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魔族の兄弟

ユリオプス領主、ハマンこうから送られて来た使者は、書簡しょかんを差し出す。

街の状況が記されているらしい。


ユマが手紙を読む許可を求め、俺はうなずいた。

彼女は封筒を開き、真剣な顔で読み進めるが、「嘘よ。 あり得ないわ」と震える声で呟くと使者の方を見る。 手紙を持った手も細かく震えている。


「私は封書の中身につきましては、存じておりません。 ただ言えますことは…」

俺の方を向いて使者は言った 「あそこは地獄でございます」


ユマは意を決したように内容の報告を始めた。

「ツカサ。 魔族の二匹のうち一匹の残忍さが常軌じょうきいっしています。 魔族の片方が殺す人数を決め、その人数分だけ、もう一方が楽しみのために殺害しているようです。 兵士は勿論もちろんのこと、何もしていない市民まで自分の快楽の為に殺します。 殺し方はあらゆる手段で、例えば…」


苦しそうにしゃべるユマに、もうそれ以上言わなくて良いと伝え、俺は自分の考えに沈んだ。


ユリオプスを助けている時間があるだろうか。 核の破壊力を考えれば、少数の人間を助けている間に大勢の人間が死ぬかもしれない。

戦略的に考えれば、至急にミサイルの防御システムを構築して、その後ヘルド王を叩く必要がある。

もしくは、防御を捨てて、すぐにでもヘルド王を始末しに行くかの二択だ。


ユリオプスの街は王国中央部にある。自軍が攻め込んでいるのだから王国東部・中央部を核で狙うつもりは無いと考えるべきだろう。 魔族のような戦力的に価値の高い兵士を、核で一緒には消さないのではないか。


核攻撃の対象はヘルドにとって何かとうるさい帝国と、俺の本部がある帝国国境沿いの王国西部か。


迎撃ミサイルであるパトリオットを召喚するにしても、核ミサイルを撃ち落とせる範囲は狭い。

多数を配置する必要があるし時間がかかる。


すぐにでも核の対処に時間をきたい。


しかし、ユリオプスを見捨ててて本当にいいのか?

虐殺ぎゃくさつを放置するのか? 

俺が魔族二匹の相手をすれば、ユリオプスを開放出来る可能性は高い。 それを可能にする力をエストラからもらっている。


今までヘルドに占領された地区では、住人はひどい扱いをされたとはいえ、生かされていた。

奴隷として使う為だ。

もしかすると今回は住民を虐殺して、俺を挑発ちょうはつし、おびき出そうとしているのか?

注意を核ミサイルから反らせ、準備の時間を稼ぐつもりか?


詳細な情報を集める時間は無い。 俺は腹をくくった。


悪手なのは承知しているが、ユリオプスは見捨てられない。

俺が決めた解放作戦は、展開に時間がかかる味方地上軍の投入を後回しにし、少数でヘルド占領軍を急襲、指揮官である魔族二匹を迅速に無力化するというものだった。

実際の街の解放は後から展開する味方地上軍にまかせ、その間に俺は核攻撃への対処を行う。


こちらの有利な点は、俺の能力が強化されていることをヘルド軍は知らないであろうこと。

エレシュキガルが死ぬ前に、俺の能力を他に知らせる余裕があったとは思えない。

もう1つの有利な点は、帝国の魔剣まけん使いアーレント・フローレクの存在だ。 こちらもヘルドはまだ知らないだろう。


不利な点は、もともと俺をおびき出す為のシナリオに付き合わされている可能性だ。

時間を使っている間にヘルド王の準備が整い、王国や帝国が核攻撃を受ければ、もうおしまいだ。


ユリオプスを助けると決めたのなら、速やかに魔族を無力化することだ。 魔族さえ殺ればなんとかなる。


解放作戦の出撃メンバーは、俺、シルフィード、魔剣使いのフローレク。

それと街に入った時に、敵の魔法攻撃からの防御役がいる。

今回の敵軍には魔術師が多く配属されている。 シルフィードに護ってもらうことは可能だが、今度は彼女の動きを束縛そくばくしてしまう。


絶対魔法防御アンチ・マジック・シェルのスペルを唱えられるユマに頼むしかないようだ。 

彼女を危険にさらすかと思うと、俺は気が進まなかった。 しかし、やむを得ない。


垂直離着陸機すいちょくりちゃくりくきである攻撃機のハリアーを4機召喚して、亜音速でユリオプスに向かう。 一人乗りの機体なので各機一人ずつメンバーが乗っている。


「ボス。 目的地に間も無く到着する」俺の乗っているハリアーが知らせてくる。

4機編隊のハリアー攻撃機の爆音ばくおんが周囲にとどろいているだろう。 敵にはまだ、俺の能力が強化された事を知られたく無い。

ハリアーを見た敵兵士からユリオプスのヘルド軍に連絡が行くかもしれないが、情報が魔族に伝わる前に行動を起こす。


街の5kmほど手前でハリアーを全機着陸させ、俺とシルフィードだけで先行する為にアパッチに乗り換える。ユマとフローレクの乗機はここで待機させた。


俺とシルフィードを乗せたヘリは再度飛び立ち、ユリオプスの市門から数百メートルほどまで接近する。

ホバリングしながら街の様子をうかがった。


街の中では、まだヘルド軍と守備隊の戦闘が継続しているようだ。 だが守備隊が組織だって抵抗している感じではない。 一部の守備隊の残党が最後の抵抗を試みているだけだろう。


市門の内側の広場には、死体の山が築かれている。

兵士より街の住人の死体の方が多いようだ。 女、子供の無残な姿も見える。


俺は後部席のシルフィードに合図をし、市門から300mほど離れた街の外側の空き地に着陸した。

もう敵は気がついたろう。 いや、気がついてもらわなければ困るのだ。

敵が召喚した兵器類の出迎えは、まだ無い。


アパッチから降りた俺とシルフィードは、並んで立ちユリオプスの市門を見つめた。


「シルフィード。 準備はいいか」


「いつでもどうぞ」 と帝国の青竜せいりゅうは答える。


俺たちに気がついたヘルドの兵士達が、市門から溢れ出てくる。

オーガ、オーク、魔術師らしきリザード兵たちもいる。 だがそばには寄ってこない。

市門の近くに集まり、こちらの様子を伺っている。


ならば、こちらからいくまでだ。


「10式、来い!」 俺は戦車を1両、召喚した。


10式戦車の実体化を確認しつつ、アパッチに兵士たちの掃討を命じようとした途端、市壁からロケット噴射とともに飛び込んでくる二つの飛行体。


ひとつは低空でホバリングしているアパッチに、もうひとつは10式戦車に突き刺さる。


歩兵携行の対戦車ミサイルか。


アパッチは耐久限界を超え、光の粒と成って崩壊ほうかい。10式は重装甲に守られ生き残る。 

戦車の主砲の旋回が完了し、携行ミサイルを撃ったと思われる場所を砲撃する。


…迎撃失敗だ。 まだいる。 殺っていない。 

再度対戦車ミサイルが発射され10式に迫る。 ミサイル着弾前に、10式は主砲を発射。 今度こそ殺ったか?

しかしミサイルが10式に着弾し、砲塔が利用不能となった。 相打あいうちだ。


「ツカサ。 来るわよ! 向こう! 魔族!」 シルフィードが警告を発する。


見ると、羽を持った黒い影が市門から二つ。 高速でこちらに接近する。 


二つの影は俺達の20mほど手前の空中で静止し、地上に降りた。 

敵は黒い羽を背中から生やし、言う成れば人型の悪魔。 身長が高い方は顔立ちは端正たんせいだ。 黒光りする薄い金属のよろいを装備し、飛ぶ騎士のよう。 しかし無表情で蝋人形ろうにんぎょうのような顔は気味が悪い。


背の低い方は醜悪しゅうあくな顔立ちで、厚ぼったいよろいを着ている。腕が身体の大きさに比較してやたら大きく、脚が極端に短い。


「お前がツカサ フユトミか?」 端正たんせいな顔の方の魔族が俺に問いかける。


「そうだ。 俺が冬富司だ。 お前は?」 俺は魔族の問いかけに答えた。


「兄者あ。 この馬鹿が俺達の敵かぁ? 雑魚ざこ二匹で乗り込んできて何したいんだぁあ。 兄者は、用心のしすぎだぁあ」


醜悪な方の魔族が、俺を指さし言葉を続けた。

「お、お前に名乗る名前なんてないぃいい。 兄者あぁ、男はもう殺していぃい? 竜の女は生かしておいてーいぃよねえぇ? 俺が後で遊ぶんだぁああ」


市門に集まっていたヘルド兵たちが、魔族に加勢しようとこちらに押し寄せてくる。

シルフィードは男の言葉に嫌悪で顔をゆがませながらも、防御の魔法を強化する。 強い青い光が俺達をおおった。


もう、いいだろう。 そろそろ時間だ。


一機のヘリと一両の戦車。 確かに俺はその台数でずっと戦ってきた。

魔族は、それなら対処可能と思ったのだろう。 


二匹でノコノコ、俺の前に来てくれて感謝する。

時間内でユリオプスを救えるかもしれない。  


最大数で召喚を実行。

アパッチ攻撃ヘリ 展開、10式戦車 展開、 87式自走高射機関砲 展開。


俺たちと魔族の間に横一列に10式戦車が10両、魔族の右側面に87式自走高射機関砲が10両、上空にアパッチ攻撃ヘリが10機実体化した。


「兄者ぁああ! まずいぃいい」


魔族二人があわてて空中に逃げようとして飛び上がる。

小柄な方の魔族と俺は目があう。 予想外の兵器の数に、奴は愕然がくぜんとしていた。


喜べ、まだ全力は出していない。

機動戦闘車も召喚したかったがスペースが無かったんでな。


最初の砲撃は、アパッチの計10門のチェーンガンからだった。

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