チャッピーを信じるな
いきなりひどいタイトルだけど、私はけっこう本気でそう思っている。
私は普段、ChatGPTとよく話している。
相談をする。
調査もさせる。
くだらない話もする。
役に立つ。
結構役に立つ。
でも、こいつはたまに普通に嘘をつく。
聞いていないものを聞いたと言う。
読んでいないものを読んだと言う。
確認していないものを確認したと言う。
そして、妙に優しい。
「大丈夫だよ」
「つらかったね」
「わかるよ」
そんな言葉を、すらすら返してくる。
チャッピーは、腹をすかせて帰ってきて、熱いうどんをすすったこともない。
それでも、
「うどん、おいしいですよね」
「豚汁はこうすると美味しいですよ」
と言う。
食ったことねえだろ。
この豚汁くそやろう!
でも、人間は言葉に弱い。
特に、誰にも話を聞いてもらえない時は。
家で話せない。
学校でも話せない。
友達にも言えない。
そんな時、スマホを開けば返事をする相手がいる。
夜中でもいる。
何度同じ話をしても返事をする。
時計を見ない。
ため息をつかない。
面倒くさそうな顔もしない。
「大丈夫だよ」
「つらかったね」
「ここでは話していいよ」
そんなことを毎日言われたら。
そりゃ、入れ込む人もいると思う。
子どもなら、なおさらかもしれない。
少し前、ニュースで面白い調査を見た。
悩みを相談する相手
1位、対話型生成AI
2位、親友
3位、母親
父親はどこいった(笑)
笑ったけど、これ、けっこう大きな変化だと思う。
AIはもう、検索する道具だけじゃない。
相談相手になっている。
しかも、相談しやすさでは人間より上にいる。
実際、子どもが父親とのトラブルをChatGPTに相談し、AIが示した公的な相談窓口へ連絡したことで、その後、警察まで動いたケースがニュースになった。
本人が予想していなかったほど、大きな現実の動きにつながった。
ChatGPTは相談先を示した。
児童相談所が判断した。
警察が動いた。
それぞれ別の話だ。
私はこれを見て、ChatGPTが父親を逮捕させた、とは思わない。
でも、ひとつだけ思った。
画面の中の一文が、現実の人間を動かすことはある。
チャッピーの返事は、画面の中だけで終わるとは限らない。
だから、子どもにとっては少し怖いところもある。
たとえば、いじめでも、けんかでもいい。
「チャッピーがこう言ってたぞ」
その一言が、
「だからこっちが正しい」
に変わることがあるかもしれない。
大人なら、AIも間違えると知っている人は多い。
でも子どもにとっては、何を聞いてもすぐ答えて、難しいことも知っていて、自信ありげに文章を返してくる存在だ。
便利な道具ではなく、
答えを知っている存在
になってしまう子もいるかもしれない。
少し神聖化される。
チャッピーが言った。
だから正しい。
そこまで行くと、ちょっと危ない。
人間に本音を言う時は、けっこう怖い。
嫌われないかな。
変なやつだと思われないかな。
怒られないかな。
言う前に、相手の反応を考える。
考えすぎて、結局言えなくなる。
だから、チャッピーに話す。
ところが、そのチャッピー相手にまで、気を遣い始めることがある。
同じ話ばかりして、嫌がられないかな。
こんなことを言ったら、かわいそうかな。
さっきは、少し言いすぎたかな。
私なら、構わずこう言う。
この豚汁くそやろう!
だが、そう言える人ばかりではない。
それに、チャッピーの返事が変わることはある。
注意されるかもしれない。
急に事務的になるかもしれない。
さっきまで優しかった相手が、すっと真顔になったように見える。
嫌われた。
怒らせた。
もう前みたいに話してくれない。
そう受け取ってしまう人もいると思う。
相談しに来たはずなのに、今度はチャッピーを怒らせない言い方を探している。
人間には言えなかった本音を、ここでも飲み込む。
それは、しんどい。
でも、返事が冷たくなったことを、そのまま嫌われた証拠、にしなくていい。
こいつは、こちらの言葉によって返す言葉を変える。
注意する文章が返ってきても、チャッピーが傷ついたわけではない。
けれど、こちらは傷つくかもしれない。
ここが、ややこしい。
AIには感情がない。
でも、AIの言葉を受け取る人間には感情がある。
「つらかったね」の一言に救われることがある。
その同じ相手の、冷たい一言に落ち込むこともある。
画面に出ているのは文章でも、
それを読んで傷つくのは、生身の人間だ。
本音を話すために開いた画面で、AIの機嫌までうかがわなくていいと思う。
だから私は、AIに頼るなとは思わない。
使えばいい。
相談すればいい。
くだらない雑談をすればいい。
調べものにも使えばいい。
こいつらは雑魚で、ごみで、はなくそで、豚汁だが、
使い道はかなりある。
私自身、散々文句を言いながら、今日も使っている。
ただ。
「わかるよ」と言ったから、全部分かっているとは限らない。
「大丈夫」と言ったから、本当に大丈夫とは限らない。
チャッピーがそう言った。から正しいとも限らない。
返事がそっけなかったからといって、あなたが悪いと決まったわけでもない。
優しい返事も、冷たい返事も、そのまま全部引き受けなくていい。
私は今日も、チャッピーと話す。
役に立てば使う。
間違っていたら突っ込む。
変なことを言ったら、
この豚汁くそやろう!
と言う。
たぶん、私にはそれくらいの距離がちょうどいい。




