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 新たに人間一人と精霊一人を加えて、また食事が再開される。

 光輝が口を開いた。遠い何かを見ているような瞳で。

「…今回のことでみんなにも判っただろうけど、

僕達の母親も瑞輝と同じようなことをしていてね、

僕達が六歳の時、宝を探しに出掛けた先で事故に遭って命を落としたんだ。

それ以来僕は、あんな物達の為に母親がいなくなってしまったことが赦せなくて、

ずっと母親の手に入れた物達を封印してしまっていた。

そんな僕を気遣って、

瑞輝まで母親の宝物達に手を触れることは無くなってしまったけれど、

でも僕はそれでも良いって思っていたんだ。

母親を僕達から奪った宝という物を憎んでいたからね。」

 光輝は指でビールの缶を弄びながら続けた。

「…どういった経緯で母が壮の絵のことを知り、手に入れたのかは判らない。

けれど、今日初めて母がトレジャーハンターだったことに心から感謝したよ。

壮が大切な人達を、僕が失いたくないって思っている人達を守ってくれたから…。」

 淡々と話す光輝に、何を思ったのか、桃が近付いてその頭をなでなでした。

光輝が柔らかい微笑みを見せると、桃は安心した様に笑って、檸檬の横に戻る。

 そんな桃を見ながら、瑞輝が納得したように呟いた。

「…そうか。遠いところばかりに目が行ってしまったけど、

こんな近くに絵の一枚があったんだな。」

 光輝が頷く。

「うん。それも、びとーが絶対に敵に回したくないと言っていた土の精霊の絵が。

…運命って面白いものだね。今では母に感謝しても感謝しても、足りないくらいだよ。」

「…ですが、女性のトレジャーハンターというのは、本や映画ではよくありますが、

現実には珍しいですよね。」

 玲が言うと、瑞輝が頷いた。

「親父はお袋の、そういう破天荒というか奔放というか、

枠に嵌らない自由な性格に惚れたらしい。

そんなお袋がたった一人、自分のところにだけ戻ってくるというのが

嬉しくて堪らなかったそうだ。」

「そうなんですか…。夫婦の関係というのも、色々あるものですね。」

 玲が感心したように微笑んだ。

 僅かな静寂の後、遠慮しがちに、檸檬が口を挟んだ。

「…理事長先生と壮さんのことは判ったんですが、

瑞輝さんはどうやって風雅さんと契約することになったんですか?」

「そうだ。さっき、風雅が一緒にいることにも驚いていたしな。一体、何があった?」

 びとーにまで問い詰められるが、正直瑞輝にも状況が掴めていない。

「…俺にも判らない…。」

 びとーは頭を抱えた。

「一体何やってんだ、お前はよ。」

「それは私からお話する方がよろしいでしょう。」

 囁くような声だがよく通る。

「私の絵はいつ頃からか、うち捨てられ、野ざらしになっていたようです。

封印の外も中からも風の影響を受けていたせいでしょう、自然に解放されました。

私は主人もいない自由の身になった事を知り、

束縛の無い今の内に世界を見たいと思いました。」

 風雅は瞳を伏せた。

「世界は、確かにとても広くて綺麗です。

ですが、時が過ぎれば過ぎる程、孤独が痛みとなって苦しく思うようになりました。

四季の移ろいを独りで見ても楽しくはない。

誰かと旅をするように、日々を生きてみたいと思うようになったのです。」

 大人の話が判らない為か、おなかがいっぱいになった桃は眠くなって、

びとーに抱っこをせがんだ。

びとーは微笑んで桃を抱きかかえる。と、あっという間に寝息を立て始めた。

 そんな中で風雅の話は続いた。

「だが、人間達は狭い空間をちまちまと忙しく動き回り、

世界の美しさにさえ瞳がいかなくなってしまっている。

私は風ですから、狭い場所に閉じこめられるのも拘束されるのも御免です。

大きなスタンスで動くことができる者を主人としたいと思い、ずっと探してきました。

そんな時、とても楽しそうに風を見ている男を見つけました。

ついて行くと、飛行機に乗っていろいろ飛び回っていて、

一カ所に留まることが殆ど無い。

主人にするならこの男が良いと思いました。」

 瑞輝は問い掛けるように自分の顔を指差した。風雅は微笑みを返す。

「私は、正直に言って、どのように契約すれば良いのか判りませんでした。

召喚されたのでもなく、封印を解いて貰った訳でもないですからね。

瑞輝の側に精霊がいるとはその時は考えてもいませんし、

精霊というものを瑞輝がどう捉えるのか判らなかった。

それで、夢という手段を選んだのです。

瑞輝を見守りつつ、夢を利用していた私でしたが、

ある時マクがこっそり彼について行くのを見つけましてね、

どういう関係なのか判りませんでしたから私の方も姿は見せませんでしたが、

瑞輝は精霊を知っているのではないかと、

契約を持ちかければ応じてくれるのではないかと、希望を持ったのです。

それでもやはり、どう契約に持っていけば良いのか判らず、

結局また夢を利用して名前を付けて貰いました。」

「夢で契約っていうのは俺と同じだが、俺は寝惚けていたし。」

 呟く壮。

「風雅の場合は夢を使って瑞輝を策に嵌めたという感じだな。」

 他の面々も頷いた。風雅はニヤリと笑った。上品そうだった印象が狡猾そうに変貌する。

「相手を嵌めてでも、自分の思い通りに事を進めるのが、有能ってものですよ。」

「そうだよな。お前ってそういうヤツだよな。」

 呆れたようにびとーが言う。風雅は悪びれずに付け加えた。

「瑞輝も別に後悔はしていないと思いますが。」

 言われた瑞輝はちょっと考えて肯定した。

「そうだな。一緒に、だけど自由に旅を楽しめる相棒ができた訳だしな。

それに、光輝じゃねぇけど、いざって時に大切な人を守れる力ともなりうるだろ?

風雅と契約できて良かったぜ。」

 そこで、檸檬が躊躇うように口を開いた。

「…これって、言っちゃって良いのか判らないけど…、

話の流れからすると、

雷の精にびとーの居場所を教えたのは瑞輝さんだったってことになりますよね?!」

「間違いないでしょう。」

 玲も同意する。

「こンのクソボケ野郎がーっ!」

 思わす怒鳴ったびとーの声で、眠っていた桃の背中がびくんと揺れる。

炎の精は慌てて笑顔を作り、少女が泣き出す前に頭を撫でてやった。

すると、また眠りに入っていってしまう。安堵しながら、上目遣いに瑞輝を睨んだ。

「…お前のせいで、俺達がどんな危ない目に遭ったと思うんだ?!」

 ひそめた声に迫力がある。

「うん。色を失うびとーなんて初めて見たよ。」

と光輝も言う。壮も瞳を彷徨わせた。

「…あの時は寝起きでよく判らなかったが、

確かにマセリィの水を浴びた後にマクの電撃を喰らったら、子供達は命を落とすだろうし、びとーにしても無事では済まないよな。

あいつらのやったことは赦される範囲を超えている。」

「マクはともかく、マセリィは俺を嫌っているからな。」

 びとーが吐き捨てるように言う。

檸檬は瞳を伏せた。

びとーが自分達と一緒に消滅すると言った時に流れてきた水の精の感情は、

嫌悪や憎悪ではなかったように思ったからだ。

だが、確信がある訳ではない。無言で通すことにする。

「…彼等はまた、びとーさんを狙って現れるでしょうか?」

 玲が精霊達に問い掛けた。

「可能性は半々だな。」

 びとーが言う。

「俺を襲撃して結果的に壮を敵に回してしまった。

マクもそうだが、それ以上にマセリィにとっては痛手だ。

大地が水を得て肥えていくように、マセリィが力を使えば使う程、

その力を吸収して壮の力が強大になっていく。

絶対に戦いたくない相手だったのさ。

だが、それで引くかというとそれも難しい。

決めるのはマセリィじゃなく、マクでもなく、二人の主人になった者だからだ。」

 壮が続ける。

「それに、風雅までこちら側についていることを二人はまだ知らないだろう。」

「風雅がこっちにいると有利になるのか?何故だ?頭数か?」

 尋ねる瑞輝にびとーは白い目を向ける。

「お前はほんっとーに考え無しだな!風は俺の力を強くすることができるだろうが!

もっと言えば真空状態にして、俺の力を一時的に封じることもできるだろう!

敵に回すよりは味方にいてくれた方が心強いに決まっている!」

「あっ!成る程!」

 ぽんっと手を打つ瑞輝に光輝までが頭を抱える。

「何が、成る程!だよ…。」



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