戦果
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シルフィードが元気になり飛べるようになったので、もう89式装甲戦闘車で地上突破をする必要は無いだろう。
アパッチが再召喚可能になったらシルフィードに一人、ヘリに一人、エトとリナを分乗させて本部のあるコリントスまで飛んで帰れば良い。
残念ながらクールタイムの関係で、ヘリを呼び出せるのは真夜中以降になる。
ホーカムから受けたダメージは全て回復している筈だ。
森の中で野営して、明日の早朝に出発することにした。
シルフィードがまだ病み上がりなので、89式装甲戦闘車をテント代わりに召喚し、中で皆を休ませる。
俺は朝まで、89式と一緒に見張りをする事にした。
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翌日、本部のあるコリントスの街に昼のかなり前に着いた。
街の手前でヘリを着陸させると、シルフィードも空から降りてくる。
シルフィードはリナを降ろすと少女の姿に戻り、俺はエトとリナを引き連れ本部に戻る。
ちょっとした凱旋気分だ。
本部の建物に戻ると、「おかえりなさい!」
ずっと待っていた様子のユマが抱きついてくる。
アネットとリンダも奥から出てきた。
「ツカサなら大丈夫だって言ったじゃない」とユマに声をかけるリンダ
「お疲れ様。無事でよかったわ」とアネット
少年が奥から飛び出して来てシルフィードに抱きつく。
彼女の弟のドラゴン、イフリートだ。
「姐さん。よかった。本当によかった」涙ぐんでいる。
「ヘルドと王国の国境近くを監視していたワイバーン隊から連絡があったんだ。
姐さんらしい青い竜が、黒竜と交戦して瀕死だって」
「探しに行きたかったけど任務中だったんで皇帝が許してくれなくて…すぐ来れなかったんだ。ごめんよ」
「大丈夫。私が死ぬわけないじゃない」抱きながら少年の頭をなでるシルフィード
獣人族のエトとリナが知らない人間たち囲まれて、きまりが悪そうだ。
俺は彼等を皆に紹介し、森で会った経緯を知らせる。
行き場が見つかるまで預かる、とも言った。
「よろしくお願いします」 世慣れた感じのリナが挨拶する。
「…よろしく」 エトもリナに急かされ慌てて挨拶をした。
緊急の用件を片付けたら彼等の居場所や職を探してやらないと。
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俺は皆を部屋に集めると、話を始めた。
とりあえず戦果の確認だ。
「ヘルド軍の物資の供給拠点であったザルメスクは壊滅させた。
問題は首都タリスの方なんだが、攻撃はしたものの戦果を確認する暇がなかった」
シルフィードがイフリートの方を向き、「帝国の情報網に何か引っかかってない?」と聞く。
ちなみに帝国には、事前に攻撃箇所は連絡してあった。
「慌ててここへ来たんで細かな事は聞いてないけど、偵察隊から皇帝に報告が上がっていたよ。王宮の大部分と周辺の軍事施設は大きな被害を受けたみたい。ヘルド王の住む区画自体は、守護の魔法が発動して無傷だったらしい」
でも、とイフリートは続けた。
「ヘルド王の面目は丸つぶれだろうって、皇帝が喜んでた。
フユトミによくやった、と伝えておけと伝言されたよ。姐さんの活躍のお陰なのにさ」
イフリートは面白く無さそうだ。
「今、確かに皇帝の伝言は伝えたからな」イフリートは俺を睨みながら言う。
俺はリンダとアネットの方へ向いて聞く。
「王国内の諸侯に動きは何かあるか?」
アネットが応えた。
「とりあえず、この街コリントスの領主から使者が来たわ。内容はこちらのご機嫌うかがい。ツカサと話をしたいそうよ」
そりゃ、帝国の有名な竜やら、見たこともないヘリやらが飛び回ってれば腰も引けるだろう。撃退する戦力も無いしな。
本部を置いたこのコリントスの街は、俺達に占領されたのも同じだ。
こちらから使者を送って事情を説明するべきだったんだろうが、忙しさにかまけて忘れていた。
リンダが付け加える。
「盗賊ギルドからの情報。フユトミの情報を売ってくれって、何件か照会があったそうよ。
一番熱心なのがエフェソスの街の領主。私達の情報を集めてる。
エフェソスの街は、ヘルド軍=王国の反逆者連合、からの攻撃を受けててヤバイみたい。
そのうち、こちらと同盟したいって使者を送ってくると思うわ」
エフェソスの街は、ユマが逮捕されそうになった街だ。
シルフィードと初めて会ったところでもある。
王国の中部に位置するエフェソスの街は、こちらに比較的近い。
帝国から貸してもらえる5万の兵も投入しやすいだろう。
条件次第で協力してやっても良いかも知れない。
ユマが会話に加わった。
「タレントゥムの元領主の方も、本部にお見えになりました。
街が陥落したので、このコリントスの街に逃げ延びていたそうです。
私が代わりに、お話を聞いておこうとしたのですがツカサに直に会いたいそうで、またいらっしゃいます」
まあ、助けて欲しいって言い出すんだろうな。
ただタレントゥムはヘルドとの国境沿いだから遠い。
敵の制圧地域を通して歩兵達を送るには、もう少し時間がかかるだろう。
王国内の諸侯の反応は予想どおりだ。
俺は皆の顔を見直すと言った。
「悪いニュースが1つある。俺の召喚兵器の同類が敵として戦場に現れた。
シルフィードとも戦った」
シルフィードが頷く。
「“へりこぷたー”よね」
「そうだ。俺が前にいた世界でホーカムと呼ばれる戦闘ヘリだ。アパッチとほぼ同等の戦闘能力を持つ。他の兵器も戦場に現れるかもしれない」
俺はリンダの方に向き直った。
「脅威は早めに潰したい。俺は逃走したヘイム男爵を疑っている。
奴が一枚噛んでいる気がしてならない。盗賊ギルドを使って居所を探ってくれないか」
ヘイム男爵は、ユマの暗殺実行の取りまとめ役だ。
以前、召喚妨害の能力を持つ犬のような化け物を送ってきた張本人だ。
「分かったわ。ツテを当たってみる」とリンダは頷いた。
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情報が集まるのを待ち、王国内の貴族たちの出方を伺うのに数日待った。
俺は居心地が良いような悪いような、なんとも言えない気分で過ごす。
と言うのは、どうも女達は後宮を造る話で盛り上がっているようなのだ。
いくらなんでも気が早過ぎると思うのだが、第一王妃やら、第二王妃やら、第三王妃やらを俺が娶い、後宮に住まわせる話になってるらしい。
おかしな話だ。
仮に俺が王となったとしても続ける気は毛頭ない。
適当な理由を造って王位は帝国に譲るつもりだ。
王に成る目的は、残忍なヘルド軍の排除だけだ。
仲間達は皆、そのことは知っている筈なので、後宮とかは冗談でやってる…と信じているが。
半分位は本気なんじゃないかと思えるような事もあり、油断出来ない。
現代日本の庶民の出身である俺の信条は、愛する女性は一人だけの筈だ。
うん。絶対そうだ。
とりあえず、今日は客があった。
ロベール2世・ド・マーズ、俺達の本部があるコリントスの街の領主。
警護の人間を引き連れ、馬車で我が本部に乗り付ける。
一人で会おうと思ったが、ユマとシルフィードが出ると言って聞かない。
「フユトミ殿か。初めてお目にかかる。我はロベール2世・ド・マーズ」
貴族にしては偉そうな気配が無い。と言うかオドオドしてないか。
帝国の後ろ盾がありドラゴンを引き連れた男が、自分の街に住み着いたらやっぱり腰が引けて、こうなるんだろうか。
俺は自分とユマを紹介する。
「俺は、冬富司。こちらはユマ・イベール。彼女は王位の第一継承者で、俺の婚約者だ」
王国内部は、ヘルドに協力している裏切り者達のせいで分裂状態になっている。
そこで我々が作成したシナリオでは、俺とユマが結婚。
その後、俺は王である事を一方的に宣言。
まあ結婚とかは、俺が王を名乗るための形式的なものだ。
本当は結婚しても王位は継承できないんだが、そこは俺が無理やり名乗る事になっている。
「こちらはシルフィード。帝国の軍人だ」
シルフィードを紹介すると、彼女は自分から付け加えた。
「私はシルフィード。帝国所属のドラゴン。ツカサと一緒に戦っているの。よろしくね♪」
マーズ公は目を見開いた。
「ド、ド、ドラゴンと仰ったか?」
「うん。今、人間形態だけどね。ここ帝国と近いから知ってるでしょ。私達、人間の格好も出来るの」
にっこり微笑むシルフィード。
その後の会談は、マーズ公が上の空になってしまい細かな話は出来なかった。
何かあるとシルフィードの方を恐恐と見つめ、逃げ出したいのが丸わかりだ。
ドラゴンって恐れられてるんだな、と人事のように思った俺は、この街コリントスに何かするつもりは無いこと、マーズ公を追い出す気も無いことだけを伝えお引き取り願った。
午後は、エフェソスの街の領主が来る。こちらは軍事協力の依頼だろう。
俺の得意分野だ。




