新8.小説のリズムはどのようにして作られるのか?
今回は小説のリズムの作り方についてです。
同じ勉強をする場面でも、「私は勉強をした」と「私は勉強する」の2つの表現方法がありますね。
(厳密には体言止めもありますが……)
小説は基本的にこの2種類の表現から成り立っていますが、その組み合わせで読みやすいリズムを作らなくてはいけません。
これを確かめる方法として、実際に読んでみて確認するという方法があります。
しかしこれは、私は最後のチェックだと思っています。
では、具体的にどうするのかと申しますと……
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P16~17)
遥奈の視点で、三樹がカレーを食べるのを見ている場面です。
「はい、このカレーライス美味しいです」
三樹がカレーを口に運ぶ。一度に頬張ったものだから、口の中が熱くなったらしい。少年は喘ぎ、ジャガイモをスプーンの中に戻す。美羽が急いで水を渡した。
(ふふ、三樹くんって、夫に似てるかも)
遥奈は、単身赴任中の夫、七沢慎吾の顔を思い出した。慎吾もまた、遥奈の手料理を「美味しい美味しい」と、よく言ってくれたのだ。
このカレーを食べる場面はどうでもいい内容というか、回想に繋ぐためのステップのようなものです。
なので、短い文章で現在形を多用しています。それによって、この文章はハイテンポになっているはずです。
また最後が過去形となっているのは、次が心の声で、しかも回想に入っていくからです。
過去形は動作の完了を表現しますので、流れをいったん切ることが出来ます。
皆さんがハイテンポの文章を書かれる場合は、戦闘シーンが多いでしょうかね?
その場合でも、気を付ける必要がある項目は同じです。
上の文章は「運ぶの“ぶ”」「らしいの“い”」「戻すの“す”」で、同じ語尾が一つもありません。
ここが大事です。
そして、もう一つ注目して頂きたいのが文章の長さです。
現在形で書き続ければどうしても単調になってしまいます。そこで一文の長さを変えます。
もちろん、長い文はハイテンポには向きませんので、読点を1か所打つぐらいの長さにします。
こんどは、じっくり読ませたい場合の描写です。
読点が多いような文章は速度感が落ちる代わりに、雰囲気というか情感のようなものが出せる場合があります。
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P26)
テーブルに置いていたスマートフォンが、手元に差し出された。遥奈は、恐る恐る覗き込む。それは何かの動画だった。
まずは周囲の状況が映し出された。照明の具合、壁のタイル、狭い室内空間で、トイレの個室の中だとわかる。次に見下ろすように撮影される形で、学生服を着た妹の姿が映し出される。美羽は、洋式の便座の上に座っていた。
こちらは過去形、現在形、過去形。過去形、現在形、現在形、過去形となっています。
過去形(完了)は流れを切ってしまいますので多用は出来ないと、私は考えています。
これについて詳しく書きたかったのですが、説明が難しいので今度に致します。申し訳ありません。
文章のテンポをハイにしたり、スローにしたり、時には体言止めで終わらせたり。
そういうリズムを考えながら文章を作ることで、飽きさせない文章となるということで、次回につづきます。




