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絶望的魔人奇譚2  作者: 星六
15/19

(五)-4


 俺は教室の戸が破られる音を背中に聞きながら廊下を走った。今はまだゆっくりだ。悪魔を先生たちから離すためにしっかりと引きつけないと。


廊下の終わりにさしかかって二階へ下りる階段を踊り場まで飛び降りた。その時に後ろへチラリと目をやると宙を滑るように飛んできた悪魔がこちらへ黒い羽根を飛ばす所だった。俺は着地するなり体の向きを変えて階段を使わず二階へ飛び降りる。踊り場の壁に羽根の刺さる音を聞いた。


先生たちは逃げ切れたかな? そろそろ本気を出して逃げても良い頃か? 良い頃だよな? 後ろからのプレッシャーがハンパなくて、今すぐにでも叫びたいぐらいだった。


 一階に着いて廊下を蹴ると職員用の玄関を目指す。そこから外に出たら、なりふり構わず家まで全力で逃げてやる。ところが、背後から迫るプレッシャーの速度が上がって、それは天井を駆けながら俺を追い越すと、俺の行く手を遮るように手前に落ちた。先回りした悪魔の背中には辺りの闇よりも黒い大きな翼が二つ生えていて、その翼が大きく広がって廊下を塞ぐ。俺は急ブレーキをかけて止まると、来た道を戻ろうと反転する。


「うわぁっ!」


 隙だらけの背中を狙われた。ドスドスと背中や尻に何かが……おそらくは羽根が刺さってその雨のような攻撃に廊下の奥の壁にまで飛ばされ叩きつけられた。


「今夜は逃しはせんぞ。昨夜は油断したまで」


 悪魔の声が近づいてくる。ちっ! こんなんだったら薄着してくんじゃなかった。いやどんな格好でも一緒かもな。ゆっくりと立ちあがって悪魔と向かい合った。


「お前、魔界で罪を犯した契約代理魔って奴? 俺なんかを始末してる暇があるなら仕事に励んだ方が良いんじゃないのか?」


「我が刑期は一千年。残りの刑期は二八六年だった。ただでさえ人間が悪魔を呼び出すことは滅多にないというのに、今回の人間の魂はこの世界の滅亡を願うと言う大物、刑期が五百年も縮められる醜くて愚かで我にとっては甘い魂であった。そう。今回の仕事で我はこのつまらぬ刑期から解放されるはずだったのだ。だから魔界から超獣ビヒモスまで呼び寄せたと言うのにお前がそれを阻止した。十年、二十年で治まる怒りではない。お前は五体をバラバラにした後、肉体も魂も塵にしてくれる」


「その犯罪者特有の身勝手な考え、いやだな~。お前が刑を食らってんのはお前が撒いた種からだろ」


「なんとでも言うがよい。今、ここにある事実は、お前と言う存在の消滅以外にはないのだからな。自分の愚かさを嘆くのはその後で良い」


「どこまでも勝手な野郎だな!」


 一気に悪魔に近づいてその顔面をぶん殴ってやると、シルクハットがクルクル回りながら飛んだ。そこから黒いネクタイの締められた胸へ魔力を使った蹴りを入れて、悪魔を吹っ飛ばし、その隙に全力で逃げようと考えたのだが、その前に悪魔の背中から黒い翼が伸びてきて俺の全身を包む。俺の視界は完全な闇になった。そして翼はギュウギュウと俺の体を強烈に締め付けてきた。


「これで動けまい。この羽、しばらくお前にくれてやる。我にはやることが出来たのでな」


「……な……何だよ……?」


「さきほどの人間たちの始末だ。我の存在を言いふらされて噂が立っては厄介な者を呼びよせかねん」


 何だって……。でも、きっと大丈夫、ほんの少しでも時間は稼げたんだ。本当に短い時間だったけど、それでもこれぐらいの時間があれば先生たちはすでに学校から出ていてもおかしくない。


 俺は骨が軋むぐらいに締め付けられながら廊下に捨てられたらしい。コロコロと転がっているのが分かった。そして悪魔の気配が遠のいて行く。



 俺はしばらくジッとしていた。そして完全に悪魔の気配を感じられなくなるのを待って魔力を使い、全身を締め付ける翼の力に抵抗し始めた。本当に羽根の集まりか? まるで鋼鉄製のワイヤーだ。それでも魔力を高めて行くと次第に体を広げる事が出来てきて、ついには翼を引きちぎって自由を取り戻した。


「はぁっ、はぁっ」


 息を荒らしながら近くにある一年の教室へ入り、月の光を求めて窓側へ向かった。ふぅ。今日もなんとか生き延びた。窓から差し込む月明かりを浴びて、窓の鍵を外す。


 ここから逃げよう。そして部屋に戻ったらダメもとでミズルに悪魔退治をお願いしてみよう。やっぱ化け物には化け物をぶつけなきゃフェアじゃない。


「あれ?」


 窓が開かない。鍵をチェックする。確かに開いているのに窓はビクともしない。


「建てつけ悪いなぁ。直しとかなきゃ夏場に死ぬぜ」


 愚痴りながら隣の窓へ。……開かない。なんなんだよ、この教室は! 変な焦りを感じながら次の窓、やはり開かない。おかしい。……なんか変だぞ。


 恐る恐る廊下に出て廊下の窓の鍵を外して開く。が、ここも開かない。


「何がどうなっているんだ?」


 心臓の音が大きくなるのを感じながら職員用の玄関へ行った。静まり返った玄関のガラスのはめられた戸の向こうに駐車場が見える。俺は「頼む」と祈りながら戸を開ける。けれど……開かなかった。ガラス戸を叩いてみる。まるで壁を叩いている様にビクともしない。割れるのを覚悟で叩く力を強くするが、ガラスが振動したりもしないんだ。


 絶対におかしい。あの悪魔が何かしやがったに違いない。となると……、激しい寒気が走った。先生たちは無事に学校から出られたのか? もし閉じ込められていたとしたら……。


 生徒用の玄関へ行かなきゃ。あの悪魔はスゲー怖いけど、俺はまだ人間でありたいから行くしかない!



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