(六)-1
生徒用の玄関に近づくが辺りは静かだ。もし先生たちが襲われたならあの悪魔は俺の方へ戻って来てるはずで、それが無いと言う事は先生たちはまだ無事でいるはず。頼むからそうであってくれ。
“ガン”
その小さな音はこの静かな廊下にあまりにも不釣り合いで俺は足を止めた。そして音のした教室の戸をそっと開けた。
「うわああああっ!」との叫びと同時に棒が振り下ろされて俺はその棒を右手で掴んで止める。涙で濡れた顔で俺に襲いかかって来たのは宮田。
「久瀬? 久瀬なのぉ」
宮田はポロポロ涙を流して、床にへたり込んだ。
「他の連中は? 先生は?」
「美咲と田端君たちはこの教室に隠れてる。けど、歩美と先生はわかんない」
「どっちの方に行ったのかも分かんないのか?」
「玄関の戸がどれも開かなくて、この教室に隠れてたんだけど、あの男の足音が聞こえた途端に歩美がパニックを起こして教室から飛び出して行って、先生はその後を追って」
これ以上は情報が聞き出せそうにない。俺は教室から出てすぐに見える階段を使い二階へ上がった。そこで気づく。魔力を使って身体能力を上げられるのなら、五感を高めることも出来るのかも知れない。目を閉じ、耳に神経を集中して音を探る。
『いやぁぁぁっ! こないでぇっ!』
小森の悲鳴! ずっと上からだ。階段を飛ぶように上る。三階、四階、まだ上? 屋上へ続く扉の前に辿り着いた。声はこの扉の向こうから聞こえる。この扉は開いているのか? 俺は蹴破るように戸を開いた。
「先生っ!」
呼びかけて探す。二人はすぐに見つかった。片翼の悪魔によって屋上の片隅に追いやられている。
「久瀬君、来ちゃダメなのですデス!」
先生は悲惨だった。肩、腕、胸、頭に黒い羽根が刺さっていて、白いブラウスはサイケデリック調に血で染まっていた。対して小森は見たところ大した傷はなさそうだった。先生が必死に守り抜いたんだろう。胸が熱くなる。そして怒りがこみ上げてくる。
「ほう。我が翼から逃れてくるとは、どうやらまた油断してしまったようだ。まったく自分に腹が立つ」
悪魔は俺に吐くが視線は先生たちに向いたままだ。
「もうヤダァ! 誰か助けてよぉぉっ!」
「お前の声は耳に障るな」
悪魔の手の平が小森を狙う。そして羽根が発射されると先生が小森をかばった。小森の前に両手を広げて立ちふさがり、羽根のダーツをその身に浴びる。あの出血はヤバイだろう。先生はすべての羽根をくらい切り、ふさふさの黒い羽根を揺らしながら力無く膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。横を向いた顔には生気が無い。




