新9.ヒロインを魅力的に描くには内面描写がポイント
ヒロインを魅力的に描くには、「新5」でも説明しましたとおり、一にも二にも描写です。
可愛い、かっこいい、悲しい、腹立たしい、こういう表現は文章でそのまま書いても意味はありません。
書いてもそれは説明文であって、読者は「そうなんだ」という感じだからです。
そうではなく、可愛いなら可愛く感じるような描写を入れ、悲しいなら悲しいと感じられる描写を入れるわけです。
特にキャラクターの個性や魅力は、そのキャラクターの内面が読者に伝わっているかで決まるため、
書き手は内面描写を十分に意識していく必要があります。
これは物語の構想そのものが、そう伝わるようになっておく必要があるという意味で、小手先で出来るものではありません。
本来であれば物語全体をとおして行う、キャラクターの立たせ方を題材にすべきなのですが、
そのような事は限られた時間と枚数では出来ませんので、
ここでは「ヒロインの可愛らしさの伝え方」と「外見の伝え方」について説明致します。
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P143~144)
プールの授業中に、三樹くんが美羽ちゃんに喋りかけるシーンです。
「お疲れ、美羽」
プールサイドに腰掛け、抜群のプロポーションを曝す少女に、肉体美溢れる少年が声をかける。見下ろすような視界の先にあるのは、スクール水着に収められた女子高生の瑞々しい肢体。胸元ははち切れんばかりに女性的な曲線を描き、無駄な脂肪が付いていない美脚はすらりとしなやかだった。
「ふふ、どこ見て喋ってるのかな? でも、こうやって改めて見ると、みっくんって逞しいよね。あたしも中学までは水泳部で鍛えてたんだけど、みっくんは身体つきがガッシリしてて、男なんだなぁって意識させられちゃうよ……」
華奢ながら引き締まった身体の少女は、間近で見る恋人の鍛え上げられた肉体に、思わずうっとり見入ってしまう。
「半年間、ジム通いしたからね……」
「うん、素敵だよ」
美羽と少年の遣り取りに、少女を挟むように座る女子友の二人が赤面する。美羽も言っている途中で恥ずかしくなったのか、カッと赤く染まった相貌を反らし、「もう、この話はお終いっ」と言って打ち切ると、キャップも被らずプールの中に入った。
「みっくん、泳ごうよっ! あたしに勝てたら、何でも言うことを聞いてあげるよ? その代わり、みっくんが負けたら、あたしの言うこと聞いてもらうけどね?」
「な、何でも?」
こちらの文章はまず、男女混合のプールの授業ということで、楽しい雰囲気を出したいという狙いがあります。
そして、美羽の性格の「活発さ」を読者に伝えたいという狙いもあります。
そこで選んだのが「声をかける(現在形)」「瑞々しい肢体(体言止め)」「しなやかだった(過去形)」のパターンです。
一文が長いのでハイテンポという感じは無いのですが、体言止めも入ることでテンションが高いのが伝わると思います。
ちなみに過去形(完了形)で終わるのは、三樹の視点から美羽の会話に変わるため、切り替えの意味になります。
で、美羽の会話の後に美羽の視点に変わっています。このように会話の後に視点を変えるのはスムーズです。
ちなみに「うん、素敵だよ」の後も、客観視点に切り替わっています。
外見については「美羽の胸は年頃の女の子たちよりも大きく、脚はモデルでもやっているのかと思うほど長い」なんては書きません。
客観的な視点で(まるで筆者が語るような)説明文を書いては、読者にはヒロインの魅力が伝わらないからです。
引用では三樹の視点から見た「美羽のボディーライン」が描かれていますが、このように誰かの視点を借りて描写するわけです。
もう一つ外見描写の例を出しましょう。今度は男性の描写です。
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P14)
遥奈(美羽の姉)、美羽、三樹の三人が一緒に夕食している場面です。
遥奈は席に着くと、カレーライスを頬張っている三樹に目を遣った。
「それにしても、村越くんがこんなにスマートになるなんて、三年前は思ってもみなかったな……美羽も目が離せないんじゃない?」
半年ぶりに会った三樹は、遥奈の記憶に反してずいぶんと大人びていた。厚い胸板にがっちりした腕。背は高くなって、見た目だけならもう青年と言ってもいいぐらいだ。
それでも、三樹の抱える雰囲気は相変わらず寂しげで、人を寄せ付けないほどの鋭い視線は、何かに怯えているようでもある。誰かが傍にいてあげないと壊れてしまいそうな印象は、まだ遥奈が知っている子供の三樹のように思えた。
「もう、お姉ちゃんっ」
言葉の意味を理解したのか、美羽が照れの滲んだ声で言い返した。
遥奈は、ポニーテールをしっぽのように揺らしそっぽを向く美羽を見て、「ふふっ」と笑った。三樹だけではない、この三年間で美羽もずいぶん変わったと思う。
遥奈が三樹に視線を遣ることで、三樹の外見や伝わってくる雰囲気について語っています。
同じ説明文でも、客観視点による説明文と、遥奈視点での説明文では違いがあると感じて頂けると思います。
また、美羽の「ポニーテールをしっぽのように揺らしそっぽを向く」という描写は、美羽の魅力が伝わるような描写ですね。
(ちなみに最初の「カッと赤く染まった相貌を反らし」も、急に赤くなるという可愛らしさを感じますよね)
まとめです。
キャラクターを立たせるには、内面を描いていく必要がある。それには物語の構成から検討する必要がある。
描写としては、何気ない動作に「可愛らしさ」などの個性を描写していく。この積み重ねが重要です。
会話(口調)や小説のテンポで、ヒロインの性格や雰囲気を伝える方法もあります。
外見は客観的な説明文で描くのではなく、誰かの視点を借りて描写する。その際の切り替えは会話を挟むとスムーズ。




