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伝説の詩

ユマはヘイム男爵からの手紙を読み続けた。


「”かくみさいる”の実際の破壊力を知って、私は自分がとんでもないことをしてしまった事に気付きました。 人間を滅ぼそうなどとは思っていなかった。 それは信じて欲しいのです。


私は自分の行いをやみました。

そして、何とかしてヘルド王の野望を阻止そしする手がかりを見つけようとしたのです。

王に協力するフリをよそおいつつも、私は過去の文献を必死で調べました。


そして、手がかりを見つけました。 いや、見つけたと信じます。


王国歴の二世紀、英雄エストラについて語り手のユリウスがみあげた

その詩は、あなたに対するメッセージだと思います。

英雄エストラが魔王との最後の戦いにのぞむ前に、同僚の剣士カミュ サフトツにあとの世界をたくするシーン。

お分かりですよね。 カミュ サフトツは、ツカサ フユトミの文字の読み替え、つまりアナグラムです。


詩の中で二人が会話した、その場所は王国の街、バドレアのそばのアケルの森。

そこに行って見てください。何か手がかりがある筈です。

エストラが剣士カミュと最後の会話をし、世界を彼にたくした場所です。


私はヘルド国に監視かんしされています。

何とかすきをついて自分でその場所を調査し、情報と引き換えにあなたと取引を持ちかけるつもりでしたが、この手紙を読まれている時点で、そのこころみは失敗していますね。 私は死んでいますから。

まあ自業自得じごうじとくです。


ヘルド王の召喚能力に対する封印は、もう少しだけつはずです。

”かくみさいる”は大物ですから、封印が完全に失われない限り召喚出来ないと思います。


その間に準備を整え、あなたが私達の世界を救ってくれることを心よりお願い致します。


最後まであなたの敵だった アルノ・ド・ヘイムより」



ふ・ざ・け・る・な !


俺はユマの手元から手紙を取り返し、やぶてたい感情にられる。

自分から世界の破滅はめつきつけておいて、何言ってやがる!


何とかヘルド王の召喚を阻止しようとしたのは、まあ認めてやってもいい。

しかし結果がお粗末そまつ過ぎる。

だいたい、ヘルド王は核ミサイルを入手するのが確定しているのに、対抗手段の手がかりがお伽話とぎばなしの中の、とってつけたような名前の読みなおしときた。 本当に有効な情報なのか怪しいもんだ。


俺が納得出来た情報は、手紙の最後にあった箇所”最後まであなたの敵だった”というところだけだ。


しかしユマの手元が細かく震えているのに気づき、俺は冷静さを取り戻す。


「ツカサ、うそですよね? 人間が滅ぶとか嘘ですよね? そんなお伽噺とぎばなしの中の、神々や悪魔同士の戦いみたいな話、嘘ですよね?」 ユマが助けを求めるように俺に聞く。


俺は迷った。しかし、隠す話では無いだろう。


「ヘイム男爵だんしゃくの勘違いだと思いたい。

しかし、核ミサイル―俺が元いた世界での最大の破壊力を持つ兵器―をヘルド王が召喚出来るとするなら、状況的にはかなりまずい。 人間が滅ぶ可能性は……認めたくはないが有り得る」


「そんな…」ユマは絶句する。皆も黙りこんでしまった。


これは異世界人同士であるヘルド王と俺との戦いだ。

世界の破壊なぞ、奴に許すつもりはない。


「命に換えてでも俺が止める。心配するな」

力尽きようが出来ることはすべてやる。 俺はちかう。


召喚能力を妨害する結界がまだ生きている間に、全てを済ませる必要がある。

即急そっきゅうにだ。


俺は、帝国の師団長であるカイ・クレーマンを呼び戻した。

シルフィードが、エフェソスに向かっているはずのクレーマンを呼び帰しに行く。

もう悠長ゆうちょうなことをやっている時間は無い。 帝国にはヘルドとの総力戦を覚悟してもらう必要がある。


シルフィードに連れられて、彼は緊張した面持おももちで戻ってきた。


「シルフィードさんから、だいたいのところは聞きました。 大変なことになりましたね」


俺は手短てみじかに世界が滅亡する危険を説明した後で、依頼を切り出した。


「ヘルドを即急に攻め滅ぼす必要がある。 相手が核を入手する前に。

しかし状況はまだ不確定だ。 大軍を出すのはまだ早い。 それに魔族相手に兵の人数を増やしたからといって、有利になるとは思えない。 損害が増えるだけだろう」


「では、何をお望みで」 クレーマンは言った。


「ドラゴンや高い戦闘能力を持つ精鋭部隊を増援ぞうえんしてほしい。 その戦力を使って突破口を開く。

魔族のように個体の能力が高い相手には、通常の兵力を動員するより、精鋭部隊の方が効率的だ」


「ドラゴンは分かりますが、精鋭部隊とは具体的にどのような?」


「俺にとぼけるのは無しだ。 帝国は国宝級の魔剣を使いこなす剣士の部隊や、高位の伝説級の魔術師を抱えているだろう」

帝国が俺を調べまわったのと同様に、俺も帝国のことは調べたのだ。


「帝国が高みの見物が出来る時期は過ぎた。 持っている戦力は全て投入してくれ」


クレーマンはにやりと笑った。

「おみそれしました。 フユトミ殿がそこまで帝国について調べている、とは予想外でした。 ただ…」


彼は言葉を区切り、俺の方をあらためて見ると言った。


「”かくへいき”が強力な兵器であることは理解しました。 しかし、それを言っているのは現時点ではフユトミ殿一人です。 それに根拠となるのは怪しげな男爵の手紙だけ。 皇帝陛下こうていへいかはともかく、世界が滅ぶと言われても元老院げんろういんは笑いにすでしょう。 最高機密である虎の子部隊を動かすことは現状では認められないと思います。 5万の通常兵を動かすだけでも陛下へいかがどれだけ苦労しているか、あなたはご存じない」


「しかし、全部が明らかになってからでは遅いんだ。 地獄に行ってから向こうで後悔こうかいしたいのか?」


「分かっています。 個人的には状況を理解しているつもりです。 恐らく陛下にもご理解いただけるでしょう。 しかし、帝国の大勢たいせいは、王国は見捨てて現在の国境線を死守すれば良いと考えています。 それが我々の現状なのです。 ”かくへいき”の事など説明しても、狂人の戯言たわごとと言われてお終いです」


俺はくちびるんだ。 大国のかかえている問題というのはどの世界でも同じらしい。

問題をはっきり自覚した時には、すでに手遅れなのだ。


「私個人は理解しています。 すぐに動く必要があるということを。

 なんとかお望みの魔剣部隊の一部だけでも動けるように致します。 ですが、それが今の私に出来る最大限です」


クレーマンは、すまなそうに言った。


俺は帝国の不甲斐ふがいなさに失望して、皇帝に直訴じきそしようかと考えた。

しかし、それは今の俺がやるべき事じゃないだろう、と思い直す。

クレーマンは有能な男のようだ。まかせるしかない。


俺が今やるべき事は、くやしい話だが、ヘイム男爵(だんしゃく)が手紙に書いていた英雄なんとか―エストラの伝説の後を追うことだろう。


男爵の手紙にはバドレアの街のそばのアケルの森に手がかりがあるだろうと書いてあった。

しかしバドレアは現在、ヘルドの占領下にある。場所は王国の中央部だ。


何とか支配地域をくぐり抜け、手がかりを探るしかない。


「シルフィード。 ヘイム男爵の手紙にある場所を調べに行こうと思う。 つきあってもらえるか?」


「もちの ろん よ。 まかせておきなさい」シルフィードは笑顔で言ってくれた。

「私は帝国におんがあるの。 他が動けないのなら、私がやる」


「そうか。 どうもありがとう。 いつもすまない」 俺が礼を言うと、彼女は目を白黒させる。

「ど、どうしたのよ。 いつもお礼なんて言わないのに!」


「まあ、”自称”フェミニストだからな。 お礼くらいは言わないと」 俺は苦笑した。


ユマ、アネットに手伝ってもらい、ヘイム男爵が引用していた、英雄エストラの詩の原文を取り寄せて中身を分析してもらう。


結論としては、ヘイムの言う内容自体に矛盾むじゅんは無かった。


エストラが最後に会話をした、剣士カミュ サフトツのツカサ フユトミへの文字の読み替えも確かに可能だ。


気になる記述は他にもある。

エルトラの乗る、天翔あまかける羽の生えた鋼鉄の馬は、音と同じ速度で空を駆け抜け、熱い息で呼吸をすると書いてある。

戦闘機のように聞こえなくもない。 ただし、お伽話とぎばなし一節いっせつと言われれば、そうも思える。


正しいかどうかは、現地に飛んで手がかりを探ってみるしかないだろう。


場所に関しては、ヘイムよりもう少しだけ細かく特定出来た。

アケルの森の中央部だ。

そこでエストラは剣士カミュと最後の会話をして、彼に世界をたくしたとされている。


しかし、英雄エストラは数百年前には死んでいるのだ。

もしこの詩が、本当に俺へのメッセージなら、一体何を伝えようとしているのだろうか。


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