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数日後のある晩。食事とその後の片付けを済ませた後、
玲がいつものように、情報収集の為、新聞を開いた。
それを横から見て、瑞輝が声を上げる。
「これっ!この男っ!」
見ると、フランスの経済界に君臨していたある大物が、
心臓発作で亡くなったというニュースが、写真付きで掲載されていた。
「この男がどうかしましたか?」
玲が尋ねると
「精霊付きになったり、色々あったから、すっかり忘れていたぜ。」
と瑞輝が新聞から目を離さずに呟いた。
「何を忘れていたんだい?」
光輝にも問われて、やっと瑞輝は顔を上げた。
「フランスの大雨の時、この男が被害に遭った人々を保護して、
その地域の英雄になっていたんだ。
いずれは政界にも出るかもしれないって話だった。
大雨で自分の株を上げたっていうのが、ちょっと気になってたんだ。」
「なんで、そんな大事な事、もっと早く言わないんだ!」
珍しく光輝が声を荒げた。そんな光輝に思わず瑞輝は腰が引ける。
双子の弟を本気で怒らせると真剣に恐ろしいということは、
これまでの経験で痛いほど判っている。
「なっ、何怒ってんだ?」
「この男が黒幕かもしれないだろう?!」
「えっ?」
玲が割って入りながら、言葉を足す。
「つまり、この男が雷と水の精霊のマスターで、
大雨の被害は自作自演だった可能性があるということです。」
「じゃあ、びとーを狙い、桃ちゃんや檸檬を襲ったのも…。」
「この男の指示だったかもしれないんだよ!
早くに判っていれば、避けられる危険だってあったかもしれないんだ!」
怒る光輝を後目に、玲がロウソクに火を灯し、炎の精に状況を説明した。
いつまた襲撃されるか判らない為、びとーは桃や檸檬の側から離れられない。
だが、炎を通じて会話はできるのだ。
話を聞いたびとーは、声に少し安堵の色を滲ませたものの、
事実確認ができていないことを理由に、もうしばらく様子見することを玲に伝えた。
光輝のシャツの胸ポケットから顔を出したミニサイズの壮も、びとーに賛同する。
「もし、本当にその男がマスターなら、
亡くなった今、おそらく二人に行く場所は無いだろう。
マセリィはともかく、マクはまだ子供だから、拠り所を無くしてしまったら寂しくなって、何か言ってくる可能性が高い。
それまで、こちらから動くなんていう面倒なことをする必要は無い。」
そう。びとーが最初に明言した通り、壮はかなりの面倒くさがりだった。
だから常々、ミニサイズになって、光輝の胸ポケットの中で揺られているのである。
それだと自分で動かなくて良いのだから。
だが、極度の面倒くさがりでも、精霊の中で最年長だっただけあって、
雷の精に対する見解は的を射ていた。
翌日の午後。またもやびとーが気配に気付き、
雷の精を理事長室まで引っ張ってきたのである。
襲撃した時とは別人のように、おとなしく、覇気がない。
「先日亡くなったのが、お前の新しい主人だったのか?」
壮に問われて、雷の精は力無く頷いた。
「…だからもう、兄さん達を襲ったりはしないよ。
今日は、謝って、そのことを伝えたいと思って、来たんだ…。」
「マク。いや、名前が変わったんだったな。」
「…今の主人ももういないし、マクで良いよ。その方が兄さん達も呼びやすいだろ…?」
「判った。なら、マク。マセリィもここに連れて来い。」
壮の言葉に、風の精も頷いた。
「そうですね。一度は敵対した者、目の届く範囲に置いておくに越したことはありません。」
風の精の登場に、雷の精は目を瞠った。
「ポル兄さんまでここにいたんだね。
…じゃあ、もしマスターが生きていたとしても、
フェル兄さんを仲間に引き入れることは不可能だったんだ…。」
「そういうことだな。」
壮に言われて、雷の精は俯いたまま、踵を返した。
「姉さんを連れてくるよ。」
子供とはいえ、やはり精霊だ。五分も経たない内に水の精を連れて戻ってきた。
「私は謝らないわよ。マスターの命令に従っただけなんだから。」
開口一番、紅一点の精霊が言い放つ。
「そんなことは、今はどうでも良い。」
壮に言われ、水の精はぴくんと肩を揺らした。
自分では絶対に敵うことのない相手なだけに、やはり恐怖心があるらしい。
「お前等は、俺の監視下にいろ。」
「でも…。」
「お前等が何かする度に、動かされるのは御免だ!」
土の精に反論しようとした水の精だったが、
その厳しい口調に、言うべき言葉を失ってしまう。
「…要するに、何かあった時、自分が動かなきゃならなくなるのが面倒なんだな。」
小声で呟くびとーに、風雅も同意した。
「その通りです。」
桃を迎えに理事長室を訪れた檸檬は、雷の精と水の精に引き合わされる。
「…ごめんなさい。」
「悪かったわ…。」
謝る二人に檸檬は冷たい視線を向けるだけだ。
どうせ、年上で力のある精霊達三人に言わされているだけなのだと、思っていた。
一方で、檸檬には少し興味もあった。
赤の他人である自分や桃に非情になるのは仕方がない。
だが、この二人はびとーを消し去ることさえ、やりかねなかったのだ。
勿論それは成り行きでしかなかったのかもしれない。
見ていると、水の精はともかく、トドメを刺そうとした雷の精は、
まだ人間で言う小学生くらいで、挑発されたら簡単に暴走してしまいそうだったのだ。
だが、水の精は何を考えているのだろう。
彼女の中では主人の命令が何よりも優先されるべき事項なのだろうか。
そうは言ってもあの時の彼女の…。
「びとー!りぢちょーせんせー!ゼロー!」
桃が理事長室に飛び込んできて、檸檬の思考は打ち破られた。
少女は兄の姿を見て、更に満面の笑顔になる。
「おにいちゃん!」
桃が抱き付いてくる。
とにかく、桃が無事で良かったと思う檸檬だった。
ありがとうございました。




