永遠の花火
「さとみくん…!夏祭り一緒に行こう?」
夏祭り……えるの、浴衣姿……───────今度こそ絶対、誰にも邪魔させない。二人きりじゃなかったらこのままえるを──────。
「二人で」
「え?」
「行くなら二人で。違うなら行かない」
勉強会も海も最初からこうすればよかった。邪魔な奴らを排除して、えるをオレのそばに。
「……じゃあ二人で一緒に行こう」
えるならそう言ってくれるって思ってた。えると二人だけでお祭り……。楽しみだ。
「あっ!ねぇさとみくん。覚えてる?昔、お祭りに行った時二人で迷子になった時のこと」
「…覚えてる」
全部。覚えてるよ。何一つ忘れたことない。えるといる全ての時間は、オレにとって……幸せだから──────。
「あの時、私が泣きそうになって……そしたらさとみくんが────」
懐かしむように話すえるがとっても楽しそうで、オレも一緒にあの時のことを思い出していた。
えると再会してから少しして、えるがオレを祭りに誘ってくれた。最初はそんなところに行ったことがなかったからどうしようか迷ったけど、えるといればなんだっていいことに気がついて頷いた。えると二人きりじゃなくて、えるの弟と母親、それと……オレからも一人着いて来ることになってみんなで行動してた。でも人混みに流されて気がついたらオレとえるはみんなからはぐれてしまっていた。
「お母さん……?まこと……?どこにいっちゃったの…………?」
辺りを見回すえるの瞳が潤んでいった。
「どうしよう……さとみくん……このまま、会えなかったら……お家に帰れなくなっちゃったら………」
声も体も震え始め、今にも泣きそうなえるの手を握った。小さくてあたたかくて、オレに幸せをくれた手。
「…さとみくん……?」
「だいじょうぶ。オレがいるから」
オレは一人でいることに慣れていた。けれど、えるはそんなのとは無縁の人生を送っていたから、えるにはあんな気持ち味わってほしくない。そう思ってその手を強く握る。オレがそばにいる限り絶対大丈夫だから。───────オレが守るよ、えるのこと。
「……さとみくん…ありがとう……!」
泣きそうだったえるがオレの言葉を聞いて笑ってくれた。その後すぐにみんなと合流できて二人きりの時間はあっという間に終わってしまった。ホントはもっとあのままでいたかった。永遠に誰とも会えないまま、オレとえるだけで生きられたら、きっと今とは違う幸せが─────。
「さとみくん?」
「……。大丈夫。オレがいるから」
「ふふっ。そうだね、私はずーっと大丈夫だよ。さとみくんが隣にいてくれるから。今も昔もね」
「………」
手を握るだけじゃなくて
「さとみくん─────?」
今はもっと近づける。
あぁ……あったかい。えるの匂い、えるの温もり……全部が、今のオレにとっての幸せだ。
「さとみくん、お待たせ。久しぶりに浴衣着たから時間かかっちゃってごめんね…」
今日はえるとお祭りに行く日。えるの浴衣姿を独り占めできる日。待ちに待ったその日のはずだった。けど
「………………」
「……さとみくん?…私、どこか変?」
「あ…ううん。……ちゃんと着れてる」
「ほんと?よかった…」
こんなに綺麗なえるを外に出すのはダメな気がする。お祭りはきっと楽しいと思う。けどそんなのよりも、目の前にいるえるを閉じ込めたい。誰にも見られないように触れられないようにしたい。花火なんてえるに劣るものわざわざ見に行かなくたって……
「さとみくん、早く行こう!」
そんな気持ちもえるの笑顔に全て吹き飛ばされた。
えるが行きたいなら、行かないと。オレがそばにいてちゃんと守れば絶対大丈夫。
「………行こう」
……ようやく着いた。こんなに人いるんだ。お祭りって。前に来た時はえるといる記憶しかないけど、こんなにいたらちゃんと手繋いでないとはぐれるに決まってる。
「える、手繋ご。はぐれないように」
「うん。まずはどこに行く?さとみくんは何がしたい?」
「……オレはなんでもいい。えるの行きたいところで」
「そうなの?じゃあ──────」
こうして花火が始まるまでずっと手を繋ぎながら、えるの食べたいものを食べて、したいことをした。
隣でずっとえるが笑ってる。それがなにより嬉しかった。来て…よかった。
「さとみくん、私…射的やってみたい…!」
子供みたいにはしゃぐえる。
「行こう。射的」
「うん……!」
かわいくて微笑ましくて。今日はきっと世界から切り離されない。
える、なにか欲しいものでもあるのかな。それならオレが取ってあげたい。その方がもっと笑顔を見れるから。けれど、いつの間にかえるは的を狙い始めていた。最初とその次を外して三発目でえるが欲しかったであろうものは落とされてしまった。
オレがあげたかった……。と、ほんの少し落胆していたところに。
「さとみくん、これあげる…!」
えるが自分で落とした景品をオレに差し出してきた。それは昔、えるがくれたのと同じような
「この飴、好きだったよね。キャラメル味」
キャラメル味の飴だった。
「……オレに?」
「うん。せっかくお祭りに来たんだし、さとみくんにはもっと楽しんで、喜んでほしくて」
えるが、覚えてた。オレの好きな飴。えるがくれたから大好きになったキャラメル味。遠く離れていてもえるを感じられるから、小さい頃はお小遣いを全部それに使ってた。それを……えるがまたくれた。オレのために時間を使って。オレに喜んでほしくて。
やっぱり──────
「…ありがとう。える」
二人じゃないと幸せって感じられないんだ。
「うん……!」
オレもえるになにかあげたい。えるを笑顔にしたい。射的なんてやったことないけど……えるを、喜ばせたい。
「さとみくんも射的やる?」
「……うん」
それから何度撃ったか分からない。欲しいのとは違うお菓子ばかり。えるに絶対あげたいのに上手くいかなくて、少しだけイラつき始めた頃。
「さとみくん、頑張って…!」
隣で見守ってたえるが応援してくれた。その一言だけで心が凪いで、ようやく撃ち落とすことが出来た。
「欲しいの取れた?」
「…うん」
「よかったね!さとみくん!」
自分ごとのように喜ぶえるに、たった今手にしたそれを渡した。
「えるにあげる」
「……私に?」
そう首を傾げたえるに対して頷くと
「……!!ありがとう!さとみくん!!」
オレはようやくえるを笑顔にできた。
「この子、かわいいね」
オレがあげたうさぎのぬいぐるみチャームをえるはまじまじと見つめていた。えるのほうがかわいい────と、花火が始まる時間まで思い続けた。えるには誰も勝てない。どんなものも……これから始まる花火だって勝てないよ、えるには。
浴衣を着ているからなのか、いつもとは雰囲気の違うえるに心臓がおかしくなりそうだった。そんなえるをいつもよりずっと近い距離で見れてる。花火よりずっと綺麗なえるを。
花火がはじまってもずっとえるだけを見ていた。花火なら瞳に映るので十分だから。
ねぇ、える。花火よりオレを見て。やっと、二人だけになれたんだから。
もっと近づいたら…オレを見てくれる?そう思いながら見つめ続けていると
「さとみくん……!」
声が届くようにえるが顔を近づけて。
「花火とってもキレイだね……!!」
その時、オレの目の前でこの世で最も美しい花火が夜空に煌めいた。
「………。綺麗だ」――――――――える。
閉じ込めてもいいならそのままオレを見つめていて。そう願った瞬間には大きな花火にえるの視線は奪われていた。全部、嫌いだ。オレからえるを奪うものは─────全部。




