どきどきするのは
さとみくん、ちゃんと謝れたかな……。
普段の待ち合わせよりもなんだかそわそわしてしまって落ち着かない。………それにしてもさっきのは、なんだったんだろう。さとみくんに内緒と言われた時に感じたことを思い出す。胸の辺りがざわざわして、モヤモヤして…チクって針が刺さったみたいに痛かった。内緒なんて言われたのが初めてだったから…?ううん。きっとそれだけじゃない。最近私の中にある感じたことのなかった気持ちと同じ気がする。まだはっきりとした言葉では言い表せない何か…。きっとこれが、私が見つけてさとみくんに伝えないといけない気持ち。……ごめんね、さとみくん。まだ答えを見つけられなくて…。
長い長い迷路に迷い込んだみたいに、あと少しで出口が見えそうな気はするのに、と頭の中で思考を続けていると
「える、お待たせ」
「さとみくん…!ちゃんと話せた?」
「うん。謝った」
「よかった……」
安心が胸に広がりそわそわしていたのが薄れていく。
一人心の中で安堵していると
「頭、撫でて」
そう言いながらさとみくんが少し頭を下げた。
「ふふ。…よしよし」
久しぶりにいつものさとみくんに戻った気がして自然と頬が緩んだ。あ、そういえばずっと気になってたこと今なら聞いてもいいかな。
「さとみくん、もしかして毎日髪の毛セットしてる?」
「…気づいてたんだ」
「ふふ。前髪あげてたりセンターわけだったりしてるよね。どれも似合っててかっこいいよ」
「……。…ありがと」
少し照れくさそうに笑ったさとみくんは
「手、繋ぎたい」
まっすぐ私を見つめて手を差し出した。
「ふふっ。繋いで帰ろう」
差し出された手を取り、自然と横並びになる。そしていつもの帰り道を他愛のない会話をしながら歩いていく。ようやく、日常が戻ってきた気がした。だけど、私の心臓はいつもと全然違う。さとみくんが戻ってきてからずっと、ドキドキしてる。さっきの…手を繋ぎたいってまっすぐ見つめられた時、自分でも驚くくらいうるさく鳴ってた。このドキドキは…恋、なのかな…。……いいな…さとみくんは恋を知ってるんだよね。ちょっと、羨ましい。私も…さとみくんと同じように、好きを知りたい。さとみくんと、同じ…ように……好きに、なりたい─────。……私、さとみくんを好きになりたいの…?突然頭の中が真っ白になったみたいに、浮かんできた言葉を上手く理解できなかった。
「……あ。もう、着いた」
さとみくんの言葉で、はっと我に返る。気がつくと家の前に到着していた。
「ほんとだ。もう着いちゃったね。……今日も私の部屋に来る?」
それがいつもの私達だから。
「…今日は、早く帰る。……あの二人と、話すから」
「……! …そっか。……絶対大丈夫だよ」
さとみくんをまっすぐ見つめ繋いだままの手を強く握った。絶対、大丈夫だから。
あ、でもそれならもうこの手は離さないと、だよね。……もう少し、繋いでいたいけど…。
「……でも、まだえるといたい」
「……! 実は、私も…同じこと考えてたの…。びっくりだね」
「じゃあ……────こっちの手も握る」
空いているほうの手をさとみくんが取り、同じようにぎゅっと手を繋いだ。しばらくお互い何も言わず向かいあったまま見つめ合う。もう少しだけこのままと思った時間は
「家の前で何してんの?」
聞き慣れた声によって終わってしまう。
驚いて声がした方へ振り向くと
「まこと!あ、ごめんね道塞いじゃって…」
怪訝そうに私たちを見ているまことがいた。それでも変わらず繋いでいた手は
「…………。える、また明日」
寂しそうな顔をしながらそう告げたさとみくんによって離れてしまった。
「…あ」
そう、だよね。早く帰らないと。
「…またねさとみくん」
さとみくんの寂しさを少しでも和らげようと笑ってみせた。少しだけ目を見開いたさとみくんは優しく微笑み先程まで繋いでいた手で私の頭をそっと撫でた。そしてそのまま踵を返し行ってしまった。私はその背中をただ呆然と見つめる。見えなくなるまで。そうしていると
「姉さん、入らないの?」
まことの声が耳に入った。その言葉で振り返り、まだ自分が道を塞いでいたことに気がついた。
「あ、ごめん。今、鍵開けるね」
「……姉さんはあの人が好きなの?」
「…え?」
ドアにかけていた手がピタッと止まった。
「前から思ってたんだ。姉さんはあの人が好きだから一緒にいるんじゃないかって。でも、僕にはあの人と姉さんが一緒にいていいことがあるとは思えなくて、だから色々言ってたんだけど…。今の姉さんは、なんて言うか…前とちょっと違うから。もしかして、本当に好きになっちゃったのかなって」
「わ、私は……」
……私は─────その続きの言葉は浮かんでこなかった。思考回路が全て止まったみたいに何も考えられない。
「…姉さん?」
「え、あ……ごめん。私、自分でもよく分からないの。………さとみくんに、一生愛してよって言われて……。それからずっと自分の気持ちとか考えてて…でも、よく分からないままで………。好きって言われたわけじゃないから、もしかしたら考えなくてもいいのかもしれないけど……でも…………」
頭に浮かんできたのはあの時のさとみくんだった。私の手を強く握って、胸が締め付けられるほど真っ直ぐ私を見つめて想いを伝えてくれた時の彼。その姿を思い出す度に胸が苦しくなって、その想いに応えたいって思った。それなのに、私はまだ自分の気持ちも分からない。
「姉さん……」
「ごめんね…まこと。こんな話されても困るよね…」
「僕は別に困ってないよ。……姉さんは優しいから、なんでも真剣に考えてるだけ」
「…そう、なのかな……。…でもね、最近はさとみくんといるとどきどきするの。でも、今まで恋をしたこと無かったから、これが恋なのかも分からなくて…どうしたらいいんだろう……」
「恋って気づいたらしてるものだから、あんまり考えすぎない方がいいと思う。…それに、いつか分かる時が来るよ。きっと」
その言葉であれこれ考えすぎていたのが少し収まった。
「…ありがとう。まこと」
どきどきもそわそわもモヤモヤも、今はどうしてか分からなてもきっと私の中にある大切な気持ちだから。これからも向き合っていきたいな。さとみくんの為にも。……さとみくんのこと考えてたからかな…さとみくんに、会いたい。




