表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望的魔人奇譚2  作者: 星六
17/19

(六)-2


 先生という壁を失くして露わになった小森は絶望に目をひん剥きながら先生の名を呼び、横たわる先生の身体を揺するも先生は何の反応も示さない。つまり……つまり……。事態を察した小森は耳をつんざく大絶叫を残すと、白目になって口をパクパクさせてその場に倒れた。どうやら限界を超える恐怖に気絶したらしい。


 悪魔は動かなくなった二人に手の平を向ける。まだやるってのか?


どこまで……こいつはぁぁ……。体が熱い。目玉が燃えそうだ。



「うああああああああああぁぁぁぁっ!」


 怒りのままに突っ込んだ!


殴りかかるとヒョイとかわされ、俺はジャリリとセメントの床を蹴って後を追う。羽根が飛んできた。それを胸や腕にくらいながらも悪魔のスーツの襟を掴み、引き寄せると顔に頭突きを喰らわせてやった。さらに俺はベッコリと凹んだ悪魔の顔に強烈な蹴りを入れた。吹っ飛んだ悪魔はコンクリートの床にひびを入れてバウンドすると落下防止用の緑フェンスに衝突して止まる。フェンスはひしゃげて今にも落ちそう。


「やってくれる。ビヒモスを止めただけはある……」


 悪魔は冷静に言うとフェンスから抜けて立ちあがり、潰れた頭をこちらへ向けた。直視するには気持ち悪い。すると悪魔は変装の名人の様に首根元へ四本の指を突き刺し、ベリベリと顔の皮を剥いだ。人間の顔の下から現れたのはカラスの顔。しかし驚かない。それぐらい俺は今、怒っている。


「自分の勝手な理由で襲ってきやがって……。しかも関係の無い奴らまで巻き込んで……。そして先生を……先生を……」


「確かに勝手な理由だな。しかし人間も変わらないだろう? 我がまま、責任転換、自己中心的なものの考え方は悪魔だけでなく人間の特技でもあるではないか」


「そうだよな。だから俺はもうお前に情けとか哀れみとかそんなものはかけない。今まではいくら悪魔とはいえ、殺し合いの先に待つ結果、つまり買っても負けてもどちらかが死ぬ事実に対して恐怖があったんだ。だから戦いを拒否してた。でも俺は自分勝手になる。人間だもんな。今は感情の流れのままに容赦なくお前を倒す!」


「ふふ。その力を持ってしてなおも人間を語るとは」


「その鳥面とりづらじゃ笑ってんのかどうかもわかんねぇよっ!」


 駆けよってぶん殴ろうとすると、悪魔はひらりと身を返して距離を取り、羽根攻撃。気合いだ! 避けるまでもない! 怯まずに立ち向かって悪魔の腹に魔力を使ったパンチを叩きこんだ。


「うっ」と悪魔の体がくの字に曲がり、すかさずくちばしの付け根をアッパーカットで打ち上げてやった。けど、まだだ。こいつは先生を殺しやがった! 許さない!


「おおおおおおおおおっ!」


 許さない! 許さないっ! 許さないっ! 許さないっ!


 全力で悪魔の鳥面を蹴り飛ばした! 相手が人間なら首が千切れ飛ぶレベルの蹴り。悪魔はふらふらと後退して片膝をつきがっくりとうなだれた。効いているんだ。止めを刺さなきゃ! 悪魔に向かって猛ダッシュして右こぶしに力を集中させた。この一発で決める! マジでくたばれ! 悪魔野郎!


 最後の一撃は手応えはおろか感触さえなかった。唖然とする俺の突き出した拳には黒い鳥の羽根がまとわりついている。そう、悪魔の身体は突如、無数の羽根に化けてしまったんだ。今の一撃にほとんどの魔力を使ってしまった俺を嘲り笑うかのように、黒い羽根たちはクルクルと踊りながら宙へ舞っていく。そして羽根は一か所に集まると、再び悪魔の身体へと戻った。


「もう少しで勝てる。そう思ったか? ふふふふふ」


 嘘だろ? まったくのノーダメージ。これが悪魔なんだ。常識が通用しない。勝てるわけがない。心が折れたと同時に身体から力が抜けおちる。そんな俺に向かって悪魔は感情の分からない無慈悲な眼差しを向けてくる。


「魔鳥の闇飛翔グレスト・ギップ


 悪魔が俺へ両手を向けると周りの空気がざわつきだした。不安にかられて後退りするが後方から風に押されて前に戻される。と思ったら今度は横から風が来てバランスを崩し、足元をすくわれてその場に転がる。止まろうと体に力を込めるが風が渦巻きだして止まる事が出来ず、もうなすがままに転がるしかなかった。風はさらに強くなり、俺の体が徐々に持ちあがる。竜巻? 風はそう呼ばれてもおかしくないぐらいに発達して俺は回転しながら宙に舞った。呼吸がし辛く気持ちが悪い。そこに鋭い痛みが加わった。風の中に紛れる鳥の黒い羽根が俺の体を切り裂き、また突き刺さって来る。


「我が攻撃の殺傷能力が何故こうも低いか分かるか?」


 悪魔の問いに答えている余裕なんてなかった。めまぐるしく回転する中、吐き気と皮膚を裂く痛みに耐えるのに必死。


「じわじわと死に至らしめるのが好みだからだ。さぁお前もじっくりゆっくりと死ぬが良い」


 マジかよ。やっぱ死ぬのか? ああ、こうなるんだったら昨夜のうちに殺されておくんだった。だったら小森たちも苦しまずに済んだ。そして華ヶ崎先生も……死なずに済んだんだ。ごめん。俺なんかのせいで。先生。本当にごめん。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ