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フローレク

◆

10機のアパッチ・ロングボウが装備するM230E1 30mmチェーンガンが一斉(いっせい)に火を吹く。

魔族たちは両腕を前に構えてシールドを展開、半透明でドーム状の防壁(ぼうへき)が二匹を守る。  砲弾の雨がシールドの表面にぶち当たり爆発するが、魔族本体にはダメージを与えていない。

こいつらは防御能力が高すぎる。 エレシュキガルより明らかに強い。


醜悪(しゅうあく)な顔の弟の魔族が、こちらに向かって片手を振り下ろし魔法を投げつける。

前方の空間がゼリー状によどみ、そこにあった一両の10式戦車は無力化され機能を失った。

対抗するようにシルフィードの青い防御シールドが輝きを増し、俺たちの身体を敵の攻撃から守る。


シルフィードに向かって叫ぶ。 「飛んでくれ! 俺たちがいると兵器たちは本気を出せない」

離れていては不利と判断した敵は、俺との闘いを接近戦に持ち込もうとする。 弟の方が砲弾の雨に堪えながら近寄ってきた。


シルフィードは俺の腕を掴み、竜に変身して地上を飛び去る。 よし!  彼女の動きは素早い。

魔族たちから距離を取ることに成功し、上空から敵を見下ろす。


俺に接近しようとする弟を、最大の脅威と判定した9両の10式戦車が攻撃を開始する。

主砲が吠(ほ)え、ドンッと大きな砲撃音が周囲を揺るがせた。

砲弾は敵のシールドを切り裂き、直撃(ちょくげき)を受けた弟の身体は一瞬で消滅する。 オーバーキルだ。 9両は多すぎた。 この魔族たちでも10式戦車主砲からの直撃弾には耐えられないようだ。


兄の魔族は弟を見捨てて、高度を急速に上げながら街とは逆方向に逃亡している。

87式自走高射機関砲が正確に目標を追尾し、命中弾を与えるが魔族の強力なシールドがダメージを拒(こば)む。

この魔族が展開(てんかい)する魔法の盾(たて)は、エレシュキガルのものより強力だ。


発射態勢に入った5機のアパッチがヘルファイア・ミサイルを射出(しゃしゅつ)。  魔族はミサイルの接近に気がつくと高機動でこれを回避した。 強力だが追尾能力が限定的な、10発の対戦車ミサイルは目標を見失う。


逃(にが)したか。


俺の頭の中に魔族の兄からの声が響く。

『この恨み忘れんぞっ。 ツカサ フユトミ。 弟の仇(かたき)は必ず取る。 俺の名はカブラカン。 覚えておけっ!』


簡単に弟を見捨てておいて、一人前の口を利(き)く奴だ。

しかし、あいつを始末出来なかったのは失敗だった。


魔族がいなくなり、市門の周辺で様子を伺っていたヘルド兵たちは明らかに動揺(どうよう)している。

アパッチと87式の機関砲で敵兵の群れを蹴散(けち)らすが、大部分は街の中に逃げ込んだ。


空中で待機していた青い竜の姿のシルフィードは地上に降り、俺を降ろすと少女の姿に戻る。


「とりあえず終わった?」 彼女は俺に声をかけた。


「もう少しだ」 俺は応えた。 「街の中のヘルド兵を弱らせる」


味方の地上軍が到着する前に、街の中の手強そうな敵を出来るだけ排除(はいじょ)しておく必要がある。

俺は待機させていた、ユマとフローレクの乗るハリアー攻撃機を呼び寄せて合流することに決めた。



◆

二機のハリアー攻撃機はすぐに到着した。 二人がコクピットから降りるのを手伝ってやる。

地上に降りるとユマが待ちかねたように、俺に飛びついてきた。


俺は彼らに状況を説明する。 中級魔族の一匹は始末したが、一匹を逃げしたことも教えた。

そして、これから行う戦闘の目的を告げる。後から来る地上軍の為に、街中(まちなか)の主だった敵勢力の排除を行うのだ。

少人数で街の完全な解放は無理だろう。しかし、虐殺行為は止めさせたい。


「雑魚(ざこ)狩りか」 フローレクは不満そうだ。「今回は付き合ってやるが、不満だ。 もっと格上(かくうえ)と戦わせろ」


「あら。 中級魔族相手に戦わされなくてよかったじゃない。 どうせ何も出来ないんだから命は大切にね〜」

シルフィードは薄笑いを浮かべながらフローレクに手をヒラヒラと上下にふる。


「なんだと」 フローレクの顔から表情が無くなる。 マズイ。

「青竜ごときが、よくそんな口を叩けるな」


なんでこいつらは、こんなに仲が悪いんだ。


「戦闘前だぞ。 控(ひか)えてくれ」と俺。

「皆さん、一緒にヘルド軍を駆逐(くちく)しましょう。 私も及ばずながら精一杯頑張ります」とユマ。


シルフィードとフローレクは、顔を相手から逸(そ)らしそっぽを向く。

やれやれだ。 まあ、お互いに気に入らない相手と言うのは居るもんだがな。


◆

ユマが絶対魔法防御(アンチ・マジック・シェル)を唱え、ユリオプスの街の半分を覆(おお)う結界を張った。

結界内ではあらゆる魔法が禁止される。


ユマの結界内部では、あらゆる魔法が無力化されるので、シルフィードにとっては却(かえ)って不便だ。

彼女には、街の反対側に回ってもらってドラゴンの姿に戻り、目立った敵を倒してもらうことにした。


「じゃあ、ひと暴れしてくるね」 とシルフィードは俺に声をかけ、フローレクの方は見ないようにしながらドラゴンに変身し、飛び立って行った。


敵に待ち伏せを食らうのは嫌なので、市門や市壁の周辺で隠れられそうな場所を狙って、アパッチのチェーンガンで砲撃する。

5機の攻撃ヘリからの30mm機関砲弾の連射が、市壁や見張り塔に突き刺さり、着弾した箇所が爆発で破壊されていく。


初めてアパッチの攻撃を見るフローレクが目を見開いた。 「遠方から広範囲を、これだけの威力で攻撃出来るとは凄(すご)いものだな。 これがお前の”ヘリコプター”の力なのか。 噂には聞いていたが想像以上だ」


一癖(ひとくせ)ありそうな男だが喧嘩相手でないならば、人の力はすぐに認めるらしい。 そういう意味では素直なのだろう。


俺の力を褒(ほ)められてユマが得意そうだ。 女心は良くわからないが、そんなに嬉しいものなのだろうか?


「街に入るぞ」 俺はMINIMI機関銃を召喚し、銃を抱えながら市門に向かって歩き出す。


アパッチ5機を上空からの航空支援に回し、俺、フローレク、ユマで街の入り口へ進んだ。


砲撃で破壊された市門を抜け、街に入る。 門前の広場の奥の方から魔術師らしき人影が30人ほど、集団で出現する。 その前には魔術師の護衛の為だろう、歩兵が剣を抜き100人程度集まってきた。


魔術師たちは一斉に俺たちを攻撃しようとした……が、慌てている。

魔法が発動しないのだ。先制攻撃をするつもりだったのだろうが。

残念だったな。 ここは絶対魔法防御(アンチ・マジック・シェル)の結界内だ。 お前ら程度には破れない。


5機のアパッチのチェーンガンが唸り、兵士達の身体は粉みじんとなる。


…俺を呼ぶ声がする。 見ると広場に続く小道を駆けてくる女と数名の護衛。 

「ツカサ殿。 来ていただけましたか。 良かった。 ツカサ殿、こちらです 私です!」


ユリオプス領主マイヤ・ド・ハマン侯爵(こうしゃく)だ。 

ヘルド軍に一帯を制圧され、隠れていたのだろう。 疲労のせいで美人の顔が台無しだ。


必死に走ってくる侯爵のそばの物陰で何かが動いた。


俺はMINIMI機関銃を腰だめにすると、連射する。

隠れていたヘルド兵数名が領主を人質に取ろうとしたのか、ハマン侯に襲いかかったのだ。

機関銃の連射を受け、オーク兵達は息絶えた。


呆然(ぼうぜん)とするハマン侯(こう)に駆け寄り、肩に手をかけ安心させる。

震えながら抱きついてくるハマン侯を腕に抱えると、俺は文句を言うのを諦めた。

助けが要るならもっと早く決断して要請しろ、と言ってやるつもりだったのだ。


だが疲れ果てて俺に抱きすがる領主を見ると、何も言えなくなってしまった。


◆

ハマン侯を抱きかかえながら、彼女の落ち着くのを待つが敵は待ってくれない。

魔族らしい姿の個体が3匹ほど現れた。 どうやら下級クラスの魔族はまだ残っているらしい。


ハマン侯から腕を離し、攻撃態勢を取ろうとするとフローレクが俺を止める。


「フユトミ。 全部、いいところを持っていくつもりか。 あんたの強さは分かったが、俺だって捨てたもんじゃないんだぜ?」


剣を抜刀(ばっとう)すると正眼(せいがん)に構(かま)える。


「まあ見ててくれ。 オーガ相手よりはマシだろう?」


ダンッと地面を蹴(け)ると一気に間合いを詰め、一匹の魔族に斬撃(ざんげき)を放つ。

魔族は文字通り縦に真っ二つになった。 奴の魔剣の名はクラウ・ソラス。 

物では無く空間それ自体を切断する。


残りの二匹が魔法で攻撃するつもりなのか、何事か呪文を叫び腕を突き出す。 が何も発動しない。

あたりまえだ。 ここはユマの結界内だ。

下級の魔族にユマの結界は破れない。


フローレクは二匹の魔族との間合(まあ)いを詰めると、剣を横殴(よこなぐ)りにふり払う。 敵の身体が、腹から上下に真っ二つに分かれた。


「そう言えば、魔法禁止の結界内だったか。 相手が魔法を使わないと歯ごたえがない」 フローレクはがっかりしたように呟(つぶや)いた。


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