↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/47

黒竜の呪い

◆

ヘルファイア・ミサイルを黒竜(こくりゅう)に向かって発射する。

着弾まで数秒。

竜は炎を引きながら飛び込んでくるミサイルに気が付き、シルフィードから離れて飛び上がろうとする。


巨体に似合わず、動きが俊敏(しゅんびん)な竜だ。

飛んだ。


目標の移動を感知したヘルファイアは、進路を変更する。

辛(かろ)うじて黒竜に突き刺さる。


ミサイルは浅い角度で尾の付け根部分に着弾し、タンデム成形炸薬弾頭(せいけいさくやくだんとう)が起爆。

竜の魔法シールドが明るく輝き、対戦車ミサイルの爆発に対抗する。

…爆発の破壊力は削(そ)がれたようだ。


しかしダメージは完全には防げなかった。

尾の付け根がえぐられ、中の肉がむき出しになっている。

残念ながら致命傷ではなさそうだ。


苦しげに竜は咆哮(ほうこう)すると、俺のヘリの方を向き憎々しげに睨(にら)む。


黒竜よ。まだ安心するのは早い。終わりじゃない。

ヘルファイア・ミサイル、次弾発射だ。


黒竜は力を振り絞(しぼ)り、高度を上げミサイルを何とか振りきった。

そして形勢不利を悟ったか、高速で飛行しながら逃げていく。


エンジンの片方をやられた、今のアパッチでは追撃(ついげき)は無理だ。


『シルフィード! 黒竜は逃げたぞ!』俺は倒れている竜に呼びかけた。


『…ごめん。…ありがと』シルフィードは苦しげに俺の心の中に返答する。


シルフィードの声を聞き、少し安心した。


すぐにでもシルフィードの側(そば)に行きたかったが、その前にやらねばいけない事があった。

俺は、叩き落とした敵の攻撃ヘリ“ホーカム”の方を見た。

地上の林の中に不時着し、横倒しになっている。


アパッチのTADSを使いズームで敵ヘリを観察する。

敵パイロットらしい影がコックピット内に見える。

失神したのか、それとも死んだのか? …いや動いている。

何かに引っかかって、席から出られなくなっているらしい。


奴は俺と同じ召喚能力を持っているのだろうか?

そうだとすれば、かなりの脅威だ。


どうやって、この世界に来たのか? 敵側に他に召喚士の仲間がいるのか?

捕虜(ほりょ)にして尋問(じんもん)したい欲求に駆(か)られる。


だが負傷したシルフィードを連れてすぐに移動しなければいけないし、森に残してきた少年達もいる。

余計な手間も時間もかけられない。


あんたは運が無かったな。

俺はチェーンガンをホーカムのコクピットに叩き込んだ。


◆

ぐったりしているシルフィード…青い竜の側に着陸した。

「シルフィード。大丈夫か?」


竜は少女の姿に戻る。


顔色が悪い。息が苦しそうだ。


おかしい。

俺と以前戦った時は、ここまで酷(ひど)くはならなかった。

竜の回復能力は強力な筈(はず)なのだ。


俺はシルフィードと黒竜との交戦の状況を思い出す。

そういえば、黒竜が首筋に噛(か)み付いていた。何かされたのか?

言いたかった言葉を無理やり飲み込む。

“なんで、すぐに逃げなかったんだ”


責任感が強いシルフィードは、多連装ロケットシステムM270 MLRSの車両群を守り切った。彼女は逃げなかった。

シルフィードのお蔭で、全てのロケット弾を首都タリスに浴びせる事に成功したのだ。


「シルフィード。俺に出来ることはないか。どうすれば助けられる?」


少女は目を開け、苦しそうに言う。

「…大丈夫…ごめん。森へ連れて行って。あの子達を回収しないと。本当に大丈夫だから…」


しかし、これでは…

こんなに痛めつけられるなんて。


この場所にとどまる訳にはいかないのは確かだ。

逃げた黒竜はこの場所を知っているのだ。援軍が来るかもしれない。

少女を抱き上げ、アパッチのコックピットになんとか収める。


俺は1基だけ残ったエンジンを注意深く操(あやつ)りながら、エトとリナが隠れている森に急いだ。


◆

俺はエトとリナが隠れている森の上空に戻った。

最初に会った空き地に姿は無い。

上空から、周辺の森を赤外線を使って探す。

焦(あせ)りながら10分も探しただろうか。


いた。


二人の影らしき白い姿が、ヘルメット内に投影(とうえい)される。

ヘリに気がついたのだろう。二人は空き地に向かって走っている。

森の中を移動しながら、こちらに向け手を振っている。


同時に俺は10人ほどの集団の影を赤外線で感知した。200mほど先だ。


俺はかまわず広場に降下を始めた。

二人以外の集団の影は敵なのか、たまたま通りかかった隊商(たいしょう)なのか、今持っている情報ではわからない。

襲ってくればチェーンガンで破壊するまでだ。


降下中に周囲をもう一度確認すると、敵らしき姿は……襲って来ていない。

逃げ出している。俺のヘリに気がついたのだろう。


着陸するとシルフィードを降ろし、駆け寄ってきたエトとリナに合流した。


◆

「シルフィードさん苦しそう。大丈夫ですか?」リナが心配そうに聞く。


アパッチはもう飛べない。

ホーカムから食らったダメージのせいで、飛行に支障が出ている。

一旦送還してクールタイムが過ぎるのを待つ必要がある。


シルフィードを救う為には、一刻も早く帝国に戻るしか無い。

他の手段を俺は知らない。


アパッチがいなくなったので、89式装甲戦闘車に乗り換えて移動する必要がある。

森を抜け、道沿いに出なければならない。


シルフィードを背負い移動している最中(さいちゅう)、彼女の様態(ようたい)が急変する。

肩に掴(つか)まっていたシルフィードの腕から力が突然抜け、俺の背中から転(ころ)げ落ちそうになる。

あわてて彼女の体を支え、地面に横たえる。


顔が土気色だ。目は焦点(しょうてん)を失っている。

慌てて脈を診る。ほとんど無い。


「シルフィード!」俺は叫んだ。反応は無い。

シルフィードが死ぬ?! まさか。嘘だろ。


リナが何か言い出そうとして、止(や)めたのを俺は見逃さなかった。


「リナ。どうした」


彼女は言い出すべきかどうか、迷った様子だったが俺に急かされ話しだす。

「フユトミさん。私、お伽話(とぎばなし)で聞いたことがあるんです。

竜は自分が愛している人、想(おも)い人の生命力を使って寿命を延ばせるって。

でも、それをする竜は悪い竜だって。」


「そのお伽話(とぎばなし)では竜と両思いになった人間の女が命をあげるんです。

その人が竜にキスをすると、竜は助かるんです。でも、その女の人は死んじゃって」


リナがはっとした顔になった。

「ごめんなさい。私やっぱ話すべきじゃなかった。忘れてください!」


いいや。

「ありがとう。教えてくれて」


お伽話(とぎばなし)がどこまで正確かなんて、試してみなけりゃ分からない。


俺はシルフィードの唇(くちびる)に顔を近づけると、自分の唇を重ね、シルフィードの体を抱きしめた。

お前が俺を好きだなんて事はある訳ないか、でも、

生きてくれ、と願いながら。


俺は気が遠くなるのを感じた。まるで生命力が吸い取られているような。

ユマの顔を思い浮かべる。

奇跡が起こってシルフィードが助かって…もし俺が死んだらごめんな。



◆

「本当に余計な事してくれたわ! えっち、すけべ!」


シルフィードは、少なくとも文句を言える程度には回復してくれたようだ。

顔色はまだ悪いが、赤みがさしてきている。

脈(みゃく)を診(み)たが正常だ。さすがに竜の生命力はすごい。

死にそうだったなんて、夢だったのだろうか。


「放っておいてくれれば、元気になったのに」

彼女は恥ずかしそうに横を向く。


「え、そうなのか。

すまない。お伽話(とぎばなし)を信じてしまって」


彼女の表情が凍りつく。

「お伽話。って。竜の想い人の伝説の話?」


「うん。そうだ」


「そ、それ嘘だから。竜が自分の好きな人の生命力貰えるって大嘘だから」


シルフィードはそう言ってから、俯(うつむ)いた。


「ごめんなさい。でもやっぱりお礼は言わないと。

助けてくれてどうもありがとう。生命力を貰(もら)ったのは本当の話。

ツカサの寿命は恐らく数年短くなった。本当にありがとう」


「それ位で助けられたのなら安いものさ。気にするな」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


俺は聞きたかった事を聞いた。

「それで、一体何が起こったんだ。竜と言うのはそう簡単に死なないと思っていたんだが」


「黒竜に呪いをかけられたの。首を噛(か)まれた時に呪いの言葉を聞いてしまった。

でも、もう大丈夫。呪いは消えたから」


勘違いしないでよ、と彼女は横を向きながら顔を赤らめ付け加えた。


「竜の想い人だけが生命力をあげられる、ってのは嘘だからね。

そ、そこは逆だわ。人間の方が、竜“を”好きな時に命をあげられる。

うん、これが真実。絶対的な真実。乙女(おとめ)の純情的に間違いないわ」


リナが意地になったように反対した。

「でも、このお伽話、昔から伝えられた真実だってお婆(ばあ)さんが言ってた。

お婆さん嘘嫌いだったし。

竜の方が人間に恋してるって絶対に聞きました。

私、嘘なんて言っていません」


「そ、そう。 う、うん。 人間には間違って伝わったんじゃない?

リナが嘘言ったなんて私言ってないし。

でも、それワタシ的になんというか、空気を読んで欲しいと言うか…立場もあるし」


最後の方のシルフィードの声は小さくなり、良く聞こえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。