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逮捕

次の日の朝、俺達は盗賊のリンダも引き連れて、4人でこの街“タレントゥム”を出発した。

西側の門を出て次の街“エフェソス”に向かう。


急いで出発したのは、俺の正体がバレそうな気がしてきたからだ。

そもそもリンダがほとんど全部、前の戦闘の事を知ってる時点でやばすぎる。


そのリンダが言う。

「ツカサ。そんな焦って街出なくても大丈夫なのに。

一緒に連れて行ってもらうお礼に適当に誤魔化ごまかした情報流しておいたから。

しばらくはあんたの正体もバレないのに」


盗賊の言うことを鵜呑うのみにするようなら、その時点で終わりだと思う。


しばらく行くと、街道が終わり平原になる。

俺がヘルドと戦った戦場が2kmほど横に見える。

その戦場近く、平原の端の方に沢山の人が集まって何か作業をしているのが見える。

人々が集まっている中心部には大きな布で囲われて、小山のように盛り上がっている何かがある。


あそこはドラゴンが落ちてるあたりだ。


アネットが俺の方をつつく。

「強い魔力が、あの布で覆われたかたまりから出てるようなんだけど。

もしかしてドラゴン?」


俺がうなずくと、彼女はため息をついた。

「ツカサ。ドラゴンの皮とか骨とか、強い魔力を帯びてる素材はもの凄い値段がつくのに。

もったいなさすぎ。あなた一生遊んで暮らせたのよ」


「次回があったら気をつける」

無い方が望ましいが。


平原の先から再び道が始まり街道になる。

向こう側から王国の剣士だろう。皮鎧かわよろいを着込んだ10名位が歩いてくる。

その後からは5人程、ローブとフード姿の魔術師らしい人間が後を追っている。

ものものしいが、戦時であるのでこのような隊列とすれ違うことは、ままある。


「ツカサ。 気をつけて。 あいつらおかしい」

リンダが警告するが遅かった。


隊列の指揮官らしき男が俺達に命じる。

「止まれ」


俺達が止まると、男は一同の顔を見回しユマを見つけると言う。

「ユマ・イベールだな。 反逆罪で逮捕する」


ユマは何が起こったか状況が飲み込めず、きょとんとする。

二名の剣士と指揮官らしき男が前に進み、指揮官は腰の剣を抜刀ばっとうしてユマに向ける。


「反逆罪というと死刑か。

それだけ男をそそる顔と身体を持っているのにもったいない話だ。

使い道は色々とあるのにな」

男は軍の指揮官とは思えない、下卑げびた笑いを浮かべる


俺はユマの側に寄ろうとした。

俺の動きを邪魔をしようとして、剣士二名の内の一人が抜刀ばっとうした剣を俺に向かって突き出す。

「無駄だ。そこで大人しくしていろ」


男が剣を俺に向けた途端、俺の背後の上空で光が凝集ぎょうしゅうし危険を察知した相棒が実体化を始める。


相棒は俺に武器を向ける人間を許さない。

そして、ここは野外なのだ。出現を妨げるものは何も無い。


まばゆい光の塊がヘリの姿に実体化する。

俺の背後に相棒が出現したのを見ると、軍の兵士達は驚愕きょうがくした。

俺は一瞬の隙をつきユマを引っ張り、背後にかばう。


俺は言った。

「武器をこちらに向けるな。死ぬぞ」


俺の警告を無視し、後方にいた軍の魔術師達が慌てて術を繰り出す。

魔術師達の周辺に何本もの光の矢が出現し、戦闘ヘリに向かって飛ぶ。

光の矢が相棒に突き刺さり、表面装甲が吹き飛ぶ。


「止せ!」俺は叫んだ。


相棒は、敵対行動を認識すると自動的に反撃した。

チェーンガンが咆哮ほうこうし、魔術師達が消し飛ぶ。

大きな破裂音はれつおんと共に、彼等がいた辺りに巻き上げられた土煙つちけむりが立ち込める。


剣士達は恐怖にかられ大部分は逃げだすが、ユマの周りの二人は、腰が抜け戦意を損失して座り込む。


指揮官は呆然として立ちすくみ相棒を眺めている。

腰も抜けずに逃げないだけ、大したもんだ。


……しかし、15番機よ。今回はちょっとやり過ぎたかも知れない。

相手は王国の軍のようだ。


俺は指揮官のそばによると問いかける。

「ユマを逮捕するとはどういう事だ」


「し、し、知らない。俺は金を貰って頼まれただけだ。

そ、そいつを、その飛ぶ化け物を俺から離してくれ」


軍人では無いということか。


「誰に頼まれた? 依頼内容を言え」


「い、依頼主の名前は知らない。本当だ。俺は傭兵だ。金をもらって頼まれただけだ。助けてくれ」

男は哀願あいがんする。


「女を指定の場所まで連れて行き、引き渡すだけだ。こ、細かい事は知らない」


「ツカサ。私にまかせて。口を割らせる手段なんていくらでもあるわ」

リンダが笑いながら言う。


拷問ごうもんか。

「止めておけ。恐らく重要な事は知らされていない」


「変なとこで、正義漢ぶるのよねぇ。あれだけ殺しておきながら。

やってみて損する事なんてないのに」

彼女は不満のようだ。


ユマに向き直る。

彼女は、指揮官の男の顔を眺めている。

だが視線は向けているものの、何処か上の空だ。

何か考え事をしているのか。


「ユマ」

声を掛けると、彼女はびっくりしたように俺の顔を見る。


「ユマ。何か心当たりはあるか?」

俺の視線を避けると、かぶりを振る。こちらを見ようとしない。

俺は違和感を感じる。いつものユマなら、じっと目を覗きこむようにして話すはずだ。


俺に知らしていない何かがあるのか。


残った男達を昏倒こんとうさせると、ヤブの中に転がしておいた。

こいつらを殺しても意味は無い。

剣士達は大部分が逃げた。情報が雇い主に漏れるのは防げない。


取り敢えずの仕事を終えると、俺は皆に声をかけた。

「余計な時間がかかった。街に向かって改めて出発だ」



皆で元通り街へ向かうが、全体の雰囲気が若干じゃっかん重い。

正式な手続きかどうかは怪しいものだが、ユマが逮捕されそうになったのだ。

彼女が何か隠している可能性も高い。

俺自身はユマにだまされるのなら、それはそれで構わないのだが。


空気を敏感に感じ取ったのはユマ自身で、休憩をとって休んでいる時に彼女から話始めた。


「ツカサに皆さん。ごめんなさい。

私、みんなに黙っていた事があります」

ユマはそう言って切り出した。


「先ほどの私の反逆者としての逮捕の件ですが、思い当たる事があります。

実は私は、この国サラマテル王国の現王 マルデリック15世の隠し子なのです」


彼女はすまなそうに下を向きながら話し続ける。

「私の母は王室直属の女騎士でした。腕は良く、それなりに戦果は上げたようです。

大した領土は持っておらず身分も騎士なので下級貴族相当です。

でも王はそんな母に惚れて、母は子を成しました。それが私です」


「母は身近で王室内の熾烈しれつな権力争いを見ていましたから、私が巻き込まれるのを恐れました。幸い母は後宮こうきゅうに居た訳では無く、父である王の協力もあって私を権力者達から隠す事に成功しました」


でも、とユマは続けた。

「先ほどのヘルドとの戦いで、王の子供としては唯一の生き残りであったロベール王子が戦死しました。 唯一の生き残りと言うのは私を除けば、と言うことです」


「結果として王の第一継承権は現在、私にあります。

ただ、想像出来ると思いますがそれを快く思わない人間は多いのです」


「勿論、私は女王になろうなんて思っていません。放っておいて欲しいんです。

でも、私に死んで欲しい人間は沢山います。

その人達の誰かが、私を逮捕して処刑しようとしたんだと思います」


彼女は泣き崩れた。


「ツカサ。本当にごめんなさい。私、もっと早く話すべきだった。

でも頼れる人あなたしかいなくて。話すのは怖かった」


彼女は涙だらけの顔で俺を見上げると、俺の目をじっと見ながら言った。

「あなたが、面倒事を嫌って何処どこかに行っちゃうんじゃないかと思って」


何処かに行くって? そんな事は有り得ない。

俺が気になったのは、泣き顔で美人の顔が台無しだって事だな。


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