り返った。彼女はキャノピー越しに遠くの景色を眺めている。
初めてアパッチに乗せた時の光景が蘇る。 あの時も後ろで景色を眺めていた。
今では、ユマもヘリに随分慣れた。 戦闘で血を見るのも慣れてきている。
ただ、儚げで美しい彼女の印象は俺が会った時となにも変わっていない。
「どうしたの?」
ユマは俺が彼女の横顔をじっと見つめていた事に気がつき、不思議そうに言う。
「いや。 ユマは綺麗だなと思ってな。 見惚れていた」
彼女は、いたずらっぽく微笑んで 「ツカサは変わった」と俺の顔を見る。
「お世辞が平気で言えるようになった」
「俺は何も変わってない。 昔から世辞は嫌いだ」
「本当に? じゃあ信じてあげる」
ずっとそばに居て、ユマを守ってやりたい。 そう思った。
◆
王国中央部を北に抜けて、2時間ほど飛ぶと海に出る。 この世界で一番大きな海であり、海洋を司る女神の名前をとったマフレナ海と呼ばれている。
遠くでへばりついているように見えていた海が、近ずくにつれ視界全体を覆う。
内陸育ちで海を見たことが無いユマが 息を飲むのが分かった。
俺は海面から20m程度まで降下し、目的どおりイージス艦を召喚する準備に入る。
召喚するにあたって、俺にはちょっと気になる点があった。
いつも召喚時に視界内で表示されるリストに、護衛艦のところには小さな白いダイヤ、つまり◇のようなマークがついているのだ。
…まあ、どういう意味なのかは召喚して見れば分かる事だが。
「こんごう型護衛艦、来い!」
俺の視覚内に文字が現れた。 初めて見るタイプの警告だ。
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**警告**警告**
高コスト大型兵器の為、召喚すると術者の生命力を消費する
一隻の召喚あたり、術者の寿命が3年減少
最大同時召喚は二隻まで
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そういうことか。 寿命の6年くらいくれてやる。 核を防げれば安いものだ。
俺は召喚を強行した。
魂を吸い取られるような気味の悪い感じがして、目の前が真っ暗になる。 意識を刈り取られそうになった。
…俺は必死になんとか耐える。 ユマを心配させたくない。
太陽のように眩しい巨大な光の塊が二つ、海上に現れ護衛艦が実体化する。
「こんごう型護衛艦こんごう 並びに 同型艦みょうこう、ただ今参上した。 指示を請う」
俺は出現した二隻の護衛艦に命令を与えた。
「護衛艦こんごうは、イージス弾道ミサイル防衛システムの起動準備にかかれ。
近日中にヘルド国より核ミサイルが発射され、サルマテル王国、及びノルトステア帝国に対する攻撃が行われる可能性が高い。 両国を防衛せよ」
「護衛艦みょうこうは、敵の攻撃からこんごうを守れ。 命令は以上だ」
核ミサイルの迎撃任務に集中する護衛艦こんごうは、敵からの通常攻撃に対し脆弱になってしまう。 他の艦艇の護衛が必要なのだ。
両艦を代表して、こんごうが応えた。
「システムの調整・準備に2時間を必要とする」
「直ちに取り掛かれ」
「了解。 護衛艦こんごう及びみょうこうはシステムの起動後、王国及び帝国に対する核ミサイル防衛任務に就く」
仕事が一段落した、と気が緩んだせいか身体がふらつき、また視界が暗くなる。
生命力とやらが、かなり削られたようだ。 防衛システムが起動するまでこんごうに着艦して休むことにする。
ヘリコプター甲板に着艦し何とかヘリから降りたものの、目眩が酷い。 思わず、降りたばかりのアパッチの機体に手をかけて身体を支えた。
「大丈夫?」 降りてきたユマが慌ててそばに寄り、身体を支えてくれる。
「すまない。 大物を召喚したせいで、ちょっと疲れただけだ」
心配そうなユマに向かって笑いかけようとした。
「少し休めば、元通りだ。 心配するな」
「ツカサ、顔色が悪い。 本当に大丈夫?」
どうやら安心させるのは失敗だ。
俺は、大丈夫だと改めて答え、アパッチの元で腰を降ろししばらく休む。
少し休むと身体もなんとか落ち着いてきた。 だが、俺はしばらくユマと一緒に海を眺めていた。
◆
護衛艦こんごうより報告がある。
「司令官、 システムの調整が終了した。 現在、護衛艦こんごう、みょうこう両艦のイージス武器システムは正常に稼働中。 なお、こんごうはAN/SPY-1D レーダーにて弾道ミサイルの発射を監視中」
「継続して任務を遂行しろ」
俺は少しほっとした。
少なくとも、発射された核ミサイルが宇宙空間を飛んでいる時の迎撃つまり、中間段階での迎撃準備が整った。
もし、こんごうが迎撃を失敗してミサイルが大気圏に突入した場合には、終末段階での迎撃が必要だ。 これを行う為には地上にパトリオット・ミサイルの配置を行うことが前提となる。
しかし、敵の攻撃目標が絞り込めない現状では、パトリオットを多数配置しなければならない。
一度戻って、王国内部と帝国の重要拠点にパトリオットを配置して回らないといかないか?
しかし、そんな時間があるのだろうか。
防衛するだけでは守り切れない。 攻撃すべきだ。 ヘルドの国王を始末しない限り、いつかは王国も帝国も破壊されるだろう。
しかし、どうやって攻撃すべきだろうか。
前回、ヘルド王の王宮にM270 MLRSで、ミサイルの雨を降らしたのに被害は限定的だった。
敵は極めて強力な魔法シールドを王宮に展開している。
護衛艦こんごうの甲板で休む間、ユマと一緒に海を見ながらいろんな思いが頭に浮かぶ。
強力な攻撃兵器が欲しい。 圧倒的な力が欲しい。 ユマを守り、皆を守るためにも大きな破壊力がある兵器が。
…脈絡無く、俺はハッと思い出す。 召喚の時に見える武器リストで、こんごう型護衛艦の所には◇のマークがついていた。
◇の意味するものは高コスト、もしくは大型兵器ということだろう。 似たマークをどこかで見た。 見たような気がする。
慌てて召喚用の兵器リストを脳内で呼び出し表示させる。 護衛艦以外で◇のマークは無い。
まだ召喚してない兵器はC-130 ハーキュリーズ輸送機だけだが、輸送機にそんなマークはついていない。
しかし、じっとハーキュリーズ輸送機の項目を睨むと、新たにサブリストが表示され、輸送機で運ぶことが可能な兵器類が多数表示される。
ほとんどは、ジープなどの軽車両や補給物資の類だ。
あった!
白いダイヤ◇ではなく、黒い◆の表示だが運搬可能な兵器の一つとして
◆MOAB
とある。何で気が付かなかったんだ!
MOAB (Massive Ordnance Air Blast、大規模爆風爆弾兵器)
通常兵器の中では史上最大の破壊力を持つ爆弾だ。
長さが9メートルを超える巨大な代物で、爆撃機には搭載できず、C130のような大型輸送機から投下される。
爆発すると戦術核と見間違えるような、きのこ雲が湧く。
俺は、思わずツバを飲み込んだ。 これなら強力な魔法のシールドを突き破り、ヘルド王を王宮ごと始末出来るのではないか?
MOABを搭載した輸送機の召喚が可能ならば。
しかし……俺は考えた。
◇がついた護衛艦を召喚すると1隻あたり俺の寿命が3年、削られる。
◆のついた兵器を召喚した場合、何を支払わなければいけないのだろうか。
英雄エストラの最後を思い出す。 彼女はユニークアビリティ ”願い”を発動させて死んだ。 つまり死がユニークアビリティの発動コストという訳だ。
もしかすると、もしかして、◆の示す所は俺独自のユニークアビリティの意味か?
MOAB召喚が俺のユニークアビリティじゃないのか?
「ツカサ。 ツカサ。 どうしたの? しっかりして!」 ユマが俺の肩を揺すっている。




