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絶望的魔人奇譚2  作者: 星六
3/19

(一)-2

 ガラガラと教室の前の戸が勢いよく横に開いた。みんなの視線が入り口に集まる。


「お、おはようですデス」


 石に刻んだようなぎこちない笑顔を浮かべて入って来たのは太郎の予想通り若い女教師だった。しかしエロい希望は潰れた。いたって普通の大きさの胸元が閉じたブラウスと膝上二、三センチの黒スカートをはいた女教師は、肩甲骨まで伸びた艶のある黒髪を揺らしながら、右手と右足を同時に出す緊張っぷりで、教壇に上がる際、段差につまずいて教卓を突き飛ばしながら派手にすっ転ぶ。予期せぬ凄まじい登場に教室は静まり返った。数秒後、みんなの驚愕の視線を浴びた女教師は教壇の上にへたり込んだままジワリと目に涙を浮かべて、ついにはわんわんと泣き始めたんだ。俺は目の前の光景を疑った。まだ若そうとはいえ二十歳は過ぎているはずの女性が天を仰いで大声で泣くだろうか?


 みんなが固まっている中、五十嵐がスタスタと歩み出て「せ、先生、大丈夫ですか?」とハンカチを差し出す。すると女教師は、なんということだろう! 五十嵐の豊満な胸に顔をうずめて泣いたのだ! 同じ女だからってずるい!


「ああ、どこのどなたかご存じありませんが」


「二年三組の五十嵐かりんです。存じて下さい」


「なんて優しいのでしょう。先生はとっても感動したのですデス」


 五十嵐から離れた女教師は落ち着いた様子で笑顔を見せた。


「五十嵐さん! 先生はもう大丈夫なのです。怖いけど、一人でもこの状況を乗り切ってみるのですデス!」


 当たり前だろう。いい大人が何を言うか。俺と同じような心境を顔に貼り付けた五十嵐が釈然としない様子で自分の席に戻ると、女教師は教卓を直して俺たちと向き合った。


「みなさん、おはようございますデス!」


「……おはようございまーす」


 俺たちのテンションはすこぶる低い。そりゃそうだ。度肝を抜かれてる最中だからな。


「みなさんは私が誰だかわかりますデスか?」


 たぶん新しい担任だとうとは思うが誰も口に出さない。


「なんとみなさんの担任なのですデス!」


 そうだろうよ。


「先生の名前、気になっちゃう感じですか? うーん。どうしよっかな。うん、特別サービス! 教えちゃうデス!」


 みんな口があんぐりだ。お目目が点だ。ハニワ面だ。面倒臭い。新しい先生さんよぉ、今時の高校生にそのキャラはヤバいぜ。最悪男子はなんとかなっても、女子には地球が滅びる天変地異が起きても受け入れられないと思う。


「先生の名前は……」


 先生は黒板に名前を書き始めた。華ヶ崎百合子。


「華ヶはながさき百合子ゆりこですデス。みなさんも悩み事や相談事があったらどんどん先生に言って欲しいのですデス。そして楽しい一年にするのですデス」


 華ヶ崎先生のテンションにみんなはドン引きだ。当然、俺もそう。


「ではでは出欠を取るのですよ~。元気に返事して欲しいのですデス~!」


 こりゃダメだ。なんか高宮以上のが来たって感じ。これはクラス全員の総意に違いない。


華ヶ崎先生は呆気に取られている俺たちに構わず出欠を取り始めた。この人はなんなんだろう? 泣き虫かと思いきやこの空気を読まないハートは超合金クラス。とにかく確かな事が一つ、俺たちは絶対に苦労する!




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